Wind Socks

気軽に発信します。

リンカーン大統領暗殺の共謀者として起訴されたメアリー・サラットを弁護した男の物語「声をかくす人」

2014-01-31 16:28:17 | 映画

                 
 原題は、conspirator共謀者でどうして「声をかくす人」となるのかよく分からない。1865年4月14日金曜日午後10時頃に起きたリンカーン大統領暗殺事件の共謀者として軍事裁判にかけられたメアリー・サラットは、アメリカ史上最初の死刑を執行された女性となった。

 首謀者は、ジョン・ウィルクス・ブースで同志にサミュエル・アーノルド、ジョージ・アツェロット、デイヴィッド・ヘロルド、マイケル・オロフレン、ルイス・パウエル、ジョン・サラットらだった。

 同志が集まった頃ジョン・サラットの母、メアリー・サラットはメリーランド州サラッツヴィルにあった下宿屋を引き払ってワシントンに居を移していた。ワシントンのサラットの家をブースが足しげく訪れたことから、メアリー・サラットがブースのアジトを提供するためにワシントンに移ったと見られ一味の逮捕と共に共謀者の疑いをかけられる。

 ロバート・レッドフォードは、地味な映像ながら史実を忠実に再現させ、歴史の暗部を正しく認識するための姿勢を見せる。ロビン・ライト演じるメアリー・サラットを弁護するフレデリック・エイキン(ジェームズ・マカヴォイ)を通じて当時の現実を描写する。

 民間人でありながら軍事法廷で裁き、しかも南北戦争終焉直後の北軍と南部連合の感情の対立が解けない時期とも重なり、メアリーが無罪と信じたエイキンが提出した人身保護法の申請も無視され、リンカーンの後任のアンドリュー・ジョンソン大統領命によりサラット、パウエル、へロルド、アツェロットの絞首刑が執行された。

 憎しみの感情が支配する軍事法廷で公正な裁判は望むべくもない。後世の人間から見ると正義のない後味の悪さが残るだけだった。メアリーはその犠牲者となった。

 ちなみに1865年の日本は、江戸時代末期、慶応元年にあたり西郷隆盛が39歳で結婚したり、坂本竜馬が生きていた時代になる。劇場公開2012年10月
             
             
             
監督
ロバート・レッドフォード1936年8月カリフォルニア州サンタモニカ生まれ。’80「普通の人々」でアカデミー監督賞を受賞。

キャスト
ジェームズ・マカヴォイ1979年4月イギリス、スコットランド、グラスゴー生まれ。
ロビン・ライト1966年4月テキサス州ダラス生まれ。
ケヴィン・クライン1947年10月ミズリー州セントルイス生まれ。
エヴァン・レイチェル・ウッド1987年9月ノースカロライナ州生まれ。

犯罪者を抱える家族や恋人に、冷徹な第三者の目でみつめる「愛について、ある土曜日の面会室’09」

2014-01-29 16:04:04 | 映画

                 
 若き女性監督レア・フェネールの処女作で評価の高い作品。それぞれの人生で犯罪者を抱える家族や恋人たちの愛の形に冷徹ともいえる視線が注がれる。

 冒頭、D5棟の面会者に子供を連れた女が叫ぶ。「お願いです。助けてください」朝、夫が連れ去られどこの刑務所にいるのかわからないという。面会者たちは無言で入り口に向かう。どんよりとした曇り空に寒風が木の枝を波打たせている風景が残る。多分、これがこの映画のテーマなのだろう。身内や知り合いの誰かが犯罪者となったとき、戸惑い混乱してどうしていいか分からなくなる。そして、誰かに助けを求めたくなる。

 三者三様の物語がこの面会室に持ち込まれ、それは決して交錯しない。ゾラ(ファリダ・ラウアジ)は殺された息子を空港で受け取った。犯人はゲイ関係だった不動産業を営むセリーヌ(テルフィーヌ・シュイヨー)の弟だった。ゾラはセリーヌに近づき、その弟との面会を実現させたいと思っていた。

 ステファン(レダ・カテブ)と同棲の恋人エルザ(ディナーラ・ドルカーロフ)とは金銭のことでしょっちゅう口喧嘩が絶えない。そんなある日、エルザが地下鉄の出口でいきなり四人の男に襲われた。その窮地を救ったのが、ピエール(マルク・バルベ)だった。ところが意外な提案をステファンに提供した。ピエールの友人が服役中でその男とステファンが瓜二つ。刑務所の面会室で入れ替わってくれれば1年後には弁護士が出してくれる。そのために大金を用意してある。

