夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ブレードランナー 2049』

2017年11月07日 | 映画(は行)
『ブレードランナー 2049』(原題:Blade Runner 2049)
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:ライアン・ゴズリング,ハリソン・フォード,アナ・デ・アルマス,シルヴィア・フークス,
    マッケンジー・デイヴィス,ロビン・ライト,デイヴ・バウティスタ,ジャレッド・レトー他

「映画の日」にダンナが飲み会。こんなチャンスは逃せません。
163分の大長編だから、シネマイレージを貯めるためにTOHOシネマズで観たいけれど、
伊丹や西宮ではちょうどいい時間の上映がないし、
どうせ改悪されたシネマイレージサービスだもの、TOHOシネマズでなくてもいいや。
で、職場からいちばん近い109シネマズ大阪エキスポシティへ。

説明するまでもない、リドリー・スコット監督の『ブレードランナー』(1982)。
いくら好きな映画であっても、繰り返して観ることは少ない私なのですが、
これは何度か観ています。タイトルを聞いただけでワクワク。
35年ぶりの続編ということで、ずいぶん前から宣伝されていたにもかかわらず、
ふたを開けてみればアメリカでは大コケとの噂。
しかし評価が低いわけではなく、前作を観た客層の興味しか惹けなかった模様。
前作に興奮した人なら、まずまちがいなく気に入るのでは。

前作の舞台設定は2019年。
本作はその30年後の2049年、さらに荒廃が進んだ地球。

労働力の確保を目的としてタイレル社に製造された人造人間“レプリカント”。
彼らがたびたび反乱を起こすせいで同社は倒産。
その後、同社を買収したウォレス社が改良を重ね、
人間に忠実なレプリカントのみが社会に溶け込んで暮らしている。
反乱分子となりそうな危険な旧型レプリカントは、
ロス市警の最新型レプリカント捜査官“ブレードランナー”によって追跡され、解任(殺害)される運命。

ある日、ブレードランナーのKは旧型レプリカントのサッパーを解任したさい、
サッパーの隠れ家の前に立つ大木の根元に埋められていた箱を発見。
その中には帝王切開手術を受けたと見られる女性レプリカントの遺骨が入っていた。
レプリカントが妊娠することはありえないし、あってはならないこと。
そのレプリカントの子どもを追跡して解任するように命じられたKは、
ただちに調査を開始するのだが……。

そもそも本作の監督ドゥニ・ヴィルヌーヴが大好きです。
この監督の作品なら無条件に好きと言っていいぐらい、最近のお気に入り。
だから本作も贔屓目たっぷり、全編が纏うこの雰囲気、なんとも言えません。

自分がその子どもかもしれないと思うKにライアン・ゴズリング
『ラ・ラ・ランド』で日本での知名度も飛躍的に上がった彼。
私は『ラ・ラ・ランド』の彼よりも断然こっちの彼が好き。

怖かったのはウォレス社の社長を演じるジャレッド・レトー。すっかりキワモノ俳優(笑)。
しかし今回それより怖かったのは、彼の秘書で女性レプリカント役のシルヴィア・フークス。
私はお初かなと思ったら、『鑑定士と顔のない依頼人』(2013)の謎の女性役だった人。
職務に忠実、敵と思えば血祭りに上げる秘書ラヴ役の彼女が強すぎ怖すぎ。
潜んで暮らすかつての主役ハリソン・フォードも相変わらず「情けない顔」で頑張っています。

人間に従って働いているのに、人間もどきと差別を受けたりもするK。
近未来の話であれ現代過去の話であれ、結局差別ってなくならないんだなぁ。

この監督の作品を観ると、必ず残る「切なさ」が好き。

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『彼女がその名を知らない鳥たち』

2017年11月05日 | 映画(か行)
『彼女がその名を知らない鳥たち』
監督:白石和彌
出演:蒼井優,阿部サダヲ,松坂桃李,村川絵梨,赤堀雅秋,竹野内豊他

月曜日の昼間、神戸ポートピアホテルにて親戚の出演するコンサートが。
有休を取って行くことにして、その前に映画を1本。
神戸方面で観るのが方向的によさそうだけど、良い時間に上映なし。
通勤ラッシュの時間帯になんばまで行くのは決死の覚悟が要りそうだから、
おとなしく梅田で止まり、梅田ブルク7で本作を鑑賞しました。

