ゲイリー・バートンが引退してしまって新しい音源に会うことが出来ないので、発掘などがあるとやはり欲しくなる。これはバートンが独立する前の年、在団していたスタン・ゲッツのヨーロッパ・ツアーでのライブ録音。
バートンの自伝の中にゲッツ・バンド時代の苦労と暴露が書いてあって楽しい。(以下バートン本)この時のヨーロッパ・ツアーでの出来事も書かれていて、それを知っていると、このアルバムの演奏が、別な意味でとても興味ある。
演奏自体は白熱の名演というわけでもなく聞いている分にはリラックスしているし、バートンのソロも多いので嬉しい。ところがこのコンサートのあとに緊張が高まっていき爆発する。
バ―トンだけの記述では(本人の書いたものだから間違いはないが)もう一つゲッツの研究本も合わせて同じ時間の場所を探してみよう。
こちらはドナルド・L・マGIN著のスタン・ゲッツ研究本でなんと村上春樹氏が訳している。(以下ゲッツ本)
バンドに参加したバートンはカナダ
まずはゲッツとバートンとの出会いについて、
1964年1月にスタンはクインテット編成のカナダ・ツアーをすることになっていたが、ピアニストが見つからずに苦労していた。~スタンの旧友であるルー・レヴィ―が、ピアニストではなく、21歳の気鋭のヴァイブラフォン奏者ゲイリー・バートンを採用してはどうかと進言した。(ゲッツ本)
ゲッツ・バンドに参加してカナダ・ツアーに旅たつ。
最初の数日はうまくいかなかった。スタンは大量に酒を飲み、ファーストセットに出演するだけで、セカンドセットは残りのメンバーに任せる始末。(スタントの伴奏になれないバートンにいらついてゲッツはバートンの演奏をやめさる試合も起きた。) ~ しかしトロントでの2週感が過ぎるうち、万事順調に進むようになり、~ そして僕が驚いたことに、いや、スタン本人も同じかもしれないが、あと数回コンサートに付き合ってくれるように僕に頼んできた。この”数回”は結局3年弾きの場されるのだが。
もう一つ、ゲッツとアストラッド・ジルベルトとの出会いと関係について。ゲッツはジョアン・ジルベルトボサノバのアルバム「ゲッツ・ジルベルト」を1963年に録音したがそこでアストアッドが”イパネマの娘”と”コルコバード”の2曲を歌っている。
ある日、リハーサルをしているとき、スタンはジルベルトの妻アストラッドに―ブラジル人たちの中で英語を話せるのは彼女だけだった―英語で歌詞を歌ってみてくれないかと頼んだ。スタンはその場で彼女の無防備な官能性に強く打たれ、アルバムのために歌ってくれるように要請した。 (ゲッツ本)
このアルバムはヴァ―ヴでの発売50万枚をこえるヒットとなり、ゲッツはこのアルバムのおかげで子供たちを大学に行かせることが出来たといっている。
アストラッド・ジルベルトは絶世の美女うと言われているけれど、僕にはそうは思えず、いささか地味に見えた。しかし彼女自身は、他人が抗えない魅力をもっていると思いこんでいたらしい。彼女は男とあれば言いより(僕もその一人)、毎回のように何かを求めた。 ~ しかし僕がアストラッドを嫌いな本当の理由は、歌がへたのことにあった。彼女は音楽の訓練を一度も受けておらず、僕らRとツアーする前は、人前で歌った経験もない。そんな人間をグループに加えることが、僕のプライドを傷つけた。(バートン本)
アストラッドがバンドに加入して数週間後、スタントのあいだで情事が起きたことをきっかけに、すとれすはより一層激しさをますした(自体がややこしくなったのは言うまでもない。)二人は最初は人目をはばかるようにしていたけれど、屋が宛てはそんなこともなくなった。 (バートン本)
そしてバートンはスタンの新しいツアー・マネジャーとなってバンドの諸事を行うようになっていた。
しかし1964年の終わりを迎える時点で、去就をかんがえてしまうほどの日常のトラブルは激しいものになっていた。 ~ そしてアストラッドとスタンが主に金銭のことで仲違いをするようになり、雰囲気は一変した。
アストラッドがヒットレコードに名を連ねたの予定がいのことだったので、ギャラの分配にまで誰もかが回らないでいた。加えてスタンはツアーのギャラとして少額しか払っていなかった―バンドメンバーよりも少なかったほどである ~ アストラッドは自分のマネージャーを雇ってギャラの大幅な増額を求めた。またレコードの印税の支払いをめぐってスタンとヴァ―ヴ・レコードを訴える。スタンはこれをアストラッドの裏切りとみなし、心のそこかr激怒した。そして二人の関係も終わり迎えた。(バートン本)
1965年4月にはゲッツは自殺未遂を起こすが
スタンは今や絶頂にあり、世界的に有名なアーティストになっていた。しかし彼は今でもまだ、恐怖と不安に取りつかれていた。(ゲッツ本)
随分前置きが長くなってしまったけれど、ここからがやっと、このヨーロッパ・ツアー。
ヨーロッパの聴衆は今でもボサノヴァをねっしんに求めていたので、プロモ^ターは高校を盛り上げるために、アストラッド・ジルベルトを再びスタンのグループに加えた。 (ゲッツ本)
