夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ゼロタウン 始まりの地』

2013年09月12日 | 映画(さ行)
『ゼロタウン 始まりの地』(原題:Zaytoun)
監督:エラン・リクリス
出演:スティーヴン・ドーフ,アブダラ・エル・アカル,アリス・タグリオーニ,
   ロア・ノフィ,アリ・スリマン,アシュラフ・バルフム他

これも8月末にレンタル開始となった「TSUTAYA独占レンタル作品」

イギリス/イスラエル作品で、日本では劇場未公開ですが、
2012年のトロント国際映画祭では、観客賞の第3位に選ばれています。
ちなみに第1位は『世界にひとつのプレイブック』、第2位は『アルゴ』
いずれも大好きな作品でしたが、それに次ぐだけのことはありました。

1982年、各国軍隊や各宗教派がせめぎ合うレバノン
PLO(パレスチナ解放機構)による砲撃を受け、イスラエルは侵攻準備に入る。

サッカーが大好きでジーコを英雄視するパレスチナの少年ファヘッドは、
ある日、民兵の訓練所近くにイスラエル軍機が墜落するのを目撃。
上官らや仲間とともに現場に駆けつける。

倒れていた男を捕虜として扱うことに決め、監禁。
PLOの上層部が拷問するも、決して口を割ろうとしない。

子どもたちだけで見張りを言いつかった日、
男の態度に腹を立てたファヘッドは、男の尻を撃ってしまう。
男は病院に運ばれ、余計なことをしてくれたと上官から小言を喰らうファヘッド。

退院して再び監禁された男は、ファヘッドに取引を持ちかける。
もしもここから出してくれたら、おまえの行きたいところまで連れて行ってやると。

すぐには取引に応じなかったファヘッドだが、空爆を受けて父親が死亡。
父親がいつか帰ることを望んでいたふるさとの町“バダド・エル・シェイク”へ、
どうしても行きたいと思ったファヘッドは男を脱出させることに。

こうしてファヘッドと男、のちに名前を明かすヨニ・ドレヴ少佐の旅が始まる。

ヨニが「テロリスト養成所」と皮肉る民兵の訓練所にいたファヘッドは、
銃を撃つのはお茶の子さいさい、車の運転ももちろんのこと、
けがに劇的な効果をあらわす民間治療法と、何でも知っています。
脱出させてからもヨニに掛けられた手錠をなかなか外そうとせず、
憎まれ口ばかり叩いているファヘッドが大事に抱えて歩く、まだ小さなオリーブの木。

アッバス・キアロスタミ監督の『オリーブの林をぬけて』(1994)を観たときは、
まだ少々若かったこともあってピンと来なかったオリーブの意味。
本作でオリーブを抱えて戦火の中を進もうとするファヘッドに胸を打たれます。
本人は、父親が育てたオリーブを故郷に植えたい一心なのでしょうが、
それが平和の象徴といわれるものなのですから。

パレスチナ独自の地図を差し出されても、その地図では故郷の町は探せません。
「パレスチナなんて国はそもそもないんだ」と最初は呆れ顔のヨニ。
そのヨニがきっちりとファヘッドとの約束を果たし、
別れるときの会話と抱き合うシーンに涙が出ます。

最近キワモノ的な役も見られたスティーヴン・ドーフは、やっぱりこっちのほうがいい。
劇場未公開だったのが惜しまれる佳作でした。

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