サスペンスと言いながら観ていてちょっとしんどい(しんどいは関西方言で、疲れてだるいの意)。題名も幻想だからちとややこしい。
大学で教鞭をとり作家のアメリカ人トム・リックス(イーサン・ホーク)はパリにやってきた。しかもストーカー法で愛娘クロエに接近を禁じられている。どうしてそうなったのかはまだ分からない。
元妻の警察への通報でトムはバスで姿を消す。バスで居眠りの結果、キャリーバックを盗まれ手元に小銭しか残っていない。パスポートを担保に今にも崩れそうな部屋を借りる。
ある書店で本を眺めていたとき、作家のトム・リックスだと店主に見破られ、作家たちの集まるパーティに招待される。そこで出会ったのがマーギット(クリスティン・スコット・トーマス)だった。
夫を亡くしたというマーギットの部屋に入ったとたんキスもなしで、いきなりジッパーを降ろし一物を握ってきた。トムは喘いだ。それを眺めるマーギットは、男をたぶらかす表情。興奮の高まりが8割がたに達した頃、彼女は離れて行った。しばらくしてベッドに誘う声がした。
トムの借りているアパートにカフェがあってそこの若いウェイトレス、アニア(ヨアンナ・クーリグ)は、トムに興味がありそうな風情。トムの書いた本のポーランド語訳を持ってきて楽しそうにしている。じっとアニアの目を見つめトムはキスをする。そして情交を結ぶ。
大柄な黒人の隣人とはトイレの使い方で揉めたりする。なにしろ排泄物をそのままにして知らん顔の男だ。水を流せばいいものを。その男がナイフで刺殺された。事情聴取を受けるトム。アリバイを聞かれて、マーギットと会っていたと証言する。
ところが警部は意外なことを言い始めた。「マーギット・カダルはすでに死亡している。1991年の自殺だ。H・デュプレという男がカダルの夫と娘をひき殺した。飲酒運転の信号無視。だが、書類の不備で放免された。カダル夫人は自ら報復した。警察が到着したときには、自分の胸にもナイフを……」
男を殺した真犯人が逮捕されトムは放免された。真犯人はアパートの経営者だった。廊下で行き交うとき経営者は「ナイフはそいつのものだ」とトムを指差した。
マーギットの部屋を訪ねた。応答がない。管理人はずっと空き部屋だという。マーギットの甘い囁き「永遠に一緒にいて!」アニアの寂しそうな目。トムは幻想のマーギットを選んだ。さて、マーギットと男を殺したのはトムだろうか? それを暗示している。
正常に見えてもどこかおかしい。それなら娘への接近禁止も納得させられる。そういえば映画の中で電車の運行する音と共に、絶えず耳鳴りのような音が聞こえてくる。この映画は高度な表現技術なんだろうか。私にはよく分からない。
アイルランド、ポーランド、イギリス合作のこの映画は、2011年トロント国際映画祭特別上映作品でもあり大方の評価を得ているようだ。しかし商業的には、特に日本では冒険かもしれない。配給元は未公開を選んだのだろう。
監督
バヴェル・バヴリコフスキー1957年ポーランド生まれ。
キャスト
イーサン・ホーク1970年11月テキサス州オースティン生まれ。
クリスティン・スコット・トーマス1960年5月イギリス生まれ。
ヨアンナ・クーリグ1982年6月ポーランド生まれ。