数年前に著作を立て続けに読んだ沼田まほかる
その頃は映像化の話なんてちっともなかったのに、
この間『ユリゴコロ』が公開されたと思ったら、今度はこれ。
監督はどうも私のお気に入りになりそうな白石和彌。
『凶悪』(2013)、『劇場版 女子の事件は大抵、トイレで起こるのだ。』(2015)、
『日本で一番悪い奴ら』(2016)、これまでのところ、どれも好きです。

北原十和子(蒼井優)は、8年前に別れた黒崎俊一(竹野内豊)のことが忘れられない。
それを承知の上で十和子と同棲している佐野陣治(阿部サダヲ)に辛く当たってばかり。
羽振りの良いイケメンだった俊一のことを思うと、
不潔で下品きわまりない陣治となど一緒に寝る気も起きない。
けれど働く気もなし、自分の言いなりの陣治の少ない稼ぎを当てにするだけ。

クレーマーのようなこともしては出費を抑えようとしていた十和子は、
壊れた腕時計のことで百貨店に苦情を申し立てる。
応対した売場責任者の水島真(松坂桃李)がイケメンであることに驚く。
ついつい俊一にその面影を重ね、真との情事に溺れてゆく。

そんなある日、真の妻宛に妙なものが送りつけられてきたらしい。
また、真が持ち歩いていた顧客リストがなくなったという。
真から「君の同居人の仕業ではないか」と言われた十和子は、
自分の交際相手に対して過去にも陣治が何か仕掛けたのではないかと疑うのだが……。

凄絶です。阿部サダヲが圧巻。蒼井優も凄まじい。
これを観たら、『ナラタージュ』なんてもうオママゴトに思えてきます。

どんなになじられても、自分だけが彼女を幸せにできるのだと断言する陣治。
原作を読んでから何年も経ちすぎて、内容をほぼ忘れていましたが、
ただ絶望的な気持ちになって、この著者は面白いけど好きじゃないと思った覚えが。
それを思うと、映画版もやはり絶望的ではあるけれど、この愛の形が切ない。
真相が明らかになるシーンでは涙がにじみました。

で、関西弁作品のお約束。イントネーションについて。
蒼井優も阿部サダヲも関西圏出身の役者ではないのに、相当上手い。
ごくたまにヘンテコになりますが、これだけ喋れれば立派です。
その点でもスゴイ。

両イケメンが演じる男ふたり、サイテー(笑)。
痛い目に遭って当然かと。

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『ゲット・アウト』

2017年11月03日 | 映画(か行)
『ゲット・アウト』(原題:Get Out)
監督:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ,アリソン・ウィリアムズ,ブラッドリー・ウィットフォード,
   ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ,スティーヴン・ルート,キャサリン・キーナー他

前述の『先生!、、、好きになってもいいですか?』はテキトーに選んだ1本。
これはこの日の本命で、どうしても観たかった1本でした。
同じくTOHOシネマズ西宮にて。

アメリカで人気者のコメディアン、ジョーダン・ピールの監督デビュー作。
劇場で観たM・ナイト・シャマラン監督の『ヴィジット』(2015)や『スプリット』
DVDで観て、不気味で面白かった『ザ・ギフト』(2015)などと同じ製作スタッフ。
予想外の大ヒットを飛ばしたそうで、怖いけど好奇心には勝てません。
例のごと何度か座席から飛び上がりそうになったけど、めっさ面白かった。

