夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

脚本、三谷幸喜。

2005年05月13日 | 映画(番外編:映画とこの人)
なぜだか最近、ここの管理人さんの掲示板で
(〈おことわり〉「さるさる日記」サービス終了にともない、その掲示板は閉鎖しました。)、
『笑の大学』(2004)や『みんなのいえ』(2001)など、
三谷幸喜脚本の映画の話がよく出るので、
彼の関わってきた作品を挙げましょう。

『笑の大学』(2004)は現在レンタルビデオ店の新作の棚に。
昭和初期、大衆娯楽である芝居の脚本をめぐる、
検閲官と劇団の脚本家との数日間にわたるやりとり。
もとはラジオドラマとして放送されたもので、
1996年には舞台でも上演されています。

この映画版は、初日~2日目あたりの展開は
三谷幸喜にしてはテンポが悪いなぁと思っていたのですが、
映画中の日が進むにつれて勢いがついてきます。
そら、検閲官(=役所広司)と脚本家(=稲垣吾郎)も最初は渋々お互いの顔を突き合わせ、
何日かの間にノリノリで脚本の共同執筆を進めるようになるわけですから、
最初のテンポの悪さは計算の上かもしれません。
観ているこっちが次の台詞を読めていても、しっかり笑わされてしまいます。

私の大のお気に入りは『12人の優しい日本人』(1991)。
初めてこれを観たときは、よくもこんなにお金をかけずに
こんなオモロイ映画を作れたもんだと衝撃を受けました。
同じ映画を何度も観る時間があれば新しい映画を1本でも多くと思うもんで、
あまりくりかえし観ることはしないほうなんですが、
この作品だけは何度も観ています。

日本に陪審員制度があったらという仮定に基づき、
ある殺人事件の被告の有罪・無罪を問うために選ばれた陪審員。
体育教師やタイル職人、主婦、歯医者など、
職業も年齢もさまざまな12人が、密室で審議を始めます。
最初はとっとと終わらせて帰りたい空気がありあり。
被告が若い美人女性だから無罪!なんてことで意見が一致しそう。
しかし、12人いれば、中には正義感と責任感に燃える人もいて、
ちゃんと話し合いましょうよということに。
おる、おる、こんな人っていう人たち大集合で
アホくさいと思いつつ、話に引き込まれていきます。
トヨエツも実においしい役回り。

この作品はシドニー・ルメット監督の名作、
『十二人の怒れる男』(1957)をモチーフにしていますが、
それを観ていなくても十分楽しめます。

NHKの大河ドラマ『新撰組』では、山本耕史に田中邦衛のモノマネまでさせてしまった三谷さん。
奥様の小林聡美を見るたび、夫婦の会話ってどんなスチャラカなんやろと想像します。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『隣のリッチマン』

2005年05月10日 | 映画(た行)
『隣のリッチマン』(原題:Envy)
監督:バリー・レヴィンソン
出演:ベン・スティラー,ジャック・ブラック,レイチェル・ワイズ,
   エイミー・ポーラー,クリストファー・ウォーケン他

原題は“Envy(=妬み)”。
全米では大人気のコメディ俳優ふたりが主演しているのに、
日本では劇場未公開だった作品です。
このアホな邦題はブルース・ウィリス主演の
『隣のヒットマン』(2000)をパロったものでしょう。
監督は『レインマン』(1988)などの名匠です。

ティムとニックは隣同士、仕事も同じ。
30代後半のふたりは大親友、家族ぐるみのつきあい。
職場では、空想家のニックは集中力を欠いて、上司の評価はイマイチ。
ティムは着実に出世コースを歩んでいた。

ある日、ふたりで仕事から帰る車中、
犬を散歩させていた老人が、飼い犬の糞を片づける姿を見かける。
そこでニックが思いつく。
「犬の糞を消すスプレーを開発すれば、
金儲けができるにちがいない」と。

ニックは自らの発想に狂喜する。
さっそく妻とティム夫婦に相談するが、妻たちが大乗り気なのに対し、
ティムだけは「そんなもの、作れるわけがない」と断言、発明のための投資を拒否する。

18カ月後。
ニックが開発した動物の糞を消し去る商品は
その名も「VA-POO-RISE(フンこらホイ)」。
発売と同時に大ヒットを飛ばし、ニックは億万長者になっていた。

金持ちになっても住み慣れた土地を離れたくないと、
ニックは相変わらずティムの隣人であり続ける。
が、家は建て替えられて大豪邸に。庭にはプールにメリーゴーランド。

嫉妬心に駆られるティムは、仕事中も注意散漫でクビを言い渡される。
バーで知り合ったホームレスにそそのかされたティムは
ニックの家をめがけて弓矢を放つが、
それがニックの可愛がっていた白馬に命中し……。

可笑しすぎて涙が出る。
ホームレス役のクリストファー・ウォーケンは
『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002)で
ディカプリオの父親役だった役者ですが、こんなアホな役もハマります。

ところで、先日たまたま覗いた掲示板に
「どんな人を妬んでしまいますか」というスレッドがありました。
「人を妬んだことなんてありません」という書き込みを見ると、
そ、そんな人こそ羨ましい!
でも、そんなことを「私ってすごいでしょ?」とばかりに
書き込んでしまう人はどないよっ?と思わんこともない。
あ、これが妬みか。(^^;

