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ワルの世界を軽妙なタッチで描くエルモア・レナードの「スワッグ」

2005-05-30 13:14:23 | 読書
 レッド・パワーズ・シヴォレー社の愛想のいいセールスマン全員を紹介した広告に、フランク・J・ライアンものっていた。格好よく整えられた口ひげに、感じのいい微笑み、そして薄手のサマー・スーツを着ていた。

 デトロイト警察本部のファイルには、アーネスト・スティックリー・ジュニアが89037としてのっていた。

 二人が初めて顔を合わせたのは、スティックがレッド・パワーズ・シヴォレー社の中古車置き場から73年型のこげ茶色のカマ―ロで走り出そうとした晩だった。フランクには暖めているプランがあった。この自動車泥棒のスティックが使い物になると確信がもてれば実行に移すことになる。そのプランとは、酒店やバー、スーパーなどが標的の武装強盗である。

 二人は順調に仕事をこなし、かなりの金額を稼ぐ。住まいも入居者の半分近くが若い独身女性というアパートメントに移った。車も、衣類も新調した。これまでの記録は、武装強盗25回、そのために盗んだ車が25台というわけ。二人はますます意気軒昂で、このまま永遠に続くように思われた。そしてある日、フランクが特別なプランを明かす。ここから徐々に暗転していく。

 犯罪小説の巨匠といわれているレナードの本は、以前「野獣の街」を読んでワルの描き方が鮮やかなのが印象に強く残っていた。そして、図書館で目にとまったこの本は、期待に違わず大いに楽しんだ。軽妙な筆致でユーモアたっぷりに描き、プロットは最後の最後に意外な落とし穴を用意していた。
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映画 トム・クルーズ、ジェイミー・フォックス「コラテラル」

2005-05-26 21:59:08 | 映画
 たそがれ時から翌朝までの10時間に起こるクールなドラマで、ラヴ・シーンやセックス・シーンがない。いまどき珍しい。ほとんどロケーション撮影で、LAの町並みを楽しめる。音楽も画面にぴったりの情感が漂う。

 グレイ・ヘアとやや伸びすぎたあごひげが見え、グレイのスーツにダークグレイのネクタイのトム・クルーズの殺し屋ヴィンセント。乗務を引き継いでハンドル周りを拭くきれい好きのジェイミー・フォックスのタクシー・ドライバーマックス。

 殺し屋のヴィンセントは、麻薬組織の依頼で5人を消すことを請け負う。それに巻き込まれるマックス。LAの夜を背景に、二人の男の出会いから別れまで、緊張感とエンタテイメントをうまく交錯させながら、哀歓を漂わせている作品になったと思う。

 いくつか印象的な場面がある。
その1
 「黒人の女性検事アニーを送り届けて、車の中での会話は、男と女の心が通うさまが、まざまざと描かれる。アニー役のジェイダ・ピンケット=スミスは、首から上だけのショットなのにほのかな色気を感じさせて、やや興奮気味になる。私生活ではウィル・スミスが夫」

その2
 ジャズ・クラブで、トランペット・プレイヤーでオーナーの男(この男も標的の一人)がいう。「入ってきたのは、マイルス・デイビスだよ。この地球上で誰よりもクールな男だ。コロンビア・スタジオで録音の仕事を済ませて店に入ってきた。次の瞬間ステージでジャム・セッションを始めたよ。鳥肌が立った。彼の集中力ときたら、その上近づき難かった。気安く話しかける相手じゃない。くつろいでるように見えてもね。ある晩若いカップルが近づいて握手を求めた“ハーイ、僕の名は…”マイルスは言った。“そのブス女と、とっとと消えろ”それがマイルスって男だ。彼の頭に中はいつも音楽で一杯だった」どうやらこのエピソードは実話のようだ。このシーンは皮肉を利かせてあるように思う。白人のヴィンセントがジャズに陶酔している半面、黒人のマックスはジャズのことはよく分からないという。

その3
 マックスは、ヴィンセントが持っているブリーフケースを、フリーウェイに放り投げ粉々に砕ける。その中には標的の資料がノートパソコンに収録されていた。ヴィンセントは組織のボスに会って資料をもらわなくてはならない。その仕事をマックスに押し付ける。もともとヴィンセントの顔もボスは知らない。失敗すればマックスの命はない。ボスはうじうじと資料の紛失にけちをつけ始める。マックスも最初は殊勝に聞いていたが、開き直って啖呵を切る。これがなかなか堂に入っていてボスも折れて資料を出す。

