prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ボイリング・ポイント 沸騰」

2022年08月16日 | 映画
90分にわたって全編ワンカットなのが売りの一作。
アーノルド・ウェスカーの芝居「調理場」は戦場のような調理場の喧騒の描写に労働そのものと捉えて階級社会の労働者階級と中産階級との対立とを描いたわけだが、これも基本的には同じ構造といっていいだろう。

調理場だけでなく、客席とも行き来し、また冒頭はじめときどきレストランの外にも出るのは映画の機能を生かしたものと言える。
また料理そのものはパントマイムで表現されるのに対して本物の料理が供されるのも映画ならでは。

今のロンドンのことだからスタッフに有色人種が少なからず混じるし、グルメ評論家だのSNSをやっている客だの今風の味付けもしている。

あまりの忙しさですっぽ抜けが出たり、ドラッグに頼ったりするあたり、労働が大変という以上の余計な手間ひまと共にストレスが増大しているのに今の時代の相が出た。

カメラ移動が終始少し揺れている(劇場案内で酔うことがあるからご注意くださいとあった)のはリアルな調子を狙ったのだろうが、欲を言うとときどき画が固定でかちっと決まるかドリーで滑らかに移動するところもあったらもっとメリハリが効いたと思う。