 サッカーの練習の帰りのバスの中で16歳のロール(ポーリン・エチェンヌ)は、アレクサンドル(ヴァンサン・ロティエ)と出会った。
 ところが警官に暴行を働いたとして逮捕、刑務所に収監される。16歳のロールが彼に面会するには肉親の同道が求められていて単独では無理。ひどい雷雨の雨宿りに献血車のテントのひさしの下に立っていると医師のアントワン(ジュリアン・リュカ)の「中に入れば?」の言葉とともにやがてアレクサンドルとの面会に同道を求めていた。

 ゾラは、息子を殺した相手と話し合ったが時間切れでもっと聞きたいことが中途半端に終わる。

 ステファンは首尾よく入れ替わった。

 ロールは、妊娠していることやアレクサンドルの俺の女だという不遜な態度や嫉妬心に嫌気が差し「もう会いたくない」と面会はアントワンに任せる。アレクサンドルは「一時的だ。いずれ面会に来る」と相変わらずの態度。

 面会時間が終わり、ぞろぞろと出てくる面会者。みんな大きな手提げの袋をぶら下げて西日が顔にあたっている。

 ゾラは、無表情にバス停に急ぐ。

 ステファンの入れ替わりに出てきた男は、レンジローバーの横に立つピエールを見て満面の笑顔。

 ロールは、感謝のキスをアントワンに。

 この人たちのこれからの人生はどのようなものになるのか。それは誰にも分からない。もし、フランスの刑務所が映画の通りだったら身代わりも可能だろう。囚人専用のジャンプスーツもない。いつもの街着を着ている。手錠も足かせもない。ちょっと信じられない。

 それはさておき身代わりに刑務所に入ったステファンは一年で出てこられるのか。それも分からない。少なくともエルザの愛を失うことはないだろう。

 このステファンを演じたレダ・カテブは、囚人と身代わりになる男の二役を演じるが、それぞれの立場を表情にうまく表していたように思う。アメリカ映画にも端役として出ている作品もある。いずれにしても考えさせられるラストシーンで何の変哲もないのが印象に残る。フランス映画、劇場公開2012年12月
            
            
            
監督
レア・フェネール1981年10月フランス、トゥールーズ生まれ。製作当時若干28歳。

キャスト
ファリダ・ラウアジ出自不明ながら、1986年からの芸暦。
レダ・カテブ 
デルフィーヌ・シュイヨー 
ディナーラ・ドルカーロフ1976年1月ロシア、サンクトペテルブルグ生まれ。
マルク・バルベ1961年5月フランス、ローレイン生まれ。
ポーリン・エチェンヌ1989年6月ベルギー・ブリュッセル生まれ。
ヴァンサン・ロティエ1986年7月フランス生まれ。
ジュリアン・リュカ

湿っぽい涙でなく、感動の涙が流れる映画「アンコールSong for MARION ”12」

2014-01-24 22:03:06 | 映画

                 
“もう終わりだと思っているのね。
でも本当は始まったばかり
あなたの人生はここから広がる
ほら、目の前に
人生は曲がり道がいっぱいの物語
大切なのはそこから学ぶこと
私たちはみんな未完成の歌
最高のときは、まだこれから”
この映画のテーマ曲「Unfinished Songs」をセリーヌ・ディオンが歌う。

 人は失意のドン底で何かを学ぶのだろう。日本語の人という字。人は支えあって生きている。家族でも他人でも区別はない。それをロックンロールのリズムに乗って、頑固親父が「Goodnight Angel」を歌うまでになった。

 頑固親父を演じて面白いテレンス・スタンプ(アーサー)。ガンの再発で他界するヴァネッサ・レッドグレーヴ(マリオン)。高齢者の合唱団「年金ズ」で生き生きとしていたマリオンのいない生活に戸惑うアーサー。家族を描いて湿っぽくならないところは好感が持てる。

 オープニングでいきなりチャーリー・リッチの「The Most Beautiful Girl」が流れて気分的に嬉しくなる。
世界一美しい女の子に会わなかったかい?
もし、会ったなら彼女は泣いていたかい?
もしも僕から去った女の子に会ったなら伝えておくれ“悪かった”
“僕には君が必要なんだ”
彼女に伝えておくれ“愛している”と

