ヒトは70歳を過ぎるころから頻繁に死を意識し始める。身辺がそのようになってくる。親戚や友人の死、最もつらいのが伴侶の死でそれが一層死が身近に思えてくる。
このドラマで描かれる高齢者は一見恵まれているように見える。それは物質的に恵まれているのであって、精神的には金持ちもそうでない人も共通の悩みを抱えている。
元俳優で今は演技指導のスクールを運営するサンディ・コミンスキー(マイケル・ダグラス)74歳。彼にはスクールの雑事を受け持つ独身の娘ミインディ(サラ・ベイカー)がいる。
サンディの親友ノーマン・ニューランダー(アラン・アーキン)84歳は、エージェント会社を経営している。かつてノーマンには、サンディを俳優として成功させた実績がある。そういういきさつもあって、今では唯一の親友という関係なのだ。
ノーマンの直近の悩みは妻の死だ。葬儀にはバーブラ・ストライザンド(本人ではない。それらしき装いの男らしい)が歌う1974年「追憶The Way We Were」が悲しみを増幅させる。
想い出は私の心の隅を照らす
遠い日の記憶は淡い水彩画
笑顔で写っていた忘れかけた写真
お互いに微笑みあった
遠い日の想い出
その頃はとても純粋でいられたの
それとも そう思い込んでいただけかしら
チャンスがあったら もう一度やり直せるかしら?
ね。~どう…できるかしら?
想い出は…美しくそれでいて
辛い想い出は ただ忘れたいだけ
そう笑いながら 思い出すでしょう
いつでも思い出せるわ
私たちの遠い日の想い出を
遠い日の想い出を
これを聴きながらノーマンは涙ぐむ。慰めるサンディ。サンディも離婚して今は独身。二人とも悩みを持っている。サンディは、前立腺がんと肺がん。前立腺がんは、進行が遅いし薬物注射でPSA値が抑えられる。肺がんはちょっと厄介で行く末はシーズン3に委ねられる。
ノーマンには、奔放な娘と険悪な状態が続くが、やっと和解の目途が見え始める。そんな悩みを抱えながら、サンディが持つ1970年代頃だろうと思えるベンツ(ドアを開けるとき鍵穴にキーを差し込んでいる)にノーマンを乗せたり、ノーマンはトヨタのレクサスのハンドルを握る。信号待ちしていたミニバンにあわや追突、自動ブレーキが利いて事なきを得た。(これトヨタも制作費を出してPRかな)
「なんでこんなところに止まってるんだ!」とノーマン。「信号で止まっているんだよ」とサンディ。高齢者は往々にして自己中心になる。これが高齢者の欠点だろう。何かいい方法がないか。それがあるんだよね。
どういうわけか、昔の恋人や付き合っていた女性が現れるんだ。サンディには、リサ(ナンシー・トラヴィス)57歳、ノーマンにはマデリン(ジェーン・セイモア)67歳。いずれも17歳違い。17歳から20歳という年齢差が高齢男性にはいいかもしれない。悩みは尽きないが、興味の湧く女性が身近にいることの幸せはまた格別。このドラマ、シーズン2までだが、シーズン3もあるようなのだ。
年を重ねるごとに一つひとつ共鳴できる高齢者向きのドラマなのだ。高齢者向きと言っても爺むさくはない。ノーマンはいつもスーツにネクタイ、サンディはくだけた洗練されたスタイルで老いぼれてはいない。カッコいい高齢者と言える。
それに付け加えれば、演技スクールの生徒の魅力的な若い女性。サンディは、そんな若い人に囲まれている幸せ者だ。
それではノーマンが泣きたくなるほどいい曲「追憶」をバーブラ・ストライザンドでどうぞ!
企画
チャック・ロリー1952年10月ニューヨーク、ロングアイランド生まれ。
キャスト
マイケル・ダグラス1944年9月ニュージャージー州生まれ。1987年「ウォール街」でアカデミー賞主演男優賞受賞。
アラン・アーキン1934年3月ニューヨーク生まれ。2006年「リトル・ミス・サンシャイン」でアカデミー賞助演男優賞受賞。
サラ・ベイカー出自未詳
ナンシー・トラヴィス1961年9月ニューヨーク生まれ。
ジェーン・セイモア1951年2月イギリス、生まれ