Wind Socks

気軽に発信します。

映画「ラビット・ホールRabbit Hole’10」劇場公開2011年11月

2012-05-30 13:07:00 | 映画

                 
 幼い自分の子供を失った傷は癒せるのだろうか? レベッカ・コーベット(二コール・キッドマン)とハウィー・コーベット(アーロン・エッカート)夫妻は、自宅前で息子を交通事故で失った。いまだに心の傷が癒されることがない。
 お隣からのバーベキュー・パーティ招待も口実を付けて断っている。夫婦で子供を亡くした親たちの会合にも出席するが、どうもしっくり来ない。レベッカはその会合にも出なくなる。

 夫のハウィーからもう一度子供を作ろうと提案されるが、セックスそのものに気持ちが乗らないと言うレベッカ。レベッカは子供を思い出させるものを捨てようとして、母親のナット(ダイアン・ウィースト)に手伝ってもらって地下室にそれらを置いて眺めた。「忘れられる?」とナットに聞く。ナットも子供を亡くした経験がある。「忘れられないわ。ただね。重い大きな石だったのがポケットに入るくらいの小さな石になることはあるわ。その石を忘れているときもある。でも、ふとポケットの石に触れて思い出したりするわ」

 そう、忘れることは出来ないし、忘れてはいけない。加害者の高校生ジェイソン(マイルス・テラー)は、コミックを描くのが得意で「ラビット・ホール」という本を制作していた。このラビット・ホールと言うのは異次元の世界へ通じるウサギの通り道のことで、その世界には自分と同じ人間が生活していてそこへ行けば会えるという空想の世界だった。

 その話しを聞きながらレベッカもなぜか心の落ち着きを感じていた。人間は残念ながら非常に脆い存在で、何かにすがらないと生きていけない生き物ではある。母の言葉や空想の世界とはいえどこかに息子の存在を信じながら気力を取り戻したレベッカ。
 それにしても50歳に近い二コール・キッドマンは、相変わらずキレイだった。なお、本作で2010年のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。
              
              
              
              
              
              
              
監督
ジョン・キャメロン・ミッチェル1963年4月テキサス州エルパソ生まれ。

キャスト 
二コール・キッドマン1967年6月ハワイ州ホノルル生まれ。’02「めぐりあう時間たち」でアカデミー主演女優賞受賞。
アーロン・エッカート1968年3月カリフォルニア州サンタクララ生まれ。
マイルス・テラー1987年2月ペンシルヴァニア州生まれ。
ダイアン・ウィースト1948年3月ミズーリ州カンザスシティ生まれ。’94「ブロードウェイと銃弾」で2度目のアカデミー助演女優賞を受賞。

読書「お市御寮人」舟橋聖一

2012-05-27 12:34:26 | 読書

                
 お市は、明日の血戦を控えて、夜陰しんしんたる城壁をかすめて、ほととぎすの鳴く声に耳をすましていたが、やがて筆をとって、
 さらぬだに
 打ちぬるほども 夏の夜の
 別れを誘ふ ほととぎすかな

としたため「辞世でございます」
 勝家これをとって読み、落涙をとどめかねたが、自分もまた、一首をしるした。曰く

 夏の夜の
 夢路はかなき 跡の名を
 雲井に上げよ 山ほととぎす
とあった。(本作から引用)

 秀吉に攻められて、遂に落城間近に迫り二人の運命のときが来た。この本では、勝家がお市を絞殺し、自ら割腹、介錯は中村文荷斎だった。その後仕掛けた爆薬が爆発して城もろとも勝家、お市の肉体も霧散霧消した。勝家62歳、お市37歳だった。

 秀吉はお茶々を手に入れたが、恋慕していたお市に死なれて、それがどうしても信じられず爆発は身を隠すための策略に違いないと方々を探したが徒労に終わった。秀吉自身が策謀家であり嘘つきで残酷な性癖の持ち主だから、人もそのように見るのだろう。
 お市を恋慕しながら、浅井長政との間に生まれた男の子万福丸を串刺しにして殺したのが秀吉という。戦国武将は悉くこういう残酷さを持ち合わせていたとはいうものの、幼い子供にまで尻から刀剣で突き刺すというのは理解を超えている。

