NHK BS プレミアム・シアター 2021/4/4
当時10代の薬師丸ひろ子が主演、主題歌も大ヒットした80年代を代表する傑作青春映画。亡くなった父に代わって日高組の組長となった高校生・星泉が、敵対する組員との抗争や、父の死の真相に巻き込まれていくが・・・。赤川次郎の小説を映画化した相米慎二監督が、少女から大人へと成長していくヒロインをみずみずしく描き、とりわけ機関銃を乱射し、「カ・イ・カ・ン」とつぶやくクライマックスが、日本映画史上の名シーンとなった。
【原作】赤川次郎
【監督】相米慎二
【脚本】田中陽造
【音楽】星 勝
【出演】薬師丸ひろ子・・・星泉
加瀬恒彦・・・佐久間真
林家しん平・・・目高組トリオ・ヒコ 元暴走族
酒井敏也・・・目高組トリオ・メイ 泉のボディー・ガード
大門正明・・・目高組トリオ・政
風祭ゆき・・・三大寺マユミ
柄本明・・・黒木刑事
寺田農・・・ 萩原
三國連太郎・・・太っちょ・三大寺一 ほか
【製作】1981 1時間53分
星泉は、考え事をする時にはブリッジをする。初登場のシーンがこれ。
泉の唯一の親戚である目高組の組長(叔父)の葬儀。父も母も死んでいるので、天涯孤独となった。泉の取り巻きの3人の同級生と共に祈りを捧げる。
家に戻ると、まゆみという人物がいて、父の手紙を持っていた。手紙には、いっしょに暮らすようにと書いてあった。
星泉を出迎えに来た目高組の4人の組員。後ろに並ぶのはこの日雇われたエキストラ。
星泉を佐久間が出迎え、ボロ車で目高組事務所に連れて行かれる。
先代の組長からの遺言で四代目組長は遠縁である「星泉」となっていた。泉は当然断るが、「組長には、年齢も性別も関係ない」といわれる。佐久間は受けてもらえねば対立する松の木組みに乗り込んで散り花を咲かすと言う。4人と40人との闘いになるという。それを聞いて泉はやむを得ず組長を受けることにし、女子高校生が目高組長となる。
組長就任を組織のトップ浜口組に挨拶し、馬鹿にされるがご祝儀を貰って、盛り上がる組員達。
黒木刑事と話をした後、家に戻ると家の中が酷く荒らされていて、まゆみの姿はなかった。(魚眼レンズを使用して撮したという場面)
その後、まゆみは助けて貰った父の面影を追い、佐久間と男女関係を結んでいることを泉は知る。
夜、バイクで新宿通りを走り回るヒコと仲間。ヒコの後に泉はヘルメットをかぶり相乗り。
しかし、組に送り届けて貰った翌日、組員ヒコは殺される。
ヒコが殺されたことで泉は単身「松の木組」に乗り込むが、反対にクレーンで宙づりにされ、貯留槽を利用したコンクリート責めにされる。しかし、佐久間が松の木組長の息子を人質に取ったので泉は開放される。
実はヒロを殺したのは松の木組ではなく、「太っちょ」三大寺一の指示によるもので、闇社会を仕切り、事件の背景にはヘロインの存在があることが明らかになってくる。
メイが泉のボディーガードをしていたところを黒木がやって来て建物内に入ろうとする。これを防ごうとし、メイは刺されてしまう。大事には至らなかったが、泉が治療に当たる。しかし、萩原が入ってきてメイは射殺される。泉は荻原に「太っちょ」の元に連れて行かれる。
「太っちょ」、「三大寺一」のもとで殺されかかった泉を助けてくれたのはまゆみだった。まゆみは三大寺一の娘であった。
この景色の良い場所で、まゆみはさらに「高価なヒロインは泉の部屋に粉末ではなく水に溶かしてローションの瓶に詰められている。」と三大寺一に告げる。
また、ヒロを殺したのは「私」と黒木は話す。黒木は刑事であり、かつ三大寺一の手下であった。黒木は急ぎ泉のマンションに出向く。
追い詰められたのは泉と佐久間だった。しかし、まゆみが父の三大寺一を射殺。三大寺組の解散を告げる。
萩原は三大寺一の部下であったが「浜口物産」に寝返り、先回りして泉のマンションでヘロイン入りのローションの瓶を手に入れ、黒木刑事を殺害する。
「漁夫の利」を得たのは「浜口物産」だった。
泉と佐久間と政の目高組の三人は新宿の高層ビルにある浜口物産に殴り込みをかける。
泉は機関銃を乱射、浜口組を倒す。左に政(この時の銃撃で死亡)右に佐久間
この機関銃の乱射のあと、泉は「カ・イ・カ・ン」とつぶやく。
以下、ネタバレ御免
