Wind Socks

気軽に発信します。

海外テレビドラマ「グッド・ドクター~名医の条件」2017年アメリカ版

2018-12-31 17:06:38 | 海外テレビ・ドラマ

            
 自閉症でサヴァン症候群を患う外科研修医ショーン・マーフィー(フレディ・ハイモア)の卓越した見識眼で困難な治療をチームとともに成し遂げる。

 社会性発達の質的障害、コミュニケーションの質的障害、興味や活動の偏りという3っを持つ先天的な脳の機能障害が自閉症。さらに知的障害や発達障害などのある者のうち、ごく特定分野に優れた能力を発揮する者の症状をサヴァン症候群という。従って、愛や思いやり、置かれる立場を理解するなど一般的な事象に無理解であるが、特定の分野、例えば航空写真を見ただけで、細部に至るまで描き起こすことが出来るという映像記憶の卓越した能力を持っている。要するに幼稚な子供の部分も併せ持っているということだろう。

 このドラマでは、この映像記憶を存分に描いてある。ショーンが子供のころから温かい目で見つめてきた聖ボナベントウラ病院の院長アーロン・グラスマン(リチャード・シフ)は、ショーンを外科研修医として採用したいと思っている。しかし、院長の席を狙う外科部長のマーカス・アンドリュース(ヒル・ハーパー)が「自閉症を持っている人間を患者の命にかかわる仕事にはムリだ」と猛反対する。

 議論は紛糾するが、グラスマンの「一定の試用期間に問題があればショーンを解雇する。その時は私も辞職する」という条件を示し決着を見た。
 それに先立ち院内会議に呼ばれたショーンに対し、理事のアレグラ・アオキ(タムリン・トミタ)が「なぜ外科医になりたいか。聞かせて」と言った。

 長い沈黙のあと「雨がアイスクリームの匂いだった日、ウサギは天国に行った。僕の目の前で。鋼管が焦げた食べ物の匂いだった日、弟は天国に行った。僕の目の前で。救えなかった。悲しい。彼らは大人になれなかった。大人にならせてあげたかった。そうすれば、彼らも子供を持って愛情を注げた。他の人たちにはそうさせてあげたい。お金も稼いでテレビも買いたい」会議に参加した人たちはみんな笑顔になりショーンを受け入れた。

 人のために役立ちたいの一言で済ませられるが、ショーンならこういう言いかたをするであろうというセリフにしたのだろう。このドラマが進むうちに「愛は必要ない」という意味のセリフをショーンが言うが、「愛情を注げた」との矛盾に脚本家の少し混乱気味と言えるだろう。

 ショーンは外科医のニール・メレンデス(ニコラス・ゴンザレス)をチーフとするチームに参加した。このチームには、女性研修医クレア・ブラウン(アントニア・トーマス)、同じく研修医のジャレット・カルー(チュク・モデュー)からなる。このチームの人種構成は、黒人系が3人、白人はショーン一人。医師も看護師も患者もなぜか黒人系が目立つ。何か意図するものがあるのだろうか。

 このドラマは、2013年に韓国でヒットしたもので、2017年にアメリカのリメイク版をABCテレビが放送。2018年にはフジテレビがリメイク版を放送した。私は韓国版も日本版も観ていないので、このアメリカ版だけの感想文になる。

 私としては、シーズン2が待ち遠しいとは思わない。なにせ出演のショーン役フレディ・ヘイモア以外魅力的な俳優がいない。なにも顔かたちばかりでなく、人間の雰囲気といったオーラのようなものと言えばいいか、それがない。

 医療ものの元祖「ER緊急救命室」やこのドラマの企画を担当しているデヴィッド・ショアの「Dr Houseドクター・ハウス」などの見せる力がないといえる。連続ドラマには、毎日あの俳優がみたいと思わせる必要がある。ヒットしている作品にはそれがある。
  
  
  

