人を撥ねて逃げ帰った男の相談を終えてたどり着いたのが、夜の広い草原に三頭の馬がたたずんでいた。斜面を登り馬に近づくと、間もなく麓に置いたメルセデスが爆発した。そして、場面は四日前にさかのぼる。
ニューヨークの大手法律事務所ケナー・バック&レディーンで、いわゆる掃除屋とか揉消し屋といわれるフィクサーを17年も勤めていて今もその仕事だ。その男の名前は、マイケル・クレイトン(ジョージ・クルー二)と言う。
彼にはサイドビジネスで開いたバーが思うように行かないうえ、ポーカー・ギャンブルの借金それに加えいとこの借金も取り立てられるというフィクサーにふさわしくない状況に置かれている。
おまけに、友人のアーサー・イーデンス(トム・ウィルキンソン)が抱える巨大農薬会社U・ノース社の3000億円にのぼる集団訴訟の行方が事務所の将来がかかっていた。ところが、U・ノース社の農薬は危険極まりないしろものですでに死亡事故も起こしていた。
“6年間この訴訟に係わり、人生の12%を発がん性の「死の農薬」の弁護に費やした。これは黙視できない”と訴えるトムだったが、U・ノース社の敏腕弁護士カレン・クラウダー(ティルダ・スウィットン)も察知し手を回す。
トムは薬の過剰摂取で死亡する。死因に疑いを持ったマイケルがさぐり始める。テンポのいい展開で終盤の胸のすくエンディングへとなだれ込みエンド・クレジットの背景は、マイケルがタクシーに乗りニューヨークの町を流す場面で終わる。
そこにはなんの歓喜もなく、ただトムや農薬被害の人たち、それに自身のキャリアの行く末に思いをはせているようだ。説明不足や無理やり押し込めた場面もあったが、及第点はつけられる。
‘07アカデミー賞で、ティルダ・スウィントンが助演女優賞を受賞しているが、それほどの演技だったかと思わずにいられない。ルックスに魅力があるわけでもなく、頬が少しこけて性的魅力に乏しい。さすがにメイキャップの係りの腕なのか、キャリア・ウーマンの容貌は知的だった。それに彼女の描き方で損をしているように思う。もっと悪女振りを示してあれば最後のマイケルにはめられる場面は、溜飲の下がる思いが強まっただろう。
監督 トニー・ギルロイ1956年9月ニューヨーク市マンハッタン生まれ。もともと脚本家で、マット・デイモンの「ジェイソン・ボーン・シリーズ」を手がけている。本作では、監督賞、脚本賞でノミネートされた。
キャスト ジョージ・クルーニ1961年5月ケンタッキー州キシトン生まれ。ホセ・ファーラー、ロースマリー・クルーニの叔父、叔母に父もニュース解説者という環境に育つ。‘05「グッドナイト&グッドラック」「シリアナ」で監督賞、脚本賞、助演男優賞を受賞
トム・ウィルキンソン1948年12月イングランド、リーズ生まれ。’01「イン・ザ・ベッドルーム」でインデペンデント・スピリット賞の主演男優賞を受賞
ティルダ・スウィントン1960年11月ロンドン生まれ。スコットランドの名家出身