僕はスタンに、これは大きな誤りだといった。わずか2年前、アストラッドが退団したことに(そしてギャラの支払いを巡って訴訟までに至ったことに)スタンはいまだに怒りを覚えていたのだから。 ~ しかしスタンは指示されたぎゃらにめがくらみ、アストラッドのコンサートに同意してしまった。 (バートン本)
このヨーロッパ・ツアーがどのような日程だったかよくわからない。残っている音源をみるとこのベルリンが1966年11月4日となっている。これ以外に13日にフランスでベースS・スワローに変わって音源があるがカルテットの録音でアストラッドは参加していない。またツアー終わり近いロンドンの録音がある。
このベルリンででアストラッドが歌い、バックでゲッツが吹いているのでツアーでもほぼ最初のステージだったのではと思う。だからまずまずのおとなしいステージとなっている。実は面白いのはこの後のことで、あまりに面白いので永いけれど引用してみよう。
それが現実のなったのはツアー四日目の夜、オランダのロッテルダムの滞在中のことである。~彼女が繊細なボサノヴァを歌うとき、スタンはたいていバックで静かに演奏する。だけどその夜に限り、スタンはステージ上を歩き回るようにプレイした。そして一番の聞かせどころにさしかかったとき、アストラッドの背後に回り込んだかと思うと彼女の尻にサックスの朝顔をぴったりとくっつけ、低いBフラットを思い切りふいたではないか。その音量たるや、アストラッドの後ろで船の汽笛が鳴り響いた洋であるあ。アストラッドは飛び上がってすっかり度を失い、次の小節は悲鳴のような歌声になっていた。目を見開いて振り向くと、そこにはスタンの気取った笑み。してやったりという表情だ。
スタンの悪戯は次の曲になるとますますひどくなった。ソロパートに差しかかると彼はだしぬけに僕の方を向き、違うキーを指示してきた。すぐさま4音程ほど転調する。あとは言わずもがな。スタンのソロパートが終わりに近づき、最後のコーラスを歌うアストラッドのキーに戻さなければならない。だけど彼女のように経験の少ない歌い手が、曲そのもののキーが変わるのt同時に最初の音程を見つけ出すなんて、どだい無理な話だ。
アストラッドのパートが始まるのに合わせ、僕らは元々のキーに戻っていく。予想どおり、彼女はすっかり戸惑っている。すると、どれかは当たるだろうといろいろな音程を試しだした。正しい音程にたどり着くまで4小節かかったようだ。その間スタンはほくそ笑むような表情を浮かべていた。
アストラッドはもう歌うどころでなく、目に涙を浮かべてステージを降りていった。夫は当然のように怒り狂い、スタンを脅し文句をぶつけている。無理もないことだけど、アストッドは二度とスタント一緒のステージには上がらないといった。 (バートン本)
彼女は自分のために別のバック・グループを要求した。プロモーターはしぶしぶそれに従い、その結果二人は主役アーティストが別々のセットで演奏するのを三重にして、聴衆は失望した。 (ゲッツ本)
バートンを聞きたくて買ったアルバムだけれど、こちらを追っかけたら、テレビのゴシップ報道みたいに面白くなった。
っていう事でお勧めしていいのかな。
STAN GETZ QUARTET ASTRUD GIJBRTO LIVE AT THE BERLIN JAZZ FESTIVAL 1966
Stan Getz スタン・ゲッツ (tenor saxophone)
Gary Burton ゲイリー・バートン (vibraphone)
Chuck Israels チャック・イスラエル (double bass)
Roy Haynes ロイ・ヘインズ (drums)
Astrud Gilberto アストラッド・ジルベルト (vocal)*
1966年11月4日旧西ドイツ、ベルリン・フィルハーモニー(ベルリン・ジャズ・フェスティヴァル)でのライヴ録音
CD 1:
01. On Green Dolphin Street (6:48)
02. Introduction by Stan Getz (0:52)
03. The Singing Song (3:12)
04. The Shadow Of Your Smile (5:10)
05. O Grande Amor (6:41)
06. Blues Walk (6:37)
07. Once Upon A Summertime (6:42)
08. Edelweiss (4:16) (solo vibraphone)
09. Medley: Desafinado / Chega De Saudade (6:50)
CD 2:
01. Samba De Uma Nota Só* (3:43)
02. The Shadow Of Your Smile* (3:04)
03. Você E Eu (Eu E Voce)* (2:40)
04. Corcovado* (4:26)
05. The Telephone Song* (2:00)
06. It Might As Well Be Spring* (4:14)
07. The Girl From Ipanema* (4:11)
08. Announcement by Stan Getz (0:38)
09. Jive Hoot (9:04)
10. Goodbye by Stan Getz (0:57)