ニューヨークに暮らす黒人のカメラマン、クリス・ワシントン。
白人の恋人、ローズ・アーミテージが両親に紹介したいと言う。
ローズの実家へ一緒に行くことにしたものの、不安でいっぱい。
なぜなら彼女は自分の彼氏が黒人であると両親に話していないから。
その気持ちを打ち明けると、ローズは何も心配いらないと笑う。

親友のロッド・ウィリアムズは白人女の実家へなんて行くもんじゃないとからかう。
そんなロッドともローズは気安く話す仲。
クリスはロッドに愛犬を預け、不安ながらもアーミテージ家へ。

郊外に豪邸を構えるアーミテージ家。
ローズの両親であるディーンとミッシー夫妻は、クリスを見ても顔色ひとつ変えずにこやか。
あとからやってきたローズの弟ディーンも含め、
家族の誰しもが温かく招き入れてくれるが、この家は何かがおかしい。

黒人に偏見はないと言いながら、使用人はきっちり黒人。
メイドのジョージーナ、庭師のウォルター、どちらも様子が変。
訝るクリスに、祖父の代からの使用人を解雇するのが気の毒で
使いつづけているだけだと、ディーンは言い訳をする。

翌日、ローズの亡き祖父を讃えるパーティーが開かれる。
白人ばかりの招待客の中に、一人だけ黒人を見つけたクリスは、
ローガンというその男に駆け寄って話しかける。
ところがやはり様子のおかしいローガンをこっそり写真に収めるべく
カメラを向けたところ、フラッシュを焚いてしまい……。

露骨に差別を受ける話なのかと思っていました。
今の時代、そんな話をつくれるものなのかなと訝りながら。
そうしたらそうではありませんでした。
アーミテージ家で会う人ごとに、オバマが好き、黒人はすごい、
あっちのほうも強いのかなんてことまでサラッと言う。
馬鹿にしているふうでもなく、真剣に。
だからって、言葉通りに受け取っていいとも思えない。この気色悪さ。

自分は差別意識のない善人だと思っている人たちの、隠れた本心。
ものすごく不気味で怖い、一級ホラーサスペンス。
同じ人種差別を描いた『ドリーム』とあわせて観ることをお勧めします。
どちらもものすごく面白い。

監督が当初考えていたという絶望的なオチでなくてよかったとホッとしました。

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『先生!、、、好きになってもいいですか?』

2017年11月02日 | 映画(さ行)
『先生!、、、好きになってもいいですか?』
監督:三木孝浩
出演:生田斗真,広瀬すず,竜星涼,森川葵,健太郎,
   中村倫也,比嘉愛未,八木亜希子,森本レオ他

この手のやつはもういい加減やめておけばいいのに、
またしても観に行ってしまいました。
そうしたら、始終ニヤニヤしどおし、怪しすぎるやろ、私(笑)。
さらには不覚にも涙ぐんだシーンまで。

原作は『別冊マーガレット』に連載されていた河原和音の少女漫画『先生!』。
意外だったのが連載時期で、1996年から2003年までとかなり前。
『高校デビュー』(2010)、『俺物語!!』(2015)、『青空エール』(2016)と続々映画化され、
いずれも評判がいいから今になって15年近く前の作品も映画化したのか。

TOHOシネマズ西宮にて。

内気な高校2年生・島田響(広瀬すず)。
親友の千草恵(森川葵)や川合浩介(竜星涼)とともに弓道部に所属している。
響は入学式のときに世界史教師・伊藤貢作(生田斗真)の大あくびを目撃。
気にはなっているが、いつも無愛想で素っ気ない伊藤のことがなんだか苦手。

恵は数学教師・関矢正人(中村倫也)のことが好き。
浩介は美術教師・中島幸子(比嘉愛未)に猛烈にアタック。
周囲は恋愛話に沸いているが、響には恋というものがちっともわからない。
みんなどうして誰かのことが好きだと自分でわかるのだろう。

ある日、関矢の下駄箱へラブレターを入れてきてほしいと恵から頼まれた響。
ところが響は関矢と伊藤の下駄箱を間違えてしまう。
大慌ての恵に謝罪し、関矢宛のラブレターを返してもらうため、響は伊藤の部屋へ。
ラブレターの誤字脱字は伊藤によって添削されていて、恵は腹を立てるが、
以来、響は伊藤のことばかり考えるように。

