夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『父、帰る』

2005年05月19日 | 映画(た行)
『父、帰る』(英題:The Return)
監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
出演:イワン・ドブロヌラヴォフ,ウラジーミル・ガーリン,
   コンスタンチン・ラウロネンコ,ナタリヤ・ヴドヴィナ他

『エイプリルの七面鳥』(2003)は母と娘のお話で、
母の日にぜひお薦めしたい作品でしたけれど、
こちらは父と息子の物語。
しかし、父の日にお薦めできるかと言えばツライ。
あまりにズッシリのしかかってきすぎて、心臓を撃ち抜かれたような気分になります。
菊池寛の戯曲を思い出させるタイトルの原題は“Vozvrashcheniye(=帰還)”。

ロシア北部の田舎町。
アンドレイとワーニャ兄弟は、母、祖母とともに暮らす。
父は12年前に出て行ったきり。

ワーニャは兄アンドレイの友だちの輪に入りたくて、
危険な遊びにもチャレンジしようとするが、いつも尻込みしてしまう。
馬鹿にされては泣きじゃくるワーニャを
母は優しく包み込む。兄弟喧嘩は絶えないが、
父のいない寂しさに気づかぬふりをしているかのように、
家族は支え合って生きてきた。

しかし、ある日、突然父が帰ってくる。
母は「お父さんよ」と言うだけで、何も説明しようとしない。
父もこれまでのことを何も話そうとしない。

その晩、家族は父とともに食卓を囲む。
団らんとはほど遠い雰囲気のなか、父は息子たちを旅行に連れ出すと言う。
写真でしか見たことのなかった父との初めての旅行に、
戸惑いながらも期待を膨らませるアンドレイとワーニャ。

翌朝、車に乗り込む父と息子ふたり。
しかし、父はやはりろくに口をきかず、始終高圧的な態度で息子たちに接する。
アンドレイはそんな父に気に入られようと懸命に振る舞うが、
ワーニャは次第に反抗心を募らせて……。

旧ソ連、グルジアが舞台の映画を観るのは前述の『やさしい嘘』が初めてでした。
これもまた旧ソ連、ロシア製作の作品です。
私たち日本人が容易には理解できない社会的背景を持つ国の作品は、
どこか突き放したような冷たさが流れ、
どうにかして生きろと言われているようなたくましさを感じます。
あらゆる謎を解明しないまま終わっているのも、作品として成功していると思います。
まさに「圧倒される」という言葉がふさわしい。

この作品の撮影終了後、ロケ地だった湖で、
アンドレイ役の少年俳優が溺死しました。
彼がなぜ再び湖に向かったのか、また謎。

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