 「年金ズ」は「セックスの話をしよう」という過激な曲でやんやの喝采を浴び、ヴァネッサ・レッドフレーヴの「True Colours」でしんみり。最後のテレンス・スタンプの「Goodnight Angel」でしめる。

 全体にイギリスの庶民の生活が垣間見える。マリオンがガン再発で入院したときは、日本でいう大部屋で薄いカーテンで仕切られてあり、日本の病院と全く同じだった。変なところで再発見した気分になった。久しぶりに涙腺がゆるんだ。イギリス映画、劇場公開2013年6月
            
            
            
 さて、チャーリー・リッチの「The Most Beautiful Girl」とセリーヌ・ディオンの「Unfinished Songs」をどうぞ!
Charlie Rich - The Most Beautiful Girl In The world

Celine Dion - Unfinished Songs (Lyric Video) - HQ Full Studio Version 2013

監督
ポール・アンドリュー・ウィリアムズ1973年イギリス、ポーツマス生まれ。

キャスト
テレンス・スタンプ1938年7月ロンドン生まれ。50年以上のキャリアがある。
ヴァネッサ・レッドグレーヴ1937年1月ロンドン生まれ。’77「ジュリア」でアカデミー助演女優賞を受賞。
ジェマー・アータートン1986年2月イギリス、ケント州生まれ。
クリストファー・エクルストン1964年2月イギリス、マンチェスター・サルファード生まれ。

祖母、ママ、わたし。三世代が同じ男と寝ちゃったよ??? 「迷い婚~すべての迷える女性たちへ’05」

2014-01-21 17:35:08 | 映画

                
 その同じ男というのは、ボー・バローズ(ケヴィン・コスナー)のこと。サラ(ジェニファー・アニストン)は妹アニー(ミーナ・スヴァーリ)の結婚式に出席のため恋人ジェフ(マーク・ラファロ)ともどもニューヨークからカリフォルニアのパサディナの実家へ帰郷する。

 結婚式前夜のパーティでジェフから「6月25日結婚、翌年3月3日君が誕生。計算したことない? 8ヶ月と一週間で生まれてる」これについて色々と考えてみるサラ。

 祖母キャサリン(シャーリー・マクリーン)からも謎めいた「ママは結婚前に一ヶ月ほど旅をした」とも聞いた。調べていくうちにママの同級生だったボー・バローズに行き当たる。

 彼は成功していてサンフランシスコで講演会があるという。サラはニューヨーク行きからサンフランシスコへ変更。それがミイラ取りがミイラになる序章だった。この手の話は元の鞘に収まるもので、サラはジェフのアパートを訪ねる。

 8ヶ月と一週間という謎は、父親のアール(リチャード・ジェンキンス)の言葉で解決する。
サラ「聞いていい? ママと結婚する前…覚えてる? ママが数日失踪したのを」
アール「メキシコへ? ボーと?」
サラ「知ってたの? なぜ今まで一言も?」
アール「ママが選んだのは私だ」
サラ「戻った理由を聞いた?」
アール「愛ゆえだ。ボーとは冒険しか出来ない。人生は築くものだ。ママは謝り“すべて話す”と言ったが、必要ないさ。戻ったんだ。娘に話すことではないかも知れんが、ママが戻った夜お前を授かった。式前だがバレなかった」
サラ「パパ、でもどうして? 似てないわ。テニスは嫌いだし、私は車を飛ばすのにパパは安全運転」
アール「お前を乗せているときだけさ」
サラ「パパ!」
この映画の中で一番いいシーンだった。特にサラを演じたジェニファー・アニストンの微妙な感情の表現は見事だった。

 それにパサディナもニューヨークにも行ったことがないが、映像でその違いが分かるような気がした。カリフォルニアの青い空の下パサディナの明るい佇まい、1月のどんよりとしたニューヨークの雰囲気。どちらも魅力的ではある。劇場公開2006年5月
            
            
            
            
監督
ロブ・ライナー1947年3月ニューヨーク、ブロンクス生まれ。

キャスト
ジェニファー・アニストン1969年2月カリフォルニア州オークス生まれ。
ケヴィン・コスナー1955年1月カリフォルニア生まれ。
シャーリー・マクリーン1934年4月ヴァージニア州リッチモンド生まれ。
マーク・ラファロ1967年11月ウィスコンシン州チノーシャ生まれ。
リチャード・ジェンキンス1947年5月イリノイ州生まれ。
ミーナ・スヴァーリ1979年2月ロードアイランド州ニューポート生まれ。