 マックス“後ろにいる男に言うんだ.銃を下ろせと”
 “何だと”とボス。
 マックス“銃を下ろさなかったら、蹴り上げて殺してやる”
 “尾けられた”とマックスが言うと
 “FBI”とボス。
 “こっちが聞きたい、だから川に捨てた。貴重なリストをね。洒落たエルメスなんか着込んだお 前のケツを守るためにな。手違いはあるさ、適応するしかない。ダーウィンの法則だ。デブ、金 持ち、ジャズ・プレイヤー残りは二人”
 ボス“消せるのか”“この6年間、俺が失敗したか?”

 きれい好きで気弱なマックスが、生死を分けた局面で男の意地を見せたという思いで一杯になる。

 トム・クルーズは、「七月四日に生まれて」でアカデミー賞にノミネート。ジェイミー・フォックスは04年度の「レイ」で主演男優賞を受賞した。トム・クルーズは銃の扱いを3ヶ月も特訓したそうだ。銃撃の場面が鮮やかだったのもうなずける。また、敏捷な動きも年齢を感じさせない。ジェイミー・フォックスも役どころを掴んでいい味を出している。

 「allcinemaonline」というサイトがある。そこのユーザーコメントは、殆どの人に好評といったところ。お暇なときに覗いてみてはいかがでしょうか。
allcinemaonline
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ミステリー ドン・ウィンズロウ「歓喜の島」

2005-05-23 20:29:05 | 読書
 ドン・ウィンズロウの作品は何冊か読んでいて、好きな作家の一人。この作品は、1958年のクリスマス・イヴから大晦日にかけてのニューヨークが舞台。1958年は米ソの冷戦真っ只中で、音楽、アート、演劇、政治、文学とニューヨーク文化の最盛期、その時代のニューヨークに憧れがあったと著者の言葉。

 元CIAの工作員が主人公でジャズ、セックス、殺人とミステリーには欠かせない要素で成り立っていて、巧みな描写とユーモアで読むほうは楽しい。ストーリーは驚くほどのこともなく、騙し騙されてというもの。それより、たくさんのホテルやレストラン、バー、クラブの名前が出てきて、実際に存在するのかあるいはかつて存在したのかという興味が湧く。

 それとニューヨーク生まれの著者が描く街の描写をガイドブックにしてもいいくらい。たとえば“ブロードウェイは街の北から南まで走っているけれども、ウォルター(元CIA工作員で調査員)がブロードウェイを思うとき、それは普通、タイムズ・スクエアのあたりだった。すなわち、劇場街、偉大なる白い通り(グレート・ホワイト・ウェイ)、まばゆい明かりのブロードウェイだ。

 ウォルターのような映画(ムービー)ファンにとって(‹ザ・セラー›の芸術家気取りの連中みたいに″フィルム″と呼ぶのを、彼は拒んだ)、ニューヨークは映画天国だ。プラザのはす向かいにある小ぎれいなパリス劇場では、『ザ・ホーシズ・マウス』にアレック・ギネスが挑戦しているし、ラジオシティ・ミュージック・ホールでは『メイム叔母さん』にロザリド・ラッセルが出ているし、小さいけれども有名なサットン劇場では―3番街から少しはずれた五十七丁目―レスリー・キャロン、ルイ・ジュールダン、モーリス・シュヴァリエ、ハーミオン・ジンゴールドが『恋の手ほどき』に出ていて、ウォルターはもうそれを五回観ている。

 ブロードウェイの封切館なら1ドルあれば入れるから、オデオン劇場で『媚薬』のジミー・スチュワートとキム・ノヴァックを見ることも、トランスラックス劇場で『ドクターズ・ジレンマ』のレスリー・キャロンとダーク・ボガードを見ることも、ヴィクトリア劇場でスーザン・ヘイワードが『私は死にたくない』と叫ぶのを見ることも、アスター劇場で『旅路』のバート・ランカスター、デボラ・カー、リタ・ヘイワース、デイヴィッド・ニーヴンを見ることも可能だ。ウォルターはひどいブロードウェイ病に罹っていた”実に懐かしい名前が出ている。

