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相手を理解するというのは難しい!「ジュリエッタ」2016年制作 劇場公開2016年11月

2017-08-30 15:48:25 | 映画

                  
 他人の痛みには無関心で気遣いはするが、本心は別というのが大方の人が見せる態度だといえる。よその家の火事を見る人たちのように……。病気とか怪我も体験者は一様にやさしくなる。ひょっとして、神様は病気とか怪我を通じて人間にやさしさを教えているのかもしれない。

 この映画も心の怪我といえばいいのか、親の心子知らずという断絶物語だ。これは誰でも通る道でもある。2013年にノーベル文学賞を受賞したカナダの短編小説の名手といわれるアリス・マンローの三つの短編を一つに紡いだもののようだ。脚本はこの映画の監督でもあり2002年に「トーク・トゥ・ハー」でアカデミー脚本賞受賞のペドロ・アルモドバル。

 スペインのマドリードの街角で、偶然にも12年間音信不通だった娘アンティアを見かけたというアンティアの親友に出会い、強烈な動揺を受けるジュリエッタ(エマ・スアレス)。エマ・スアレスは年齢に応じた上品でキレイな人だ。恋人のロレンソ(ダリオ・グランディネッティ)とポルトガルへの長期滞在も諦め、かつて娘アンティアと住んだアパートに引っ越す。

 そして娘への手紙を書くという設定で過去が回想されていく。若きジュリエッタ(アドリアーナ・ウガルテ)は、一人旅の列車で本を読んでいた。このアドリアーナ・ウガルテも美人。女優だから当然だが、私好みの美人と言い直したほうがいいかも。
 そして前の席に座った中年男、やたらと話しかけてくる。席をはずして食堂車で会ったのが漁師のショアン(ダニエル・グラオ)。この二人の娘がアンティアだ。

 母と娘の葛藤という題材は、平凡でどこにでもある話。したがって傑作にするにはかなり難しい。この映画もデリカシーや余情が不足している。デリカシーという点で言えばジュリエッタとショアンの列車内でのセックス・シーンだ。さっき出会った男と女がセックスするだろうか。映画という時間的制約のある作品作りには、余計な前触れみたいなものはカットしてしまうのだろうと思ってしまう。それをやるとこの映画のように奥行きのない平板なものになってしまう。

 余情という点ではラストに工夫が欲しかった。それにこの映画は、病気と死が纏わりついている。まず、漁師のショアン、妻が病気で死亡。ショアンの古くからのガールフレンド、アバ(インマ・クエスタ)と肉体関係があったのを知ったジュリエッタが外出した日、漁に出たショアンが嵐で死亡。ジュリエッタの母も病気。アバも筋萎縮硬化症で入院。
 しかも音信不通だった娘アンティアからの手紙で9歳の息子が死んだという内容もある。アンティアが母への手紙を書いたのも、9歳の息子の死を経験して母の苦悩を理解したというわけ。苦悩を経験して相手を思いやれる。

 若きジュリエッタと歳を重ねたジュリエッタの相手役の男優に魅力がない。これは仕方がないか。出番の多い女性主人公に大物男優はない。誰も引き受けないだろう。そこらへんで見繕うしかない。

 この映画の評価は、2016年の映画を対象とした第89回アカデミー賞外国語映画賞のスペイン代表作品に選ばれたが落選した。評価を集約すると「概ね好意的」だった。結果的にこの監督の映画を観たいと思わないが、エマ・スアレスやアドリアーナ・ウガルテの出演作なら観たいと思う。
   
監督
ペドロ・アルモドバル1949年9月スペイン、ラ・マンチャ生まれ。

キャスト
エマ・スアレス1964年6月スペイン、マドリード生まれ。
アトリアーナ・ウガルテ1985年1月スペイン、マドリード生まれ。
ダニエル・グラオ1976年2月スペイン、バルセロナ生まれ。
インマ・クエスタ1980年6月スペイン、バレンシア生まれ。
ダリオ・グランディネッティ1959年3月アルゼンチン、サンタフェ生まれ。

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歪んだ肢体とエロティシズム、人間の苦悩を描いたと言われる「エゴン・シーレ死と乙女」

2017-08-27 16:30:28 | 映画

                  
 1918年10月第一次世界大戦後に流行ったスペイン風邪で28歳の若き命を失ったエゴン・シーレを描く。1910年エゴン・シーレ(ノア・サーヴェトラ)は、妹ゲルティ(マレシ・リークナー)を裸にしてデッサンするところから始まる。いきなりヌードで、モデルが妹となるとやや違和感を持ちながら観ることになる。