企画
デヴィッド・ショア1959年7月カナダ生まれ。2004年から2012年まで続いたヒット作「Dr House~ドクター・ハウス」を送り出した。

キャスト
フレディ・ハイモア1992年2月イギリス、ロンドン生まれ。2004年「ネバーランド」2005年「チャーリーとチョコレート工場」で放送映画批評家協会賞の若手男優賞を受賞。
ニコラス・ゴンザレス1976年1月テキサス州サンアントニオ生まれ。メキシコ系 
アントニア・トーマス1986年11月イギリス、ロンドン生まれ。母ジャマイカ系 父イギリス系 
チュク・モデュー1990年6月イギリス、ロンドン生まれ。ナイジェリア系 
ボー・ガレット1982年12月カリフォルニア州ビバリーヒルズ生まれ。
ヒル・ハーパー1966年5月アイオワ州生まれ。アフリカ系 
リチャード・シフ1955年5月メリーランド州ベセスダ生まれ。
タムリン・トミタ1966年1月沖縄生まれ。父 日系アメリカ人 母 日系フィリッピン人

映画「リトル・アクシデント~闇に埋もれた真実」

2018-12-28 10:12:01 | 映画

           
 サブタイトルの「闇に埋もれた真実」ではなく、「闇に埋もれかけた真実」が正しい。アメリカの小さな炭鉱町。二つの真実が明らかにされるまでの物語。

 山あいにたたずむこの町の風景を見ていると、日本の山村が連想された。特に私が連想したのは、大平宿(おおだいらじゅく)だ。長野県飯田市から県道8号線大平峠を経由して嬬恋宿方面への大平街道の途中にある大平宿。ずいぶん昔に行った所。1970年に集団移転して廃村となる。そのうらぶれた風景は、この映画の炭鉱町に重なる。

 この炭鉱町の住人は、トランプ大統領の支持層をなしているのかもしれない。いわゆるプアホワイトの階層だ。石炭採掘会社の幹部の住む家と、炭鉱夫の住む家の違いは貧富の差を如実に現わしている。

 炭鉱で事故が発生し、ただ一人の生き残りがエイモス(ボイド・ホルブルック)だった。当初彼は多くを語りたがらなかった。それは仲間内からのプレッシャーだった。事故が会社の落ち度だと分かれば、倒産に追い込まれ仕事を失うと言う恐怖を共有しているからだった。

 その事故で父親を亡くした高校生のオーウェン(ジェイコブ・ロフランド)は生意気盛り。町の少年たちとつるむために家のビールを持ち出したりする。しかし、この少年たちの親は鉱山会社の幹部で、炭鉱夫の家族を貧しい下層階級の白人に言う「トレーラー・ゴミ」と呼んで蔑んでいる。

 ビル・ドイル(ジョシュ・ルーカス)とダイアン・ドイル(エリザベス・バンクス)夫妻の息子JT(トラヴィス・トープ)にも影響を与えオーウェンにも必要以上に邪険に扱う。そんな折、炭鉱事故を指して「お前の親父は人殺しだ」とオーウェンがJTに言ったのがきっかけで喧嘩になり、逃げるオーウェン、追うJT。
 木陰に身を潜めたオーウェンが、追ってくるJTに石を投げつける。それをよけた弾みで足元の石に頭を打ち即死した。オーウェンは、死体を隠した。

 エイモスとオーウェン、大人と少年の出会いから、行方不明のJTに関する事実。エイモスの知る会社側の責任。映画は、エイモスの事情聴取を受けるシーン、オーウェンの自白によって行われるJTの捜索シーンで終わる。

 うらぶれた風景の中に纏わりつく出口のない生活。真実を明らかにすれば明るい出口があるのだろうか。裏切り者のエイモス。殺人者のオーウェン。彼らのこれからは、この町を出て行くしか出口がない気がする。暗くさびしいお話だった。

 この映画を監督したのは、サラ・コランジェロ。ニューヨーク大学大学院映画科で学び、この映画は2014年1月サンダンス映画祭でプレミア公開された。日本では劇場未公開。
  
  
  
  
監督
サラ・コランジェロ出自未詳

キャスト
エリザベス・バンクス1974年2月マサチューセッツ州ピッツフィールド生まれ。
ボイド・ホルブルック1981年9月ケンタッキー州生まれ。
ジェイコブ・ロフランド1996年7月アーカンソー州生まれ。
ジョシュ・ルーカス1971年6月アーカンソー州リトルロック生まれ。
トラヴィス・トープ出自未詳

