1970年3月31日JA8315「よど号」が富士山南側上空を飛行中、午前7時30分過ぎ「ハイジャック」されたと地上管制塔に通報された。
ハイジャックしたのは、赤軍派と言われる男たちだ。リーダーの田宮高麿、サブリーダー小西隆裕、岡本武、赤木志郎、若林盛亮、安部公博、田中義三、吉田金太郎、柴田康宏の9人だった。彼らの目的地は、北朝鮮だった。とはいっても事前に北朝鮮と受け入れについて交渉してもいない。ただハイジャックして北朝鮮へ向かい現地での交渉に運命を託すつもりのように見える。こんな大甘の判断が通用すると思っていたのだろうか。しかし、時は彼らに味方をしたのではないかと思う。
よど号のもともとの行き先は、福岡の板付空港で「北朝鮮へ行くには燃料補給が必要」とうそを言って板付空港に着陸する。当然のことながら、飛行機からは誰も降りてこない。給油で時間稼ぎをしたが、午後1時半過ぎ乗客23人が解放された。その直後、よど号はゆっくりと動き始めた。 犯人たちは、拳銃や日本刀、爆弾などで威嚇していた。(これはすべてオモチャや模造品だった)
よど号は、日米韓の連携で韓国の金浦空港に偽装着陸させた。これには、ハイジャック犯たちが、機長の管制塔と交信される英語が理解できなかったことも幸いしたらしい。この当時の大卒の英語力が貧弱だった証拠だろう。東大や京大の学生がこんなていたらく。
この金浦空港では長い籠城が待っていた。交渉は長時間にわたり、山村新次郎運輸政務次官(当時36歳)が、乗客に代わる人質となり乗客全員と客室乗務員が解放される。4月3日、平壌近郊の美林飛行場に着陸した。
おそらく北朝鮮は、ハイジャック事件を注視していたのだろ。亡命を受け入れた。ハイジャック犯がなぜ北朝鮮に行ったのか。それは、軍事訓練を受けるためだった。なぜ軍事訓練かは、彼らの革命には欠かせないからだろう。著者はハイジャックそのものが目的だったのではないかと言う。世界に向けたプロパガンダなのだ。
亡命した彼らは、なんと日本人村に住むという特別待遇ではないか。「われわれには仕事をする以前から生活費を貰っていた。それもチョソンの平均水準以上のものだった」という。コーヒーやたばこ、日用雑貨、インスタント食品や日本の調味料、菓子や嗜好品など揃わないものはない。正月には日本と同じ料理が並ぶ。
ハイジャック犯は、北朝鮮の手のひらで踊り始めていた。北朝鮮の絶対的な思想、チュチェ思想(主体思想)で洗脳することなのだ。勿論、長い時間とともに洗脳は完結した。
この本を読んでチュチェ思想の片鱗が見えて恐怖を覚える。一言で言えば、チュチェ思想の根幹、金日成はいつも正しく誤りはない。誤りは人民にあって誤りを犯したものは人間ではない。だから失敗すれば、金正恩の身内でもあったナンバー2の張成沢の処刑につながる。
こんなくだらない思想で洗脳されるなんてと思うが、それを洗脳するんだからさらに恐ろしい。日本にもこの思想を信奉するのがいると聞く。北朝鮮は実に巧妙。ハイジャック犯9人に嫁探しをする。なぜかと言えば、妻子という人質が確保できるからだ。
北朝鮮は国際結婚を認めない。従って、ハイジャック犯にヨーロッパで日本人女性の拉致を画策する。この場合は言葉巧みに北朝鮮に連れてくる。「北朝鮮では、真実の物語はつねに語られた架空の物語の背後に隠されている」と著者は断言する。
従って、現在日本人村在住の小西隆祐、魚本公博、若林盛亮、赤木志郎、森順子(リーダーの故田村高麿の妻)、黒田佐喜子(若林の妻)がいるが、2017年11月この人たちは、「よど号日本人村」というサイトを立ち上げている。北朝鮮人民がすべてネットにアクセスできるとは思えないので、おそらく朝鮮労働党のバックアップでできたサイトだろう。嘘と捏造の朝鮮労働党のプロパガンダと言っても過言ではないだろう。
このサイトは、まるで韓国の反日新聞を読むような不快感を覚える。綿密な調査で裏付けされた本書が指摘するヨーロッパでの結婚目的の誘拐について、『魚本(旧姓安倍)公博、森順子、若林佐喜子の三人には、「結婚目的誘拐罪」名による「日本人拉致容疑」での逮捕状が出されています。私たちにとっては、これは冤罪であり、当然受け入れられないものです』と言う。
ではあるが著者“あとがき“で「この本に語られている物語は、それぞれ典拠した文献や調書、法廷書類、さらに膨大な取材資料(ノートやテープ)による裏付けを持っている」とある。
ここで著者の高沢氏について、新潮社「宿命」担当編集班が書く『60年安保闘争を、その高揚の中から生まれた新左翼運動。その最盛期に青春時代を過ごした高沢皓司氏は、「共産主義者同盟(ブント)赤軍派」の活動家だった。「ブントの鬼っ子」といわれた赤軍派。その中でも過激なことで知られた「関西ブント」の武闘派たちこそが、1970年3月31日、羽田から日航機をハイジャックして北朝鮮に飛んだ「よど号赤軍」なのである。リーダーの田村高麿は高沢氏の友人だった。だからこそ高沢氏は、「よど号」が飛び立った直後から9人のメンバーの消息を追い求めた』そして『「よど号」の妻たちによる、マドリッドでの色仕掛けの日本人男性拉致。それに続くコペンハーゲンでの日本人女性の拉致。高沢氏は複数の目撃者からの事件の証言を引き出し田宮の発言の裏を取っていく』そして、「これが朝鮮労働党の手先になった「よど号赤軍」の実態なのである」と結ぶ。
私にとって「北朝鮮では、真実の物語はつねに語られた架空の物語の背後に隠されている」という文脈とチュチェ思想のバカらしさと恐ろしさが忘れられないものとなった。現在、拉致被害者が政府認定17名、救う会認定7名、特定失踪者問題調査会の推定で100名以上という人たちがいる。これらの人たちが、北朝鮮によって洗脳されていると思うとやるせない気持ちで一杯になる。