 画家とモデルというと親密になる例が多いが、妹とならその心配はない。とは言ってもモア(ラリッサ・アイミー・ブレイドバッハ)をモデルに描きはじめるとゲルティの機嫌がよくない。女心の微妙なところか。

 ヴァリ・ノイツェル(フィレリエ・ペヒナー)と出会ったのもウィーン工芸学校の先輩グスタフ・クリムトのアトリエだった。このヴァリとは同棲をはじめるくらいだからかなり親密。とは言ってもエゴン・シーレの女性観は複雑で理解できないほどの自己中心的なのだ。

 ヴァリに「世界の誰とも永遠に結婚しません」という誓約書を書かせておきながら、自分は別の女性と結婚するが年に一度ぐらいは逢おうというのだから理解せよというのは無理。

 そんなこんなでスペイン風邪の病床で世話をするのは妹のゲルティだった。エゴン・シーレが日本の春画を参考にしたと思われるシーンがある。ただ、春画を眺めるだけのシーンではあるが。

 ここで三人の俳優について、エゴン・シーレを演じたノア・サーヴェトラは2009年に高校を卒業、オーストリア国立劇場(ブルク劇場)が運営する青少年のための演劇クラブに参加し、初めて舞台に立つ。「ミヒャエル・コールハースの運命」(ハインリヒ・フォン・クライスト作)で主演。2013年からは、ウィーン・コンセルヴァトリウム音楽大学の演劇コースで学んでいる。2014年テレビドラマ”Copstories”にゲスト出演。本作で長編映画出演デビュー作。監督の言によると「文章を二つ覚えることも出来なかった」ノアを指導し彼の努力と相まってこの映画が完成した。

 妹ゲルティを演じたマレシ・リークナーは、2013年からウィーン・コンセルヴァトリウム音楽大学の演劇コースで学ぶ。いくつかのTVドラマに参加し、現在初主演作品でHenry Steinmetz監督の”Limbo”を撮影中。

 ヴァリの役フェレリエ・ペヒナーは、2013年にウィーン国立音楽大学所属の名高い演劇コース、マックス・ラインハルト・セミナーを卒業。その後はドイツ、ミュンヘンのレジデンツ劇場に所属している。初主演作は““Blind” (13)。テレンス・マリックの最新作”Radegund”にアウグスト・ディールと出演予定。2016年制作 劇場公開2017年1月
   

  
監督
ディーター・ベルナー1944年8月オーストリア生まれ。

キャスト
ノア・サーヴェトラ1991年オーストリア生まれ。
マレシ・リークナー1991年ウィーン生まれ。
フェレリエ・ペヒナー1987年6月オーストリア生まれ。

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フェミニスト、ボーヴォワールに導かれるヴィオレット「ヴィオレットある作家の肖像」

2017-08-21 16:53:06 | 映画

                  
 ある作家とは、1972年5月65歳で亡くなったヴィオッレット・ルデュックのこと。「窒息」「飢えた女」「荒廃」「老嬢と死」「奪った宝」「金ぼたん」「私生児」などの著書があり、「私生児」以外は文壇の一部から評価を受けたに過ぎなかった。ところが乱交、盗み、裏切り、反抗と否定、同性愛、男色、妄執などを赤裸々に描いた「私生児」が衝撃を与えた。(翻訳書「私生児」あとがきから引用)

 ヴィオレット(エマニュエル・ドゥヴォス)が同棲しているのは、そこそこ名前の売れている作家のモーリス(オリヴィエ・ピー)だ。第二次大戦中のこともあり闇商売で糊口をしのぐヴィオレットが、警察に捕まって留置されたあと大きな音を立ててバタバタと帰ってくる。そして「夫婦のふりは嫌だ」と言っても「パンのためだ」とモーリスは取り合わない。

 「パンのためだ」がよく分からないが、戦時下では夫婦でないと何かが支給されないのかもしれない。ヴィオレットにしてみれば本当の夫婦になりたいが、女を嫌悪の目で見るゲイのモーリスには出来ない相談だ。モーリスは「小説を書け」と気持ちの整理に文章を書くことを勧める。これがヴィオレットの作家への最初の一歩となった。

 「私生児」の序文をシモーヌ・ド・ボーヴォワールが寄せている。翻訳書から引用すると『1945年のはじめ、私はヴィオレット・ルデュックの原稿をはじめて読んだ。「母はわたしに片手さえかしてくれようとしなかった」読み始めるやいなや、私はこの作家が持っている天分と文体にとりつかれてしまった』という賛辞から始まる。

 映画でもボーヴォワール(サンドリーヌ・キベルラン)が、性格的にムラがあり思い込みの激しいヴィオレットをなだめたり、怒ったり、励ましたりしている。ヴィオレットはどんな文章を書くのだろう。多分「窒息」からなのだろう字幕から拾い上げてみよう。