海外テレビドラマ ミニ・シリーズ「衝突 Collision」

2018-12-19 17:42:04 | 海外テレビ・ドラマ

          
 イギリスの警察が舞台の5話からなるミニ・シリーズ・ドラマ。A12号線エセックス付近で起きた多重衝突事故が発生。8台の車が絡む事故で2人が死亡、1人が危篤、6人が怪我。警察が心配したのは、この事故の直前にスピード違反車を追跡していたパトカーが原因ではないかということ。追跡されていたのは、黒人のカップルが乗るBMWで、女性の父が人種差別だと息巻いている。

 イギリスはマイル表示の速度だが、高速道路の制限速度をキロでいうと時速112キロ、幹線道路で48キロ。イギリスは交通違反にはかなり厳しいらしい。だから監視カメラやネズミ捕りは日常的。

 この交通事故の調査を引き受けたのがジョン・トリン(ダグラス・ヘンシュオール)。暗に示唆されるのが、パトカーが原因であってもそこのところはうまくやれ。どこの国も同じで警察のメンツにかかわるらしい。

 ジョンは、この事故を取り仕切ったアン(ケイト・アシュフィールド)に事情を聞く。事故現場に行く車の中、何か表情が硬い。この二人、過去に何かあったようだ。

 フラッシュバックで死者や怪我人のそれぞれの人の過去も、それに事故原因の調査とともにジョンとアンの過去が浮かび上がる。人間の営みは千差万別、それに誰でも一つは悩みを抱えている。それを銃撃戦やカーチェイスの派手な場面のない静かで淡々としていて、イギリスの風景とともに印象に残るドラマだった。

 出演の俳優たちがびっくりする程のハンサムや美人でないのが親近感も湧いてくる。近しい人が語ってくれる物語のようだ。

 しかし、ふっと思ったのは黒人女性の父親が人種差別だという背景を考えてみるに、イギリス社会もアメリカと同様、差別があるのかもしれない。また、イギリスは階級制度が残る国といわれている。

 このドラマの中で会社社長も巻き込まれ怪我をする。A12号線沿いのダイナーに担ぎ込まれる。そこに働くジェーン(ルーシー・グリフィス)が救急隊員の求めに応じて社長の腕を支える。脱臼した腕がもとに戻る。それが出会いでデートを重ねる。ジェーンから見れば行ったこともない高級レストランでの食事。高価な腕時計のプレゼント。二人で海外旅行にという誘い。若いジェーンの夢は、フランスやイタリアの旅で願ってもない機会。

 ユーロスターの出発のロビーで待っていると、中年女性がつかつかとジェーンの前に座った。「あなたジェーン? 私は妻であの人の悪い癖の後始末をするの。あの人は、労働者階級の若い女性に目がない。真剣な交際はしないから諦めなさい」

 労働者階級だよ。日本では会話の中で労働者階級などという言葉は入らないが、イギリスでは厳然と存在する。黒人女性の父親の気持ちも分からないでもないかな。2009年制作 2018年アマゾン・プライムで放映
  
       
企画
アンソニー・ホロヴィッツ1955年4月イギリス、ロンドン生まれ。

キャスト
ダグラス・ヘンシュオール1965年11月イギリス、スコットランド、グラスゴー生まれ。
ケイト・アシュフィールド1972年5月イギリス生まれ。
ルーシー・グリフィス1986年10月イギリス生まれ。

裁判「あおり運転の判決、懲役18年」殺人罪で起訴しなかったのはなぜ? という意見もある。

2018-12-17 11:32:15 | 社会

  
 この結果を見て法律家というのは、法に酔う状態を楽しんでいるのではないか、と思わされる。それの顕著なのが、弁護士の言う「危険運転致死傷罪」の運転にはあたらないから無罪を主張した。つまり追い越し車線で止まって運転していないからだと言う。

 危険運転致死傷罪には、8項の適用条件がある。
①酩酊運転・薬物運転致死傷
②準酩酊運転・準薬物運転致死傷
③制御困難運転致死傷
④未熟運転致死傷
⑤妨害運転致死傷
⑥信号無視運転致死傷
⑦通行禁止道路運転致死傷
⑧病気運転致死傷になる。

 今回の裁判は⑤妨害運転致死傷になり、人または車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為とある。

 弁護士はこの「運転する行為」を誇大に主張し、停車は運転する行為でないという論拠だった。これこそ法に酔う状態と私には見える。 が、判決もこの点は同意見のようだ。ならば法改正しかない。

