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読書「蜜と毒」瀬戸内晴美(寂聴)

2011-11-30 12:33:17 | 読書

              
 1922年5月生まれ89歳の瀬戸内寂聴、晴美時代の作品。男も女もいくら綺麗事を言ってもセックスから逃れることはできない。生き物であると同時に性欲は本能だからだ。

 この作品は男の視点と女の視点があるが、男の身勝手さが描出される部分が多い。それにセックスの描き方が控え目で卑猥な印象はない。しかし、性愛には蜜の部分と毒の部分が含まれている。特に浮気や不倫には。

 こういうくだりがある。「白い靴に包まれた足は小さく、足首は思い切って細くしぼったようにひきしまっていた。足の小さな、足首のしまった女は阪田の好みだった。そんな足の女はたいてい感度が強く、全身いたるところが、敏感に反応を示す」とある。そうなのかなあ? と思うが瀬戸内晴美は女だから間違いないのだろう。

 また、しおりという女性についてこう書いている。「はじめての時、そうしてくれたように、いつでもそのことの後で、しおりは身を起こし、望月を清めてくれた」奥ゆかしい表現ですね。

 しおりと望月のセックスの後、しおりはいつも望月の局部をきれいにした。ということだが、いまどきの女性にほとんど見られない行為だろう。それにしても、男も女の局部を清めてもよさそうに思うのだが? 

 阪田という男、妻に浮気がバレてセックスの相性がいい女に「一緒に住もうか?」と持ちかけたが、彼女は驚きと嫌悪の混じった表情で応えた。

 望月という男、血の巡りは遅いが女房にすれば意外に安心感が持てる真似子もいいし、セックスに抜群の相性をもつしおりも忘れられない。逢瀬が間遠になっていたのをしおりから旅行を持ちかけられ、真似子とのことを告白させられる。翌朝しおりがいなくなったのが分かる。そして彼女が自殺したのを知る。

 松崎という男、代々続く家業の京菓子製造販売会社の社長で美人の妻を持ちながら浮気がやめられない男だった。最後にはこの男死んでしまうが、そのくだりが見事なミステリーとなっている。

 どうやら男に手厳しいようでもある。男の浮気、女の不倫を比べると男の浮気が圧倒的に多いはずだ。どうしてだろう? 生物学的には、犬や猫と同じレベルなのだろうか。心憎いほど男の心理を分析していて、瀬戸内晴美の男の観察眼は、自身の体験のなせるものなのだろう。出家した後は、男断ちしたと聞く。私は到底女断ちは出来そうもない。

映画「ソリタリー・マンSolitary Man ’09」劇場公開2011年6月

2011-11-25 15:55:30 | 映画

                       
 6年前、健康診断の心電図の結果は、CTスキャンで詳しく調べる必要があると医師から言われたベン・カルメン(マイケル・ダグラス)は、命にかかわる病気が潜んでいると思い込み長くない余生を女との時間に費やすことにした。

 かつて凄腕の車のディーラー経営者として一世を風靡したこともあるベンも女遊びで妻とも離婚し、大手自動車会社の重役の娘が現在の恋人ジョーダン(メアリー=ルイーズ・パーカー)である。

 ジョーダンの娘アリソン(イモージェン・ブーツ)の大学面接に付き添ったベンは、常識はずれの大失敗を犯す。アリソンと寝てしまったのだ。それに、アリソンはジョーダンにそれをはっきりと告げる。ここからベンの転落が始まる。つまり、solitary man一人ぼっちの男だ。

 ベンの女好きの性格はともかく、もう生涯の先が見えた男の寂しさをマイケル・ダグラスは、堂々と演じている。60歳近い男の肉体は、筋肉に張りがなくぶよっとたるんでいるのが普通で、その自らの肉体をスクリーンにさらけ出している。その体で女を求める男の哀切をひしひしと感じる。これは老人映画だ。
 どなたかこういう失敗をしていませんか? 年をとっても恋は大いにすればいいけど、ゆめゆめ恋人の娘に手を出さないように!
           
