ハリネズミは硬化した体毛に覆われ可愛いのに近寄りがたい印象を与えている。自分をハリネズミに喩えているルネ・ミッシェル。
自らを次のように語る。「私の名前はルネといいます。五十四歳です。かれこれ二十七年間、グルネル通り七番地の管理人をしています。ここは中庭と花壇を備えた高級住宅で、豪奢なアパルトマンが八戸、空き室はなくどれも桁外れの広さです。
私は未亡人で、背が低くて醜くぼってりしていて足にはタコがあり、朝の起き抜けの息がマンモスの如く猛烈に臭い時があります。学歴がなく常に貧しくて地味で凡庸な人間で、家族は猫だけです」
というルネではあるが、実は知性にあふれた女性。読書を好み哲学書ばかりでなくミステリーも愛読する。それに映画鑑賞。特に小津映画の信奉者。絵画にも詳しい。クラシック音楽も愛好している。金持ちの入居者に合わせてバカを装っているだけ。
六階の下院議員のジョセ家に12歳の少女パロマ・ジョセがいる。このパロマ、いわゆる引きこもりで、せっせと日記をつけて人生についていろんな角度から書いている。少し厭世的で自殺願望がある。しかし、頭脳は明晰でしかもキレイな少女。
この二人が五階の料理研究家の部屋を買った日本人のカクロウ・オズに影響され、今までの生き方をがらりと変えるというお話。
ルネとカクロウの関係がいい感じになってきたが、結末はハッピーエンドではなかった。どうしてだろうと思うが残念だった。
人物造形もいいし、ルネ、パロマ、カクロウの出会いも自然でいい。それに独特の比喩に魅了された。ところどころ難解な個所もあるが、楽しんで読み終えた。
「ソーセージに似た小さな胴体に四つの足を固定して、ほかの部分は動かさず飼い主のあとをトットッと小走りでついて回る。それでこそプードル」こんなのが一杯あるから楽しい。
著者は、1969年生まれで、大学で哲学を教えていたが、小説家に転じた。大の日本びいきのようで、現在夫婦で京都に住んでいるとか。