 この裁判は、裁判員裁判だった。裁判員制度の趣旨は、「市民が持つ日常感覚や常識といったものを裁判に反映する」という。そういう趣旨も理解しながら弁護士も法廷に赴くべきだろう。

 本当の庶民感覚の罪は、事件直後からネット上では死刑の論調が支配的だった。新聞記事、識者の意見(読売新聞だけだが)などで「未必の故意」に触れていないのが不思議に思っていたが、ダイアモンド・オンラインで触れた記事を見つけた。記事はこちらからどうぞ。

 未必の故意の概念は、この事例に当てはめてみると、石橋和歩被告が相手を殺す意図を持ったり、そう望んだわけではないが、結果的にそうなってもかまわないと思って行動するときの被告の心理状態。

 実際、一連の行動は、4回も妨害運転を繰り返しているのを見るとそう思われても仕方がないだろう。しかし、この心理状態を立証するのは、かなり難しいらしい。この大きな壁に、横浜地検はひるんだのかも知れない。

 いずれにしても事件の流れを眺めてみると、被害者の萩山友香さんにも対処の仕方に疑問を持つ。(死者に鞭打つつもりはないが)パーキングエリアでの被告の駐車の仕方に夫の嘉久さんが注意をした。まず注意の仕方、報道によるとキツイ言葉のようだった。

 それに被告の嫌がらせに、運転していた友香さんが追い越し車線に移っていたが、この付近は三車線もある。一番左の走行車線に移って難を避けることが出来なかったのかと思う。それでも嫌がらせが続いたなら、家族も同乗しているのでスマホで相手のナンバープレートを写真にとって、高速道路交通警察に連絡する手もあったと思う。萩山さんの正義感が仇になったとしかいいようがない。

 相手の車に迷惑をかけないという思いがあれば、こんな悲劇に遭わなくて済む。追い越し車線から走行車線に移る場合でも、相手の車が自分のバックミラーに入ってから移ると車間距離も保っていて迷惑にもならない。実はこういう入り方をする車は少なくなった気がする。

 安全運転とは、相手の車に迷惑にならないことと思っている。だからといってトロトロと走ってはいませんよ。車の流れには乗っています。

音楽「スターダスト」もうこういう曲を聴く人は少なくなったかな???

2018-12-14 16:24:32 | 音楽

  
 「Star Dust 星くず」夜空の輝き、きらめく星の数々にロマンを感じる人は多いだろう。まさにこの曲は、自由で甘美な抒情に満ちた作品で、インディアナ州ブルーミントン生まれの作曲家ホーギー・カーマイケルが1927年に発表、1929年にリトアニア生まれアメリカ育ちの作詞家ミッチェル・パリッシュによって歌詞がつけられた。現在ではスタンダード・ナンバーとして多くの歌手に歌われている。

 一番最初にレコーディングしたのは、ビング・クロスビー。もうすぐクリスマスだがこの人の「ホワイト・クリスマス」という曲が、一年に一度必ず電波に乗るのは往年のスター歌手では例を見ない。ちなみにこの曲は、1954年のミュージカル映画「ホワイト・クリスマス」の主題歌。

 スターダストは、ナット・キング・コール、フランク・シナトラ、最近ではロッド・スチュワート、マイケル・ブブレそれにジャズ・ミュージシャンの演奏など多彩。

 なお、日本人歌手も歌っている。ご存知ですか、ザ・ピーナッツ、それに美空ひばり。美空ひばりについて一言。当時、江利チエミ、雪村いづみ、美空ひばりの三人娘は、歌謡界で群を抜いていた。

 江利チエミと雪村いづみは洋楽派で、美空ひばりは演歌派だった。関西の母を見舞っての帰路、国道20号線新宿付近午前2時ごろNHKラジオ「深夜便」を聴いていた。この三人娘の洋楽が流れた。その時のアナウンサーの話では、アメリカ人が一番耳になじむのは、美空ひばりだと言っていた。耳から聞く発音がいかに重要かが分かる逸話だった。

 この曲を朝、聴くものではない。紫色に染まるたそがれ時、人工光の届かない高原や海辺で眺める夜空が纏わりつくような雰囲気の中が最高。もちろん、愛しい人とともに……。

 聴きながらいつも思うのは、時間を戻せればなあということ。それでは作曲家のホーギー・カーマイケル、甘い歌声のナット・キング・コール、20世紀のジャズ界で巨人の一人といわれるサックス奏者ジョン・コルトレーン、そして美空ひばりの「スターダスト」を聴いていただきましょう。星空を見ながらでなくても、ビールを飲みなが聴くのもいいかもしれない。曲の意訳を下記に。
  

