prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

荒廃の一部

2006年09月05日 | Weblog
これだけだと、ただの事故った車の画像ですが、これが置かれている家の窓に自筆の張り紙がぺたぺた貼られていて、網戸があちこち切り裂かれ、ポストの蓋にもびっちり住所を郵便番号から汚い字で書いた住所が貼ってある、となるとコワいですよ。


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「なつかしい風来坊」

2006年09月04日 | 映画
好き勝手な生き方をしている無教育な男と、それにある種の憧れを持つインテリ的体質の男、可愛そうだは惚れたってことよという感じで惚れられる薄幸の女、と、山田洋次作品の基本的な要素は変わっていないが、まだあまり精錬されておらず、共同脚本の森崎東好みの野卑なタッチが目立つ。
ハナ肇のキャラクターのせいも大きい。

土方とか住み込みの女中、なんて今ではまともに描けないだろう。

有島一郎が痔という設定の割りに、最初にハナ肇にむりやり席につかされるところでイテテテテというリアクションがないのは不思議。脚本で仕込まれた下ネタを、監督が外してるみたい。
(☆☆☆)


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「誇り高き挑戦」

2006年09月03日 | 映画
深作欣二監督、佐治乾脚本の1962年作。

鶴田浩二の大新聞を首になって怪しげな業界誌でゆすりたかりまがいの真似をしているブンヤが、その首になる原因になった丹波哲郎扮する元情報部員が進める武器密輸を告発しようとするが、中途半端なところで丹波が殺されて真相は闇から闇に葬られる。

大新聞が何一つ書くべきことを書いていない、「十年前から何も変わっていない」というセリフがあるが、十年どころかさらに44年経っても変わっていないのだから、呆れる。
何しろ、国会議事堂の近くに空き地がある時代なのだ。

鶴田がニヒリズムの象徴といった感じでずうっとかけていたサングラスを、外して国会を睨みつけるラストシーンは格好いいが、今見ると格好よすぎ。
まだ新聞記者意識が残っていて週刊誌をバカにしているような調子なのが、ちょっとひっかかる。

予告編では「ドキュメンタリー巨編」などと出るが、もちろん完全な劇映画だし、ドキュメンタリータッチともいえない。白黒画面のハードで硬質なタッチは魅力的。
悪者が全員ソフト帽をかぶっているあたり、和製ギャング映画風でありすぎる。
鶴田がずうっと連れているカメラマン、誰だかわからなかったが後で梅宮辰夫とわかって仰天。

「バトル・ロワイヤル」あたりでムリヤリに出していた国家に対する恨みつらみみたいな調子が、もう少し地に足をつけた感じで出ている。

丹波哲郎が押し出しよく英語を使っていろいろな国籍の外人を煙に巻くあたり、例のやたらもっともらしい芝居で可笑しい。
(☆☆☆)


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「太陽」

2006年09月02日 | 映画
ソクーロフの作品としては、最もとっつきやすいものになったのではないか。全編日本を舞台にして日本人を主役にした、ということもあるが、これだけ役者の技量をストレートに生かしたこと自体あまりなかった。
イッセー尾形の役作りは徹底して外側を作っていくところから入っていて(似てる、なんてものじゃないね)、演出も徹底して外側を写し取ることに専念し、心理主義的な解釈をまったくつけていない。
それでいて「あ、そ」という口癖などシチュイエーションに応じて全部ニュアンスが違えてある。

この映画公開での騒ぎもそうだが、天皇制の権威は、天皇が自分を神格化しようとするのではなく、周囲が懸命に取り繕うとする上に成り立っている。
当人は飄々としたもの。チャップリンと比べられるのもそのせいか。

製作にあたって岡本喜八監督の「日本のいちばん長い日」を最も参考にしたというが、終戦を描くのに「耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び…」という詔が流れるところがまったくない。劇的な部分は完全に外してある。

戦時中(に限らないが)の日本人を描く時の紋切り型であるやたら力んでファナティックにふるまう姿は、わずかに御前会議の陸軍大臣に見られるくらいで、それもむしむしする地下壕で汗をびっしょりかいている、その汗のアップとして観察され、描写のタッチそのものは冷静。
このへん、日本人が見てあまり反感を覚えない大きな要因だろう。

廃墟の映像は、コンクリート作りの焼け残っていた部分が目立って、日本人のイメージする木造建築が見渡す限りほとんど焼けてしまった焼け跡とはやや趣が異なっている。

海洋生物学者である天皇が平家ガニを観察して、あまり深くない海に棲息し移動はしないと呟く場面、栄華を極めた平家がほろんで魂魄を未だ残しているのと対照的に、天皇制は「人間化」することでかえって生き延びたかと思わせる。
B29や爆弾がなんと魚としてイメージされる爆撃シーンも、生物学者としてというか、アニミズムの祭司としての天皇から出ていると考えられる。

研究所の庭に鶴が歩き回っているのは、日本的な光景のようでもあるが、ソクーロフの「ストーン」でも室内に鶴がいたりした。

余談になりますが。
この「銀座シネパトス」は、次の番組がウェズリー・スナイプス三部作「デトネーター」(ポスターのコピー「完全実行」「俺が守る」)、「7セカンズ」(「完全強奪」「俺が狙う」)、「ザ・マークスマン」(「完全爆破」「俺が戦う」)なんてのを組むとおり、普段はほとんど木曜洋画劇場のノリなのです。
昔は洋画ポルノをかけていて、さらに昔は映画の合間にストリップの実演がはさまり、渥美清が来ていたこともあったとか。
もともとこの三原橋の地下街は、地下街としては確か日本で二番目に古いはず(一番は銀座線神田駅)。
地下鉄の振動と轟音が前に比べたら小さくなったとはいえ、決して上映設備としては良いとは言えない。

そういう劇場だからこそ、この日本上映不可能と言われた「太陽」を敢然として(かどうかは知らないが)かけることになったのだろう。
(☆☆☆★★★)


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「トーマス・クラウン・アフェアー」

2006年09月01日 | 映画
なんだか整形を重ねすぎたみたいな顔になったフェイ・ダナウェイが出てきたので、なんでだろうと思ったらオリジナル「華麗なる賭け」に主演していたからなのね。
ロンドン産ミュージカル「サンセット大通り」(アンドリュー・ロイド・ウエーバー作曲)のアメリカ版主演を下ろされて、グレン・クローズに代わられたという印象が強くて、出番が減ったと思ったら、調べてみると出演作はテレビ中心にけっこう多い。
それにしても、「サンセット…」の落ちぶれた元スター女優役は日本でできる人、ちょっといないか。

金持ちの道楽の泥棒というキザな役は、むしろマックイーンより今回のピアース・ブロスナンの方が似合っている気がするが、どっちにしてもそれほど魅力を感じない話。
泥棒の手口の今風のアレンジはまずまず。演出(ジョン・マクティアナン)には
洒落っ気が足りず。
(☆☆★★★)


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