 「体の芯が震えた。イザベルは私の乳房を吸った。私は彼女を吸い、唇が離れると闇に沈んだ。その手は喜びの涙に濡れた。彼女の首をかみ襟元で夜を吸い込んだ。木の根がふるえる。抱きしめ窒息させる。抱き締め声を殺す。抱き締め光を殺す」

 映画は全体に暗いが、時折絵画的なすばらしい画面を見る。とりわけラスト・シーンが素晴らしい。ヴィオレットは、小説の原稿を屋外で書く。三本の木の下で折りたたみイスに座って書き始めるというロングショットだ。

 それから「行水」はご存知だろうか。「ぎょうずい」と読む。「たらいに湯や水を入れ、その中でからだを洗い流すこと」ついでに、たらいは盥と書く。かつては洗濯に使っていて木製のものが多かった。大きさも大人が座れるぐらいの広さがあった。それを庭に出したりして夏にはお湯で汗を流したりした。その光景がこの映画の中でも見られる。映画では大きな洗面器を使っていた。人間の考えることは万国共通なんだと思わず苦笑いをした。

 ヴィオレット・ルデュックを演じたエマニュエル・ドゥヴォスは、2001年「リード・マイ・リップス」でフランスのアカデミー賞といわれるセザール賞で主演女優賞を受賞している。

 シモーヌ・ド・ボーヴォワールを演じたサンドリーヌ・キベルランも2014年「9 mois terme(9 month stretch)」でセザール賞主演女優賞を受賞。2013年制作 劇場公開2015年12月
   
監督
マルタン・プロヴォ1957年5月フランス生まれ。2008年「セラフィーヌの庭」でセザール脚本賞受賞。

キャスト
エマニュエル・ドゥヴォス1964年5月フランス、パリ生まれ。
サンドリーヌ・キベルラン1968年2月フランス、パリ生まれ。
オリヴィエ・ピー1965年7月フランス生まれ。


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家も車もついでに妻も失ったが「王様のためのホログラム」2016年制作 劇場公開2017年2月

2017-08-18 18:28:48 | 映画

                  
 ホログラム? なにそれ? ネットで調べた。「ホログラフィーによる干渉縞を記録したもの」とある。これだけではサッパリ分からない。「クレジット・カードや商品券などの偽造防止のために印刷されるほか、近年はイメージセンサーでデジタル画像として記録し、コンピューターでもとの画像を得ることが多い」これでもまだふーんと頭の中で呟く。

 映画の中では実際の説明者が立っている横にコンピューターの画像で別の人間を立たせていた。ようするに3Dホログラムとしてテレビ会議などに有用なのだろう。この技術をサウジアラビアの王様に売りつける仕事を与えられたのがアラン・クレイ(トム・ハンクス)。

 実はアランは大手の自転車メーカーの取締役だった。業績悪化の責任をとらされ、負債の一部にあてるため家や車を処分、ついでに妻にも逃げられた。一人娘の学費のため一介のセールスマンに戻り再起を図ろうとした。

 先着の仲間三人は砂漠の中にある黒い大きなテントで準備中。しかし、空調やWi-Fiが不調で床にねっ転がっているだけ。面会の相手ともなかなか掴まらないし、Wi-Fiも一向に繋がらない。業を煮やしたアランは、強行手段に出る。

 建物の中を歩き回りようやく話の通じる男を見つける。その男に苦情を言い事態は改善に向かった。その男との話の中に中国について、自転車を組みたてるのではなく、レッテルを張り替えるだけのごまかし仕事をやってるようだというアラン。中国への海賊版批判なのだろう。

 そんな折、アランの背中にコブのようなふくらみが見つかる。女医ザーラ・ハキム(サリタ・チョウドリー)は、脂肪腫だと言い切開手術をする。ストレスから起こるという。 が、ネットで調べると今のところ原因は不明らしい。映画は都合よく二人が出会うための方便でしかない。

 アランとガーラは、海中遊泳のあと親密なラブシーンを演じる。すべてを失った男が、再起のよりどころを得たという感じかな。それにしても、もうトム・ハンクスもラブシーンは避けたほうがいい。やっぱりラブシーンは若者に限る。ラブシーンが美しくなるのは若い世代と心得た方がいい。

 しかも、3Dホログラムのテレビ会議システムを半値で中国にさらわれた。ここでも中国が顔を出す。ちゃんとシステム設計が出来るのか。高速鉄道みたいに中途半端になりはしないか。この映画は中国批判みたいに見える。