これこそが恋だと知った響は、伊藤にその想いを打ち明けたうえで尋ねる。
「好きになってもいいですか」。
しかし、先生と生徒という立場。伊藤は応えられないと言い……。

人気の若手を起用して青春恋愛ものを撮りつづける監督といえば、
すぐに思い当たるのは廣木隆一監督。
廣木監督は私はもう勘弁してほしいけど(とか言うてまた観るねんけど)、
三木孝浩監督はもうお腹いっぱいですとまでは言えない作品もあり、
もしかするとわりと好きなのかも、私。

笑ったり泣いたり、性格の悪い美人教師に腹を立てたりと、忙しい(笑)。
「高校生の本気なんて本気のうちに入らないわよ」というその教師。
高校生の本気をナメとったらあかんぜよ。

『ナラタージュ』の葉山先生よりよほどちゃんとしてます、この伊藤先生。

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2017年10月に読んだ本まとめ

2017年11月01日 | 映画(番外編:映画と読み物)
すっかり“読書メーター”にハマり、
いまやそれにUPするために必死のぱっちで読んでいるという状況。(^^;
始めるまでは1カ月に10冊から12冊程度を目標にしていたのに、
読書メーターを始めてからというもの、15冊以上が普通になっとります。
そのうち息切れしそうな気配。(--;

2017年10月の読書メーター
読んだ本の数:18冊
読んだページ数:5965ページ
ナイス数:1858ナイス
https://bookmeter.com/users/762098/summary/monthly

■ナラタージュ (角川文庫)
映画の予告編からどろどろ不倫を予想していたら、なんだラスト直前まではプラトニックなのか。映画版のキャストも併記。大学生の泉(有村架純)は、高校時代の演劇部の顧問・葉山(松本潤)への想いを消せないまま、他大学の小野(坂口健太郎)から交際を申し込まれて……。「~してあげる」という言い方が嫌いです。「してあげられるのはこれぐらい」で、最後の最後にやっちゃうてか。ほならもう最初からやっとけよと思ってしまった(^^;。切ないよりも悲しい。「あなたは一番好きだった人を思い出す」と言われたら、観ないわけにはいかんけど。
読了日:10月02日 著者:島本 理生
https://bookmeter.com/books/578813

■こちらあみ子 (ちくま文庫)
小学校時代、クラスに1人とは言わないまでも、学年に何人かはこんな子がいました。落ち着きのない子みたいに済まされていたけれど、今は病名が付与される時代。本人にしてみれば、見えるもの聞こえるものに正直なだけ。好きな子には好きと言い、面白いものを追いかける。いわばKYで、実際に目の前にいたら、たぶん私はうざいと思ってしまう。なのにこうしてそんな子の頭の中を見せられたかのような作品に出会ったら、妙に切ない。読んでいる間は不愉快だったけど、読後感はそうじゃない。生きるのが下手でもいいじゃないかと思えます。凄い作家。
読了日:10月03日 著者:今村 夏子
https://bookmeter.com/books/8072758

■おまめごとの島 (講談社文庫)
無駄にイケメンな主人公は、口下手で人づきあいも苦手、パニック障害も持つ。東京を去った彼が身を寄せるのは小豆島。元妻からしばし預かることになった娘はこれまた超絶美少女。イケメンゆえに降りかかる数々の災難。美男美女に生まれた人の気持ちは残念ながらわからないけれど(笑)、自分のせいちゃうやん、勝手に騒がれても知らんがなと時には思うのかも。「生きるっちゅうんはあんがい単純なもんやで」。何も言わずに抱きしめる、それに救われる人がいる。しかし見た人が固まってしまうほどのイケメンって。映像化されたらこの親娘は誰にしよ。
読了日:10月04日 著者:中澤 日菜子
https://bookmeter.com/books/12126449