■ 泉と佐久間の別れの言葉
「終わったのね。」
「ヒコもメイも政も死んじまって目高組、これでお終いです。」
「ごめんなさいね。私が組長になったばかりに組をつぶしてしまったみたいで。」
「とんでもねぇ。お陰で最後の一花、どんと花火見たいに咲かせることが出来ました。死んじまったあいつらも、先代に褒めて貰っているでしょう。お礼申し上げます。」
「やだ、他人行儀ね。」
「もう他人ですよ。組がなくなりゃ,組長はもとのセイラー服のお嬢さん。」
「佐久間さんはどうするの?」
「東京を離れて、どこかの田舎町でひっそりと暮らしてみようと思います。」
「じゃー、ヤクザは?」
「切った、貼った稼業から足を洗います。」
「本当に?」
「ヤクザの世界は所詮、後ろ向きです。仁義だ、男だと力んでみても本音は先へ進むのが怖いんですよ。だからちっとも前を見ようとしねぇ。臆病なんですよ。ヤクザもんは」
「そのことを組長に教えてもらいました。」
「組長はやめて、もう目高組はなくなったんだから。」
「じゃーお嬢さんお元気で。」
「佐久間さんも。」
「約束して,しっかり堅気になるって。」
「しっかり堅気になってもう一度,あのマンションを訪ねます。誓います組長。」
「ほらまた」
■ 泉と佐久間は「め組みの纏」を燃やします。
その数か月後、警察に呼ばれた泉は佐久間の遺体を確認します。佐久間は、喧嘩を止めに入り、刺されたのでした。泉は佐久間にキスをします。そして、係員から佐久間の名刺をわたされます。稚内市の建設会社の営業課の名刺で裏には「泉様 新入社員の挨拶の出張で東京に来ました。お留守でしたので、いずれお目にかかるのを楽しみに」と書かれていました。泉は小さく切ってビルのテラスから投げます。
■ 薬師丸ひろ子が歌う主題歌のシーン
それからセーラー服のまま赤いハイヒールを履いて新宿通りに出ます。新宿伊勢丹前を数百m離れた新宿東映屋上から500mmの望遠レンズで撮影したという。
マリリン・モンローの地下鉄の送風口のシーンを連想させるシーン、薬師丸ひろ子はあまりの羞恥心のため、役に集中出来なかったという。
「生まれて初めての口づけを中年のおじんにあげてしまいました。わたくし愚かな女になりそうです」
【感想】
この映画の大ヒットについて考えてみたい。当時はシネマコンプレックスもなく、上映館は限られていた。
また、完全入れ替え制もなかったため、混んで席に座れないばかりか壁によりかかるスペースさえもなかったという。驚くべき大ヒット映画だといえるだろう。この映画の主役として薬師丸ひろ子はすでに中学2年の時から名前が挙がっていたという。そして高校2年の時に配役が決まったという。
何故、これだけ人気が出たのだろう。やはり薬師丸ひろ子の美貌があったことはもちろんだが、セイラー服というのは、純潔が感じられ魅力あるということ。女子高校生そのものが人気がある。さらにヤクザの世界で活躍するというのは、考えられない異質の世界であり、かえってその対比に興味が湧くことによるのではないか。映画もその点を上手くまとめていると思う。さらに付け加えると、組長星泉は、ヤクザの世界で血の流れること、殺し合いを嫌っていたことである。また、麻薬を始めとする悪事も好ましいと思っていなかった。最後に組織のトップ浜口組を倒し、周りの悪の世界を一掃し、正義を取り戻した。「カ・イ・カ・ン」といったのは、まさにそこにあったのだと思う。目高組が解散し幹部である佐久間が「堅気」の世界に戻ったことは、映画を見た人には、すっきりとなった世界を見て爽快な気分になったと思う。
あとは、やはり主題歌である。薬師丸ひろ子は俳優として名前は売れていたが当時歌手としては無名だったようである。この歌が魅力的な上に、薬師丸ひろ子は歌が上手であった。これが大きく人気を盛り上げることになった。薬師丸ひろ子は、その後日本アカデミー賞で主演女優賞を取ったり、お母さん役で助演女優賞を何度も取ったりしている。最近も朝ドラにも出たりしており、いまでも好感の持てる演技をしている。この映画を礎に良い人生を送っていることが好ましく思える。
この映画のラストシーンで言った「 わたくし愚かな女になりそうです」という風にならなくて良かった。
(了)