一生に一度だけ恋愛小説を書きたいなら、こんな方法もあり恋人も手に出来る「あなたにも書ける恋愛小説 」

2014-01-19 18:07:06 | 映画

                 
 小説家のアレックス(ルーク・ウィルソン)は、書き出しの数文字がどうしても気に入らない。小説は最初の数ページが勝負といわれるから尚更だ。頭の中ではあれこれとイメージが湧いてくるが、文章にするのに苦労する。

 そこで思いついた。ドアがノックされた。訪ねてきたのは速記者の若いエマ(ケイト・ハドソン)。 汚いアパートに顔をしかめるが、アレックスの懇請にしぶしぶOKする。

 小説は1920年代。ルーク・ウィルソンがアダムとして、ケイト・ハドソンが四役もこなす。

 1920年代はお洒落な大人のファッションが隆盛を極めた時代で、 日本で言えば大正から昭和に入る頃になる。男は三つ揃いのスーツとハット、女性のファッションはシャネルの新しいデザインによって、スカート丈が短くなり、より活動的な服装になった。ボブヘアや、ウェーブの入ったショートヘア、メイクはアイシャドウを上下入れて、 極端に細い眉、唇は真っ赤。 へッドドレスと長いイヤリング、ブレスレット、ネックレスなど。 去年公開された「華麗なるギャツビー」を思い起こせばいい。

 若くて勇気のある女性は、1920年代のファッションのみを扱うところもあるから試してみてもいいかもしれない。ただし、それを着てどこへ行くのか苦労するだろうが。

 フランスの金持ちの家庭教師がアダム。そこの令嬢がポリーナ(ソフィー・マルソー)で、アンナ(ケイト・ハドソン)が絡み三角関係になる。結局、何も成就せずアダムは独りぼっちでおしまい。

 小説はそれでいいとして、若い男女が一ヶ月近くも一日の大半を一緒に過ごしているとなるようにしてなるのは確か。そう、深か~~~い仲になった。

 ところが現実の世界でもポリーナが現れてエマの逆鱗に触れる。「そんな軽い関係だと思っているのなら、もう終わりにする。付きまとわないで!」

 ラブストーリは、最後はハッピーエンドが決まりだからロブ・ライナーはどうするのかな。真面目で真剣な愛の告白しかないが、我々の生きている世界ではそんな生易しいものではない。

 こういう局面で恐ろしいのは女だ。一切聞く耳を持たないと思った方がいい。ケイト・ハドソンも悪くはないが、ソフィー・マルソーが後半現代風で出て来るが目のキレイな女優だった。ロブ・ライナーも出版社社長として出て来るが、横幅も広いかなりの大男だ。劇場公開2004年5月
            
            
            
監督
ロブ・ライナー1947年3月ニューヨーク、ブロンクス生まれ。’86「スタンド・バイ・ミー」’90「ミザリー」など。

キャスト
ケイト・ハドソン1979年4月ロサンジェルス生まれ。
ルーク・ウィルソン1971年9月テキサス州ダラス生まれ。
ソフィー・マルソー1966年11月フランス、パリ生まれ。

なんとも難解な精神世界を描写する「トゥ・ザ・ワンダーT0 the wonder ’12」2013年8月劇場公開

2014-01-17 16:34:24 | 映画

                 
 監督はテレンス・マリック、経歴を見るとハーバード大、オックスフォード大を卒業の後、マサチューセッツ工科大学で哲学の講師をしていたという。なるほどそれで哲学的なんだ。

 この映画を劇場で一回観ただけですべて理解できる人は、そうそう居るものでもないと思いたい。セリフが極端に少なく、部屋に調度類もないし風景も茫洋たる大平原が隣り合わせにある。それは素敵な音楽と映像美らしい。私には分からないが。

 「To the wonder」を翻訳させると「驚異に」と返事があった。で思ったのは、この映画はごく一部の人例えばハーバード大の哲学科の学生向けとして、教室で議論を戦わせるためのものなのかもと。とはいっても商業ベースに乗せて、劇場で公開しているから主張を理解して欲しいらしい。