 ビッグ・ネームのトム・ハンクスを起用しても失敗作に終わったようだ。製作費3500万ドル。興行収入420万ドル。大きな赤字。
   
監督
トム・ティクヴァ1965年5月ドイツ生まれ。

キャスト
トム・ハンクス1956年7月カリフォルニア州コンコード生まれ。1993年「フィラデルフィア」、1994年「フォレスト・ガンフ/一期一会」でアカデミー主演男優賞受賞。他に三作品でアカデミー主演男優賞にノミネート。

アレクサンダー・ブラック1983年9月ニューヨーク生まれ。アランを乗せて回るタクシーの運転手を演じた。

サリタ・チョウドリー1966年8月イギリス、ロンドン生まれ。テレビ映画「ホームランド」で見た女優。

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ミュージカル・ファンタジー「ラ・ラ・ランド」2016年制作 劇場公開2017年2月

2017-08-15 17:25:11 | 映画

                 
 この映画を観る前から「ラ・ラ・ランドLA LA LAND」というタイトルが気になっていた。ウィキペディアによると「ロサンゼルスと“現実から遊離した精神状態“を意味する」とある。ファンタジックに作ってあるからそう言ってもいいかな。

 叶う夢と叶わない夢の二つを描くラヴ・ファンタジー。二人はロサンジェルスの高速道路で渋滞が動き出した時に小さな接触をみたのが始まり。その小さな接触というのは、前のトヨタ・プリムスが一向に動こうとしない。後ろの車がクラクションを鳴らす。クラクションを鳴らしてプリムスの横をすり抜けて行ったのはセブ(ライアン・ゴズリング)だった。プリムスの運転席で書類に気をとられていたミア(エマ・ストーン)は、ゼブに中指を立て「ファック・ユー」。

 セブの夢は、ジャズ・クラブのお店を持つこと。ミアは、女優になること。セブはレストランでBGMのピアノを弾いて生計を立てている。ミアは、映画スタジオ内にあるカフェでウェイトレスのアルバイトで糊口をしのいでいる。ときどきオーディションを受けに行く。二人のどちらも見通しは不確かだった。

 それがあるパーティで余興のバンドを手伝っているセブを見かけたミア。顔を合わせた二人の恋物語を、歌やタップダンスやピアノ演奏やジャズによって私たちに語りかけてくる。歌やタップダンスは、並の評価しか出来ないがジャズ演奏や映画のテーマ曲が印象的だった。

 タップダンスなどは、往年のフレッド・アステアやジーン・ケリーを連想する。フレッド・アステアは優美なダンスだったし、ジーン・ケリーは力強いダンスと言える。セブとエマのダンスは、ジーン・ケリーに近いかな。こういう不安定な二人に転機が訪れる。

 セブは、高校時代の友人キース(ジョン・レジェンド)が持つバンドを手伝うことになり新曲の発表と共に全国ツアーが始まる。2年間ほどのツアーは、留守がちになる。
 一方、ミアもキャストに選ばれフランス、パリに行くことになる。お互いの成功を祈って別々の道を歩みだす。

 そして5年後、ミアは成功して大女優となり夫と子供に恵まれている。セブも大盛況の店を持ち夢を叶えた。夫と夕食後の街を歩きながらジャズの流れる店に気がつく。夫の「入ってみる?」に促されて見たものは、バンドのメンバーを紹介するセブだった。
 イスに座るミアを認めたセブは、思い出の曲を弾き始める。過去が走馬灯のように駆け巡る。もとの二人に戻れない現実を受け入れるしかない。立ち去るミアが振り返ってセブを見つめる。セブは口元にほんの少し笑みを浮かべうなずいて現実を認めサヨナラのサイン。ミアも笑みで応えさっと姿を消す。

 私はこういうエンディングを期待していなかった。5年間というものどちらかが地の果てに行って連絡のとりようもなかったのならいざ知らず、アメリカとフランスなら連絡手段はいくらでもある。再会して熱いプロポーズとならないか。それがジャズ・クラブで再会とは???。

 これは作曲・音楽担当のジャスティン・ハーウィッツの意向が強く反映しているのだろう。つまり「シェルブールの雨傘」の構成に倣っているからだ。「シェルプールの雨傘」は、第1部旅立ち、第2部不在、第3部帰還、エピローグとなっている。本作もプロローグ冬、春、夏、秋、エピローグ5年後の冬となっている。共にエンディングは愛し合う二人は結ばれなかった。

 それではこの映画を監督したデイミアン・チャゼルと音楽のジャスティン・ハーウィッツの出自を見てみよう。デイミアン・チャゼルは、1985年1月19日ロードアイランド州プロヴィデンスに生まれる。彼の父親バーナード・チャゼルはフランス系でプリンストン大学のコンピューターサイエンスの教授。母親セリア・セイヤー・チャゼルは、アメリカ系カナダ人の作家でニュージャージー大学の歴史学の教授。妹がいて女優・サーカスのパフォーマーとなっている。2014年「セッション」が評価され脚本賞にノミネート。本作でアカデミー監督賞を受賞。

