夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『リトル・マエストラ』

2013年09月20日 | 映画(ら行)
『リトル・マエストラ』
監督:雑賀俊郎
出演:有村架純,釈由美子,蟹江敬三,篠井英介,筒井真理子,
   上遠野太洸,松本利夫,前田吟,井上道義,小倉久寛他

今年の2月初めに石川県で先行公開。
その後、大阪はシネ・ヌーヴォで上映されていたようなのですが、全然知らず。
8月末にTSUTAYA DISCASでタイトルを見るもあまり興味を惹かれず。
同時期にレンタルした別作品に収録されていた予告編を観たら、ばりばりストライク。
やっぱり「映画×音楽」は、私は外したらあかんなぁと思いました。

ところで主演の有村架純ちゃん、最近見た若手女優の中でいちばんカワイイかも。
と思って調べてみたら、過去にも見ているじゃないですか。
『阪急電車 片道15分の奇跡』(2011)では玉山鉄二とつきあう女子高生役。
う~ん、きっと可愛かったんだろうけれど、顔までは覚えていません。
最近では『あまちゃん』でキョンキョンの少女期役を演じたそうで。
可愛さとか格好よさって、役柄によって変わるものですねぇ。当然か。
彼女は伊丹市出身ということも知り、もう忘れることはないでしょう。

過疎化が進む港町、石川県羽咋郡志賀町福浦。
数十年つづくアマチュア楽団“漁火オーケストラ”は、お世辞にも上手とは言えないが、
近々おこなわれるコンクールへの出場を楽しみに練習を重ねている。
ところが、楽団をまとめる指揮者の吉川が急逝。
コンクール出場どころか、楽団解散の危機に陥ってしまう。

楽団員で唯一、東京の音大出身者であるみどりがふと思いついたのは、
吉川がよく話していた孫娘の美咲のこと。
現在高校生の美咲は、過去に事故に遭ったために楽器の演奏はできないが、
天才指揮者と崇められているらしい。
さっそく美咲に連絡を取り、はるばる福浦までやってきた美咲を迎えに行ったところ、
そこにいたのは茶髪に厚化粧、派手な服を着たイマドキの女子高生で……。

実は高校のブラスバンド部の指揮者であるに過ぎない美咲は、
どうせコンクール本選になんて出られるわけもない“漁火”のこと、
みんなに夢だけ見させて、自分はバイト代をもらえるならば、
天才指揮者のふりをしてやってもいいと言います。
喜ぶみんなを前にして今さら本当のことも言えず、了承するみどり。

わりと早いうちにこの嘘はバレてしまい、荷物をまとめて去りかけていた美咲ですが、
町の長老タツ爺の話を聞いたみどりは、美咲が本当に天才指揮者であることを感じ取り、
バスを追いかけて引き止めます。

騙されたと傷つき怒る楽団員たち以上に、
これまでの家庭や学校の暮らしの中で傷だらけになっていた美咲。
その彼女が心のうちを晒し、誠意を持って楽団員たちと相対したとき、
エドワード・エルガーの『威風堂々』がすばらしい演奏となります。
見ていて照れてしまうようなクサさもありますが、やっぱりイイ。

前田吟演じるタツ爺の圧倒的な存在感にもお見それしました。
蟹江敬三篠井英介など、偏屈ながら心優しい漁師たちが頼もしい。

楽譜は、作曲者からの、そして、指揮者からの手紙。
宛先もきちっと決められたら、想いはきっと届く。

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『夏の終り』

2013年09月19日 | 映画(な行)
『夏の終り』
監督:熊切和嘉
出演:満島ひかり,綾野剛,小林薫,赤沼夢羅,安部聡子他

前述の『アップサイドダウン 重力の恋人』とハシゴ、同じくテアトル梅田にて。

原作は瀬戸内寂聴の自伝的ロングセラー小説。
読まず嫌いというのか、瀬戸内寂聴はなんだか苦手で、1冊も読んだことがありません。
本作も時間が合っただけなのですが、監督とキャストには興味あり。
客の9割が年輩の女性客、しかも数人連れでした。ファンは多そう。

妻子あるずいぶん年上の作家、小杉慎吾との愛人生活を送る相澤知子。
慎吾は本宅と知子宅とを行ったり来たり、それを妻は公認。
不倫ではあるが、穏やかな日々を過ごしているといえる。

ある日、木下涼太が知子の留守中に訪ねてきたと慎吾から聞く。
涼太は知子のかつての恋人で、そのなりゆきを慎吾も知っている。
同じ町に戻ってきているらしく、知子の心は少なからず揺れ動く。

