アマゾン・プライムの無料視聴の映画。出演者が実力派揃い。この映画の製作にも関わっているキレイに老けたと言われたポール・ニューマンも製作時80歳。髭面の目のあたりに面影が残っているかなと思われるメイクがより年寄りに見せている。 が、髭のない写真では往年の面影があって、素敵に加齢したなと思わせる。
1986年「ハスラー2」でアカデミー主演男優賞受賞の彼も2008年9月帰らぬ人となった。この映画で妻のジョアン・ウッドワードと出演しているのがせめてもの慰めだろう。
主役はマイルス・ロビー(エド・ハリス)。アメリカ合衆国でのヨーロッパからの移民で出来た最も古い地域のニューイングランド。メイン州のノックス川流域にあった織物工場、シャツ工場と上流の製紙工場がさびれて平凡な町となったエンパイア・フォールズ。
この町を100年以上牛耳って来たのがさびれた工場で財をなしたホワイティング家。町なかにある「エンパイア・グリル」をホワイティング家のフランシーン(ジョアン・ウッドワード)がマイルスに店を任せている。マイルスが時折思い浮かべる過去の出来事を挟んでフランシーンとの関係が明らかになっていく。
こんなことを思ったことはないだろうか。乗り合わせた電車の中で目にとまった人に思いを巡らす。何才だろうか。職業は? 独身? 趣味は? 家庭があればどんな家庭だろう。
英国の作家ヴァージニア・ウルフを語った本の中にこんな場面がある。ロンドン行きの列車の中、ウルフは友人の息子に話しかける。「あそこに座っている男の人、どんな職業でどこに行くのだろう。どんな家庭だろうと思わない?」
作家は興味の対象が無数にあるというのだろうか。作家の専売特許ではない。私だって考えることもあるんだから。この映画は、こんな風に事情が明らかになっていく。
ぐうたらな父マックス(ポール・ニューマン)の過去。家に寄りつかずいつも留守がち。本人いわく「出稼ぎだ」。今でもフロリダから電話をかけてきて、酒と女に囲まれた酔いどれのノー天気。
亡くなった母グレース(ロビン・ライト)の過去。頼りにならないマックスを当てにせずささやかな職業で糊口をしのいでいる。ある日、母とマイルスがレストランで夕食をとった時、メニュー選びを助けてくれたのがチャールズ・B・ホワイティング(フィリップ・シーモア・ホフマン)。
ホワイティング家の御曹司。歴代のホワイティング家の男たちに共通しているのが女性に恵まれないこと。チャールズもフランシーンと結婚しているが、フランシーンが一族で唯一大学出で恋の駆け引きにも長けていた。富裕な財産を狙われたチャールズ。メキシコを10カ月も放浪するチャールズだから夫婦関係は明らか。
夫に恵まれないグレース、妻に愛されないチャールズ。この二人が急速に親密になるのは時間の問題だった。マイルスがいつも思い出す過去は、母とチャールズ。
そのマイルスの現実はと言うと、元妻ジャニーン(ヘレン・ハント)との間に生まれた娘ティック(ダニエル・パナメーカー)が唯一の気掛かり。親権をジャニーンが握っていて娘と暮らせないのが悩み。ジャニーンの自分勝手な気性もはたから見ていて危なっかしいし、借金があって実質財産ゼロの男と結婚するジャニーンを不安視もする。
優しいマイルスに思いをかける女性もいる。ホワイティング家の娘シンディ(ケイト・バートン)。シンディは3歳のとき家の外で車にはねられ片足が不自由。一途な思いだが、マイルスにしては心が動かないから友達のままがいいと思っている。
娘ティックのクラスにはいじめっ子といじめられっ子がいる。いじめっ子は警官の息子。いじめられっ子は、電気もつかない家に住むジョン(ルー・テイラー・プッチー)。どうやらこのジョンがティックに思いを寄せているようなのだ。とはいってもティックがそれに応える気がない。いじめによるフラストレーションが溜まったのか、教室でジョンは銃を乱射する。一命を取り留めたティックも恐怖にぶるぶると震えるばかり。
マイルスの店にしても、メニューの変更やアルコール類の販売にはフランシーンの許可がいる。そしてフランシーンの過去。シンディの事故の日、チャールズはフランシーンに激怒して車庫から車を急発進させ娘を轢いてしまった。フランシーンは、父親を求めるシンディから彼を遠ざけた。一方ひき逃げの作り話で彼をかばい恩に着せて攻め続けた。彼のグレースとの恋を邪魔するために。
メキシコから帰って来たチャールズは、拳銃を手にフランシーンの部屋へ行く途中シンディの喜びの「パパ!」という声を聞き、殺意を自らの制裁に向けた。ノックス川畔に立つ東屋で、拳銃は彼のこめかみに当てられ鋭い銃声がこだました。
原作・脚本を担当するリチャード・ルッソのピューリッツア賞受賞長編小説のテレビ化で、3時間以上の2部構成となっている。エンディングに向けてやや急ぎ足になった感があるが、一人の女に翻弄される田舎の小さな町に起こる人間模様を余情豊かに描いている。お勧めの作品。
監督
フレッド・スケピン1939年12月オーストラリア、メルボルン生まれ。
キャスト
エド・ハリス1950年11月ニュージャージー州生まれ。アカデミー賞助演男優賞にノミネート3回の実力派。
フリップ・シーモア・ホフマン1967年7月ニューヨーク州フェアポート生まれ。2014年2月没。2005年「カポーティ」でアカデミー主演男優賞受賞。
ヘレン・ハント1963年6月カリフォルニア州ロサンジェルス生まれ。1997年「恋愛小説家」でアカデミー主演女優賞受賞。
ポール・ニューマン1925年1月オハイオ州生まれ。2008年9月没。妻ジョアン・ウッドワード。1986年「ハスラー2」でアカデミー主演男優賞受賞。アカデミー主演男優賞にノミネート7回。
ロビン・ライト1966年4月テキサス州ダラス生まれ。
エイダン・クイン1959年3月イリノイ州生まれ。
ジョアン・ウッドワード1930年2月ジョージア州トーマスヴィル生まれ。1957年「イブの三つの顔」でアカデミー主演女優賞受賞。
ダニエル・パナベイカー1987年9月ジョージア州生まれ。
ケイト・バートン1957年9月スイス生まれ。父はリチャード・バートン。