1969年10月30日ノースカロライナ州バークリー・コーヴの湿地に点在する沼の一つで、町の人気者チェイスが遺体で発見される。この事件の背景に、一人の女性の過酷な運命が隠されている。保安官事務所が容疑者として捕えているのは、湿地に一人で住むキャサリン・クラーク、カイヤと呼ばれる(ディジー・エドガー=ジョーンズ)。
カイヤはもともと、父・母、姉二人、兄と住んでいた。絶えず暴力を振るう父親に嫌気がさして、母がいなくなる、そして姉二人も、兄も続く。父とカイヤの生活がしばらく続く、それも父親が去ってカイヤ一人残される。この設定が私にはどうしても理解できなくて、もやもやとした気持ちを持ちながらの鑑賞となった。
子供を見捨てる母親と父親。こんな環境で育った子供は、どんな人間になるのだろうか。この映画は一つの回答を示している。沼で採れるムール貝を買い取ってくれた黒人夫婦の存在が、生き延びる術(すべ)を与えた。そういう生い立ちを語るカイヤの弁護を務めるのは、引退したトム・ミルトン(デヴィッド・ストラザーン)。
成人したカイヤにもロマンスが訪れる。カイヤの兄の友人だったテイト・ウォーカー(テイラー・ジョン・スミス)との出会い。学校へ行っていないカイヤには、テイトからの読み書き、計算、読書の楽しさを教わり湿地の生物や植物の記録を始める。このころの二人は、恋人関係にあった。大学進学を決めたテイトは、必ず戻ってくると言ってカイアと別れを告げる。その時、書き留めた生物や植物の記録を出版社に送るといいと言って出版社のリストを書き残していた。
音信不通状態が続くテイトとの関係の隙間に忍び込んだのがチェイス(ハリス・ディキンソン)。この男、婚約者が有りながらカイヤを口説こうとしている。町で偶然チェイスと婚約者に出会って、その事情を知るカイア。カイアは距離をおこうとするが、それでも付きまとうチェイス。
遺体発見現場がやぐらの下ということで、落下したと推定された。鑑識による死亡推定時刻は、午前0時から2時の間。しかも赤い毛糸の糸くずが付着していた。遺族の話では、いつもしていた貝殻の素朴なネックレスがなくなっていたという。
赤い毛糸の帽子が、カイアの家から発見されている。素朴な貝殻のネックレスは、かつてカイアがチェイスにプレゼントしたものだった。その事情は保安官事務所は、把握していない。検察官の主張は、証拠の赤い帽子と事件当夜、町で出版社の編集長と仕事の打ち合わせをしていたというが、バスの時刻表からみてバスで湿地に帰り事件を起こして引き返せるので犯人はカイアであると言う。
形勢不利と見て取った弁護士のミルトンは、証言台にカイアを立たせようとするが、湿地の娘と嘲りの感情を持つ町民に前ではイヤだと明言。そこでミルトンは、最終弁論で「出された事実だけをもとに判断してほしい」と陪審員団に告げる。結果は無罪。
映画はこれで終わらないのである。大学を卒業して戻ってきたテイトと結婚し、沼の生物・植物の図鑑も順調に発刊され、穏やかな人生が過ぎていく。やがてカイアが死を迎える。老いたテイトがカイアの遺品を懐かしむ。その時出てきたのが素朴な貝殻のネックレスだった。
沼地でたった一人で生き抜いた女にとって、生きるとはどういうことかをよく知っている。この沼に生息するワニや毒蛇や鳥たちと同じように、災厄は逃げるのでなく叩き潰すことなのだ。冒頭に字幕が流れる。「沼は死を熟知している。死を悲劇にしないし罪にもしない」
この映画を見た多くの人々の評価が高い。ただ、専門家と言われる批評家の評価は低い。「カイア役のデイジー・エドガー=ジョーンズは持てる力の全てを捧げている。しかし、結局のところ、『ザリガニの鳴くところ』は原作小説を再構成して、雰囲気に不自然なところがないドラマを作り上げることができなかった」
この作品の製作に加わっているのが女優のリース・ウィザスプーンであり、劇中歌「Carolina」を歌っているのがテイラー・スウィフト。そして2023.4.16付けアメリカの最大スポーツ雑誌、スポーツ・イラストレイテッドから発表されたのは「人気ポップ歌手テイラー·スウィフトが次にデートしそうな男性のリストに大谷翔平が含まれました。テイラー·スウィフトの次の恋愛のオッズに関するプレスリリースを受け取りました。予想される名前に、Shohei Ohtaniも含まれています。現役MLBプレイヤーがこの様なものに含まれてからどのくらい経ちましたか、野球は再びクールになりましか?」という記事があった。
ジョークにしてもテイラー・スウィフトのお相手が大谷翔平とは? 15年のうちお相手を16人も変えた女性スウィフトとなれば、翔平は知らん顔だろうけど。それにしてもエンタメ業界にも波及するとは、大谷翔平は世界の恋人にもなったのだろうか。余談はさて置いてテイラー・スウィフトの「Carolina」を聴きましょう。
キャスト
カイヤ役のデイジー・エドガー=ジョーンズ。1998年生まれのイギリスの女優。2020年のアイルランドのテレビドラマ「ふつうの人々」で主演。英国アカデミー賞テレビ部門賞にノミネートされた。
引退した弁護士トム・ミルトン役を演じたデヴィッド・ストラザーン。1949年生まれのサンフランシスコ出身。2005年公開の「グッドナイト&グッドラック」でジャーナリスト役を演じヴェネツィア国際映画祭男優賞受賞とアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。