  

  

  


紫色の夕暮れが迫る時
わたしの心は草原を静かに横切る
小さな星が高く昇るような空
それは私たちが離れ離れなのを思い出させる
愛はきのうの星くずとなり
過ぎ去りし音楽は消えることのない歌となる

孤独な夜
夢の中で歌のメロディを聴きながら過ごすのに驚く
何度かのキスが新しい愛を生み
再びあなたと一緒の夢想
しかし、それは過去のこと
今は歌の星くずが私の慰め

星降る夜、庭の壁の横で
あなたは私の腕の中にいる
素敵な声であなたは囁く
わたしの見た夢は心の中に残るだろう
愛の思い出の記憶として、星くずのメロディが……

海外テレビドラマ「ロー・アンド・オーダーLow & Order」

2018-12-11 16:11:47 | 海外テレビ・ドラマ

          
 1990年から2010年まで20年の長寿番組。エミー賞では11年連続ノミネートし、1995年には作品賞を受賞した。アマゾン・プライムではシーズン10からシーズン20までが観られる。

 で、いまシーズン20を観終わって23話が充実しているのがよかった。このドラマは、警察の捜査と検察の起訴という両側面を描いてあって、アメリカ社会の実態が窺い知ることが出来る。警察の捜査も派手な銃撃戦などはない。地味な聞き込みの積み重ねだ。ただ、本人が「殺しました」と言うだけで手錠をかけて逮捕となる。任意同行なんて考えてもいないようだ。

 話題のカルロス・ゴーン逮捕・尋問に世界の国から弁護士の立ち合いがないと非難されているが、このドラマでも刑事が容疑者を尋問中に弁護士が乗り込んできて容疑者を開放する場面がしばしば見られる。これは「ミランダ警告」の中に「あなたは弁護士の立ち合いを求める権利がある」というくだりがあるためだろう。

 確かに人権は重要だが、犯罪捜査も国民のためにあると考えれば、せめて48時間ぐらい警察に与えてもいいんじゃないかとも思える。

 検察の仕事も苦労が多そうだ。優秀な弁護士にかかると「合理的な疑い」をほのめかすだけで陪審員の無罪を勝ち取ることが出来る。地方検事は選挙で選ばれることもあって、案件によっては起訴をあきらめようと言うこともある。しかし、熱血漢の若手検事の猛反対も面白い。このドラマから見えるそれぞれの人間模様も物語の厚みを与えているようだ。

 刑事も人間だから、時には罠にはまることもある。第2話「甘い誘惑」と第3話「愛する国に忠誠を」がそれだ。

 「甘い誘惑」は、女性からタクシー運転手に襲われたという通報で赴いたルーポ刑事(ジェレミー・シスト)とバーナード刑事(アンソニー・アンダーソン)。被害者はアジア系のエマ・キムという美女。顔立ちは韓国系と思われるが、色白でふっくらとした唇が魅力的。

 ここで私ごとだが、現役の頃会社にこの女性に似た人がいたのを思い出した。当時は無関心だったが、今思い出してみるとなかなか美人だったんだという、頭のネジが外れたようなことを思ったりした。
 それはともかくキムの証言に「アジアの女性は肌がキレイで男を大切にする」と運転手に言われて警戒心が起きたという。こういうのを信じ込んでアジア女性好みが生まれた男尊女卑の男たちなのだろう。それがニューヨークなどの一般的な傾向かもしれない。

 その女性の甘言の渦に巻き込まれたのがループ刑事だった。彼女の部屋に行って一夜を過ごすと言うまさにあってはならないこと。しかし、ループ刑事を非難しても始まらない。

 男の私から言わせれば、女が周到に練って男を誘惑すれば100%成功することは確実。男は性的誘惑には本当に弱い生き物だ。だから子孫も残せるわけだが。

 女に弱い刑事たちだが、もう一つ弱いものがある。それはテロリストだ。捜査対象がテロがらみだとがぜん張り切るさきの二人の刑事。テロリストを逮捕したとなれば大手柄で昇進間違いなし。ボーナスも出るかもしれない。それが「愛する国に忠誠を」だ。