■カササギたちの四季 (光文社文庫)
決してファンというわけではないのに読んでしまう道尾秀介キムタク主演の月9ドラマのために書き下ろした『月の恋人』に唖然呆然となった以外は結構好きです。実はなんたらでしたみたいなオチの作品も嫌いじゃない。と思ったら、本作は珍しくポップ。リサイクルショップの店長、従業員、店に入り浸る中学生が関わる、日常の謎よりはちょっぴり犯罪色もある事件。拍子抜けするほど普通にいい話。そんな中、面白い比喩だと笑ったのは、端正な顔を表現するのに「文庫本を伏せたようなくっきりとした鼻筋」。あまりベタッと伏せてはなりませぬ(笑)。
読了日:10月05日 著者:道尾 秀介
https://bookmeter.com/books/7955306

■ナラタージュ (角川文庫)
【再読ではなく、映画版を観たので書き込み】キャストを聞いて松潤どうよと思ったのは皆一緒。しかし行定勲監督は巧かった。舞台を富山や京都に移している以外は基本的に原作に忠実ながら、監督の年の功なのか、それぞれの行動について私は原作よりも納得できる。「据え膳食わぬは男の恥」への言い訳に私の嫌いな「〜してあげる」が使われることもありません。主人公たちより上の年齢層が観れば、恋愛そのものよりも自分の居場所に思い至るかも。原作とは異なるラスト、このほうが私は圧倒的に好き。大切に思っていたことを感じられるラストでした。
読了日:10月08日 著者:島本 理生
https://bookmeter.com/books/578813

■あきない世傳 金と銀(四) 貫流篇 (時代小説文庫)
四代目だったゲスの夫を亡くして五代目の嫁となった幸。ここまでは予想したけれども、第三巻で五代目も失踪、この第四巻で六代目と夫婦になるとは。それを聞かされた天満組呉服仲間の第一声と同じく私も「げっ」。三人兄弟のもとへ順繰りに嫁ぐなんて。が、六代目と幸のコンビは絶妙。これまでの巻と比べてイケズされる度合いも低く、幸が次々に繰り出すアイデアが楽しくて、ニヤニヤしながら読むことができました。労を惜しまず商いに精を出せば自ずと財を成す。誰も試したことがないからこそ試す。その姿勢を見習いたい。引き続き頑張ってや、幸。
読了日:10月08日 著者:高田郁
https://bookmeter.com/books/12200673

■人間椅子 江戸川乱歩ベストセレクション(1) (角川ホラー文庫)
本好きの父親の本棚に多く並んでいた江戸川乱歩。子どもには幾分こわかったはずなのに、好奇心を抑えられずに読んだことを思い出します。今になって再び読みたくなり、どこの出版社のどの文庫にしようかと迷って、大槻ケンヂ解説の本書を選択。収載されている8編に登場するのは皆なにかに魅入られた人。椅子の皮を隔てた感触、鏡の向こう、押絵の中の女性。こんなものを思いつく乱歩こそが変態だったろうと思うのですが(笑)、どうにも面白い。人間椅子にはちょっぴり座ってみたいけど、半殺しにされた蚤を顕微鏡で見ることだけはしたくないなぁ。
読了日:10月10日 著者:江戸川 乱歩
https://bookmeter.com/books/571123

■デューク
犬より猫派なのに、ロバート・クレイスの『容疑者』『約束』を読んだり、映画『僕のワンダフル・ライフ』を観たり、めっきり犬づいている今日この頃。愛犬デュークを亡くした主人公。死因は老衰だったから致し方なかったはずだけど、悲しくてたまらない。電車の中でも泣き止まない彼女に席を譲ってくれたイケメン。唐突なキスに、私の苦手な「オバハンの妄想系」かと怯みましたが、ちゃうちゃう、この主人公はオバハンじゃなくて若い娘。ほっとして、そして心の中で叫ぶ、「これはデュークだ」。10分足らずで読めてしまう、ささやかな幸せです。
読了日:10月11日 著者:江國 香織,山本 容子
https://bookmeter.com/books/547647

