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読書「殺し屋HIT MAN」ローレンス・ブロック著1998年二見書房刊

2022-10-29 15:46:17 | 読書

 ニューヨーク・マンハッタン、イースト・リバーに架かるクウィーンズボロ・ブリッジが見える1番街の快適なアパートメントに住み、こざっぱりした服を身に着け、洒落た店で食事を楽しんだりする。
 年に八回から十回仕事で街を離れるが、ニューヨーカーと自称し主に徒歩と電車と飛行機で移動、車はレンタカーを利用する。

 一時は、若いアンドリアを恋しく思ったこともあったが、「彼女はおれの前に突然現れて、おれの犬を散歩させて、そしてまた出て行った。しかも犬を連れて」と言うのは、人を殺すことを生業とするケラーという中年男なのだ。

 ケラーの窓口になるのはドットという女性。彼女の夫が依頼人の窓口。ケラーと彼女の夫との場面はほとんどないが、ドットとの軽妙な会話で十分満足する。

 さて、ケラーは千マイルを優に超す旅の途上にあった。会ったこともない男を殺すために、旧西部ワイオミング州マーティンゲイルという町に向かった。
 マーティンゲイルは、インターステート25号線キャスパーとシェリダンの中間にあるというが、ランドマクナリーのボロボロになった地図にはない。それでも構わない。小説家のことだから架空の町を創造することもある。

 ホテルのラウンジでは、浮気をテーマにしたカントリーが流れていた。バーバラ・マンドレルやハンク・ウィリアムズでハンク・ウィリアムズの「ユア・チーティニング・ハート」がかかったとき、「この曲、大好き」ブロンドの女が言った。背が高く豊満な体にスカートを穿き、玉飾りと刺繡を施したブラウスという格好だった。ジューンと名乗った。ケラーに幸運の女神が舞い降りた。

 ことが終わった後、(ここまでのいきさつは、ローレンス・ブロックの洒脱な文章に酔いしれる)シャワーを浴びたジューンが言ったのは「今夜はとても素敵な夜だった。もうすでにね、ディル(ケラーが名乗った名前)。でもこれで、もしあなたが私のクソ亭主を殺しにマーティンゲイルに来てくれたのなら、どんなにいいかって思ったの」

 ケラーは内心、いやはや、依頼人は彼女だったのかと。これからの展開も面白く読めるし、10の短編からなる本書を全く飽きることなく読了できた。

 「ケラー、馬に乗る」の一編にあるジューンとの会話で、ジューンが離婚も自由にできないと嘆き、タミー・ウィネットが「D-I-V-O-R-C-E」という曲を一文字ずつ歌っているのを紹介したりする。さらにカントリー・ミュージック・ファンには垂涎(大げさかな)の部類かもしれない「There stands the glass悩みを酒で」Geoge Strait「The last word in lonesome is me寂しがり屋の最後の言葉は私」Roger Miller「Third rate romance三文小説」Alan Jacksonなどが酒場の場面で出てくる。
 ちなみにタミー・ウィネットはもうこの世にはいない。1998年4月55歳で亡くなっている。「D-I-V-O-R-C-E」もヒットした模様。
ではタミー・ウィネットを聴いてください。
Our little boy is four years old and quite a little man
So we spell out the words we don't want him to understand
Like T-O-Y or maybe S-U-R-P-R-I-S-E
But the words we're hiding from him now
Tears the heart right out of me.

Our D-I-V-O-R-C-E becomes final today
Me and little J-O-E will be goin' away
I love you both and it will be pure H-E double L for me
Oh, I wish that we could stop this D-I-V-O-R-C-E.

Watch him smile, he thinks it Christmas
Or his fifth birthday
And he thinks C-U-S-T-O-D-Y spells fun or play
I spell out all the hurtin' words
And turn my head when I speak
'Cause I can't spell away this hurt
That's drippin' down my cheek.

Our D-I-V-O-R-C-E becomes final today
Me and little J-O-E will be goin' away
I love you both and it will be pure H-E double L for me
Oh, I wish that we could stop this D-I-V-O-R-C-E.

読書「終わりなき道REDEMPTION ROAD」ジョン・ハート著ハヤカワ・ミステリ2016年刊

2022-10-20 09:45:02 | 読書
 ノース・カロライナ州にある市街地の人口が10万人、郊外にはその倍の人口が暮らすある町の警察に所属する刑事エリザベス・ブラック。彼女は今、停職を命じられている。
 
 その理由は、犯人二人を18発の銃弾を浴びせて殺害したというもの。いくら法の執行官といえども、18発は正当防衛の域を出て私刑(リンチ)に類するものではないかと上層部は考えている。

