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読書「復活の歩みリンカーン弁護士RESURRECTION WALK」マイクル・コナリー著 講談社文庫2024年9月刊

2025-01-25 09:45:04 | 読書と音楽と
 ヒスパニック系ギャングのホルヘ・オチョアは、やってもいない殺人の罪で14年間コルコラン州刑務所に収容されていた。仮釈放なしの終身刑を服すこの刑務所で、生涯を全うするのはむつかしい。首を切られたり、切り刻まれたり、オカルト的妄想をもつ男が同房者の耳と指を切り落とし、ネックレスを作ったという逸話のある刑務所なのだ。

 生き延びたホルヘ・オチョアが放免される日を迎えた。それに尽力したのがアメリカの高級車リンカーンを事務所にする、ミッキー・ハラー刑事弁護士だ。待ち構えるのは、オチョアの家族、ミッキー・ハラーそれにメディアのカメラとレポーターたち。ニュースヴァリュ―は抜群で、カリフォルニアの有名人になったミッキー・ハラー。依頼は間断なくやってくるが、選別するのは異母兄のハリー・ボッシュ。数十年にわたる殺人事件を解決してきた刑事ハリー・ボッシュは、現役を引退してミッキー・ハラーの調査員を務める。

 ボッシュは一通の手紙に関心を寄せた。ルシンダ・サンズという女性で、保安官補の夫殺害の罪で仮釈放なしの終身刑を示唆され、無能で怠慢な弁護士の口車に乗せられて罪を認めてしまったという。この案件に取り組むのだが無罪放免という結末が見えているが、ライフルや拳銃、ナイフという凶器と同等の力を持つ言葉や頭の回転の速さで堪能できるのが法廷劇といえる。

 それらを楽しめると同時に著者の実在する場所や地域の引用は、何かしら役に立つのではないだろうか。こんな記述がある「ボッシュは北向き101号の入り口に入った。ロータリーにはテントや段ボール・ハウスが並んでいた。直近の市長選挙は、市にあふれかえったホームレス問題でどちらの候補が、ましな仕事をするかが焦点になっていた」これはアメリカが抱えている問題だ。こういうミステリー本にまで記述されのは、問題の深さが伺える。

 ドジャー・スタジアム 今や大谷翔平、ムーキー・ベッツ、フレディ・フリーマンさらに山本由伸、佐々木郎希も加わったドジャースの本拠地球場だが、150年前はチャベス渓谷と言って墓地だった。これは日本版ウィキペディアにも書いていない。

 イタリアン・レストラン「ドラゴ・セントロ」、ハリウッドの俳優御愛用のレストラン「ムッソ&フランク」などLA旅行には参考になる。そしてアメリカ特有の変遷、50年前違法だったマリファナが今ではカリフォルニア州では、制限付きながら買うことができる。

 そしてハリー・ボッシュ愛聴のジャズ、ターンテーブルのLP盤に針を落とす。ウェイン・ショーターの「ハリーズ・ラスト・スタンド」を聴きましょう。

  著者マイクル・コナリーは、1956年フィラデルフィア生まれ。フロリダ大学を卒業し、新聞社でジャーナリストとして働く、共同執筆した記事がピュリッツァー賞の最終候補まで残り、ロサンジェルス・タイムズに引き抜かれる。1992年作家デビューを果たし、現在は小説の他にテレビ脚本も手掛ける。2023年アメリカ探偵作家クラブ巨匠賞受賞。著書はデビュー作から続くハリー・ボッシュ・シリーズの他、本作につながるリンカーン弁護士シリーズ、女性警察官レネイ・バラードが活躍する「鬼火」「ダーク・アワーズ」「正義の弧」など多数がある。(本書カバー見開き1頁目より)
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読書「終の市(まち)City in runs」ドン・ウィンズロウ著 ハーパーbooks2024年6月刊

2025-01-11 09:57:41 | 読書と音楽と
 ダニー・ライアンは「夢だ」と、恋人の心理療法士で大学教諭のイーデン・ランダウに言う。その夢が実現しつつある。ラスベガスのホテル王ヴァーン・ワインガードが進めているさらなるホテル買収を、横から手を出して手中に収めようとした。

 ラスベガスでホテル業の覇権を狙ったダニー・ライアンは、アイルランド系のマフィアの一員として名を馳せた過去がある。今は堅気とされているが、華々しく表に出られない。従って「タラ」グループの共同出資者の地位に甘んじている。しかし実際の経営にはアイデアマンであるダニー・ライアンの影響が大きい。ホテルを買収しカジノホテルを建て巨万の富を築いている。

 ヴァーン・ワインガードがデトロイト系マフィア アリー・リカタに上納金を払っていることもあり、調子に乗って横から手を出したダニー・ライアンに刺客が送り込まれる。こうして幾つも血が流れ悲劇が積み重なっていく人生。脳腫瘍のため他界したダニー・ライアンの意思を受けた息子イアンが、妻エイミーとともにダニーの遺灰を海に流す。有形のものは、必ずいつかどこかで無に帰する。ラストは哀切に満ちたものになっているが、跡を継いだ息子は、父親以上に事業を発展させるという一条の光が見えるのは後味のよさとして記憶に残る。

 本作は2021年「業火の市」、2023年「陽炎の市」に続く三部作の最終章ということになり、前二冊を読まなくても結構楽しめるものとなっている。私はドン・ウィンズロウの作品は、「ニール・ケアリー・シリーズ」や「ボビーZの気怠く優雅な人生」などでファンになったが、こんな犯罪小説を書くとは思いもしなかった。快い驚きでもある。

 さて、ダニー・ライアンは夢を実現しようと努力するが、夢を歌う歌曲も聴いていただきましょう。バリー・マニロウの「Who needs to dream?」とカーペンターズの「I won't last a day without you愛は夢の中に」です。

 著者ドン・ウィンズロウは、数々の賞を受賞し高い評価を受ける世界的ベストセラー作家。「野蛮なやつら」「キング・オブ・クール」「ザ・カルテル」「ダ・フォース」「ザ・ボーダー」「業火の市」「陽炎の市」といったニューヨーク・タイムズベストセラー作を含め、これまでに25作を上梓。「野蛮なやつら」がオリバー・ストーン監督によって映画化されたほか、「犬の力」「ザ・カルテル」「ザ・ボーダー」の3部作はテレビシリーズ化が決定し2024年に放送予定。現在複数の作品の映像化企画がパラマウントやNetflix、ワーナー・ブラザース、ソニーなどで進行中、ウィンズロウは本書を最後に作家を引退すると発表している。(本書裏表紙見開きから)



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