           
           
           
           
           
           
           
 ジョニー・キャッシュの「Solitary man」がオープニングで流れる。ジョニー・キャッシュのは、なにかオールド・カントリーの匂いがしていて、現代風でポップなニール・ダイアモンドの「Solitary man」のほうが好きで、ここではニール・ダイアモンドをどうぞ!

監督
ブライアン・コッペルマン、デイヴィッド・レヴィーンと共同監督。’03「ニューオーリンズ・トライアル」’07「オーシャンズ13」ほかがある。

キャスト
マイケル・ダグラス1944年9月生まれ。’87「ウォール街」でアカデミー主演男優賞受賞。
メアリー=ルイーズ・パーカー1964年8月サウスキャロライナ州フォートシャクメン生まれ。
イモージェン・ブーツ1989年6月ロンドン生まれ。
スーザン・サランドン1946年10月ニューヨーク生まれ。’95「デッドマン・ウォーキング」でアカデミー主演女優賞受賞。
ダニー・デヴィート1944年11月ニュージャージー州生まれ。

読書「黒船」吉村昭

2011-11-21 15:59:56 | 読書

               
 ペリー来航から明治にかけて一貫して通訳を生業とした堀達之助の生涯が描かれる。小説というよりも歴史書を読んでいるようだ。かねがね疑問に思っていたのが、ベリー来航時の交渉で言葉の問題をどのようにしていたのか? ということだ。通訳という存在は予測できるが、では一体どのようにして英語の習得が行われたのか? この本でそのあたりがつまびらかになる。

もともと、堀達之助は、長崎の出で代々通訳の家柄だった。長崎といえば、出島のオランダ商館となり、まずオランダ語を習得、英語の読み書きもできるようになる。ただ、英会話となるとまったくだめだった。

 何しろ、辞書そのものがオランダ人の作ったもので、アメリカ人の発音とはまったく違っていた。例えば、夏summerは、ソムムル。砂糖sugarは、シュガル。頭headは、ヘート。飲むdrinkは、デイリンキ。軍(いくさ)warは、ワルとなって、これでは通じるはずもない。

 しかし、当時はアメリカの捕鯨船が太平洋で操業していて難破船の乗組員が日本に流れ着いてそれらは長崎にすべて送られていた。その乗組員から、直接会話を習った日本人もいた。
 堀達之助の場合は、ペリー艦隊に乗り組んでいたオランダ人の通訳とオランダ語でのやり取りとなった。したがって言葉の問題は、何とか問題なく処理できていた。問題なのは、幕府のお役人たちだ。何しろ日本人は何事にも控えめがよしとされたいたから、外交交渉が下手で鎖国政策が打ち破られることになる。よかったのか悪かったのか、これも世界の潮流だから仕方がなかったのかもしれない。

 そういう視点で見ると、いまのTPPもよく似た状態にも思えてくる。それにしても現代の日本人も外交下手という点で、幕末のころとあまり変わっていないなあ、とつくづく思ってしまう。

 それにしても、堀達之助の生涯で妻運というか女運というか、その辺が恵まれていなかった。つまり、結婚して4児をもうけたが妻29歳で亡くし、達之助47歳のとき34歳の美也を妻に迎える。しかし、美也37歳のとき肺炎で他界。その後独身を続けた達之助は、次男孝之に引き取られ72歳でこの世を去った。

映画「しあわせの法則LAUREL CANYON ’02」劇場公開2004年4月

2011-11-17 15:37:48 | 映画

              
 この映画をわざわざ観たのは、監督のリサ・チェロデンコの作品が2010年のアカデミー賞の「キッズ・オールライト」が作品賞にノミネートていたからだ。一体どんな作品を作る人だろうというわけ。

