夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『牛の鈴音』

2010年09月22日 | 映画(あ行)
『牛の鈴音』(英題:Old Partner)
監督:イ・チュンニョル

先々週レンタル開始。
韓国で異例の大ヒットとなったドキュメンタリーです。
本作がどうして300万人も動員したのか、私にはまったく理解不能なのですが、
これが大ヒットする国は、優しさで満ち溢れているんだろうなぁと思えてなりません。

韓国、慶尚北道奉化郡の山間の農村。
あと数年で80歳を迎える老夫婦には、30年間、共に暮らす牛がいます。
牛の寿命は15年そこそこなのに、この牛はなんと40年も生きています。

爺さんにとっては、牛が何よりも大事。
脚が不自由だというのに、耕作機械は使いません。
牛が食べる草だからと、農薬も撒きません。

そんな爺さんのもとへ60年以上前に嫁いだ婆さんは、苦労させられっ放し。
爺さんと牛の面倒をみながら9人の子どもを育てあげました。
牛が少しでも具合の悪そうな素振りを見せると爺さんは慌てるのに、
婆さんが風邪を引いても薬ひとつ飲ませてもらえません。

本作は、頑固で無口な爺さんと、悪態をつかずにはいられない婆さんの、
絶妙なコンビネーションで進んで行きます。

それにしても、開始直後はどうしようかと思いました。
牛には申し訳ないけれど、直視に耐えられないようなみすぼらしさ。
爺さんと婆さんの住む家も掘っ立て小屋に近く、
このまま78分間、私は観ていることができるのか心配でした。

しかし、ふと、疑問が生じました。
農村の苦しい事情を描いた作品だと真面目に観るべきなのか。
もしやこれは爺さんと婆さんの掛け合いを楽しんで観てもいいのでは。

そう思って、肩の力を抜いたら、
川のせせらぎ、鳥の声、牛の首に付けられた鈴の音、
そして目に映る豊かな緑が、すっと入って来ました。

牛車に夫婦を乗せると、引くこともできない老いた牛。
そのとき、あろうことか爺さんは、婆さんを荷台から降ろしてしまいます。
呆れて怒る婆さんのボキャブラリーが素晴らしい。
次から次へと出て来る憎まれ口に笑わされます。

あんまりな扱われように、牛を売り払おうと声高に言う婆さん。
もう元気に働くことはできそうにない牛を見て、
売り払うことに一度は同意、牛市場へ足を運んだ爺さんでしたが、
やはり手放せず、牛は家に出戻り。やがて牛には死期が訪れます。

厳しい冬を前にして牛が亡くなった日、
婆さんが口にするひと言に参りました。
あんなに悪態をついていた婆さんの言葉だからこそ、ジワッ。

牛に虎の姿を重ね合わせたりして。嗚呼、涙。

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