prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「女ばかりの夜」

2022年08月02日 | 映画
最近、監督としての再評価が進む田中絹代監督第5作(全6作)。1961年公開。
梁雅子原作 田中澄江脚本。
主演は原知佐子(夫は実相寺昭雄)。

4K修復版とあって中井朝一の見事に安定した撮影を堪能できる。
補導院や会社の寮など大勢が集まるシーンが多いので、シネマスコープサイズがぴったり。

売春禁止法が施行され大勢の売春婦が逮捕されて更生させるべく厚生寮か救護院に収容される。明らかに上流階級のご婦人たちが視察に来る冒頭ですでに何ともいえない断絶感がくっきり出ているが、かといってマダムたちをあからさまに偽善者として敵視するわけではない。

ここに出てくる香川京子が後で夫の平田昭彦と共に原をバラ園で働かせ、そこで出会った青年夏木陽介に惚れられて求婚されるが、夏木の母親がうちはうちぶれたりとはいえ士族の出で、夜の商売をしていたような女と結婚させるなどとんでもないと猛反対する。
ここで母親が姿を見せずに手紙と声だけで処理したのが、とりつくしまもない
感じをよく出した。

ここに来るまでにも素人ながら女を売っている女工たちと喧嘩してリンチされる場面など、いくらでも煽情的に描ける場面でも抑制が効いていて、世間なり法制度なりを非難する方向にも行けるが行かない。
たとえば売春禁止法施行に絡めた映画に田中とは縁の深い溝口健二の「赤線地帯」があるわけで、あそこでの女たちの追いつめ方とは逆をいっている感もある。