 「仮装誘拐」というのがある。手口は、映画館などで身なりのいい娘を見つけて、携帯電話を盗みその親に電話をして誘拐したと思わせ身代金を払わせるというもの。

 二人の刑事は、聞き込みからマークした男の部屋が見えるアパートで監視した。盗聴の結果、仮装誘拐の身代金が街角の屑かごにホットドッグの包み紙に入れて捨てられる。待ち構えているとサミール・ハシードという男が現れその袋を拾い上げた。当然二人の刑事に拘束される。

 ところが「待て、相棒がテロを企てている。協力するよ。彼らの動きを探る。おれが30分で戻らないと不審に思われる」口の達者なサミール。刑事たちはテロに俄然興味を示しサミールを泳がすことに……。

 ニセのC4爆弾まで用意させられた刑事たち。FBIを巻き込んで逮捕したテロリスト。しかし、逮捕現場から数百メートルも離れていないシナゴークから爆発音。燃え上がる炎を見ながら唇をかむ二人の刑事。

 本物の爆発には関与していないサミールだが、帰化するときの忠誠の誓いに違反しているため刑務所に入るか、国外追放を受け入れるか二者択一しかない。サミールは国外追放を選んで証言。テロリストを刑務所送りにした。

 検事補のコニー・ルピローサ(アラナ・デ・ラ・カーザ)は、次長検事マイケル・カッター(ライナス・ローチ)に「ゴーバック判決というのがある。市民権剥奪の権限を制限するものよ。通例じゃないけど」と言ってファイルを渡す。マイケルは、自室でファイルを開いて読み始める。ドラマはここで終わるが、多分サミールは大好きなアメリカで暮らすことが出来るだろう。

 エマ・キムを演じた俳優の名前を探したが、この一連のドラマに出演したゲスト俳優はおびただしい人数になる。とてもじゃないが探せない。映画やドラマの背景には何万という俳優が機会をうかがっているのだろう。

 普通はオーディションを受けるが、日本の場合はプロダクションに所属してその機会を得る。プロダクションに所属していないとその機会はない。

 アメリカの場合は、オーディション・サービスというのがあって個人でオーディション募集に応募できるシステムのようだ。自由の国アメリカらしいやり方だ。こちらの方がはるかにいいような気がする。このドラマのように1話だけの出演に全身全霊を打ち込んでいると思えば応援したくもなる。
  
  
  
  

企画
ディック・ウルフ1946年12月ニューヨーク州ニューヨーク生まれ。

キャスト
サム・ウォーターストン1940年11月マサチューセッツ州ケンブリッジ生まれ。
S・エバサ・マーカーソン1952年11月ミシガン州生まれ。
ジェレミー・シスト1974年10月カリフォルニア州生まれ。
ライナス・ローチ1964年2月イギリス、マンチェスター生まれ。
アラナ・デ・ラ・カーザ1976年6月オハイオ州コロンバス生まれ。
アンソニー・アンダーソン1970年8月カリフォルニア州ロサンジェルス生まれ。

読書 マイクル・コナリー著「証言拒否」アメリカの陪審員選任について学べる

2018-12-05 20:29:04 | 読書

          
 フォード・モーターの一部門であるザ・リンカーン・モーター・カンパニーの高級車ブランド「リンカーン」が事務所代わりの刑事弁護士マイケル・ハラーが、銀行上級幹部殺害事件の容疑者リサ・トランメルを弁護する。凄腕の女性検事アンドレア・フリーマンに互角の戦いを挑む。

 法廷に持ち込む前に検事は、司法取引を持ちかける。これはよくあることのようだ。そんな経緯を経ていよいよ陪審員選びの段階に入る。

 本編講談社文庫(上)のP347「陪審選定の手続きが始まる半時間ほど前に、廷吏がわたしに(マイケル・ハラー)最初の陪審員候補で構成されている80名のリストを寄越した。そのリストをわが調査員に渡すと、彼は廊下に出てノートパソコンを開き作業を開始した。