風邪を引いて寝込んだ知子は、慎吾が本宅へ帰ってゆくのがおもしろくなく、
思わず涼太に連絡を取り、慎吾にも報告するが、慎吾に動じる様子はない。
以降、慎吾との生活を続けながらも、しばしば涼太に会いに行くようになるのだが……。

ほぼ女性客ばかりの中、私の斜め前に座っていた初老のおっちゃん。
エンドロールが始まった瞬間に、「どないしょうもない映画やな」とつぶやいて、
怒り気味に退出されたのが可笑しくて。おっちゃんの気持ちもちとわかる。(^^;

どちらも知子(満島ひかり)に骨抜きにされている状態で、
それがあらわな涼太(綾野剛)はまだしも、
知子の振る舞いにたいして興味がなさそうな慎吾(小林薫)に至ってはどないもこないも。
「一緒に死んでくれ」と言う慎吾に、「どうして奥さんに頼まないの」と笑う知子。
「そんなこと言えない。妻が可哀想すぎて」と言われたら、「は!?」。

寂しいときだけ押しかけてくる知子に涼太が「どうして俺とつきあうんだ」と言えば、
知子は「憐憫よ」と酷い言葉を返します。
けれども、その知子が「愛に習慣は勝つ」と言うところなど、
長く愛人生活を送る自分の強さを言いつつも、妻には勝てないとも言いたそうで、
なかなか複雑な想いが込められた作品ではあります。

いずれにせよ、私はやっぱり瀬戸内寂聴は苦手かも……と思いました。
熊切和嘉監督の「空」の切り取り方には相変わらず惚れますけれど。

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『アップサイドダウン 重力の恋人』

2013年09月18日 | 映画(あ行)
『アップサイドダウン 重力の恋人』(原題:Upside Down)
監督:フアン・ソラナス
出演:キルスティン・ダンスト,ジム・スタージェス,ティモシー・スポール,
   ジェームズ・キドニー,ジェイン・ハイトメイヤー他

時間的にたまたま合ったので、テアトル梅田にて鑑賞。

アメリカでは美人でも、どうも老け顔に思えていたキルスティン・ダンスト。
近頃は年相応な感じがして、本作ではとてもチャーミングでした。
相手役のジム・スタージェスは『ワン・デイ 23年のラブストーリー』(2011)、
『クラウド アトラス』(2012)と、色気もあるかわいいイケメンの印象です。

カナダ/フランス作品なのですが、監督はアルゼンチン出身。
スペイン語およびポルトガル語圏の作品にはなんだか惹かれてしまう私、
本作の雰囲気に引きつけられたのも道理で。

正反対の方向に重力が作用する2つの惑星。
互いの惑星は頭上に向き合って存在し、“上の世界”と“下の世界”の関係にある。
上は富める世界、下は貧しい世界で、双方の交流・接触は厳禁。

下の世界に生まれた少年アダムは、
叔母のベッキーから愛情を注がれ、好奇心旺盛な優しい人間に育つ。
ベッキーがつくってくれる魔法のパンケーキのもととなる、
ピンクビー(みつばち)の粉を求めて秘密の場所へ立ち入ることもしばしば。

ある日、上下の世界がもっとも近くなる賢者の山を訪れたところ、
同じくそこを訪れた上の世界のエデンと恋に落ち、人目を忍んで会うように。
ところが、その現場を警備隊に目撃され、銃を向けられる。
撃たれた拍子にふたりの手は離れ、エデンは上の世界の地面に叩きつけられる。

ふたりの仲は引き裂かれ、アダムの監督不行届でベッキーが罰せられてから10年。
アダムは世界を変えようと、ピンクビーを用いた研究を重ねていた。

そんな折り、偶然テレビで目にしたエデンの姿。
彼女は、上下の世界を繋ぐ唯一の巨大企業“トランスワールド”の社員となっていた。
エデンが死んだとばかり思っていたアダムは大喜び。
自らの研究を携えて“トランスワールド”に入社すると、彼女との接触を試みるのだが……。

アイデア倒れのところがなきにしもあらずですが、
映像に関してはプラネタリウム状の巨大スクリーンで観たかったと思うほどおもしろい。
“トランスワールド”内も上下に分かれていて、
さかさまに映し出された上の世界の社員にアダムが話しかける光景も楽しい。

エデンに会うには、同じ社内でも上の世界のフロアへ忍び込まねばならず、
下の世界のアダムは重力に逆らって歩かなければなりません。
アダムのほぼ「真上の席」の社員で、ティモシー・スポール演じるボブの協力により、
必死のぱっちでエデンに会いに行きます。アホらしいけど、めちゃ健気。
最後まで頼りになるボブが、“トランスワールド”にギャフンと言わせてくれて痛快。