 ジャスティン・ハーウィッツは、1985年1月22日カリフォルニア州ロサンジェルス生まれ。ハーバード大学では、デイミアン・チャゼルと同級生で友人。大好きな映画として1964年のフランス映画「シェルブールの雨傘」をあげている。本作にも心地よい「Mia & Sebastian Theme」が随所に挿入されている。アカデミー賞は、作曲賞受賞。歌曲賞も「City of Stars」が受賞。これをライアン・ゴズリングとエマ・ストーンが歌っている。

 製作費3000万ドル。興行収入4億4532万ドル。興行収入1億ドルが成功ラインといわれるアメリカ映画、大きくクリアーしている。ドル表示ではピンとこない。円に直すと為替相場を110円として、製作費33億円、興行収入480億円。これで皆さん大金持ちになったのかな。
      
それでは歌曲賞受賞の「City of Stars」を聴きましょう。
    
キャスト
ライアン・ゴズリング1980年11月カナダ、オンタリオ州ロンドン生まれ。2006年「ハーフネルソン」と本作でアカデミー主演男優賞にノミネート。
エマ・ストーン1988年11月アリゾナ州スコッツデール生まれ。本作でアカデミー主演女優賞受賞。
ジョン・レジェンド1978年12月オハイオ州生まれ。グラミー賞10冠に輝くシンガー・ソング・ライター。

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人生は続くよ。どこまでも「ライフ・ゴーズ・オン彼女たちの選択」2016年制作 劇場未公開

2017-08-13 16:46:12 | 映画

                      
 これは物凄く地味な映画。ラブロマンスなし、アクションなし、殺人なし、夫婦のささやかな口喧嘩とちょっと変わった男が出てくるぐらい。

 モンタナ州の小さな町、テレビは強い寒気の影響で「飼い犬の飲み水が凍る恐れもあります」と警告している。弁護士のローラ(ローラ・ダーン)が事務所に出勤するとフラー(ジャレッド・ハリス)が待ち構えていた。まったく迷惑な男。会社を訴える権利がないといくら言っても納得しない。しかも妻から追い出されたと言って事務所にやってくる。

 別の弁護士に頼んで同じことを言ってもらうしかないか。というわけで男の弁護士が「雇用主の怠慢ではあるが和解契約を結んだ。和解金を受け取ったなら訴権を放棄したことになり責任は問えない」
 フラーは「分かった」
 ローラの嘆き「男に生まれたかった。依頼人を簡単に納得させられる」

 ジーナ(ミッシェル・ウィリアムズ)は、家を新築したらガーデニングの材料にアルバート(ルネ・オーベルジョノワ)が持っている砂岩を有償で譲り受ける気でいる。夫と娘とのキャンプの帰りアルバートの家に立ち寄る。娘は反抗期でまっすぐ家に帰らないので不満たらたら。なんとかなだめようとする夫に、先に車から出ていたジーナが「甘やかしてる。いつも私を悪者にする」と不満。

 さらにアルバートとの会話で砂岩の話がまとまりかけた時に「嫌なら売らなくてもいい」と話の腰を折るような発言。これもジーナの神経を逆なでする。恋人時代はともかく、夫婦になると思ったことを口に出して、相手の気持ちに鈍感になる。こういう夫婦はどこにでも見られる。私もこうなっているかもしれない。

 牧場で馬の世話をするジェイミー(リリー・グラッドストーン)は、夜、町に出かけていったとき学校の教室に何気なく入って行った。成人教育なのだろうか年配の男女数人が机に座っている。やがて遅れて入ってきたのは、ベス(クリスティン・スチュワート)。

 ベスは、弁護士で「学校法」の授業を担当。9時に授業が終わったあと、食堂の場所を聞かれてジェイミーが先導していった。これがきっかけで何度か授業に出て、決まっていつものダイナーでベスが夕食をとるのに付き合っていた。ベスはここへ来るのは大変で片道4時間もかかるとぼやく。

 ある日突然この授業を引き継いだと言う町の弁護士が現れる。ジェイミーは授業を放棄してベスの町に向かう。車で一夜を明かし弁護士事務所の駐車場でベスを待つ。出勤してきて驚くベス。
ジェイミー「授業を楽しみにしてたのに」
ベス「言いそびれちゃったけど、運転が大変だから」
ジェイミー「実感したわ」
ベス「でしょ」
ジェイミー「邪魔する気はないけど、二度と会えないのはイヤだから。それだけ」
 ベスのぎこちない沈黙をあとにしてジェイミーは帰路につく。動物相手の日常は、無言でただひたすら働くだけ。誰かとの会話を望むべくもない。そんな時に会ったベス。「二度と会えないのはイヤだから」この気持ちは痛いほど分かる。

 この三つのオムニバスは、誰でも過ごしている日常にほかならない。この映画を退屈と思うかどうか、それは観る人の見方による。私は意外と気に入ったんですよ。

 本作は、自主映画を対象とした映画賞の第26回ゴッサム・インディペンデント映画賞の作品賞にノミネートされる。ちなみに「ゴッサム」はニューヨークのニックネームといわれる。

 ここでこの映画を監督したケリー・ライヒャルトに興味を持ちませんか? 彼女(そう女性です)は、フロリダのマイアミー・デイド・カントリーで警察官の家族として生まれ育つ。子供の頃から興味を持っていた写真を父親のカメラで撮り始めた。マサチュウーセッツ州ボストンにあるMuseum of Fine Arts に学び、2005年の夏、「OLD JOY」を監督。2006年サンダンス映画祭でプレミア上映される。ロッテルダム映画祭ではタイガー賞を受賞した最初のアメリカ映画となる。彼女はアメリカ人としては小柄で身長152cm。
     
キャスト
ローラ・ダーン1967年2月カリフォルニア州ロサンジェルス生まれ。
ミッシェル・ウィリアムズ1980年9月モンタナ州生まれ。
クリスティン・スチュワート1990年4月カリフォルニア州ロサンジェルス生まれ。
リリー・グラッドストーン出自不詳。
ジャレッド・ハリス1961年8月イギリス、ロンドン生まれ。

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捜し求める母は身近にいた「めぐりあう日」2015年制作 劇場公開2016年7月

2017-08-11 17:34:40 | 映画

                  
 この映画の監督は、韓国生まれで養子としてフランスに渡った女性のウニー・ルコント。前作、自身の体験をもとに養子をテーマとした「冬の小鳥」で注目された。本作は本人の言によれば、養子3部作の2作目ということになるらしい。

 理学療法士の30歳のエリザ(セリーヌ・サレット)は、自身の出自を知りたくて夫をパリに残し、息子ノエ(エリアス・アギス)を伴って生まれ育ったダンケルクに居を移す。しかし、病院で名前も告げずに出産できるフランス特有の「匿名出産」という制度が行く手を阻む。匿名出産のあと養子に出された人が自分の出自を知りたくなっても簡単でないというこの制度の欠点と言われる。 が、中絶を防ぎ尊い命が助かることも無視できない。

 そんな中エリゼが求める生みの親は手を伸ばせば届くところにいた。どうやらシナリオは、生み親が近くにいるという設定が初めにあってストーリーは後付けという印象。

 したがって一人息子のノエとダンケルクへ行き、夫婦は不和としてある。この夫婦不和の原因も分からない。想像してくれというのかな。説明的なセリフや場面も必要と思うのでやや不満。偉そうなことは言えないが、もう少し工夫すれば驚きの出会いもあったのではないか。

 それから突然の場面転換で戸惑ったりする。オープニングが一例としてあげられる。列車か電車だろう窓の外の景色が流れ座席のエリザ役のセリーヌ・サレット(この人なかなかいい顔をしている)が思いに耽っている表情がずーっと続きトンネルに入ったと思ったら、突然どこかの部屋で私服の女性と対面している場面。

 日本人的な風貌のその人が「いい結果ではありません」なんて言ってる。二人のやり取りからエリザの生みの親の確認は取れたが、その親が娘の存在を否定していることが分かる。普通こういうときは裁判所かお役所か観るものに理解を助ける映像を挿入することがあるが、随所にこういう余計なもののカットが多い。まるでビフテキをドンとお皿につけ合わせもなしで出された気分になる。

 ただエンディングはよかった。生みの親アネット(アンヌ・ブノワ)と公園のベンチで語らうが、何年も一緒に生きてきたようで涙のないシーンだった。
  
 監督ウニー・ルコントは、1966年、韓国ソウル生まれ。9歳のときに養護施設からフランス人の家庭に養女として引き取られた。パリの服飾専門学校でドレスデザインを学び、学生時代から映画の撮影に参加。オリヴィエ・アサイヤス監督「パリ、セヴェイユ」(91年)などに出演し、衣装デザインのアシスタントを経て、06年に『冬の小鳥」脚本を執筆。09年にフランス・韓国合作作品として完成させる。第62回カンヌ国際映画祭の特別招待作品となり、東京国際映画祭ほか数々の賞を受賞という経歴。

