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マイケル・サイモン「ダーティ・サリー」

2008-06-25 14:18:14 | 読書

              
 砂と泥で作った頭と腕と脚。だがほかの部分、首から下の胸と下腹は本物だった。こうしてダーティ・サリーと仮の名で呼ばれる女の死体が発見される。そうこうするうちにテキサス州オースチンに住む裕福な男たちの元に、腕の一部や脚の一部が何者かによって届けられる。
 捜査の責任者は、停職明けのオースチン警察殺人課部長刑事ダン・レリス。細い糸をたどりながら行き着いたのは大物だった。ところがとてつもなく大きな壁だった。犯人や証人の多くが死んでいて、この大物を豚箱にぶち込むよりどころがなかったうえ、レリスも罠にはめられ売春婦とのファックを撮られていた。

 この大物がレリスに囁く「きみには州レベルの地位を約束しよう。今はどんな仕事をしているんだったかな? あまり急に大きな変化はないほうがいいだろうな? 殺人課の課長なんか、どうだ? それがいやだとなると、きみは悲劇的な死を遂げることになる。なにかの事故にあってね」レリスは何も答えられない。悄然と立ち去るしかなかった。
「警察に勤めて十一年の間に接したすべての犯罪の被害者を思う悲しみ。それらの魂を救ってやることが出来なかった。一人の悪人に裁きを加えることも出来なかった。自分が失敗したことを認めなければならない悲しみだった」感傷に浸りながら振り返ると、死んだ先輩刑事の妻だった魅力的なレイチェルが微笑んでいた。悲しみの中に安息を見出したようだった。

 ダークな警察小説といってもいい。「ある警官が“全部”やっているという意味は警察の人間には明らかだ。ギャンブル、収賄、金のためや気晴らしに町の人間を殴る、売春婦を脅して無料でサービスさせる。ほかの警官の不正行為をかばってやる。押収した物品を横流しする。ほかにも一般市民が夢にも思わないような無数の不正行為がある。だがコカインとなると、話は別だ。たとえ売春婦をレイプしたとしても、麻薬にさえ手を出していなければ無事に済むのだ」というわけ。
 そんな集団の中で苦労をするレリス刑事とはどういう男か。父親はマフィアの下働きのようなことをしていたが、何かまずいことになってテキサスに流れてきた。母親はレリス十歳のとき家出をして行方は分からない。犯罪組織に恨みを持っていたレリスは、FBIに入ろうとするが、父親のギャングとの交際がそれを阻む。ならば警察なら採用されるだろうというわけで警官になった。
 腕は立つが性格が激しやすく荒っぽいところがあってたびたび問題を起こす。レリスの唯一の慰めは、ドラムを叩くことだった。「おれのレコードのコレクション――リズム&ブルースとロックンロールを中心とする、メンフィス・ミニーからローリングストーンズ、スティーヴィ・レイ・ヴォーンにいたるレコードが、おれにとって唯一意味のある持ち物だ。ドラムと、ドレッサーの引き出しにしまってあるおふくろの写真――映画スターのような大判のブロマイド――を除くと、レコードの存在だけがこの家をおれにとっての我が家と思わせている。ロックンロールは自分たちを抑圧しようとする〝男〟との対決の音楽だ。警察学校を卒業したおれは、その〝男〟になった。警官の制服を着ていると、どこに行ってもいやな顔をされた。だから制服を着て出かけていって力いっぱい犯罪者を抑圧し、家に帰ると大音響で〝ザ・フー〟をかけてドラムを叩いた」

 これはアメリカの話と思っていると大間違い。日本の警察だって、相手にするのは犯罪者でいつ何時悪の手にからめ取られるか、あるいは自らどつぼにはまるか心しないと大変なことになるのは間違いない。一般のホワイトカラーのサラリーマンの世界とはまったく違うダークな世界は、それはそれで小説にすると面白いものだ。ご都合主義のところがあるが、エンタテイメントとしては読んで損はない。

 著者は、1963年生まれ。舞台俳優、タクシー運転手、DJ、編集者などを経て、2004年に本書で作家デビュー。ダン・レリス・シリーズは、第三作目まで上梓されている。二、三作目は未訳のようだ。