 この本は、信長とお市の兄妹愛を通して波乱の時代を描いてある。安西篤子著「柴田勝家」津本陽著「前田利家」などを読んだが、いずれも小説と言うより歴史の教科書そっくりで物語性の乏しい内容だったが、この本はそういう危惧を払拭してくれた。

 面白いのは、信長をはじめ勝家、長政など有能な武将ほど女に溺れると命を賭ける愛を示すことだ。秀吉は単に好色なだけで、種無し男だから生殖能力はゼロだ。
 信長は、どうしたことか、ふもじと言う女に惚れこんでしまう。信長は女嫌いだったというから、女の良さに開眼すると毎晩求めたと言う。房事の相性がよかったのだろう。

 スケベになった信長は、森蘭丸の誘いで湯殿の女、これが実は光秀の妻おこいでその姿は、「世にも臈(ろう)たき(洗練された美しさと気品がある意)白磁の裸形に、房々としたぬばたま(黒い)の髪が垂れているうしろ姿」は信長の心を轟かした。
 しかし、うしろ姿で満足できない信長は、寒さに震えながら板囲いの割れ目から目が離せない。やがてザーッと手桶の湯をかけるはずみに、むっちり肥えた膝頭から、僅かながらも、内股の白さが見え、同時に胸もとの若々しい隆起が目にはいった。「年にも似合わず鮮やかな肉づきじゃ」と信長はつぶやいた。その姿に触発されたのか、おこいの寝所に夜這いまでする。これは失敗に終わったが……。
 いずれにしても、こういう話を知ると信長が身近に感じられから不思議なものだ。また、こういう歴史物語を読むと現地に行きたくなるのも確かで、安土城も小谷城も北の庄城なども昔日の面影は勿論ないが、勝家とお市の最後の別れに思いを馳せるのも悪くはないだろう。

映画「ミケランジェロの暗号MEIN BESTER FEIND ’10」劇場公開2011年9月

2012-05-24 14:11:46 | 映画

                 
 400年前、バチカンから盗まれたミケランジェロの幻の絵画を巡り、ナチス・ドイツの親衛隊とユダヤ人画商との命を懸けた駆け引きに目を釘付けにされる。

 1938年ウィーンの画廊に音信不通だった家族同然の使用人の息子ルディ(ゲオルク・フリードリヒ)が、画廊の息子ヴィクトル(モーリッツ・ブライブトロイ)の前に現れる。再会を喜ぶ二人。
 ある夜二人はしこたま飲んでご機嫌で画廊に帰還した。そして、ヴィクトルは秘密の部屋にあるミケランジェロの絵画を見せる。これが事の発端。

 ルディは、この情報をもとにナチス親衛隊の一員となった。ナチス・ドイツ親衛隊といえば紺の制服に赤地に丸い白抜きの中に黒い逆鉤十字を配した腕章が恐怖の象徴のように映る。それが車で乗り付けて絵画を探し回る。
              
                ナチス親衛隊の象徴
 ヴィクトルもしたたか、虚虚実実の姦計で最後に亡き父の肖像画の中にその絵画を手にして、ヴィクトルの母(マルト・ケラー)、ヴィクトルの恋人レナ(ウーズラ・シュトラウス)ともども歩道から画廊の中のルディにウィンクを送るという結末は観る者ににやりとさせる。

 余計かもしれないが、ずっと地味な服装のレナがホテルで見せる豊かなボディのスリップ姿に、ほほえましい結末が想像できて、寒々しい画面から春の陽気を思わせるのは監督のサービスだったのかな。そんなことも思わせた。
            
            
            
            

監督
ヴォルフガング・ムルンベルガー1960年11月オーストリア生まれ。

キャスト
モーリッツ・ブライブトロイ1971年8月ドイツ生まれ。
ゲオルク・フリードリヒ出自不明。
ウーズラ・シュトラウス1974年オーストリア生まれ。
マルト・ケラー1945年1月スイス生まれ。