キャスト
セリーヌ・サレット1980年4月フランス、ボルドー生まれ。
アンヌ・ブノワ出自不詳
エリエス・アギス出自不詳

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身動き出来ない羽交い絞め人生「ハーフネルソン」2006年制作 劇場公開2017年6月

2017-08-09 15:58:05 | 映画

                 
 制作から11年も経って公開されるというのは珍しい。多分に「ラ・ラ・ランド」効果を狙ったと言える。それでも批評家の高い評価を得ていて、主演のライアン・ゴズリングはアカデミー主演男優賞にノミネートされている。公開を躊躇したのは、内容がかなり地味な点で営業サイドが敬遠したのかもしれない。

 黒人やヒスパニックが通う高校の歴史教師とバスケット・ボールのコーチ、ダン・チューン(ライアン・ゴズリング)は、教え方に定評があり「良い教師」の部類に入る。「歴史とは何か?」のテーマを掲げ上手に生徒の考えを引き出していく。

 「歴史は時代的な変化の学習だ。変化とは? 二つのものが押し合うこと。相反する二つだ。何がある?」生徒を指名して次々と発言していく。「昼と夜」「大と小」「右と左」「自分と相手」「教師と生徒」

 ダンには致命的な悪い癖がある。薬物中毒のジャンキーであることだ。誰もいないことを確かめたトイレ。タバコに詰めた薬物吸引で恍惚の世界。そこへ現れたのが母親の手で育てられバスケット・ボール部の一員であるドレイ(シャリーカ・エップス)。ダンを見つける。

 教室のダンと今のダンの落差の激しさ。麻薬の売人やギャングの多い地区育ちのドレイには日常見る光景に過ぎない。ダンはドレイを自宅まで送り届ける。「教師と生徒」相反するものの変化、友情が芽生える。

 しかし、ジャンキーのダンは職を失う。これからどうなる? そんなこと誰もわからない。まさにレスリングの技、羽交い絞めのハーフネルソンにかけられたみたいだ。ちなみに製作費70万ドル。国内興行収入270万ドル。海外200万ドル総計470万ドル。隠れた佳作といえる。
  
監督
ライアン・フレック1976年9月カリフォルニア州生まれ。

キャスト
ライアン・ゴズリング1980年11月カナダ、オンタリオ州ロンドン生まれ。2016年「ラ・ラ・ランド」でアカデミー主演男優賞にノミネート。
シャリーカ・エップス1989年7月ニューヨーク市ブルックリン生まれ。

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トンマな大人二人をしのぐ小さな探偵「ナイスガイ」2016年制作 劇場公開2017年2月

2017-08-07 16:54:42 | 映画

                
 時は1977年カリフォルニア州ロサンジェルス、死んだはずのポルノ女優アメリア(マーガレット・クアリー)を探すのは、妻から逃げられ安酒浸りの私立探偵ホランド(ライアン・ゴズリング)。
 
 一方アメリアから探されたくないと頼む「未成年に手を出すな」がモットーで腕力だけの示談屋ジャクソン(ラッセル・クロウ)。

 この二人の出会いは、探すなと腕力ものを言わせてホランドが叩きのめされるところから始まる。ところが得体の知れない危険な男たちがアメリアを追っているということで助け出さないと。私立探偵と示談屋が結束する。とは言ってもこの二人に任せて置けないと思っているのは、十代後半のホランドの娘ホリー(アンガリー・ライス)だ。

 親父ホランドから危ないからと遠ざけられるが、持ち前の機転で、結局は目的に迫っている。ハチャメチャ、ドタバタ典型的なバディ・ムービー。気楽に鑑賞しょう。

 1977年ということもあってその時代を髣髴とさせる懐かしさがある。典型的なでかいアメ車とか。エンドロールに流れる曲もその時代。アル・グリーンの「Love and Happiness」

 今回は監督に焦点を当ててみよう。シェーン・ブラックは、アクションのジャンルでパイオニアの脚本家の一人とされ、文字のLで始まる5本の作品がある。
1987年「リーサル・ウェポンLethal Weapon」
1989年「リーサル・ウェポン2炎の約束Lethal Weapon2」
1991年「ラスト・ボーイ・スカウトThe Last Boy Scout」
1996年「ロング・キス・グッドナイトThe Long Kiss Goodnight」
1993年「ラスト・アクション・ヒーローLast Action Hero」である。
本作は脚本と監督を務める。

 さて、お耳に届くアル・グリーンの映画に挿入された1977ディスコ・ヴァージョン「Love and Happiness」をどうぞ!ちょっと体をゆすってみたくなるようで。
        