■終わらない歌 (実業之日本社文庫)
気に入った本は老後にまた読むつもりで保存版として購入するものの、数年以内に再読する性分ではないため、『よろこびの歌』の続編といわれても記憶は薄ぼんやり。ま、「女子高の合唱コンクールでいろいろもめて大団円」ぐらいに覚えていれば大丈夫。同級生5人の3年後、それぞれが選択した進路。「いっしょけんめい」が本来は「一所懸命」だと知りつつも、字面や語呂から「一生懸命」を使いがちでした。本作を読むと、「一つ所を懸命に」という気持ちを大切にしたいと思えます。お侍さんじゃないけれど(笑)。合唱曲“COSMOS”を聴きたい。
読了日:10月13日 著者:宮下 奈都
https://bookmeter.com/books/9868974

■1999年の王
表紙に目を引かれて。孤独なオヤジを釣り上げる保険金殺人。首謀者の男から逃れられずに手を貸すことになった女。現実にもはや珍しくもない事件なので、『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件』のようなノンフィクションを読んだ後では弱く、「王」とまでいうのはどうだか。けれど、弱い分、嫌悪感に駆られることもなく、さらさらと読めます。中学生にとっては1年後も10年後もどうでもいい、重要なのは現在という一文は印象に残る。「おれを裏切るな」という言葉は「好きだ」とはちがうのに、男に縋りたい女にはそう聞こえてしまうもの。
読了日:10月15日 著者:加藤 元
https://bookmeter.com/books/12246018

■ダイナー (ポプラ文庫)
グロくて耐えがたいのに、何なのこの面白さ。やばい話に巻き込まれたカナコが殺されかけて咄嗟に叫ぶ、「私、役に立ちます。料理上手です」。人殺しが集う会員制の店に売り飛ばされる。店内には血肉クソまで飛び交います。思考を極力停止して読んでいるのに、想像を巡らせてしまったときの私の顔は、眉間にシワ寄り、酸っぱすぎる梅干しを食べたときのバアちゃんみたいに(泣)。なのに途中でやめられない、途轍もなく面白い。犬まで含めてキャラ濃厚。著者の他作品も読みたい。だけど、そのたびに私の顔はすっぱいおばあちゃんになるのでしょうか。
読了日:10月16日 著者:平山 夢明
https://bookmeter.com/books/5349916

■廃校先生 (講談社文庫)
400頁超ですぐに読める本というのは、凄く面白いか読みやすいかのどちらか。本作は私にとっては後者。次年度の廃校が決まっている小学校。児童7人と先生4人の日々。著者は『22年目の告白 私が殺人犯です』のノベライズ作家。言葉が平易で読みやすい。半面、想像力を掻き立てられる表現はないような。鼻をほじる癖のある先生が「う○こ」を連発しすぎでちょい食傷(笑)。だけどラストはきっちり感動的、さすが放送作家。廃校や閉校の経験者は涙なくしては読めないかも。映像化すれば良さそうです。表紙がチョークアートだということに驚く。
読了日:10月19日 著者:浜口 倫太郎
https://bookmeter.com/books/12124326

■バー・リバーサイド (ハルキ文庫)
大阪に生まれ、京都の大学に通い、サントリーの宣伝部に勤務していたという著者。それがなぜに二子玉川の、しかも沖縄出身のバーテンダーがいる店の小説を書くのだと思ったら、日本全国を巡る酒や食材のノンフィクションも多数お書きになっている様子。多摩川沿いの一軒家のバーはきっと素敵。ふらりと訪れて、店主や常連客の薀蓄に耳を傾け、気持ちよく、しかしかなり酔っぱらう。翌朝起きたら昨晩の話をあまり思い出せない、本作もそんな印象。飲みながら読んだら今日は中身をほとんど忘れています(^^;。所要(=滞在)時間は約2時間かと。
読了日:10月21日 著者:吉村 喜彦
https://bookmeter.com/books/11245069