 エリザベスにとっては、思い出したくもない事件だった。黒人のワル二人。廃墟の地下室、裕福な家庭の白人の娘チャニング。

 チャニング救出に向かったエリザべス。暗闇から出てきた男に羽交い締めされ、銃を持った手を壁に叩きつけられ、銃がコンクリートの上で二転三転して暗闇に消えた。床に転がされたチャニングの悲鳴が反響していた。

 力の強い男に頸動脈と頸静脈を同時に圧迫され、意識が遠のいていった。気がつくと、服をはぎ取られ口をきつく覆われた状態でマットレスに針金で縛りつけられていた。男は彼女をレイプし殺すつもりなのだろう。18発の銃弾でその危機を救ったのが少女のチャニングだった。エリザベスはチャニングの罪ならないように、撃ったのがエリザベスということで口裏を合わせた。

 この小説はこのような設定になっているが、私はむしろチャニングが犯人を撃ち殺したとした方がいい気がする。陪審員裁判なら、廃墟の地下室で手錠をかけられレイプされ散々もてあそばれた少女の怨念が18発の銃弾となれば無罪も可能だろう。

 ただ、殺されたのが黒人の若者二人、殺したのが白人の少女となればBLM(Black Lives Matter黒人の命も大切だ)という流れも無視できないのがアメリカ社会の現状。そういう政治的な配慮もなされると矯正施設送りになるかもしれない。そう考えると、この小説の弱点はこれかもしれないと思う。キリスト教会の祭壇下で19人の女性の遺体が発見され、その犯人がエリザベスの牧師の父だったというのも理解しがたいものだった。ジョン・ハートという作家は好きだが、この作品はいただけない。

 著者ジョン・ハートの略歴は、1965年、ノースカロライナ州、ダラムで、外科医の父とフランス語教師の母の間に生まれる。刑事弁護士、銀行家、株式仲買人、ヘリコプター整備士(見習い)など様々な職種を経て作家を志し、一時は挫折しかけたが1年間図書館にこもり、書き上げたのが「キングの死」だった。同作は2006年、エドガー賞 処女長編賞候補、マカヴィティ賞新人賞候補、バリー賞新人賞候補になるなど、高い評価を得た。

読書「石を放つとき」ローレンス・ブロック 2020年12月二見書房刊

2022-10-12 15:19:32 | 読書
 ローレンス・ブロックには、マット・スカダー・シリーズ、泥棒バーニー・シリーズ、快盗タナー・シリーズ、殺し屋ケラー・シリーズ、その他長編・短編がある。

 「石を放つとき」は、過去の短編を集めたもので、表題の「石を放つとき」が初出となり、異彩を放っている。本書は、元ニューヨーク市警刑事のマット・スカダーが主人公で、現役当時から法律を厳格に適用する超真面目人間ではなかった。黒い金でなければ、一般市民が差し出すお礼の金品程度は快く受け取る男なのだ。警察を辞めて私立探偵としているが、無許可の仕事を平気で営む。

 結婚生活も破綻しているが、現在の妻は元娼婦というからかなりの異端児だ。マンハッタンやブルックリンのバーやクラブ、レストラン、一般の食堂に至るまで、知り尽くしたニューヨークを詩情豊に描かれる。

 さて、中でも異質な「石を放つとき」に触れてみよう。マット・スカダーの妻エレインが元娼婦というが、電話の依頼に応じるコールガールが正しい職業だ。テレビドラマで見る街頭に立つ娼婦とは、一線を画する。

 日本では1999年改正風適法施行で、客の依頼で自宅やホテルに風俗嬢を派遣して性的サービスを行うデリバリー・ヘルスが届け出制で現存している。

 エレインには相談を受けている元娼婦の女の子がいる。名前はエレン。ハニーブロンドの髪を肩まで伸ばした、いかにも目の保養になりそうな体形の女性。

 そのエレンが私立探偵のマット・スカダーに助けを求める。エレンがコールガール業を廃業すると客の男に告げてから、その男が「俺専属になれ」とストーカーのようにつきまとうので、何とかして欲しいというものだった。

 本名も住所も電話番号も勤務先も分からない。男の写真もない。さてスカダーは一体どうするのか。警察には似顔絵かきを専門にする署員か、委託している専門家がいる。その中の一番腕のいい専門家に似顔絵を描いてもらった。エレンに言わせると、写真のようにそっくりと言う。

 これを手掛かりに一件落着と相成った。それまでエレインとエレンを交えた会話には、「ファック」「マスターベーション」「アナルセックス」「しゃぶる」という単語が頻繁に出てくるが低俗な雰囲気ではない。しかもマット・スカダー好みのエレンを交えた3Pで大満足の結末に驚くしかない。