 愛は気ままで移ろい壊れやすい。その驚異には、神も遠ざかると言うことか。ニール(ベン・アフレック)は、フランスで恋人のマリーナ(オルガ・キュリレンコ)と恋をした。その娘ともどもアメリカに帰る。しかし、マリーナの娘はフランスに帰りたいといい帰国する。愛はここまで。

 早々とニールは、地元の幼馴染のジェーン(レイチェル・マクアダムズ)と恋におちる。ジェーンは衝動的に通りすがりの浮気をする。車の中でニールに「許して!」と言うが、ニールはいきなり車を停めてジェーンを車外へ。車は走り去ったかに見えた。遠くにニールの車が停まっていた。そして家で愛を交わす二人。

 時々あらわれるクインターナ牧師(ハビエル・バルデム)の聖書の一節の朗読や説教。それが何を意味しているのか? 理解できない私がいる。

 もともと無神論者の私にとってはどうでもいいこと。確かに人間の心というのは不可解なものだ。私は男だから、いまだに女性の深層心理が分からないままである。映画を観ながらそんなことを考えていた。面白かった? 全然ダメ。分かる人が観れば面白いんだろうね。
           
           
           
監督
テレンス・マリック1943年11月イリノイ州生まれ。

キャスト
ベン・アフレック1972年8月カリフォルニア州バークレー生まれ。
オルガ・キュリレンコ1979年11月ウクライナ生まれ。
レイチェル・マクアダムス1978年11月カナダ、オンタリオ州生まれ。
ハビエル・バルデム1969年3月スペイン、カナリア諸島ラスパルマス生まれ。

心を閉ざしてしまった男が再生に賭けた代償は死だった「偽りの人生 ’12」

2014-01-15 16:45:31 | 映画

                 
 ヴィゴ・モーテンセンが双子の兄弟を演じる暗い犯罪ドラマ。一卵性双生児の兄ペドロは、出身地の島で養蜂業を営みながら幼友達の殺人を見て見ぬふりをする悪賢い男で、しょっちゅう咳をしていて肺がんに犯されていた。

 弟アグスティンは、小児科医として病院に勤務している。しかし、小児科医のくせに子供の騒がしい態度や声に苛立ちを見せる。

 妻クラウディア(ソレダ・ビジャミル)との間には子供がいない。ある夜、帰宅したクラウディアに「養子はほしくない。考えたが、僕は父親ってがらじゃない。どんな子も欲しくない」激昂するクラウディア。

 アグスティンは、自室に閉じこもる。そんな時、兄のペドロが訪ねてきて「肺がんだから、殺してくれ」という。そんなことは出来ないのはわかっている。が、ペドロが浴槽に浸かりながら咳と共に喀血するのを見て、とっさにペドロの頭を浴槽に沈めた。

 帰宅したクラウディアが見たのは、ぶら下がったアグスティンだった。ペドロに成りすましたアグスティンは、島に帰ってきた。何食わぬ顔でペドロの仕事を続けた。養蜂業を手伝っていたロサ(ソフィア・ガラ・カスティリオーネ)と恋におちるが、ペドロの業(ごう)を引きずるアグスティンには安穏はなかった。

 物語の背景は、水郷地帯なのだろうか。ボートで行き来している。寒い冷え冷えとして、どんよりとした冬景色のなか、初監督の女性アナ・ビターバーグはそれなりの余情を残した。アルゼンチン、スペイン、ドイツ映画。劇場公開2013年7月
             
             
             
             
監督
アナ・ビターバーグアルゼンチンの女性監督。出自不明。

キャスト
ヴィゴ・モーテンセン1958年10月ニューヨーク、マンハッタン生まれ。
ソレダ・ビジャミル1969年6月アルゼンチン生まれ。
ソフィア・ガラ・カスティリオーネ1987年1月アルゼンチン生まれ。

二世代にわたる運命の糸くずが織りなす哀歓「プレイス・ビヨンド・ザ・パイン’12」

2014-01-13 16:01:29 | 映画

                 
 人生はその人の出自によって決まるんじゃないかと思わせる。決してアメリカン・ドリームが誰にでもあるわけでもない。

 主役級の二人、ライアン・ゴズリングとブラッドリー・クーパーが共演することなく物語が進む。二人の接点は、ルーク(ライアン・ゴズリング)が銀行強盗を働き逃走。それを追うパトカーの警官エイヴリー(ブラッドリー・クーパー)が追跡。ルークはある住宅に立てこもるが、追ってきたエイヴリーに撃たれ窓から転落して即死するという場面だけ。