映画「テイカーズTakers ’10」劇場公開2011年11月

2012-05-20 17:07:33 | 映画

                 
 時には何も考えずにただ映画を楽しむのもいい。こういうクライム・アクションはうってつけだ。
 ショットガンと防弾チョッキに目だし帽の四人の男ジョン・ラーウェイ(ポール・ウォーカー)、ゴードン・ジェニングス(イドリス・エルバ)、ジェイク・アッティカ(マイケル・イーリー)、ジェス・アッティカ(クリス・ブラウン)は、銀行から200万ドルを強奪して女子行員にテレビ局へ通報させる。屋上で警備員になりすましたA・J(ヘイデン・クリステンセン)が飛来したヘリコプターを取り上げ仲間を乗せて逃走する。

 出だしはなかなか快調だ。この銀行強盗を追うのはロサンジェルス市警のジャック(マット・ディロン)とエディ(ジェイ・ヘルナンデス)の二人。強盗一味は、のんびりとリゾート地で過ごそうと思っていた矢先、以前の仕事で捕まり刑務所に入っていたゴースト(ティップ・“T I”ハリス)が出所してきた。しかも、ロシア人からの現金輸送車の情報を携えて。執拗に捜査をする警察。新しい計画を実行する強盗団。さて、結末は如何に……。

 こういう映画は理屈を振り回すのは野暮と言うもの。楽しめれば言うことなしで、私は楽しめたよ。
             
             
             
             
             
監督
ジョン・ラッセンホップ

キャスト
マット・ディロン1964年2月ニューヨーク生まれ。
ポール・ウォーカー1973年9月カリフォルニア州グレンデール生まれ。
イドリス・エルバ1972年9月イギリス、ロンドン生まれ。
ジェイ・ヘルナンデス1978年8月メリーランド州シルバー・スプリング生まれ。
ティップ・“T I”・ハリス1980年9月ジョージア州アトランタ生まれ。
クリス・ブラウン1989年5月バージニア州生まれ。
ヘイデン・クリステンセン1981年4月カナダ、ブリティッシュコロンビア州バンクーバー生まれ。

映画「クィーンThe Queen’06」劇場公開2007年4月

2012-05-17 12:31:35 | 映画

                 
 1996年チャールズ皇太子と離婚して1997年パリで交通事故死したダイアナ妃を巡る内幕をエリザベス女王(ヘレン・ミレン)の苦悶とともに描く。
 エリザベス女王は、離婚して民間人になったダイアナに対しては公式に弔意を表す必要がないと考えていた。ところが国民の多くはそうは考えていなかった。

 バッキンガム宮殿前には夥しい花束とメッセージが寄せられた。弔意の発表もなく宮殿の旗竿には半旗すら揚がっていないことにも批判の矛先が向けられた。当時の首相トニー・ブレア(マイケル・シーン)は、その収拾に乗り出す。

 エリザベスの夫君フィリップは、テレビの画面を見て不愉快だと言って切ってしまったり、バッキンガム宮殿の旗は、エリザベス女王の在宅か否かを示すもので弔意を表すものではない。国民はそんなことにお構いなし、文句たらたら。
 結局、大掛かりな葬儀となり、エルトン・ジョンがわざわざ作曲したり、ハリウッドのセレブも出席したりして大いなる見世物となった。

 映画の中に当時の映像が挿入されているが、大の男が涙を流す場面もあって、そこまでお主やるのか? と思ったりしたものだ。エリザベス女王を演じ本作でアカデミー主演女優賞を受賞したヘレン・ミレンを見るのには格好の映画だろう。実際、歩き方も本物のエリザベス女王そっくりなのだろうか? 蟹股っぽい歩き方が印象的だった。