「リッチ=楽園」ではない。
いやいや、お金がないとなかなかそうは言えないのよと思いつつ、ハッピーエンドはいいもの。
だけどアンタら、いつのまに仕込んだのよ、というツッコミも入れておきます。

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『つづく』

2013年09月16日 | 映画(た行)
『つづく』
監督:大町孝三
出演:比賀健二,栗原瞳,村野武範,村津和也,夏川侑子,
   島田陽,横尾三郎,脇田滋行,石田妙他

2011年の作品で、関東地方のごく限られた劇場での公開だったようです。
6月末にDVDの販売開始、8月末にレンタル開始となりました。
毎年末にやっている「今年観た映画50音順」で〈ぬ〉に次いで困るのが〈つ〉。
去年なんてこれですからね。
レンタル開始前、TSUTAYA DISCASの「近日リリース」のコーナーで発見したときは、
「うおっ、〈つ〉や。これは絶対観な」という不純な(?)動機で借りたのですけれど。

主演は静岡県東伊豆町の中学校で美術教師だった素人男性。
この比賀さん、伊豆の5万坪の山林にセルフビルドの建物を建築する“Pejjite IS”の首謀者だそうな。
みんながここで楽しめたら。そんな多目的ホールをメインに、地下には居住空間も持つ建築群。
2003年に始まったこのプロジェクトは、現在も続いているそうです。
そのプロジェクトをからめてつくってみました、というのがこのフィクション。

小さな設計事務所を営む笠原信明。
バカがつくほどお人好し、頭頂部も寂しくなりかけた冴えないオッサン。
社員はまだ若い設計士の村田と、事務員の百瀬のみ。
建売住宅や雑居ビルの設計を主として、
納期厳守の堅実な仕事でそれなりに顧客を得ている。

ある日、見知らぬ女性が事務所を訪ねてくる。
彼女は業界最大手の帝都ビル開発の社員、北村裕香。
このたびおこなわれる街の再開発プロジェクトのコンペに、
ぜひ笠原設計事務所にも参加してほしいというのだ。

これまでの仕事とはまったくちがう大規模な話に戸惑う笠原。
しかもなぜそんな話が自分のもとに舞い込むのか。
裕香曰く、コンペといえば同じ顔ぶればかり、ここらで新しい風に期待したいのだと。

裕香は帝都ビルに中途採用された社員。
上司で係長の井上は、彼女の有能さは認めているものの、
常務の澤木の部屋へ彼女が頻繁に出入りしているのが気になって仕方ない。
今回、業績がほぼ皆無の笠原設計事務所をコンペに参加させるのも、澤木と裕香だけで決めた様子。
これは怪しいと、もうひとりの常務である木場に告げ口する。

澤木の失脚を狙う木場の命令で、井上は探偵を雇うことに。
笠原と裕香の動きを探りはじめるが、2人は旧知の間柄ではないらしく、
いったい澤木と裕香が何をしようとしているのか見当がつかず……。

何気なく観はじめたら、とてもいい話でした。
込み入った部分はさておき、笠原と裕香の関係はわりと早くに想像がつくので、
たいしたネタバレにもなりませんが、以下やはりネタばらしです。

独身の笠原には、20年前に愛した女性、文代がいました。
シングルマザーでまだ幼い女の子を育てていた文代は、
ある日、笠原から200万円を借りたまま行方をくらまします。
その文代の娘が裕香でした。

幼心にも母親が結婚詐欺を働いているのだとわかっていた裕香。
金を受け取っては逃げる母親のことを、騙された何人もの男が探し当て、
ときにはその道の人を引き連れて金を返せと言ってきたのに、
笠原さん、あなたはなぜ探しにこなかったのか。
その程度のものだったのかと逆キレ気味に詰め寄られ、困り顔の笠原。

騙される人ってこんなものなのかなぁ、アホやなぁと思わなくもないですが、
自分と文代の間には、確かに愛があったのだと、訥々と話す笠原。
そうして、文代が亡くなる日まで肌身離さず持っていたという、たった1枚きりの写真を見たとき、
ちがう、この人は騙されたんじゃないと、私も信じたくなりました。

母親を失い、保険金目当ての親戚に預けられ、グレそうになったとき、
裕香が思い出したのは、20年前に笠原に連れて行ってもらった伊豆のあの土地のこと。
あのときの笠原のおっちゃんのいきいきとした顔。
私もあんな顔をして生きていきたい、グレたらあんな顔にはなれないと思ったと言う裕香。

笠原は言います。「物事に迷ったとき、“自然なほう”を選ぶようにしているんだ」。
結果が思わしくなかったこともあるが、選んだこと自体に後悔はない。
過去が現在へとつづいたとき、新しい未来が見えてくる。