 インターネットは陪審員候補の背景調査にさまざまな方法を提供している。とくに、裁判が差し押さえのような金融取引に関わったものである場合は。陪審員候補に入っている全員が、基本的な質問に答える質問票に記入していた――あなたあるいはあなたの近親のなかの誰かが差し押さえに巻き込まれたことがありますか? あなたは車のローン不払いで取り上げられたことがありますか? あなたは今までに破産申請をしたことがありますか? これらは排除するための質問だった。これらの質問にイエスと答えた人間は誰であれ、判事あるいは検察官のどちらかによって排除された。

 イエスと答えた人物は、バイアスがかかっていて、証拠を正しく評価できないとみなされるのだ。だが、排除質問はとても一般的なもので、行間にはグレーゾーンがあった。そこに調査員の活躍する余地があった。

 判事が最初の12名の陪審員候補を座らせ、質問票に記入させるころにはわが調査員は80人中、17人の背景調査メモを携えて私のところに戻って来た。銀行や政府機関に対してひどい経験をし、ひょっとしたら恨みすら抱いている人物を私は探していた。

 この17名は破産や車の取り上げに関する質問票に真っ赤なウソをついた人間や銀行に対する民事訴訟の原告だった人物に至るまで様々な人間だった」

 こういう多種多様な人間の中から自分に都合のいい陪審員を選ぶのだから熟練した選択眼が必要だろう。検事・弁護士とも17人に対して質問しながら選んでいく。アメリカは陪審員選びからすでに法廷闘争が始っている。

 日本では裁判員制度で秋ごろ
①地方裁判所ごとに、管内の市町村の選挙管理委員会がくじで選んで作成した名簿に基づき翌年の裁判員候補者名簿を作成する。
②前年11月頃候補者に裁判員候補者名簿に登録した旨通知すると同時に、就職禁止事由や客観的な辞退事由に該当しているかなど尋ねる調査票も送付される。
③事件ごとに裁判員候補者の中からくじで裁判員候補者が選ばれる。
④くじで選ばれた裁判員候補者に別の質問票とともに選任手続き期日のお知らせを発送。
⑤選任手続きは、裁判長が不公平な裁判をする恐れの有無、辞退希望の有無・理由などについて質問をする。
⑥それらを経て6人の裁判員が選ばれる。日本の場合はお役所仕事という印象で、検事や弁護士の出る幕はない。

 アメリカの制度の中で気になったのは、「インターネットは陪審員候補の背景調査にさまざまな方法を提供している」というくだりだ。

 どこで生まれどこで育ち、どこの学校を出て、どこに就職したか、妻はいるか、子供は? また、交通違反は何回? 刑事事件に絡んだとか、前科があるのか。ひょっとしたら飲み屋のツケまで知られてしまいそうだ。どうしてこんなに個人情報がダダ漏れなのか。

 調べてみた。日本では2005年に「個人情報の保護に関する法律」略称個人情報保護法が全面施行され、個人情報には神経質だ。

 アメリカでは、「個人情報保護法」のような包括的な法律はない。アメリカのプライバシー保護は自主規制に委ねられている。個人情報を取り扱う企業は、自らが個人情報をどのように取り扱うのかをプライバシー・ポリシーなどとして公表する。プライバシー・ポリシーの内容は、基本的に各企業が自由に決めてよい。これが自主規制たるゆえんである。

 その内容に反する取り扱いをすると連邦取引委員会から不公正・欺瞞的行為として課徴金を課される。近年は個人の情報保護の方向に向かっているというが。

 もし、それが制定されれば、マイクル・コナリーは、どのように描くのだろう。こういう法廷ものは、映画やテレビドラマで観られるが、小説のいいところは証人に聞く内容の具体的説明があることだ。どうしてこういう質問をしたかが分かる。こういう小説を合わせて読み映画を観賞するとより分かりやすくなるというものだ。

 なお、本篇から事務所代わりの高級車リンカーンから会議室もある事務所を構えることになったマイケル・ハラー。ついでながらマイケル・ハラーの昼食は、ロサンジェルスのスタジオ・シティにある「ジェリーズ・フェイマス・デリ」のターキー&コールスロー・サンドイッチで美味だという。

 実在するところで、ネットであるサイトでは「午前3時45分、ハリウッドから30分ほど離れたスタジオ・シティのジェリーズ・フェイマス・デリにトム・クルーズは、コロンビア出身の美女ソフィア・ヴェルガナを伴って訪れた。二人は40分ほど店にいて「まるでデートのようだった」とのこと。夜遅くいけば、ハリウッド・スターに会えるかもね。