 エレンが帰った後、エレインとスカダーの会話
エレイン「少しも後悔してないわ。彼女のことが本当に好きだもの」スカダー「私もだ」
エレイン「彼女とファックできない理由なんてどこにもない」
スカダー「実際のところ、きみは彼女が売春をしないよう手を貸しているだけなんだから」
エレイン「一日コツコツと。私たちがするべきことは、まさに彼女が書置きに書いたことよ。そのうち電話すること」
スカダー「なるほど。でも、彼女がきみと私のことをマミーとダディと呼びたいと言い出したらどうする?」
エレインは首を傾けた。「マミーとダディね。まったくね。でも、そんなこと誰にわかる?わたしたち、そう呼ばれることがむしろ好きになるかも」

 二人の年齢を推測するとマット・スカダー80歳近辺、エレイン60代。もう老境に入った二人には、エレンが自分たちのかわいい子供に思っているのかもしれない。

 ローレンス・ブロックの略歴をウィキペディアから、「ニューヨーク州バッファロー出身。1960年よりペーパーバック・ライターとして娯楽小説にて作家デビュー。作品はニューヨークを舞台にしたものが多く、主人公も探偵、空き巣、殺し屋など様々な設定がある。中でも、「マット・スカダー・シリーズ」と「泥棒バーニイ・シリーズ」で人気を集めた。

 『八百万の死にざま』、『死者との誓い』でシェイマス賞最優秀長篇賞。『倒錯の舞踏』でエドガー賞 長編賞を受賞。1994年には、MWA賞 グランドマスター(巨匠)賞を授与。また2002年には、PWA 生涯功労賞を授与されている。

「ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門」(原題はTelling Lies for Fun & Profitで、直訳すると「おもしろくて得をする嘘をつくこと」)は、エンターテインメント小説の書き方の解説書であるだけでなく、彼の小説論・作家論が書かれており、彼の作品をよりよく読み理解するためにも、大変参考になる。2007年公開の映画『マイ・ブルーベリー・ナイツ』では、同作品の監督ウォン・カーウァイと共に脚本を手掛けた。

もう一度観た映画「ラブ・アクチュアリーLove Actually」2003年制作

2022-10-06 17:09:07 | 映画
 映画の導入部でヒュー・グラントがナレーションで言う「世の中に嫌気がさしてきたらヒースロー空港の到着ゲートへ。人は言う“現代は憎しみと欲だけ“と、そうだろうか? ここには“愛“の光景がある。
 崇高な“愛“ではなくニュース性もない。ハグする父と子、母と子、夫と妻、恋人同士、懐かしい友人。“9月11日“の犠牲者があの時かけた電話も“憎しみや復讐でなく愛のメッセージだった。見回すと実際のところこの世には愛が満ち溢れている。(Love actually is all around)」

 このLove Actuallyは邦題にしにくいせいかそのままラブ・アクチュアリーとなっている。ネットでアメリカ人女性英語教師が解説しているが、actuallyは「実は」ということで、相手の勘違いを訂正したり、思っていることを訂正する会話でよく使うとのこと。
一例として
A: Do you want some wine? ワインいる?
B: No thanks. Actually, I don’t drink wine. いや大丈夫。実はワイン飲まないの、という具合。

 映画は、子供から老人まで19人の男女が織りなす愛の物語。出演者は、ヒュー・グラント、リーアム・ニーソン、コリン・ファース、ローラ・リニー、エマ・トンプソン、アラン・リックマン、キーラ・ナイトレイ、ビル・ナイ、マルティン・マッカチョン他というオール・スターキャスト。

 すべての恋物語を書くわけにいかないので、ヒュー・グラントとマルティン・マッカチョンのコメディを。英国首相を務めるのは、独身のデイヴィッド(ヒュー・グラント)、その秘書がナタリー(マルティン・マッカチョン)。常日頃お互いに気になる存在になっていた。そんな折、アメリカ大統領(ビリー・ボブ・ソーントーン)訪英で首脳会談。デイヴィッドが書類を持って執務室に戻ったとき、好色なアメリカ大統領がナタリーを口説いている場面に遭遇する。共同記者会見は、辛辣な言質でアメリカ大統領を批判して惨憺たる結果に終わる。

 ついでにナタリーの節操のなさにも腹を立て配置転換を断行。しかし、クリスマスイブはすべての人に穏やかでハッピーな気分をもたらす。ナタリーからのクリスマス・カードには愛が溢れていた。もうこうなったらナタリーの家に行くしかない。イギリスの下町という風情の棟割長屋が連なる一軒の家にやってきたデイヴィッド。ナタリーが家族揃ってクリスマスイブの集いで学校に出かけるところだった。

 一緒に行こうというデイヴィッド。有名人のデイヴィッドが、会場に入るわけにいかない。こそこそと舞台裏に迷い込み、ナタリーとキスしているとカーテンが開き、二人は白日の下にさらされ、苦笑いして手を振るしかなかった。

 この映画のサウンドトラック盤も発売され好評を博した。その中から1曲、ビートルズの「All you need is love愛こそすべて」を聴いていただきますが、欧米ではこの曲を教会での新婦の入場時に演奏されることが多いと言います。