 このほかにもプラザ・ホテル、レインボー・ルームなどがでてくるが、いずれも実在している。この本をガイドブックにプラザ・ホテルに泊まり、ナイト・クラブやジャズ・クラブに足を向けるならば相当な金額を覚悟しなくてはならない気がする。ブラック・タイ着用のクラブもあるので言葉と度胸も持ち合わせが必要だろう。1958年は1ドルで映画を観られたが、いまはいくら払えばいいのだろうか。

 ISLE OF JOY by Don Winslow
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映画 「ビューティフル・マインド」(01年)

2005-05-20 16:07:35 | 映画
 「私は数(かず)を信じます。理を導く方程式や理論、一生をそれに捧げて、いま問うのは“理論とは何か”。“理”の定義は?答えを追って私は理学的また哲学的世界を旅し、幻覚にも迷い、戻りました。そして、ついに学んだのです。人生で一番重要なことを。謎に満ちた愛の方程式の中に“理”は存在するのです。今夜、私があるのは君のおかげだ。君がいて私がある。ありがとう」妻に感謝の言葉を述べるジョン・ナッシュ。

 1994年ノーベル経済学賞受賞スピーチである。感動的な場面だった。この映画は夫婦愛を描き、しかも映画に不可欠なエンタテイメント性もあって飽きないつくりになっている。

 実際のジョン・ナッシュは、30歳で統合失調症(精神分裂病)を発病、苦しみながら25年後回復する。その影に妻のアリシアがある。天才といわれ本人も自認していて、まるで前戯なしのセックスのように思いやりに欠けるところがあって、敵も多かったとか。映画ではバーで女性に横っ面を張り飛ばされるシーンがあった。

 監督のロン・ハワードによれば、この映画を見て街で独り言を言っている人がいたら、ナッシュと同じように幻覚を見ていて、その人にとっては現実そのものだと理解してくれればという。そんな人に出会ったら、話しかけてみようかと思っているが。

 2001年のアカデミー賞に主演男優賞ノミネートのラッセル・クロウ、同助演女優賞受賞のジェニファー・コネリー、監督賞ロン・ハワード、脚色賞アキヴァ・ゴールズマンが栄冠に輝いている。主演の二人のほか脇役にも演技力の確かな俳優を揃えたという。

 映画作りは、本当に大変な作業のようで、冒頭のプリンストン大学のシーンでは、相当な寒さの中、木にはコンピューター・グラフィックスで葉を茂らせ、俳優にはセリフを言うとき息が白く出ないようにという注文もつけられたと、解説で脚本のアキヴァ・ゴールズマンが言っていた。観客から見てなんでもないシーンほど俳優にとって難しいシーンだという。そういう点を見つめるのも映画の一つの見方かもしれない。

 ジョン・トラボルタは「演技とは人間性を表現するものであり、自分とはまるで関わりのない他人の人生の一部になることだ」ラッセル・クロウもジェニファー・コネリーも同様の意味合いのことを言っている。そして演技で証明して見せた。

 ここでラッセル・クロウの裏話を解説から引用しよう。ラッセル・クロウはジョン・ナッシュの声は聞いたが、映像は一切見なかったそうだ。映像を見るとナッシュの物まねになるのを恐れたからだという。自我が強く自信を感じさせるエピソードだ。
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ジャズ ビル・エヴァンスについて

2005-05-08 13:39:20 | 音楽
 日本版プレイ・ボーイ6月号は、「ビル・エヴァンス特集」である。ビル・エヴァンスのCDを買ったきっかけというのは、マイクル・コナリーの作品「シティ・オブ・ボーンズ」のなかにこんなくだりがある。

 “ジュリア・ブレイシャー(巡査)は、立ったままボッシュ(刑事)の家のリビングで、ステレオ横のラックに収納されたCDを眺めていた。「私もジャズが好き」キッチンにいたボッシュは「誰が好きなんだい?」と聞く。「うーん、最近はビル・エヴァンスね」ボッシュはうなずき、ラックへ近づくと《カインド・オブ・ブルー》を抜き出した。「ビルとマイルスだ」と言い、「コルトレーンやほかの何人かはさておくとして、最高の一枚だ”

 ビル・エヴァンス・トリオのニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴCDにも触れ、ディナーにうってつけという。ブレイシャーは、「ビル・エヴァンスは日本では神」だとも言う。