 前半はルークの背景が語られていて、後半はエイヴリーを語る。そのつなぎの場面が射殺シーンで、うまいつなぎ方だと思った。自然な流れの中にあるという点で評価できる。

 ルークは、全米各地をめぐる巡業団の一員で、鉄製の球形檻の中をバイク3台が二十日鼠のように走り回るアトラクションのスーパー・スターだった。
 ある夜、過去に一夜を共にしたロミーナ(エヴァ・メンデス)と再会。昼間の空き時間にロミーナの家を訪れて知ったのは、おばあちゃんが抱いている赤ん坊がルークの子供ということだった。人間誰しも自分の子供となれば育てたいと思うもの。ルークも自分のような人間にしたくないという思いもあった。それが出会ったロビン(ベン・メンデルソーン)にそそのかされ、銀行強盗の道に入った。

 ロースクール出身のエイヴリーは、脚に重傷を負いながら、犯人射殺で一躍ヒーローとなる。脚に問題を抱えるエイヴリーは内勤に回される。ここで悪徳警官の存在に気づく。

 悪賢く立ち回って検事補の職を得る。そして、デルカ(レイ・リオッタ)の風俗犯罪課の罪を暴く。テレビのナレーションは、「薬物や金銭に加え銃も盗んでいました」

 それから15年後、ルークの息子ジェイソン(ディン・デハーン)とエイヴリーの息子AJ(エモリー・コーエン)が高校で出会うことになる。現代の思春期の娘や息子たちは、並外れて奔放でAJの父親の家での乱交パーティの夜、ジェイソンはAJの父親が自分の父親を殺した警官だったことを知る。

 悪い父親とかよい父親とかは関係がない。父親を殺された息子は、復讐心に満たされる。血のつながりとはそういうものだろう。森の中でエイヴリーをひざまずかせるジェイソン。エイヴリーは涙ながらに「悪かった」と謝る。エイヴリーも心に傷を負っていたことを知ったジェイソンは、エイヴリーの財布の中身をポケットに入れた。その中にまだ幼児の自分と若い父親、若い母親が写った古ぼけた写真があった。エイヴリーの気持ちがさらに確信された。

 その写真を母親に送った。ジェイソンは、バスでバイクを譲るという男を訪ねた。「500ドル」だという男の「運転できるのか?」という言葉に無言で答え、ホンダのバイクはジェイソンによって田舎道を砂煙を残しながら彼方に消えた。ジェイソンも父親と同じ道を歩むのだろうか? 

 一方、エイヴリーは、司法長官選挙に勝利して息子のAJともども演壇で支持者の声援に応えていた。AJも父親のあとを継ぐのだろうか? 

 それぞれの出自がこうも違いを見せる現実。しかし、羨んでも仕方がない。一歩一歩堅実に歩んでいかなければならない。妙に心に残る映画だった。劇場公開2013年5月
            
            
            
監督
デレク・シアンフランス出自不明

キャスト
ライアン・ゴズリング1980年11月カナダ、オンタリオ州ロンドン生まれ。
ブラッドリー・クーパー1975年1月ペンシルベニア州フィラディルフィア生まれ。
エヴァ・メンデス1974年3月テキサス州ヒューストン生まれ。
ディン・デハーン1987年2月ペンシルベニア州生まれ。
エモリー・コーエン1990年3月ニューヨーク生まれ。
ベン・メンデルソーン1968年4月オーストラリア、メルボルン生まれ。
レイ・リオッタ1955年12月ニュージャージー州ニューアーク生まれ。

人は恋に生き、恋に死すのかもしれないと思わせる「昼下がり、ローマの恋 ’11」

2014-01-11 16:00:39 | 映画

                 
 若者の恋、中年の恋、熟年の恋という三つのエピソードが描かれる。

 若者の恋は、弁護士のロベルト(リッカルド・スカマルチョ)がゴルフ場買収の棘のように頑張るトスカーナの農家へ交渉のために出張する。目的は追っ払うこと。

 そこで出会った女優のようなミコル(ラウラ・キャッティ)と恋に落ちる。お互い恋人や夫のある身。不倫の恋は成就しない。きっぱりと別れを告げ恋人のもとへ戻るロベルト。

 弁護士としての報酬のために働いてきたが、この恋はかつての純粋な心も取り戻した。恋人を助手席に乗せてフォルクスワーゲンを農家へ向けた。そのセリフが素晴らしい。

「上司に掛け合いました。5万ユーロ出すと言ってる。僕の意見は契約があろうと誰にも追い出す権利はない。だから居座ってください。あなた次第です。5万ユーロもらうか、ここでがんばるか。伝えましたよ」
           
