アメリカにおける社会の断面が見える映画といえる。上層・中層・下層という断面があるとすれば、下層に属する人々の生活が描かれる。父親レイ(トラヴィス・フィメル)と暮らすチャーリー・トンプソン(チャーリー・プラマー)15歳の目を通して哀しみの世界がそこにある。
レイは肉体労働者の風情。小さな家に食品の少ない冷蔵庫、うらぶれた食堂にあるようなパイプ・テーブルと椅子、ぼろぼろの車、チャーリーは、就学年齢なのに学校へは行っていない。走るのが趣味のようで、早朝からジョギングを始める。
オレゴン州ポートランドの住宅地の中、道路に無造作な車が連なる。幹線道路の小さなトンネルを抜けたことろで走るのをやめる。トンネルから先は下り坂、遠望する先に競馬場が見える。
別の日の昼間、ポートランド・ダウンズ競馬場まで走った。そこで声をかけてきたのが,デル・モンゴメリー(スティーヴ・ブシェミ)だった。デルは数頭の競走馬を所有していて、それらを各地の競馬場で走らせて賞金を稼いでいる。チャーリーは、デルに使ってくれと頼む。デルは受け入れて「ほうぼうの競馬場へ行くから日帰りはない。寝袋と着替えを持ってこい。俺は車で寝る。お前は適当に見つけろ」と言う。
ここで出会った馬のピート。いつも言葉をかけて世話を焼くチャーリー。そんな時父親のレイが、浮気相手の女の亭主が殴り込んできて銃で腹を撃たれる。それがもとでレイは、敗血症で死亡する。身寄りのないチャーリーは、厩舎で寝泊まりをする。
足を痛めたピートは、レースで最下位に終わる。デルは、ピートはこれまでと売却を決める。売るということは、メキシコでされるということ。ピートが唯一の友達とも言えるチャーリーにとっては、そんなことはさせられない。夜、ピックアップ・トラックに繋がれている馬専用の運搬車にピートを乗せ、自ら運転してワイオミング州の伯母さんの家を目指す。
伯母さんの家といっても具体的な住所を知っているわけでもない。伯母さんと一緒に写した一枚の写真があるだけ。しかし、何とかしなければならない。途中のコンビニで地図を万引き、食堂で大量のハンバーガーを注文、ウェイトレスから「ずいぶん多いのね」と言われたりもした。そりゃそうだろう、馬のピートにも食べさせねばならない。素知らぬ顔で出ようとして、店長につかまった。「無銭飲食」として警察に突き出されると思いきや、チャールズの境涯を聞いた女性店員の「見逃しなさいよ」の一言でチャーリーはその場を逃げるように車に飛び乗る。
おんぼろ車は故障する。故障はお手上げ。ピートの手綱をとって荒野へと踏み出す。オレゴン州からワイオミング州へは、アイダホ州を途中にはさんで長大な距離を歩くことになる。夜は危険だと言われる荒野に、ピートとチャーリーが行く。
気の遠くなるような広大な荒野といえども、幹線道路を越えることもある。車の音に驚いたピートが、車と激突死亡というアクシデントに見舞われる。チャーリーは、たった一人ワイオミングを目指す。電話局のオペレーターから思い出す人の住所や電話番号を聞き出したりして、ようやく伯母がワイオミングのララミー公立図書館の司書であることが分かる。
図書館に入ってきたチャーリーを見つけた伯母とのハグ。愛に飢えたチャーリーがようやくたどり着いた場所。愛に飢えていたチャーリーだからこそ、馬のピートを愛したのであろう。伯母にすがりついて「ピートに会いたい」と涙を流す。
物語の進行中、一度も笑顔を見せなかったチャーリー。これからは笑顔の多い日々が待っていることだろう。荒野の黄昏の素晴らしい映像が忘れられない。批評家の評価が高い。2017年制作 劇場公開2019年4月
監督
アンドリュー・ヘイ1973年3月イギリス、ノースヨークシャー生まれ。
キャスト
チャーリー・プラマー1999年5月出自未詳
クロエ・セヴィニー1974年11月マサチュウーセッツ州スプリングフィールド生まれ。本作で騎手の役。1999年「ボーイズ・ドント・クライ」でアカデミー賞助演女優賞にノミネートがある。
トラビス・フィメル1979年オーストラリア生まれ。
スティーヴ・ブシェミ1957年12月ニューヨーク市ブルックリン生まれ。