■くちぬい (集英社文庫)
「口縫い」と聞いて即思い出すのは、私の棺桶に入れてほしいほど好きな小説『猫を抱いて象と泳ぐ』。しかしこの『くちぬい』は絶対に入れないで。過疎村に移住した夫婦が村のタブーに触れてしまう。なぜか全然共感できない夫婦。なんとなく鼻につく。そこでハタと気づく、村八分って、結局こういう「鼻につく」感覚から始まるのだろうかと。こんな自分が嫌だ。著者自身が過疎村でいじめられた経験に基づく。非常に後味悪く、著者が移住した村への恨みも映されているのかも。他界後に文庫化出版されているから、余計に怨念がこもっているようで怖い。
読了日:10月23日 著者:坂東 眞砂子
https://bookmeter.com/books/8070397

■総理の夫 First Gentleman (実業之日本社文庫)
著者の作品はどれも導入部が面白くて、掴みバッチリ。だけど中盤以降、個人的には熱弁に過ぎると感じる部分があって、やや冷め気味で見てしまうことがたまにあります。語り手は鳥類研究者、美人妻は初の女性総理大臣に。総理の夫が綴る日記形式。導入部はやはり面白い。夫婦の出会いの話にもニヤリ。しかしやはりヒートアップ、私の苦手な「がんばってるアピール」に思えて若干冷めましたが、夫から妻へ最大限の敬意が払われていることがわかるのはとても素敵。そして嫁と姑の関係もイイ。この姑を見ていると思います、やっぱり母ちゃんって偉大だ。
読了日:10月25日 著者:原田マハ
https://bookmeter.com/books/11259935

■キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか デラックス (朝日文庫)
「前々からやってみたかったけどできなかったことをやってみた」。見知らぬ人に声をかけてみる。マナー違反に注意する。だいたいそんなとこ。思うに、「文句を言うことありきでひねりだした文句」はよろしくない。マナー違反を待ち構えて注意しても、良い結果は生まれません。『ヒマラヤ下着』のように、自分がやってみたかったことを勝手にやってみるほうが面白いんだなぁ。ちなみに、私の「やってみたいけどできずにいること」は、電車や劇場ロビーで本を読んでいる人に「何をお読みになってるんですか」と尋ねてみることです。隣は何を読む人ぞ。
読了日:10月27日 著者:北尾トロ
https://bookmeter.com/books/1973937

■後悔病棟 (小学館文庫)
空気の読めない女医。拾った聴診器を患者の胸に当ててみればアラ不思議、心の声が聞こえて、患者の気持ちのわかる医者に。当然感動的な話を想定していたら、そうは問屋が卸さない(笑)。各話けっこうブラックな流れで苦笑い。『君の膵臓をたべたい』の「君が今までしてきた選択と、私が今までしてきた選択」のくだりを思い出し、人は後悔はしても、その都度ちゃんと選択してきたということかなぁと思ったりも。こりゃイヤミス認定でもいいかなと思ったら、最後はまさかのきっちりいい話。おみそれしました。そうだ、聴診器なんてなくたって大丈夫。
読了日:10月29日 著者:垣谷 美雨
https://bookmeter.com/books/11615495

■夜の光 (新潮文庫)
徒党を組まない高校生の男女4人が、人間関係に煩わされずに済みそうだと入部したのが天文部。著者お得意、日常の中の謎解きを含む青春ものですが、本作での謎解きはわりにどうでもいいこと。それよりも、謎に直面したときの4人それぞれの受け止め方と言動に心を打たれます。男子2人の喋り口調が独特なので、これを受け付けられないという人にはたぶん厳しい。だけど、この話には乗らなきゃ損。自分も仲間のひとりになった気持ちで臨むべし。時に「くだらなさ」は地球を救う。「当たり前」をスペシャルと思える人間であり続けたいと思うのでした。
読了日:10月31日 著者:坂木 司
https://bookmeter.com/books/4092382

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