 それにしても、存命する王室の人々を映画化するこの大胆さには恐れ入る。ちなみに2012年5月11日の夕刊には、「10日、英北部スコットランド地方で放送されたBBCローカル番組に、チャールズ皇太子が天気予報キャスターとして登場した。ローカル局の開局60周年を記念したサプライズイベントで、ユーモアのある解説もあって英国内で話題になっている(読売夕刊より)」と言う。
 わが皇太子がNHKの番組に出て何かを発信するというのはいいことのように思うが、頭の固い宮内庁にはどだい無理な相談なんだろう。
            
            
            

監督
スティーヴン・フリアーズ1941年6月イギリス・レスター生まれ。

キャスト
ヘレン・ミレン1945年7月ロンドン生まれ。
マイケル・シーン1969年2月イギリス・ウェールズ生まれ。

映画「ブルーバレンタインBlue Valentine ’10」劇場公開2011年4月

2012-05-14 17:36:28 | 映画

                 
 身近にある家族崩壊の様に何を思うか。今と過去を交互に描き、人生はしたたかで思い通りに行かない手強いものだと思い知らされる。

 ディーン(ライアン・ゴズリング)とシンディ(ミシェル・ウィリアムズ)、それに娘フランキー(フェイス・ワデッカ)の三人家族。フランキーは、ディーンに「パパ、パパ」と言って片時も離れようとしない。学校に遅れそうなのに朝食もディーンと遊びながら食べる始末。

 シンディは心の中で面白くない。と言うのも、ディーンはぶらぶらとしているだけで、何かをしようという意欲がない。シンディは、自分の看護師の収入に頼っている現状に不満が募る。ある日、スーパーで学生時代のボーイフレンドに会って、その話をディーンにしたところねちねちと嫌味を言われる。

 こういう関係や家族はどこにでもある話で新味はない。この映画も二人の俳優で持っているみたいなもの。甘い囁きで結婚しても、日常は辛い。夫婦の新鮮な時期は足早に過ぎ去ってしまう。残るのは惰性の日常だけ。そういう状況を見つめた醒めた映像がむしろ印象的に思える。
            
            
            
監督
デレク・シアンフランス生年、出自不明

キャスト
ライアン・ゴズリング1980年11月カナダ、オンタリオ州ロンドン生まれ。’04「きみに読む物語」でブレイク。
ミシェル・ウィリアムズ1980年9月モンタナ州生まれ。2010年本作でアカデミー主演女優賞にノミネート。
フェイス・ワデッカ2004年3月ニューヨーク生まれ。

映画「親愛なるきみへDear John ’10」劇場公開2011年9月

2012-05-11 11:29:59 | 映画

                 
 うーん、かなり古風なラブ・ストーリー。ジョン(チャニング・テイタム)とサヴァナ(アマンダ・サイフリッド)がほとんどの画面を占める。

 アメリカ陸軍の特殊部隊兵士ジョンは、二週間の休暇で帰郷してサーフィンを楽しんでいた。そこで出会ったサヴァナと将来を約束する。しかし、2001年9月11日の自爆テロが暗い影を落とす。

 外国に駐留するジョンとアメリカにいるサヴァナの離ればなれの関係は、やがて一旦は断ち切られるが……。物語は起伏の無い淡々とした様子を見せながら進んでいく。どうしてだろうと訝った。
 私の感じでは、チャニング・テイタムとアマンダ・サイフリッドの、それこそ淡々とした演技なのかもしれない。演技論なんて偉そうなことは言えないが、画面から発散する俳優の気迫みたいなものが感じられなかったせいかもしれない。存在感みたいなものが感じられないし、全体に言えるのは強く訴えるものが見当たらない。単なる甘い恋のハッピー・エンドでしかない印象。
             
             
             
             
監督
ラッセル・ハルストレム1946年6月スウェーデン、ストックホルム生まれ。

キャスト
チャニング・テイタムアラバマ州生まれ。
アマンダ・サイフリッドペンシルベニア州アレンタウン生まれ。

映画「ミッション8ミニッツSource code ’11」劇場公開2011年10月

2012-05-08 12:35:01 | 映画

                  
 誰でも思い悩むことの一つに「あの時、ああしておけばとか、こうしていたら」という後悔に心を痛めることがある。怪我や事故が特に悔恨の念が強い。決して変えられない運命と分かっていても。ところがそれを変えた男がいた。いや、変えたように見えるだけかもしれない。

 シカゴ行きの列車に乗り眠っていて目を覚ましたスティーヴンス大尉(ジェイク・ギレンホール)は、前に座るクリスティーナ(ミシェル・モナハン)の呼びかけに反応しない。「ショーン!」と呼びかけても「おれはアフガンでヘリコプターを操縦するスティーヴンス大尉だ」怪訝な顔のクリスティーナの前で奇矯な行動をとり始める。
 列車はシカゴの市街に入っていく、そのとき対向の貨物列車と並んだとき、大爆発が起こる。乗客全員死亡。

 “スティーヴンス大尉。こちらは「包囲された城」 応答せよ!”グッドウィン大尉(ヴェラ・ファーミガ)が呼びかける。頭のハッキリしないスティーヴンス大尉に矢継ぎ早の質問が発せられ、爆弾の発見を求められる。ちょっと待ってくれ! の言葉を言い終わらないうちにタイムスリップして元の列車に飛ばされる。

 この量子力学を応用したミッションは、ラトレッジ博士(ジェフリー・ライト)主導で脳の二つの現象、死後も活動する神経回路と8分間の記憶を一体化したプログラムというわけ。タイムスリップして列車に戻っても8分間しか活動できない。シカゴ市街での爆破予告にスティーヴンス大尉は爆弾犯発見の任務を与えられる。

 度重なるタイムスリップは、クリスティーナとの関係が密度を増していく。ようやく爆弾犯を捕まえ爆破を未然に防ぐ。スティーヴン大尉は、あと8分ほしい。その後は生命維持装置を切ってもいい。と言う。そう、実際は下半身のない体で生命維持装置の中にいる。
 そして彼は言う。「絶対変えてみせる」と。スティーヴンスとクリスティーナは月曜日のシカゴにいる。快晴。気温18度。二人の幸せを祝福しているようだ。うーん、これが言いたかったんだろうか? 手の込んだラブ・ストーリーだね。
              
              
              
              
              
              
              
              

監督
ダンカン・ジョーンズ1971年5月イギリス、イングランド生まれ。父がデヴィッド・ボウイ。

キャスト
ジェイク・ギレンホール1980年12月ロサンジェルス生まれ。’05「ブロークバック・マウンテン」でアカデミー助演男優賞にノミネート。
ミシェル・モナハン1976年3月アイオワ州ウィンスロップ生まれ。
ヴェラ・ファーミガ1973年8月ニュージャージー州バサイク生まれ。’09「マイレージ・マイライフ」でアカデミー助演女優賞にノミネート。
ジェフリー・ライト1965年12月ワシントンDC生まれ。

映画「4デイズUnthinkable ’10」劇場公開2011年9月

2012-05-05 12:52:11 | 映画

                 
 延々と続く拷問の映画である。アメリカの3ケ所に核時限爆弾を仕掛けたと自ら語るビデオを送ってきた。そして残された時間は4日間だと言う。その男アーサー・ヤンガー(マイケル・シーン)は、ショッピング・モールで長時間ただじっと突っ立っていて逮捕された。

 FBIのブロディ主任捜査官(キャリー=アン・モス)指揮のチームは、尋問のため陸軍兵舎に向かう。そこで知らされたのは、政権の指示でCIAの尋問専門官が仕切ると言うことだった。その尋問官はH(サミュエル・L・ジャクソン)と言う。

 外からも見えるようになっている尋問室で、Hはいきなりヤンガーの小指を斧で叩き切る。悲鳴にも似た抗議がブロディからあがる。時間との勝負という極限状態の打開は容易ではない。宗教的に自分の信念を固め死を覚悟したハンガーの意思は盤石だった。ヤンガーの妻をつれて来て自白の糸口を探したが無駄だった。しかも、Hは面前で妻の喉を掻き切る。

 Hも睡眠をとらず心底疲れ切っている。最後に持ち出してきたのが、ヤンガーの子供たちだった。ようやくヤンガーは、ニューヨーク、ロサンジェルス、シカゴの都市と場所を白状する。しかし、Hは言う。「そいつはまだ本当のことを言っていない。四つ目がある筈だ。盗まれたプルトニュウムの分量から爆弾は4個ある筈だ」

 映画はこの謎を残したまま終わる。そして拷問を否定も肯定もしていない。確かに、核爆弾で失われる1000万人の人命を助けるための引き換えに拷問を容認する意見もあるだろう。誰一人正しい答えを持っていない。もともと核爆弾を作ったのがアメリカで、そのアメリカが核で脅されるという皮肉は、映画とはいえ愚かなこととしか思えない。この映画でも最後に政府高官が、「今日のことは機密だ」という。そういう隠蔽しか手段がないのも不幸なことだろう。

 このDVDには、監督解説の特典映像がある。それによると、4個目があって悲惨な終わりを告げるか。この謎のままにしておくのか議論があったという。脚本家の意向を尊重して謎で終わらせたらしい。ある試写会では不満もあったようだが。
 それにしても、こういう拷問に耐えられるのだろうか? その道の専門家は、固い信念と強い意思があれば耐える人間もいるということらしい。ほとんど尋問室の場面で、まるで舞台劇のようで緊迫感が途切れずに、約1時間半はあっという間だった。監督グレゴール・ジョーダンは、この映画はスリラーだという。
             
             
             
             

監督
グレゴール・ジョーダン1966年オーストラリア生まれ。

キャスト
サミュエル・L・ジャクソン1948年12月ワシントンDC生まれ。
キャリー=アン・モス カナダ、バンクーバー生まれ。
マイケル・シーン1969年2月イギリス、ウェールズ生まれ。’06「クイーン」で当時のイギリス首相ブレアーを熱演し高い評価を受けたという。

映画「ブローン・アパートIncendiary Blown Apart’08」劇場公開2011年1月

2012-05-01 20:30:03 | 映画

                 
 喉から血が出るほど子供の名前を叫びながらたどる失望と再起の女の物語。警察の爆発物処理班の夫は、帰宅しても精神的重圧がのしかかり妻を優しく愛することが出来ない。妻(ミッシェル・ウィリアムズ)は当然欲求不満を抱え込んだ。
 そんなある夜、夫は緊急呼び出しで爆弾処理に向かった。残された妻も、夫の仕事に不安を募らせ心の安らぎを求めて近くのバーに向かう。そこで話しかけられたのが新聞記者のジャスパー・ブラック(ユアン・マクレガー)だった。

 夫と4歳の息子がサッカー試合の観戦に出かけた日、後に残った妻はジャスパーとセックスの最中、テレビはサッカー場で大規模な爆発が起きたと報じた。そして、それはテロによるものであることも分かり、この事件で夫と息子を亡くした。

 自責の念と失った悲しさでジャスパーの気配りにも拒否反応を示す。ジャスパーといるとまざまざとあのときが思い出されるからだった。事件の真実を知りたいと誰もが思う。ジャスパーも調べ始めながら、何度も彼女の家の呼び鈴を鳴らし続けた。彼女は無反応だった。彼女は一時も息子のことを忘れられない。

 犠牲になった人々の顔を描いた飛行船の形をした大きな風船を見ながら涙を流す。やがて彼女のお腹が膨らんできた。彼女は出産した。久しぶりの笑顔が浮かんだ。ジャスパーとの子供だった。女性の強さを思い知らされた気がする。
            
            
            
            
            
            
            
監督
シャロン・マグアイア1960年イギリス生まれ。

キャスト
ミッシェル・ウィリアムズ1980年9月モンタナ州生まれ。’05「ブローバック・マウンテン」では、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされている。’10「ブルーバレンタイン」’11「マリリン 7日間の恋」の2年連続でアカデミー主演女優賞にノミネートされる実力。
ユアン・マクレガー1971年3月イギリス、スコットランド生まれ。