正直に丁寧につくられた小品だと思います。
ちょっといい映画を観られたことに感謝。
……年末の〈つ〉のために借りたのに、こうして普通に書きたくなっちゃったら困るがな。(^o^;

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『ランズエンド 闇の孤島』

2013年09月14日 | 映画(ら行)
『ランズエンド 闇の孤島』(原題:Blood)
監督:ニック・マーフィ
出演:ポール・ベタニー,スティーヴン・グレアム,マーク・ストロング,
   ブライアン・コックス,ナオミ・バトリック,ベン・クロンプトン他

もういっちょ、未公開の「TSUTATA独占レンタル作品」を。

『アメリカン・ビューティー』(1999)のサム・メンデス監督が製作総指揮に当たり、
ジェニファー・コネリーの旦那、ポール・ベタニーをはじめとして、
『裏切りのサーカス』(2011)でも共演したスティーヴン・グレアムとマーク・ストロング、
マーロン・ブランドとどこかかぶってしまう狸親父のブライアン・コックスなどなど、
地味ながら芸達者なイギリス人俳優を揃えています。

引き潮のときだけ現れる島を表した邦題が付いていますが、
原題は決して断ち切ることのできない血の絆を示す“Blood”。
どんより曇った寂しい光景からスタート、もろ私好み。

イギリス、ランカシャーの海に近い町に暮らす兄弟、ジョーとクリシーは同じ署の刑事。
父親のレイも元刑事で、認知症の傾向が見られる今、
自分はまだ現役であると疑わず、たまに署を訪れる。
同僚にとってもそれはすでに日常の一部で、みんなで上手くレイに取りなすと、
独身のクリシーがレイを連れ帰り、日々の面倒を見ている。

ある日、12歳の少女アンジェラの惨殺死体が発見される。
容疑者として挙がったのは、前科者のジェイソン。
アンジェラに性的いたずらを受けた様子はないものの、
かつて猥褻罪で逮捕されているジェイソンが犯人に違いないとジョーは考える。

ジェイソンは出所後に教会で奉仕に務めている。
心を入れ替えたのではと言う奴もいるが、ジョーにはそうとは思えない。
母親と暮らすジェイソンの自宅を捜索すると、
窓から撮影したとおぼしきアンジェラの何枚もの写真と、
事件当日アンジェラが身につけていたバングルが。

ジョーとクリシーは直ちにジェイソンを連行。
しかし、これだけでは犯人だと断定する証拠にはならない。
自白を得ようとするもジェイソンは否認。結局釈放されてしまう。

昔、同様の事件で証拠の決め手を欠き、容疑者を釈放したところ、
すぐにまた犠牲者が出たことを忘れられないジョーは、ジェイソンを野放しにできない。
惚けたレイがつねづね武勇伝として語っている、
引き潮の島へ容疑者を連れていけば簡単に自白するという話を実行しようと、
クリシーとともにジェイソンを車で拉致する。

にやついていたジェイソンも、レイの話どおり怯えだして自白。
さらにジェイソンが口走った言葉が、
アンジェラの恥骨近くにあったタトゥー、“4 REAL”(=for real(本当に)の意)だったことから、
ジョーの怒りは沸点に達し、シャベルで殴り殺してしまう。

絶対にバレてはならない。ジョーとクリシーは死体を埋めると、証拠隠滅を図る。
ところがその後、同僚のロバートが真犯人を逮捕。
ジェイソンの母親が息子の行方不明を訴えたことから、クリシーは落ち着かない。
ジョーはなんとか隠し通そうと画策するのだが……。

未公開で、そんなに観る人もおらんやろっちゅうことで、
いつもどおりほぼネタバレしてしまいましたが、シ、シブイです。
特にロバート役のマーク・ストロング、かっこいいハゲ!
キレ気味のジョーに嫌みを言われてもサラリ、仲間やその父親のことを思いやります。
けれども捜査に対する信念は決して曲げることがありません。
思い込みで殺人を犯してしまったジョーに、
ロバートがボソッとつぶやく「怒りと情熱はたまに混同される」の言葉が印象的。

ジェイソンの母親が息子のことを信じてやれなかったことを悔いる姿や、
ジョーの娘ミリアムがいったい何があったのか涙ながらに問うシーン。
血縁関係にある者と、妻や恋人などいわば他人が持つ感情とは異なり、
原題の“Blood”の意味が強く浮かび上がります。

「ヘマをしたら凹め。凹まなくなったら終わりだ」、正気だったころからのレイの言葉。
凹んでいる間はまだ希望があるのか。
甘くないラストですが、だから、いい。

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