北海道旅行計画の参考に観光協会のサイトをぶらついていて、網走刑務所の観光案内があった。その中で長期刑囚の独居房から脱獄した白鳥由栄(しらとり よしえ)という男がいたことを知った。
1933年26歳の時、仲間と共に強盗殺人を犯し収容されていた青森刑務所を1936年(29歳)脱獄、1942年(35歳)秋田刑務所脱獄、1944年(37歳)網走刑務所脱獄、1947年(40歳)札幌刑務所脱獄。
特に脱獄不可能と言われていた網走刑務所を脱獄したこともあって「昭和の脱獄王」とまで言われたらしい。となると、どういう人物なのか興味が湧くのも人情だろう。
この小説では佐久間清太郎とネーミングされた白鳥由栄の生い立ちや性格、家庭環境など人物描写に関心があったが、それは裏切られた。ノンフィクション形式をとって刑務所側から見た小説となっている。
時代背景も書き込まれていて、私たちが知らなかった側面も教えてくれる。二・ニ六事件から太平洋戦争と戦後にかけての諸相は激動の時代だった。
冬の網走刑務所の氷点下の監視任務は囚人以上に困窮していたし、食糧事情の悪化で囚人には規定どおりの食料を与えていたが、看守や一般の国民は充分な食べ物はなかった。囚人を空腹のままにしておけば、暴動や脱走の引き金になると危惧してのことだった。
戦後の食糧事情は、おそらく今の家畜以下の水準だっただろう。私にもひもじい記憶がある。そんなことを嫌というほど思い出させてくれた小説だった。
ちなみに、白鳥由栄は、1907年7月生まれ1979年2月71歳で病没。仮釈放後行った故郷からは白眼視され元の妻は一切係わりたくないと無視された寂しい人生だった。
考えてみれば、今時なら手記でも書けば金を稼げたかもしれない。それにしても、頭脳明晰で胆力も備わっていた白鳥由栄が、別の方面に人生の舵を切っていればどうなっていたんだろう? とも思う。