棺桶に閉じ込められて二時間我慢できますか? もちろん空気取り入れ口用のホースや過激な写真のあるポルノ雑誌、トランシーバーにウィスキーの差し入れつきだとしても…… ほとんどの人は、想像するだけで息苦しくなって、首を左右に振るだろう。
ところがイギリスでは、結婚式を間近に迎えた花婿の最後の独身時代を、ハメをはずして祝福する風習がある。それをスタッグナイトというそうだ。手錠をかけられて素っ裸で橋の欄干にくくり付けられたり女性の下着姿にされたりするらしい。 そして棺桶の餌食になったのは、間近に結婚式を控えた不動産会社経営のマイケル・ハリソンだった。ところが友人たち四人は、マイケルを埋めたあと交通事故で全員死亡してしまう。さて、誰がマイケルを掘り出すのか。ここで一段と息苦しさが増す。
マイケルからの連絡が途絶えた花嫁のアシュリー・ハーパーが警察に届ける。事情を聞いたロイ・グレイス警視もアシュリーのすばらしい肉体と美貌に一瞬息が出来なくなる。グレイス警視の妻が九年間行方不明で、女気がなかったということも影響していたのかもしれない。
次々と流れるように意外な展開をみせるストーリーは、通勤電車や出張時の一冊としてカバンに潜めるには格好の読み物だ。エンタテイメント性豊かで一気に読破できる。
一つ不満なのは、最後のツメで霊媒師に頼る点はいただけない。安直な気がする。読んで何も残らない点は覚悟すべきだろう。これの前に読んだロバート・ゴダードの「一瞬の光のなかで」でもそうだったが、イギリスの天候は、雨模様が多い。そのせいかどうか知らないが、やたらアメリカもの礼賛が見える。アメリカ映画、カントリー音楽、野球帽、アメリカの刑事ものテレビドラマ等々。
著者は、1949年イギリス・サセックス州ブライトン生まれ。アメリカで脚本家、映画プロデューサーの経験を持ち、その著書の多くは世界各国でベストセラーになっている。