 ここ2年ほどカントリーからピアノ・ジャズに関心が移っていて早速手に入れたのは、エヴァンスの代表作といわれる「Waltz for Debby」と「Sunday at the Village Vanguard」だった。聴いていいなと思ったのは「Waltz for Debby」で、気分良くさせられる。エヴァンス特集によると、この二枚は1961年6月25日日曜日、同時に録音されたようだ。しかも聴衆はごくわずかで話し声やまばらな拍手が印象的だったそうだ。名作も最初はあまり注目されていなかったと見える。

 最初この「Sunday at the Village Vanguard」のモノクロのジャケットを見て、ビル・エヴァンスの度の強い眼鏡と節くれだった手がより神経質な印象で近寄りがたいと思った。ところがこの特集のエヴァンスは、何枚もの写真で貴公子然としたものから、口元にほんの少しの微笑を浮かべたもの、ベース奏者と打ち合わせのとき額をかくしぐさのものなど等身大で近しいものに感じさせてくれる。その上、「Waltz for Debby」は、1950年中ごろ姪のデビー二歳くらい頃の印象をもとに作曲されたものという。現在デビーは、二人のティーンエイジャーの53歳の母で、コネティカット州に住んでいる。このように曲の作られた背景や状況が分かってくるとより身近に感じられる。

 クリント・イーストウッドは、「出来ることなら、ビル・エヴァンスの伝記映画を作りたいね」と言っている。ぜひ、作ってもらいたい。

 ジャズ・クラブ「Village Vanguard」は、今もグリニッチ・ヴィレッジで、毎夜ライヴを提供して盛況のようだ。私は、ウォーキングや車の中、あるいは自宅でビル・エヴァンス・トリオを楽しむことにしよう。
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リーガル・サスペンス スコット・トゥローの「死刑判決」

2005-05-05 16:14:10 | 読書
 最後は涙で文字がかすむほどだった。引き込まれるような展開、個性的な人物造形、ユーモアと余情が横溢していて、ことのほか興奮を覚えた。

 大手法律事務所のパートナー、アーサー・レイヴン。33日後に死刑が決まっているロミー・ギャンドルフの10年に及ぶ訴訟の結果、この死刑囚の命を救える確かな論拠は一切残っていないことを裏付けるため、連邦控訴裁判所から押し付けられた案件を担当する。背が低く白髪も見えハンサムとは言いがたいアーサーは、調査を進めるうち死刑囚の無罪を信じるようになる。

 元判事ジュリアン・サリバン。収賄の罪で連邦女子刑務所に収監されていた。判事だった数年の間、死刑判決を下したのは二度だけ。そのうちの一件はアーサーが担当する案件だった。背が高くすらりとした美人で、ファッションも完璧なジュリア。アーサーが夢中になる。

 主席検事補ミュリエル・ウィン、小柄で黒髪、隙間のある歯、ずんぐりした鼻、排水溝さえもすり抜けられそうなほど細い身体。しかし、検事局でも冷徹なほど明晰な頭脳で名を馳せている。

 ラリー・スタークゼク刑事。ミュリエルと不倫の関係にある。女に目がなく尻を追いかけまわし、大人同士の関係といえば、相手は街からかき集める死体だけという有様。

 この四人が弁護側と検察側に分かれて、縦横に駆け引きを展開する。スコット・トゥローの文体は、ニヤニヤ笑いを誘うかと思えば、急流下りをしていて、突然穏やかな流れに漂うような情感が現れる。十分堪能した一冊だった。

 原題は、「Reversible Errors」by Scott Turow
 破棄事由となる誤り:再審理している上訴裁判所が、一審判決を無効にせざるを得ないほど重大な法的誤謬。第一審裁判所はその判決を破棄するか、審理をやり直すか、さもなければ判決を修正するよう指示される。
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早くも薫風の5月に!

2005-05-03 13:26:38 | 雑記
いつものようにウォーキングに出かける。

ゴールデン・ウィーク 誰が名づけたのだろうか。

桜の木も萌黄色の葉っぱで覆われ、まるで吹き付けたかのようだ。

つつじやチューリップの色彩が点景を添えている。

自分の居場所を探し求め続ける男の歌 ボブ・シーガーの「Against the Wind」が耳元を流れる。

ふと、フィトンチッドのさわやかな香りに立ち止まり、あえぐように息を吸い込む。

チョット寿命が延びた気がする。
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