 ゲノム理論でハエの生殖活動の論文を書くというアレックス(ケイト・ベッキンセイル)とハーバードを卒業してロサンゼルスの精神科で実習するサム(クリスチャン・ベイル)は、ローレル・キャニオンにあるサムの実家、母親ジェーン(フランシス・マクドーマンド)の家に向かう。

 アレックスとサムの二人の堅物が、ジェーンの奔放な生活に影響を受けアレックスは、酒を飲みマリファナを吸いジェーンの恋人イアン(アレッサンドロ・ニヴォラ)とジェーンともキスをする始末。

 一方、サムも二年早く実習を始めたサラ(ナターシャ・マクルホーン)に言い寄られるが、最後に思いとどまる。人間が成長するのは、学校教育ばかりではないことはよく知られるところだ。実際のところ、こういう不純な交遊であってもある種の糧になることもある。

 このDVDには、監督のリサ・チェロデンコのインタビューが収録されているが、それによるとローレル・キャニオンを舞台にしたのは、若いころこのキャニオンを車でよく走ったこととジョニ・ミッチェルの1970年のアルバム「Ladies of the Canyon」をよく聴いていたこともあったという。テーマは忠誠心だという。さて、それが観る人に届くのだろうか? 映画は結論を急ぎすぎた嫌いがないでもない。性的な面が押し出されていて、ロマンティックな雰囲気に欠けている気がする。
          
          
          
          
          
そのLadies of the Canyonから映画「いちご白書」のテーマ曲となったジョニ・ミッチェルの「The Circle Game」をどうぞ!
Joni Mitchell - The Circle Game

監督リサ・チョロデンコ1964年6月ロサンジェルス生まれ
キャストフランシス・マクドーマンド1957年6月イリノイ州シカゴ生まれ。’96「ファーゴ」でアカデミー主演女優賞受賞。夫は、ジョエル・コーエン
クリスチャン・ベイル1974年1月イギリス、ウェールズ生まれ。’10「ザ・ファイター」でアカデミー助演男優賞受賞。ケイト・ベッキンセイル1973年7月ロンドン生まれ。アレッサンドロ・ニヴォラ1972年6月ボストン生まれ。

読書「仮釈放」吉村昭

2011-11-08 12:54:58 | 小説

              
 高校教諭の菊谷史郎という潔癖で虫も殺せない男の二つの殺人が描かれる。その殺人に共通するのは、殺意と計画性がないことだ。共通点は、被害者が妻であることだ。

 第一の殺人も第二の殺人も犯人は逆上もしていなかったし、とっさに殺意が生まれることもなかった。ただ、目の前が朱に染まり手が勝手に包丁を握り妻の浮気相手の男に切りつけ、さらに妻を滅多突きにした。逃げ帰った男の家に灯油を撒いて火を放った。その火事で男の母が死んだ。これが第一の殺人。

 第二の殺人も目の前が朱に染まり、手が勝手に妻の肩を強く押したためにアパートの階段を転げ落ちて打ち所が悪くて死んだ。この精神世界に戸惑った。一つ言えるのは、信頼していたものに予期しない裏切りや、ずけずけと土足で踏み込まれるものには絶対的な拒否反応を見せるということだ。

 この小説には、いろいろな見方があるだろう。法律は、殺人と言う行為に罰を与えるが、人の心にまでは及ばない。この男は、改悛の情を持っていない。第一の殺人は、当然の帰結と思っている。
 この第二の殺人では、激しい憤りの感情が渦巻いていたのが第一との違いだ。彼は「自分が身をひそめる世界は、第三者が理解できぬ特殊な空間で、妻豊子と共に暮らすのは初めから無理であったのだ。豊子が去るか、それとも自分が出て行くか、いずれにしても一人だけの生活に戻らねばならない」と考えている。社会生活不適応者の安息の地は、刑務所だった。余人には計り知れないほど大きな空洞が、彼にはあるのかもしれない。