カリフォルニア州中南部カーン郡に位置する、人口9番目の都市ベーカーズフィールドの保安官ジョー・ディーグ・ディーコン(デンゼル・ワシントン)は、周囲を灌木に囲まれ芝生のない土の地面に平屋の家屋と犬一匹と共に暮らしている。かつてロサンジェルス市警の敏腕刑事だったが、誤って女性を射殺したのが原因で左遷されているのだ。
強盗犯の起訴に必要な証拠を、ロサンゼルス保安局科学捜査課へ取りに行ってくれという依頼を受ける。そこの殺人課では、猟奇的な連続殺人事件が多発している件で忙殺されていた。ブリーフィングの会場では、ジム・バクスター刑事(ラミ・マレック)が記者会見をしていた。
バクスター刑事とはさっき会っている。駐車場が満杯のためパトカーの前に止めたディーコンの車を、レッカー移動しようとしていたのを「移動するな。ちょっと知らせてくれればいいじゃないか」と文句をつけた。
ジム・バクスター刑事は、大学出の刑事で髭をすっきりと剃り、白いワイシャツに紺のスーツそして黒い靴、まるで投資会社の課長クラスの雰囲気。一方ディーコンは、太った体にダブダブの制服と黒いキャップといういで立ち。ともに犯罪捜査には腕が立つディーコンとバクスターの二人。根っこの部分では共鳴するものがあるのかもしれない。
取調室で尋問したことのあるアルバート・スパルマ(ジャレッド・レト)を車の中で監視を続ける。毎日となると根をあげるのはバクスター刑事の方だ。「こんなことで人生を終えると思うとうんざりする」と言う。こういうのが刑事の仕事と割り切っているディーコンは、これが仕事だとなだめにかかる。ぶつくさ文句を言うバクスター刑事の家は、プール付きのそれなりのものなのだ。(それなのに文句を言うのかと思ったりする)
ディーコンが飲み物とか食べ物を買うために車を離れる。容疑者のスパルマがそれを見ていたかのように、車に座るバクスター刑事に声をかける。「遺体を埋めた場所に案内する」と。躊躇するバクスター刑事。スパルマは口が上手い「そうだよなあ。おれと一緒なら躊躇するよな。だが、大丈夫だよ。心配いらない。乗ってくれ」
バクスター刑事が乗り込んで車は発進した。すれ違いにディーコンが気づく。買ったものをほっぽり出して追跡にかかる。スパルマの運転する車が到着したのは、幹線道路からかなり離れた閉まっていたゲートをあけて砂埃をあげながらたどり着いた広いくぼ地だった。スパルマがシャベルを投げる。バクスター刑事に掘れと言う。さすがにバクスター刑事も、拳銃を抜いて「お前が掘れ」という姿勢。ここでまたスパルマの口先が勝る。
バクスター刑事が掘っていると「いや、そこじゃなくてこっちかな」とスパルマ。何カ所か掘ってまた同じセリフ。ついにバクスター刑事の忍耐が切れる。シャベルを振り回してスパルマの頭部を直撃、ぶっ倒れるスパルマ。スパルマは死んだ。頭を抱えて呆然とするバクスター刑事。
そこへ追ってきたディーコン。周辺をチェックして「こいつをここへ埋めろ。1時間ほどして帰ってくる」ディーコンはスパルマの車に乗って犯罪多発地域で、キーを群れる若者に放り投げてスパルマのアパートに向かう。スパルマの持ち物すべてを黒いごみ袋にいれ、自分の車に移す。
これは「ささいなことThe litlle things」なのだ。
ディーコンが女性を射殺したとき、遺体から銃弾を抜き取ったにもかかわらず、鑑識の「刺し傷が原因とする」という提案に関係者がうなずく。つまり警察関係は、いつもささいなこととして処理していると言うことだ。どこの国もこんなもんでしょう。私も交通違反をもみ消してもらった経験があるもの。
今回はネタバレも甚だしいが、「the litlle thins」に言及したかったからで悪しからず。私はこの映画、小品ながら後味がいいと思っている。デンゼル・ワシントンは当然ながらバクスター刑事役のラミ・マレックも雰囲気もいいし特異な風貌もよかった。さらに容疑者スパルマを演じたジャレッド・レトも憎々しい演技で、第78回ゴールデングローブ賞の助演男優賞や第27回全米映画俳優組合賞の助演男優賞にノミネートされた。
ラミ・マレックは、 1981年ロサンゼルス生まれのアラブ系の俳優。2018年公開の伝説のロックバンドクイーンを描いた伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』ではボーカルのフレディ・マーキュリー役で主演。2019年2月24日、第91回アカデミー賞で主演男優賞を受賞し、アラブ系の俳優としては初となるオスカー俳優となった。
ジャレッド・レト1971年生まれは、アメリカ合衆国ルイジアナ州ボージャーシティ出身の俳優、ミュージシャン。兄と組んだロックバンド「サーティー・セカンズ・トゥー・マーズ」のボーカルも務める。1990年代に俳優デビューし、2013年公開映画『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー賞など主要な映画賞で助演男優賞を獲得。
こんな演技派三人も揃え凡作になるはずがない。監督のジョン・リー・ハンコックは、クリントイーストウッドが監督した「真夜中のサバナ」の脚本も手掛け、映画製作を学んでいる筈。
なお、この映画はアマゾンプライムで鑑賞できる。