 中年の恋は、テレビ・キャスター、ファビオ(カルロ・ヴェルドーネ)が精神に欠陥を抱える美女エリアナ(ドナテッラ・フィノッキアーロ)と浮気をしたために妻や娘が去り、テレビ局からも中央アフリカへ飛ばされ怪しげなテロ集団に捕まって命乞いをすると言う笑えないお話。

 映画はコメディだから笑っていいんだけど……なにやらやたらに女の尻を追うなという教訓めいたもにも思える。
           
 さて、これが本命なんだろうか。熟年の恋。ロバート・デ・ニーロが心臓の移植手術を受けた大学教授エイドリアンを演じ、「イタリアの宝石」と言われるトップ・モデル出身のモニカ・ベルッチがその恋人役ビオラを演じる。

 実力と人気を兼ね備えたデ・ニーロの相手役となれば、まあお色気も充分魅力的な彼女を持ってくるしかないだろうなあ。観る方としては、うらやましい気分になるのも確かだ。二人は実年齢の設定だから、デ・ニーロ70歳、モニカ45歳。口説き文句も脚本家の腕のみせどころだろう。

「この年で愛の告白は難しい。もうないと思っていたが、君に出会ってしまった。地の果てに行くのなら、僕も行く。自転車で行くなら、僕も自転車に乗る。僕の新しいハートは、君を愛すると決めたんだ。毎朝、この顔を最初に見ることになってもいい?」とデ・ニーロのエイドリアン。

 ビオラの両腕がエイドリアンの首筋に巻きつけて熱い口づけ。BGMはピアノ曲だから、いい眺めだよ。さらに驚いたことに、子供も生まれるとはねえ。70歳の男で可能なのかなあ。イタリア映画2012年2月劇場公開
      
監督
ジョヴァンニ・ヴェロネージ1962年イタリア、トスカーナ生まれ。

キャスト
若者の恋
リッカルド・スカマルチョ1979年11月イタリア生まれ。
ラウラ・キアッティ1982年7月イタリア生まれ。

中年の恋
カルロ・ヴェルドーネ1950年11月ローマ生まれ。
ドナテッラ・フィノッキアーロ1910年11月イタリア生まれ。

熟年の恋
ロバート・デ・ニーロ1943年8月ニューヨーク生まれ。
モニカ・ベルッチ1968年9月イタリア生まれ。ハリウッドにも進出している。

東京のいやなところといいところ……ラジオ聴き書き

2014-01-10 16:25:49 | 時事

 今朝のTBSラジオでサラリーマンに聞いたとして「東京のいやなところ、いいところ」を放送していた。

 それによるといやなところで大方の人が言うには、人が多すぎるということだった。東京都区部の人口は、約900万人。その区部の昼間の人口が1100万人になる。

 東京都の人口、区部や市町村を含めると約1300万人だから昼間はその85%に相当する人たちに満たされることになる。やっぱり多いなあ。人が集まるのは悪いことではない。ただ、サラリーマンの通勤事情が劣悪なのが困ることではある。それ以外のいやなところは放送になかった。

 大阪と東京の比較があった。大阪出身の営業マンの話として、「大阪は実利的だし、東京は形式的権威主義的でもある」と言う。そういわれれば確かにそういう面もあるとうなずける。

 営業活動には上役を連れて行ってお得意先に対する演出を試みることがある。「上役まで連れてきたのだから、この条件で収めてくれ」と言う類だ。

 大阪では、「値段を安くしてくれるのなら、なにも上役が来なくていい。あんたで充分。上役は何の役にも立たん」と言うわけ。

 さて、異口同音に一致するのは、東京は食べ物が素晴らしいと言うことだった。東京に限らず日本の大都市ならどこでも食べることに不足はない。

 東京で言えば、世界中の食べ物が食べられる都市といえる。それに美味しい。世界を旅して東京に戻ってくると、ほっとするというのが最後の締めくくりの言葉だった。

 さて、明日からまた三連休。どこのレストランへ行きますか? 素敵な人と素敵な週末を……かなりの寒波がやってきそうだから、暖め合うのも一興かも。