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『エイプリルの七面鳥』

2005年05月06日 | 映画(あ行)
『エイプリルの七面鳥』(原題:Pieces of April)
監督:ピーター・ヘッジズ
出演:ケイティ・ホームズ,パトリシア・クラークソン,オリヴァー・プラット,デレク・ルーク他

トム・クルーズの新恋人として噂になっているのが
彼より16歳下のケイティ・ホームズ。
可憐なイメージの彼女が、この作品では強烈なパンク姿。
わずか80分に中身が詰まった、温かみいっぱいの秀作です。

ニューヨークのスラム街にあるアパート。
エイプリルは恋人ボビーと同棲中。

エイプリルの家族は郊外に住む。
優等生の弟妹とちがい、エイプリルは幼い頃から母の手を煩わせてばかり。
お互いに愛情を持つことができず、
数年前にエイプリルが家を飛び出したきり、疎遠に。

しかし、母が末期癌にかかっていると知り、
エイプリルは家族をアパートに招待しようと思いつく。
ボビーもその考えに喜んで賛成。
料理をしたことのないエイプリルが
これで会うのが最後になるかもしれない母のため、
感謝祭のご馳走を用意することに決める。

物語はアパート内のエイプリルと、
車で移動中の家族をそれぞれとらえながら進みます。
どちらも前途多難。

エイプリルのほうは、いざ七面鳥を焼く段になったらオーブンが故障。
アパートの住人の誰かにオーブンを借りようと駆けまわるエイプリル。
アパートの住人は実に個性的。

「白人の未来ある若い女が困っているんだと」と
最初は嘲笑っていた階下の住人イベット。
しかし、母との不仲の話を聞き、なんとか協力したいと台所を貸します。
料理上手のイベットの夫ユージンは、
クランベリーソースを缶詰で済まそうとするエイプリルを
「缶詰が好きな奴はいない」と叱責し、
おいしいソースの作り方を夫婦で伝授します。

階上の住人ウェインは変わり者。
エイプリルに最新式オーブンを使わせてくれますが、
彼女がオーブンに七面鳥を放り込んだまま
一度も様子を見に来ないのが気に入らない。
「最新式だからってオーブン任せでは
おいしい料理は作れない。愛情を込めないと」と言って、
七面鳥を拉致、エイプリルを閉め出します。

一方、車中では、母が悪態をつき通し。
犬猿の仲の娘にいまさら会うことに抵抗を感じ、
娘の手料理なんて食べてられるかと息巻きます。

エイプリルと母、それぞれを支える恋人、夫、周囲の人、
人情味に溢れたすべての人びとを、しっかり繋いでくれるのが七面鳥。

母の日に超お薦めなのです。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ついでに、もうちょっと戸田奈津子さん。

2005年05月02日 | 映画(番外編:映画と邦題・字幕・台詞)
こんなにも誤訳の多さを指摘されているのに、
あいかわらず大作は彼女のところへ話が行くのはなぜ?

いまでこそ、字幕の翻訳家といえば
前述のような女性の名前がごろごろ挙がりますが、
以前は男性の世界だったようです。
女性にもやれるんだということを見せたのは戸田さん。
誤訳が多くとも、そんな彼女には
みんな敬意を払っているのかもしれません。

最近は誤訳を待ち望んでいる人すらいるようで、
映画を観てるんだか、誤訳探しをしてるんだか。
人のあら探しは趣味が悪いけど、おもしろいのは確か。
そんな楽しみの提供者である戸田さん、憎めません。

伝説的誤訳の続きを並べてみると、
ケヴィン・コスナーの『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1990)では
「神よ!」と訳すべき“Father!”を「お父さん!」と。
『ハムナプトラ』(1999)では「棺桶」の意の“chest”を「胸」と。
『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)では
指輪の魔力に取り憑かれたボロミアに向かって
フロドが叫ぶ台詞、“You are not yourself.”を「嘘をつくな!」と。
このシーンの日本語だけを追うとそんなにおかしくはないんですが、
正気を失っている相手に嘘つき呼ばわりはあんまりな言い様。

下ネタもどちらかと言えば好きと見えて、
ちょっとここには書けないようなスゴイ訳も登場します。
ギリギリの線かなと思うものを挙げるならば
『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001)の
「ひどい料理」の意の“incredible shit”を
「クソの煮込み」と直球勝負(?)で訳しています。

誤訳ではないけれど、
ほかの字幕翻訳家はおよそ使わないと思われる、
彼女独特の言い回しは、「なっち語」と呼ばれています。
きっとみなさん、大作で目にしたことがあると思いますが、
「~かもだ」は「なっち語」のうち、もっとも有名。
「クビになるかもだ」なんて、見覚えありませんか。

昨日観たDVDがショボい映画で、その翻訳がまたショボい。
字幕担当は聞いたことのない人でした。
いくら正しい訳だったとしても、役者に不釣り合いな喋り方で訳されると、
大根役者の演技がさらにショボく見えます。
そういう点では、戸田さんが「やるっきゃない!」なんて訳すと、
不釣り合いでもそう言いそうな役者に見えてくるのはスゴイ。
昨日の字幕の人も、そこまで行き着けるように祈ります。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする