他人の痛みには無関心で気遣いはするが、本心は別というのが大方の人が見せる態度だといえる。よその家の火事を見る人たちのように……。病気とか怪我も体験者は一様にやさしくなる。ひょっとして、神様は病気とか怪我を通じて人間にやさしさを教えているのかもしれない。
この映画も心の怪我といえばいいのか、親の心子知らずという断絶物語だ。これは誰でも通る道でもある。2013年にノーベル文学賞を受賞したカナダの短編小説の名手といわれるアリス・マンローの三つの短編を一つに紡いだもののようだ。脚本はこの映画の監督でもあり2002年に「トーク・トゥ・ハー」でアカデミー脚本賞受賞のペドロ・アルモドバル。
スペインのマドリードの街角で、偶然にも12年間音信不通だった娘アンティアを見かけたというアンティアの親友に出会い、強烈な動揺を受けるジュリエッタ(エマ・スアレス)。エマ・スアレスは年齢に応じた上品でキレイな人だ。恋人のロレンソ(ダリオ・グランディネッティ)とポルトガルへの長期滞在も諦め、かつて娘アンティアと住んだアパートに引っ越す。
そして娘への手紙を書くという設定で過去が回想されていく。若きジュリエッタ(アドリアーナ・ウガルテ)は、一人旅の列車で本を読んでいた。このアドリアーナ・ウガルテも美人。女優だから当然だが、私好みの美人と言い直したほうがいいかも。
そして前の席に座った中年男、やたらと話しかけてくる。席をはずして食堂車で会ったのが漁師のショアン(ダニエル・グラオ)。この二人の娘がアンティアだ。
母と娘の葛藤という題材は、平凡でどこにでもある話。したがって傑作にするにはかなり難しい。この映画もデリカシーや余情が不足している。デリカシーという点で言えばジュリエッタとショアンの列車内でのセックス・シーンだ。さっき出会った男と女がセックスするだろうか。映画という時間的制約のある作品作りには、余計な前触れみたいなものはカットしてしまうのだろうと思ってしまう。それをやるとこの映画のように奥行きのない平板なものになってしまう。
余情という点ではラストに工夫が欲しかった。それにこの映画は、病気と死が纏わりついている。まず、漁師のショアン、妻が病気で死亡。ショアンの古くからのガールフレンド、アバ(インマ・クエスタ)と肉体関係があったのを知ったジュリエッタが外出した日、漁に出たショアンが嵐で死亡。ジュリエッタの母も病気。アバも筋萎縮硬化症で入院。
しかも音信不通だった娘アンティアからの手紙で9歳の息子が死んだという内容もある。アンティアが母への手紙を書いたのも、9歳の息子の死を経験して母の苦悩を理解したというわけ。苦悩を経験して相手を思いやれる。
若きジュリエッタと歳を重ねたジュリエッタの相手役の男優に魅力がない。これは仕方がないか。出番の多い女性主人公に大物男優はない。誰も引き受けないだろう。そこらへんで見繕うしかない。
この映画の評価は、2016年の映画を対象とした第89回アカデミー賞外国語映画賞のスペイン代表作品に選ばれたが落選した。評価を集約すると「概ね好意的」だった。結果的にこの監督の映画を観たいと思わないが、エマ・スアレスやアドリアーナ・ウガルテの出演作なら観たいと思う。
監督
ペドロ・アルモドバル1949年9月スペイン、ラ・マンチャ生まれ。
キャスト
エマ・スアレス1964年6月スペイン、マドリード生まれ。
アトリアーナ・ウガルテ1985年1月スペイン、マドリード生まれ。
ダニエル・グラオ1976年2月スペイン、バルセロナ生まれ。
インマ・クエスタ1980年6月スペイン、バレンシア生まれ。
ダリオ・グランディネッティ1959年3月アルゼンチン、サンタフェ生まれ。
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