曇り、7度、50%
昔ながらの商店街、何処からともなく匂ってくる和菓子の蒸した匂いやどら焼きの皮を焼く匂い、つい何処の店かしらと周りを見回してしまいます。そんな商店街もだんだん少なくなってきました。
私が小学の途中から高校を出るまで、約10年間通った商店街があります。小さい頃から記憶にあるその商店街は、夕方ともなれば糸島や佐賀から野菜や干物を持ってくるリヤカーのおばさんたちがずらりと並びます。両脇のお店には威勢のいいお魚屋さんが何軒かありました。博多らしいおうどん屋、夕飯のおかずを揚げる天ぷら屋やコロッケを揚げる店もあり、それは賑わいを見せる商店街でした。
福岡に帰る度、何かとこの商店街を通ります。来る度来る度、人通りが少ないのが気になります。たまたま夕方に通ってもリヤカーの数も数えれるばかりになっています。大型のスーパーには敵いません。ところが昼過ぎともなると行列ができている店があります。その店は行列ばかりか、あの匂い、どら焼きの皮を焼く匂いが遠くからします。どら焼き屋さんではありません。甘味屋さんです。道に面したところには、「今川焼き」とか「大判焼き」とか「回転焼き」地方によって呼び方が変わる「蜂楽饅頭」が売られています。行列はこの「蜂楽饅頭」を買う人の行列です。小さい頃から馴染んだ蜂蜜を使った餡が売り物の焼きたての「蜂楽饅頭」です。高校の文化祭や体育祭ともなれば、午後のおやつに何十個と買って学校に戻ります。学校帰りに、夏は氷を食べたのもこの店です。私は宇治ミルク。
ところがこの私、この長い行列に並ぶことはありません。そんなに好きではないのです。この行列に並ぶ時は、義父や義母にお土産にする時です。主人の実家に行くときはこの街で乗り物を乗り換えます。とりわけ義父の大好物がここの黒あん(小豆の粒あん)でした。温かいうちに、義父の手のひらに乗せてあげます。好きな食べ物は人の顔をほころばせます。早速、熱いお茶を入れます。
昨日朝から主人は福岡の中心部に仕事で出かけました。昼少し前に戻った主人が手にしていたのは、白と黒の「蜂楽饅頭」でした。私は心の中で思います、「あんまり好きじゃないのよね。」主人だってご存知のはずです。午後からは義父の三回忌の法要に出掛けます。温かい内に「蜂楽饅頭」を食べましょう。モモさんもお留守番をしてもらうために、早めのおやつです。
黒は小豆の粒あん、白はいんげんのほとんどこしあん。主人の好物は白です。白二個に黒二個。袋には白黒のシールは貼られていて、どちら側が白あんか黒あんかが分かります。私はどちらかといえば黒あん。 黒はしっかりした餡ですが、
白あんはやや柔らかめ、蜂蜜入りだと思わせる甘さです。二個も食べるとお腹にどっしりときました。
小雨の中、義父の墓へと車に乗ります。車の中で、「なんで好きでないとわかっていて、買ってくるの。」と主人に口をついて言ったその端から、あっと気付きます。義父の墓参の前に義父の好物だった「蜂楽饅頭」と思った主人だったと思います。私の言葉には、返事をしませんでした。私に買って来た「蜂楽饅頭」ではなく、亡き父に買って来た「蜂楽饅頭」だったのです。