以前二度ほど正月松の内に参詣したことがあるが、お寺に興味を持って訪れたのは初めてだ。いつもお寺めぐりは、車で三、四ヶ所走り回る。今回は電車でのんびりと行くことにした。自宅から1時間もあれば着く距離にあるのと参道をぶらぶらとしたくもあった。
ウィークデイの電車は、がら空きで空気を運んでいるのかと思うほど、私たちを運ぶJRが気の毒になる。それでも田園の中、コトコトと規則的な車輪の音を響かせて走るのは、何かけなげに思われてくる。あなた任せの小さな旅も、それなりに楽しいものだ。
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新勝寺への門前街
午前10時半には成田駅に着いていた。うす曇で寒くなると言っていたのが、穏やかで時折薄日も差すこともある。新勝寺へは、駅前から左に折れてカラー舗装の道の両側に商店が並ぶ門前街を10分ほど歩けば着く。どうやらこの商店街、観光に力を入れているらしく、建物などを一新した気配がある。
車やバスが行き交う商店街を、ぶらぶらと見物しながら歩く。地元特産の漬物や落花生を売る店、土産店、うなぎの店、飲食店などが建ち並ぶ。だらだらと勾配のゆるい坂を下ると新勝寺の総門が現れる。
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総 門
この総門は、開基1070年記念事業として2006年に竣工した。高さ15メートルの総欅造りで金色に輝く、ちょっと派手な構えだ。以前の門は、インターネットの古い画像では、ただ成田山の看板が掲げられているだけだった。かなり派手になった。
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仁 王 門
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吽形仁王像
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阿形仁王像
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多 聞 天
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広 目 天
総門の奥の仁王門は年代を感じさせる佇まいだ。とはいっても、文政3年(1830年)建立のまま今日までというわけでもない。何度かの修復がなされている。
仁王門には仁王像がつき物だが、ここには表の左側吽形、蜜迹金剛(みっしゃくこんごう)と右側阿形、那羅延金剛(ならえんこんごう)の二体と裏側に福徳を授ける多聞天(たもんてん)、右側には、仏心を起こさせる広目天(こうもくてん)が安置されている。
仁王門の表裏に像が安置されているのを見るのは珍しい。私の経験では、日光中禅寺湖にある中禅寺のほかは知らない。そしてこの仁王門は、江戸時代末期の特色を色濃く残した建物だという。
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本 堂
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本堂の中を読経が流れる
仁王門からまっすぐ階段を上ると本堂、三重塔、一切経堂などがある広い伽藍に着く。参拝者や観光客も多く見かける。どこの国からなのか耳慣れない言葉に一人の男に聞くと、タイからだと言っていた。賑やかな連中だった。
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三 重 塔
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板軒は華麗な極彩色で修復されている
一見の価値があるのは三重塔だ。正徳2年(1712年)建立で、度重なる修復を経て今見る塔は、昭和58年(1983年)の修復になるもの。この工事は、漆塗・彩色工事を主体としたもので,享和3年(1803年)の古文書による漆塗・彩色の仕様をもとに復元されたという。享和3年当時にこだわって作り上げたと思うと、この鮮やかな板軒の極彩色に、当時の技術の高さにも驚き堪能する。
この板軒の鮮やかさに連想するのは、洒落男の身だしなみだ。洒落者はスーツの裏地に赤やピンクを使ったりする。この洒落者のやり方は、江戸時代の男と共通する。江戸時代の洒落男は、着物の裏地に春画を使ったというのをどこかで読んだ気がする。三重塔の板軒を眺めながら、低俗な連想でしばらく楽しんだ。
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深山幽谷も味わえる
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本堂からの裏をたどると、額堂、光明堂を経て成田山公園を散策することになる。ちょうど紅葉の身頃を迎えていて、外国人を含めた観光客や中高年のカメラ・マニアを多く見かけた。成田は、成田空港の関係で外国人、欧米系が増えたようだ。帰路駅前で、昼食を摂った。妻はきのこスパゲッティと小生ビール、わたしはタンドリーチキンとジョッキの生ビール。歩いたせいか冷たいビールが美味しかった。
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昼食をとったお店にあったオールドファッションな
コカコーラのポスター