いずこも同じ不動産業界の、人よりうまく立ち回り、金儲けを企む小ざかしい男の没落の物語。どうもこういう男は人望を得ることは難しく、転落は急な坂道を転がり落ちるようだ。
実際のところ、不動産価格の上昇と下降の局面で、バブルとその崩壊が繰り返されてきた。今も去年夏から続くサブプライムローン問題に端を発した金融不安が世界の経済を混迷させている。
ここミシシッピー州にも宅地開発に伴う人間の強欲が描かれる。タッカー・ルーミスは、誰もが避けたい土地を高級住宅地に変えて名を上げた。地元の有力者にも受け入れられているが、人間的にあまり評価されない男だった。
そのルーミスの楽しみは、女を口説く以外に、根付を収集する趣味だった。
根付
この根付(ねつけ)の解説をウィキペディアから引用すると、江戸時代に煙草入れ、矢立(筆と墨壷を組み合わせた携帯用筆記用具一式)、印籠などを紐で帯から吊るし持ち歩くときに用いた留め具とある。
根付を携帯している
実用性から出発したが装飾性に加え美術性が強くなり、海外で骨董的収集品として高く評価され好事家の関心を集めた。
寝室の小型の金庫の奥深くに納められた長い年月を経た象牙には、時が作る小さなひびと深い艶があった。腰を下ろしている兎、柿を手にした猿、麒麟(きりん)、獅子、よく太った子犬、泳ぐ鯉、立ち姿の福禄寿、草を食む小馬、鼠などを美術館で展示するのを夢見ていた。しかし、それも虚しい夢に終わった。なんとも哀しい男だ。この作品は1986年に発表されたもので、同年にこの世を去った著者の遺作になった。