夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ナラタージュ』

2017年10月14日 | 映画(な行)
『ナラタージュ』
監督:行定勲
出演:松本潤,有村架純,坂口健太郎,大西礼芳,古舘佑太郎,
   神岡実希,駒木根隆介,金子大地,市川実日子,瀬戸康史他

前述の『エルネスト』を梅田で観た後、地下鉄を乗り継いで日本橋へ。
駅からすぐのCAFE & LIVE BAR“太陽と月”へ向かいました。

“太陽と月”のオーナーは、露の新幸さんという落語家。
40代前半の落語家さんなのですが、入門はつい3年前。
この日の落語会に私を誘ってくださったお姉さまからお聞きしたところでは、
新幸さんは天満天神繁昌亭露の新治さんの噺を聴いて心打たれ、弟子入りを切望。
それまでお弟子さんを取るつもりはなかった新治さんもその熱意に負けたとか。
で、師弟が年に何度か“太陽と月”でおこなう落語会が「露新軽口噺」。
会場から溢れそうな客入りで楽しませていただき、
新参者の私はその後の懇親会とやらはパスしてTOHOシネマズなんばへ。

原作は島本理生のベストセラー小説。
映画公開の数日前に原作を読了しました。そのときのレビューはこちら
映画版は大筋では原作に忠実です。

映画配給会社に勤める工藤泉(有村架純)。
雨の夜、かつて好きだった人から受け取った懐中時計を手に、窓辺にたたずむ。
外回りから帰社した後輩社員・宮沢慶太(瀬戸康史)から声をかけられ、
懐中時計を見つめながら思い起こす学生時代のこと。

大学生だった泉に、高校の演劇部の顧問・葉山貴司(松本潤)から電話が入る。
演劇部の部員が足りなくて困っている、卒業公演の助っ人に来てほしいと。

高校時代、いじめに遭っていた泉を孤独から救ってくれたのは葉山。
葉山に対して恋心を抱くようになった泉は、高校卒業前に告白。
しかし、葉山は泉に結婚していたということを打ち明ける。
妻・美雪(市川実日子)とは別れたが、まだなにかしらしがらみがあるらしい。

葉山への想いは封印していたのに、再会をきっかけに当時の感情が呼び起こされてゆく。
それを知ってか知らずか、葉山は高校当時と変わらぬ態度。優しい。

そんな折り、同じく助っ人として練習に参加していた他大学生・小野怜二(坂口健太郎)から
泉は真摯な告白を受ける。
葉山への想いは断ち切って、小野とつきあうことにした泉だったが……。

原作が書かれたのは著者が22歳かそこらだった頃とのこと。
その瑞々しさは特筆すべきものでしたが、私の年齢で読むといろいろと引っかかる。
行定勲監督となら私はまぁ同年代、その引っかかった点を解消してくれています。

原作では、泉と葉山がいわば相思相愛で、先生と教え子という関係その他、
諸般の事情から一緒になれないツライ恋、みたいな話でしたが、
映画版では葉山から泉への想いは恋愛感情ではなかったと思えます。
原作と大きく異なるそのラストシーンに、原作ファンは不満を持つでしょうが、
私は映画版のラストのほうが圧倒的に好きでした。

もっと率直に言うならば、「据え膳食わぬは男の恥」的に泉を抱いた葉山に、
若い女性陣は「そうではない、葉山も泉を愛していた」と思いたいでしょう。
でも葉山は別にロリコンでも器のでかい男でもない、普通の男。
目の前に抱いてほしいという女がいるからそうしただけ、というほうが私はしっくり。
原作で大嫌いだった「最後に君にしてあげられること」なんて言い訳がましさもなく、
それでも、泉を大事に思っていたことはわかるラストでよかったです。
だから泉は前を向いて生きてゆける。

原作で存在感を示していた泉の元同級生・黒川(古舘佑太郎)と志緒(大西礼芳)は、
いなくてもいいんじゃないかぐらいの薄さ。
柚子(神岡実希)については原作を読んでから鑑賞したほうが、
演劇の練習を始めたばかりのときの複雑な表情に気づけます。
映画オリジナルの登場人物、後輩社員役の瀬戸康史がいい感じ。
瀬戸くん、三十路が近づいて、チャラっぽさが抜けてきたような。

ちなみに、泉が勤務する会社の壁に貼られていたポスターは、
ダルデンヌ兄弟の『ロゼッタ』(1999)、『これが私の人生設計』(2014)、
『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』(2013)でした。
これは監督の趣味なのかしらん。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする