夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『サンシャイン・クリーニング』

2010年03月12日 | 映画(さ行)
『サンシャイン・クリーニング』(原題:Sunshine Cleaning)
監督:クリスティン・ジェフズ
出演:エイミー・アダムス,エミリー・ブラント,ジェイソン・スペヴァック,
   クリフトン・コリンズ・Jr.,スティーヴ・ザーン,アラン・アーキン他

絶対おもしろそうだと思ってDVDを購入したら、
すぐに売り払いたくなるほど期待外れだったものもあります。
本作は、鑑賞直後は買うほどじゃなかったかなと思い、
数日経ったいま、買ってよかったと思える作品です。

いわゆる負け組のがけっぷち姉妹が始めた事件現場の清掃業。
名前は“サンシャイン・クリーニング”。

姉のローズは、かつてはチアリーダーのスターで、
恋人はアメフト部のクォーターバック。
現在は家政婦として働き、小学生のオスカーを抱えるシングルマザー。
警察官となったクォーターバックのマックは別の女性と結婚したが、
ローズとは腐れ縁で、ずっと不倫中。

妹のノラは、毎日ぐうたら三昧で、老齢の父親にパラサイト。
この父親がまた、商才もないのに思いつきだけはピカイチ。
失敗にもめげずに、とことん金を無駄遣いしている。

ノラにオスカーを預けて、ローズはマックと逢瀬を楽しむ。
ノラから聞くおとぎ話に想像力を膨らますオスカーは、
学校でしょっちゅう問題行動を起こす。
ある日、校長たちからオスカーを病気呼ばわりされて、
ローズは私立の小学校へ転校させることを決意する。

そのためにはお金が必要。
マックから事件現場の清掃はカネになると聞いたローズは、
嫌がるノラを誘って清掃業を始めることにするのだが……。

事件現場の清掃業とは、現場から遺体が運び出されたあと、
血糊の付いた家具を拭くなどして、散乱した部屋を綺麗にするものです。
この仕事の話といえば、サミュエル・L・ジャクソン主演のサスペンス、
『ザ・クリーナー 消された殺人』(2007)が記憶に新しいところ。
本作はそれとはまったく異なる、陽の光が降り注ぐドラマです。

掃除ぐらいチョロいと始めたものの、現場の惨状は予想以上。
また、この仕事は病原体に感染する危険もありますから、
バイオハザード(生物災害)の知識も必要なうえ、ゴミ出しのルールも。
姉妹が奮闘する姿は笑えます。

ノラ役は『ヴィクトリア女王 世紀の愛』(2009)で
女王を演じたエミリー・ブラント。そのギャップに脱帽。

さりげなく盛り込まれた社会問題と、人の弱さを包み込む優しさ。
日が経つほどに、元気がもらえたことをしみじみ感じます。

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『あの日、欲望の大地で』

2010年03月09日 | 映画(あ行)
『あの日、欲望の大地で』(原題:The Burning Plain)
監督:ギジェルモ・アリアガ
出演:シャーリーズ・セロン,キム・ベイシンガー,ジェニファー・ローレンス,
   ホセ・マリア・ヤスピク,ダニー・ピノ,J・D・パルド,テッサ・イア他

まるでハーレクインのような邦題ですが、原題は“The Burning Plain”。
『21グラム』(2003)の脚本家による監督作です。

アメリカ北東部、メイン州の海辺の町。
高級レストランのマネージャー、シルヴィアは、
美貌と才能に恵まれた女性。彼女の手腕で店は大繁盛。
しかし、心に傷を抱え、手当たり次第、男と寝る。

アメリカ南部、ニューメキシコ州の国境近くの町。
メキシコ人のニックとアメリカ人のジーナはダブル不倫中。
2人の家のちょうど中間地点のトレーラーハウスで
家族の目を欺いて密会を重ねていた。

ミステリーでもサスペンスでもないのですが、
これ以上のあらすじを書くのがためらわれます。
ネタバレなしで観ていただきたい一作。

ベッドにいるシルヴィアが隣で眠る男性を起こすシーンから始まり、
外から見えるのもおかまいなしに全裸でタバコを吸う表情から、
いわくつきの女性であることはわかります。

ところが、部屋を出ると一変。
部下の女性の車に拾われて出勤すると、
従業員にきびきびと指示を出します。
客のワインのリクエストに応えるさまは見惚れるほど。

と、彼女に見入っているのも束の間、
いきなり何年前のことなのかもわからない荒野のシーンへ。

そんなふうに、時系列がいじられているうえに、
どちらの時代のことなのかも判断しにくい映像なので
いったいどうなっているのかを把握するまでに少々時間を要します。

しかし、決してわかりにくく作られているのではありません。
観る側を置き去りにせず、丁寧に話を紡いでゆきます。
ふたつの物語がどう交錯し、最後にどうひとつになるのか、
圧倒される見応え。心を揺さぶられました。

シルヴィア役にシャーリーズ・セロン、ジーナ役にキム・ベイシンガー。
異なる時代を生きる2人の体当たり演技が素晴らしいです。

余談ですが、シルヴィアの部下役で、
一時はシュワちゃんの作品(『エンド・オブ・デイズ』(1999))で
ヒロインを務めるまでになっていたロビン・タネイが出演していました。
主役級だった人がこんな脇役で出ているのを見ると、
なんだか切なくなりますねぇ。

直訳すれば「燃える大地」。
炎にいろんな想いが込められています。

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『ごめん』

2010年03月04日 | 映画(か行)
『ごめん』
監督:冨樫森
出演:久野雅弘,櫻谷由貴花,佐藤翔一,栗原卓也,國村隼,
   河合美智子,森毅,伊吹友木子,斎藤歩,小牧芽美他

『かぞくのひけつ』(2006)が大阪・十三なら、
こちらは庄内を舞台にした2002年の作品です。
大阪の北摂地域に縁のある方ならご存じかと思いますが、
庄内は豊中市。阪急宝塚線の駅のひとつです。
豊中市でありながら、淀川を越える一歩手前の庄内は、
ほかの豊中市の町よりも大阪市の色が濃く、下町の風情が漂います。
その商店街は、35年前の『週刊朝日』に東京の商店街と並んで紹介されたほど。
大阪ではここだけでした。

さて、『かぞくのひけつ』は、
童貞なのに性病かもしれないと悩む高校生が主役でしたが、
本作は、初めて精通を経験してトイレに駆け込み、
「おしっこちゃうやん!」とビビる小学校6年生のセイが主役。
キャッチフレーズは、「男のイタミは、大人のシルシ」。

庄内(という紹介はありませんが)の寺に生まれたセイは、
最近、体の変化にとまどうばかり。
洗濯に出せないパンツを部屋に隠しておけば、
あけすけ過ぎる母親に見つかってからかわれる。
住職である父親は、男の気持ちも考えろと母親を諭してくれるが、
母親はおもしろがるばかり。

ある日、京都の桂に住む祖父母宅へ遊びに行ったセイは、
立ち寄った漬物屋に居合わせた少女に一目惚れする。
なんとか彼女と話すところまでこぎつけ、名前はナオコだと知るが、
中学2年生だと聞いて愕然。なんで年上やねん。
しかし、セイのナオコに対する想いは募るばかりで……。

淡い恋心を可愛く描いた、愛すべき作品です。
思いきってナオコに告白するも玉砕。
さらには、できれば避けたいタイプの同級生女子から好きだと言われ、
どうして好きな人には好かれずに、好きではない人から好かれるのかと涙します。
國村隼演じる父親と土手に並んで座るシーンにはジンワリ。
「お父さんは振られてばっかりや、振るなんてたいしたもんや」と笑う父親は、
「恋でけたっちゅうのはすごいことやで。
一生恋でけへん人かておるんやから」と言います。

下ネタは確かに多いですが、どれもコミカルで憎めません。
担任の女教師や同級生たちもナイス。

「大人になるのって、ちょっと嫌やないですか?
勝手に大きなって、僕の言うこと全然聞いてくれへんし、
上手くつきおうて行く自信がないんですわ」。
何の話かはご想像どおり。(^^;

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『ロフト.』

2010年03月01日 | 映画(ら行)
『ロフト.』(原題:Loft)
監督:エリク・ヴァン・ローイ
出演:ケーン・デ・ボーウ,フィリップ・ペーテルス,ブルーノ・ファンデン・ブロッケ,
   マティアス・スクナールツ,ケーン・デ・グラーヴェ他

ベルギー国民の10人に1人が観たという大ヒット作。
日本では両手に満たない数の劇場でしか公開されず、
レンタル開始を心待ちにしていた作品です。R-15指定。

冒頭は、マンションの屋上から誰かが飛び降りたとおぼしきシーン。
そして、警察で取り調べを受ける男性の供述へと移ります。
いったい何が起こったのか。

高級新築マンションの最上階のロフトルーム。
マンションの設計者であるビンセントは早速この部屋を手に入れると、
親友のマルニクス、ルク、クリスとその義弟フィリップに、
共同でこの部屋を所有しようと持ちかける。

これは5人だけの秘密。
鍵は5つのみ、合鍵の作成は厳禁。
使用日は前もってお互いに知らせることなどのルールを決め、
5人はそれぞれ自由に部屋を使うようになる。

ところが、ある朝、ルクが部屋に入ると、
ベッドの上に血まみれの全裸女性の死体が。
ルクの連絡を受けて部屋で顔を合わせた男たち。
犯人は5人のうちの誰かであるはず。
各自のアリバイを明らかにしながら、犯人探しを始める。

極上のミステリー&サスペンスです。
飽くことのまったくない117分間。
5人のタイプがまったく異なり、
キャラクターが丁寧に描かれていて魅力的。

しかし、タイプが異なるとは言っても、
部屋を使う目的はほとんど一様。女を連れ込みます。
遊びに撤することができる男もいれば、
お茶だけ飲むつもりで誘った相手に入れあげてしまう男も。
そして、いずれの男も、妻に感づかれているのではと不安になります。
それが男たちのちょっとした言動にあらわれ、
また、妻たちの疑わしげな表情が絶妙です。

とにかく騙されっぱなし。
なのに、「それはないやろ」的な展開は皆無。
何よこれとか、誰よそれとかいった無茶な設定が見当たらず、
「今のはなんで?」と巻き戻して観なければわからないほど
複雑な伏線が張られていたなんてこともありません。
伏線を拾う過程もとても親切。
序盤は何が何だかわからずにぐいぐいと引き込まれ、
中盤以降はその展開に唸ることしきり。

ごつごつしたイメージの(ドイツ語かと思ったら)オランダ語と、
終始暗めのシーンであるにもかかわらず、
ええもんを観たとご機嫌になれる作品なのでした。

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