ネルソン・デミル「ナイトフォール」

2008-06-20 12:41:22 | 読書

                 
 2001年9月11日の世界貿易センターツイン・タワーが航空機による自爆テロで崩壊する事件を結末に、1996年7月17日トランスワールド航空(TWA)800便墜落事故にまつわる謎が語られる。
 実際のところこの事故は、燃料タンク内残存燃料の引火・爆発とされている。しかし、過激派の凶行や地対空ミサイルの攻撃の目撃談もあって不透明な幕引きに終わっていた。
 それを題材に一人の男、連邦統合テロリスト対策特別機動隊契約捜査官ジョン・コーリーは、事件発生から五年後調査を密かに進めていく。それを察知したCIAやFBIの脅迫にもめげず、陰謀と隠蔽を暴き、求める真実と正義の完遂を目指す。
 ところが作品は上下巻千ページに及ぶが、あまりにも詳細に記述されているので読んでいてかなりだれてくる。ネルソン・デミルは好きな作家であるが、最近は少々活気に乏しい。まあ、人生にも旬があるように、著作活動にもピークが存在するのだろう。これはどんな分野にも言えることではある。当分はネルソン・デミルから遠ざかっていよう。
 著者は、1943年ニューヨーク生まれ。1985年ヴェトナム戦争をテーマにした軍事法廷小説「誓約」で注目を浴びる。その後「ゴールド・コースト」「将軍の娘」「プラムアイランド」などの話題作がある。

アルバムを整理していて気づいたこと

2008-06-12 10:29:54 | 雑記

 かさばるという理由で、何十冊にもなるアルバムから手札型の写真をはがして、封筒に区分けの上小型コンテナーに収納していた。ある日、ふとスキャナーで読み込みスライドショーに編集して保存すればもっとコンパクトに出来ることに気がついた。
 デジタル化されているので、もうこれ以上変色などの劣化もないというわけでその作業を始めた。四十年以上も前に結婚した頃は、まだカラーは一般的でなかったので、白黒の写真しかない。それでも別人と思えるほどの若さだ。
 特に妻の初々しさには改めて心のときめきを感じた。それに年代とともに子供が生まれ育っていくにしたがって、妻もそれ相応の色香を漂わせるのも見て取れる。その写真を見ながら、その頃の妻のヌードはどんなふうだったのかと記憶をたぐったりする。それにしても妻のヌードを残しておけばよかったとつくづく思う。
 というのも最近素敵なサイトを見つけたからだ。「妻のオールヌード」というサイトで、奥さんのヌード写真を多くの方々が投稿されている。その写真は、本当にキレイで官能的だ。私の妻もかつて官能的だったと思いたい。そんなわけで妻に対して改めて愛惜の情を感じた。「お熱いわね!」「しょってやがる」「ふん、好きにしろ!」と言われそうだけど。

読書 ジョナサン・キング「真夜中の青い彼方」

2008-06-02 12:51:04 | 読書

              
 元フィラデルフィア市の警官マックス・フリーマンは、エヴァーグレイズ国立公園の湿地帯の川で子供の死体を発見する。動悸が早くなり顔を背けたくなる。フィラデルフィアの街角で十二歳の犯罪者を射殺したトラウマを抱え込んでいるマックスには耐え難い光景だった。
 事件の渦中でもがき殺人犯からの襲撃に死線をさまよう羽目になる。都会のジャングルでなく自然のジャングルを背景にハードな物語が展開される。特に気負いのない自然な描写が印象的だ。

 「わたしは水路のまんなかを進んだ。聞こえるのは、パドルが水中に滑り込み、ブレードが水を捕らえる密やかな音だけ。立ち枯れたヌマスギのてっぺんにミサゴが一羽、止まっていた。
 小枝でこしらえた巣の端から、黄色い眼で川の流れをじっと観察している。ミサゴは猛禽の一種で、潮の差す河口域に生息し、音もなく水面に急降下しては釣り針並の鋭い鉤爪で魚を捕らえて餌としている。
 初めて見たときはその姿からてっきりワシだと思ったが、公園レインジャーに、そうではない、ワシとは身体の大きさと羽の色と翼の形がちがう、と教えられた。 アメリカ合衆国の偉大なるシンボルなんて、ただなりがでかいってだけで、ミサゴの敵でもなんでもない――レインジャーはそうも言った。ミサゴは自分らの巣に危険が迫ってると思えば、ハクトウワシにだって向かっていって追い払っちまう。 そういう場面を何度も見たことがある。それにワシは掃除屋だ。自分じゃ狩をしないで、出来合いの屍肉を食らう。その点、ミサゴは本物のハンターだよ。
 ヌマスギのてっぺんに止まったまま、ミサゴは眼下を通り過ぎるカヌーをじっと眺めていた。カヌーの立てるゆるやかな小波が一瞬で消えてなくなり、漁場が荒らされずにすんだことを見届けたいのかもしれなかった」

 そして、郡保安官事務所の女性刑事リチャ―ズとマックスの淡いロマンティックな雰囲気は今後のシリーズを楽しいものにするだろう。現在マックス・フリーマン・シリーズは、四作目まで上梓されている。これから訳出されるのだろう。

 著者は、ミシガン州生まれ。フィラデルフィア・デイリー・ニューズ紙を皮切りに、20余年わたり、主に犯罪と刑事裁判を専門とする記者として活躍。2002年、本書で作家デビュー。アメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞を受賞している。