ハッとして気がついたときは、豪華客船のデッキから真っ暗な大西洋に落下している最中だった。そしてもう一度気がついたときは、おじさんともいうべき日にやけた男を見つめていた。その男の話によるとマリファナの麻袋にしがみついて意識を失いかけていて、着ているものは何もなく素っ裸だったという。そうなら夫以外の男にわがボディをとくと眺められたことになる。
そしてやっと思い出したのは、夫チャズ・ペローネがわたしという妻ジョーイ・ペローネを殺そうとしたことだ。なぜだろう。原因が分からないが怒りがふつふつと湧き上がってくる。
チャズは生物学者というが、手を回して学位をとったため専門的知識はまったくない。唯一存在を誇示できるのは精力絶倫な点だった。ハンサムな男で女を口説くのも得意中の得意ときている。
命の恩人のおじさん元検察局捜査官のミック・ストラナハンとともに、チャズに復讐を企てると同時にミックの素っ裸とも馴れ親しむことにもなる。
この二人の男についてジョーイは「チャズとの肉体関係は考えていたほどいいものではなかった。ミックは精力絶倫というわけではないが、やさしく、機転が利き、なごんだり、楽しんだりすることが出来る。それは新たな発見だった。
ミックは鏡に映った自分の尻をこっそり覗き見ることもなければ、男らしさを子供のように誇示することもない。最後にオオカミの遠吠えのような奇声を発することもない。
チャズに抱かれていると、大人のオモチャのひとつになったような気がすることがある。たとえば、通信販売のゴムのヴァギナとか。
ミックとなら、パートナーでいられる。恋人気分を堪能できる。チャズはメガトン級のオーガズムをもたらしてくれるが、そのあと必ず出来栄えを訊ねてくる。行為そのものより、感想に関心を持っているように思える。
ミックの場合には、その瞬間以上に、その後がいい。セックスの出来栄えを聞いて、ムードをぶち壊すようなことはしない。年をくっているとか、思いやりがあるとかの問題だけではない。ミックはマナーというものを知っている。自制心もある」さて、どんな復讐がなされるのか。それを明らかに出来ない。読む楽しみを奪う権利は誰にもないから。
この作家のユーモアを心から楽しめるのは確かだ。上司のガーロ警部とロールヴァーグ刑事の会話のあと「ロールヴァーグはくしゃみをした。ガーロは消防用のホースでコロンを振りかけてるにちがいない」ほんのささやかな一例ではあります。 著者はフロリダ州生まれ。フロリダ大学卒。マイアミ・ヘラルド社の記者としてフロリダの犯罪や汚職を報道。1986年「殺意のシーズン」で作家デビュー。