解雇告知人とでも言うべき首切り屋として派遣されるライアン・ピンガム(ジョージ・クルーニ)のモットーは、バックパックに収まるほどの人生でいい。つまりアメリカン・ドリームのような家庭を築く意志も目的もない。空港は楽しい我が家とばかり1000万マイルを溜めるのが唯一の目標としている男だった。そして企業から依頼された解雇通告をクールにこなしていく。
そんなある夜、ホテルのバーでキャリア・ウーマンのアレックス・ゴーラン(ヴェラ・ファーミガ)と出会い、意気投合ベッドを共にする。腰にネクタイを巻いたヴェラのお尻をちょっとだけ見られる。
このDVDには、監督の解説による特典映像があるが、それによると、初対面の男女がいきなりベッドインと言うのも不自然だし、そこまでに行く流れを二人の俳優に課したという。だからセリフはアドリブだったという。
ジョージが言う。「腕をぐるぐる巻きにしてトイレへ。彼女は手伝うと言うことで一緒にトイレに入る。そしてセックス。あれは大変だぞ。経験ある?」
ヴェラ「あるわ」
ジョージ「本当?」
ヴェラ「ええ」
ジョージ「経験が?」
ヴェラ「あるわ」
ジョージ「大西洋線で?」
ヴェラ「いいえ、国内線だけど」
ジョージ「夜の便?」
ヴェラ「昼間よ」
ジョージ「何? どうやって?」
ヴェラ「体が柔らかいの」
これで下地が出来たようで、二人は部屋に入った。
ライアンは帰社命令を受けて出社すると、そこには大学を出たばかりのナタリー・キーナー(アナ・ケンドリック)がいて、解雇告知を出張と言う経費のかかる方法から、インターネットを経由した方法に変えるという。異論を唱えるライアンに、妥協案としてナタリーの教育のため同行して現場を見せろと社長命令が告げられる。如実に現われるのは世代間の違い。
例えば、夫に求める条件、携帯のメールでボーイフレンドから別れの宣告をされて泣き崩れたナタリーは言う。「予定では23歳までに結婚して、子供も生んでキャリアも積み、夜は遊んで車はチェロキー。彼はポイントも高かった」そのポイントと言うのは「ホワイトカラー、大学卒、犬と映画好き、背が高くて優しい目、仕事は金融、週末はアウトドア派」なんだか私と共通するのは、アウトドア派しかない気がする。
それに引き換えアレックスは「34歳にもなると容姿は気にしない。背は自分より高いといいけど、ダメ男じゃなくて一緒にいて楽しい人。若いころと違う。あと子供好きで、子供を欲しがる人。子供と遊ぶ体力がある人。収入も私より多くないと、あなたもいずれ分かるわ。逆だと悲惨よ。髪もあるほうがいい。でも大問題じゃないわ。あとは優しい笑顔。優しい笑顔さえあれば……」なんだかどこの国も同じような望みや悩みが見えて面白い。映画のこの場面、ジョージ・クルーニー、ヴェラ・ファーミガ、アナ・ケンドリック三人のショットで見ごたえ充分だった。可憐さを見せるアン、成熟した女の色香を漂わせるヴェラ。横で頷いているジョージの自然な表情も画面を引き締めていた。
ライアンは妹の結婚式にアレックスを連れて行ったのはいいが、なにやら里心がついて、会社でのスピーチを途中で逃げだしてアレックスの住まいを訪ねる。そこで見たものは、子供が駆け回り夫と思しき声も聞こえる。のちにアレックスが言う。「日常の息抜きよ」
ライアンは再び明かりに包まれた夕餉の部屋から、ひときわ輝く航空機のライトの中に戻ることになる。いい脚本に恵まれた映画だと思う。恋をしている人にとっては、恋人にキスをしたくなるし、恋に破れた人は……さてどんな反応なのだろう? 女優二人、ヴェラ・ファーミガはものすごい美人でもないが、年相応のお色気もありいいお尻をしていた。一方若手のアナ・ケンドリックは、フレッシュでキュート。
そういえば、面白い会話があった。
スチュワーデス「ガンはいかが」Do you want the cancer?
ジョージ「なに?」The what?
スチュワーデス「ガンはいかが?」Do you want the cancer?
ジョージ「ガン?」The cancer?
スチュワーデスは、350mlの缶を見せながら「カンです」The can, sir?
監督ジェイソン・ライトマン 1977年10月カナダ・モントリオール生まれ。‘06「サンキュー・スモーキング」インデペンデント・スピリット賞の脚本賞受賞で注目される。この作品でも脚本を書いている。
キャスト ジョージ・クルーニー 1961年5月ケンタッキー州レキシントン生まれ。‘05「グッドナイト&グッドラック」「シリアナ」で監督賞、脚本賞、助演男優賞3部門にノミネート、助演男優賞を受賞。
ヴェラ・ファーミガ 1973年8月ニュージャージ州バサイク生まれ。本作でアカデミー賞助演女優賞にノミネート。
アナ・ケンドリック 1985年8月メイン州ポートランド生まれ。本作でアカデミー賞助演女優賞にノミネート。