  
監督
シェーン・ブラック1961年12月ペンシルヴェニア州ピッツバーグ生まれ。

キャスト
ラッセル・クロウ1964年4月ニュージランド、ウェリントン生まれ。2000年「グラディエーター」でアカデミー主演男優賞受賞。
ライアン・ゴズリング1980年11月カナダ、オンタリオ州ロンドン生まれ。2016年「ラ・ラ・ランド」でアカデミー主演男優賞にノミネート。
アンガリー・ライス2001年1月オーストラリア生まれ。
マーガレット・クアリー1994年10月モンタナ州生まれ。

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恋の味と食べものの味、それに風の味「胸騒ぎのシチリア」2015年制作 劇場公開2016年11月

2017-08-04 18:06:24 | 映画

                      
 アラン・ドロン主演の1960年「太陽がいっぱい」というミステリーはよかった。これに味を占めたのか同じアラン・ドロン主演で評判のよくなかった「太陽が知っている」をリメイクがこの映画。

 なんで不評の映画のリメイクをするのかよく分からない。この映画は、観光映画と思えばいいかもしれない。それにセックス描写の露骨さでポルノ映画とも言えるかも。

 全国的人気のロック歌手で声帯を手術して声が出ないマリアン(ティルダ・スウィントン)と年下の写真家ポール(マティアス・スーナールツ)は、シチリア州トラーバニ県バンテッレリーア島でバカンスを楽しんでいた。
 そこへ「サプライズがある」という電話と共に飛行機から降りてきたのが敏腕音楽プロデューサー、ハリー(レイフ・ファインズ)とその娘ベン(ダコタ・ジョンソン)。サプライズと言うのがこのベンのこと。とにかくこのハリーという男、騒々しくて落ち着きがない。

 ポールは、あまり歓迎していない様子。というのもマリアンの現役時代の恋人がハリーだったからだ。「一体何の用事があるんだ」というのがポールの率直な気持ち。で、ハリーの真意は、マリアンとよりを戻すことだった。

 人間の色恋には限度がないというか、ハリーとマリアンが町へ買い物に行っている間、ポールとベンはハイキングに出かける。遅く帰ってきた二人を見たハリーの嗅覚は鋭く「やったのか?」とポールに詰問。こんな話で退屈し始める頃、やっと事件が起こるという具合。

 観光映画として見る場合、地中海にあるこの島で天然泥パックが自由に無料で出来る湖。夕食だけ提供、6月から9月までの季節営業の自然の地形を生かしたまさにワイルドなレストラン。ワイルドと言えば借りている家の屋外テーブルで食事中ヤモリが落ちてきたり、無害な蛇がぞろぞろと散歩したりが当たり前。
 
 それに軽自動車のようなエンジン音の幌つきオープンカー。食べものと言えば新鮮な海産物。大きな魚を塩で固めて蒸し焼きにしたものがあり、イワシやエビも豊富。そして地元特産のチーズ。

 さらに初夏の頃吹くシロッコは、砂交じりの強風。そういう風景にマリアンが着るシックな装い。男どもはジーンズによれよれのシャツでなんとも冴えない。

 そしてポルノ映画としては、観てもらうしかない。惜しげもなく裸体を見せてくれる二人の女優に触れておこう。
 マリアン役のティルダ・スウィントンは、父方の祖先はスコットランドの名家で母親はオーストラリア人。1983年にケンブリッジ大学を卒業(専攻は政治学と社会学)。細身であるがスラリとして着映えがするなあと思っていたら身長180センチもあるそうな。2007年「フィクサー」でアカデミー助演女優賞受賞。

 ベン役のダコタ・ジョンソンは、ドン・ジョンソンとメラニー・グリフィスの娘。モデルから出発、まだ27歳これからといえる。
 父親のドン・ジョンソンは、1984年からのテレビシリーズ「特捜刑事マイアミバイス」でTシャツにサングラスというワイルドなセクシーさで全米No1のスターの座を獲得。プレイボーイでもある。
 母親のメラニー・グリフィスは、1988年「ワーキング・ガール」でアカデミー主演女優賞にノミネート。コカインと飲酒の問題を抱え1988年リハビリ施設に入所。2009年にも処方箋薬中毒の治療のためリハビリ施設に入所と言うちょっと不幸な時間を費やしている。この二人はすでに離婚している。

  

  

  
監督
ルカ・グァダニーノ1971年イタリア、シシリー、パレルモ生まれ。

キャスト
レイフ・ファインズ1962年12月イギリス、サフォーク生まれ。
ダコタ・ジョンソン1989年10月テキサス州オースティン生まれ。
マティアス・スーナールツ1977年12月ベルギー生まれ。
ティルダ・スウィントン1960年11月イギリス、ロンドン生まれ


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