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身震いするほど戦場の狂気が迫る本 ユージン・B・スレッジ著「ペリリュー・沖縄戦記」

2015-07-30 21:21:45 | 読書

             
 私にはどうしても記憶から消し去れない映像がある。それは米軍撮影の記録映画だったと思うが、沖縄の断崖の上にモンペを穿いた中年の女性がおどおどしていて、手前の米兵がなにやら言っている。(モンペは今の人に通用するんだろうか?)しかし、女性は身を翻して断崖に飛び降りた。女性は死を選んだ。これはやりきれない映像だった。日本の軍部が盛んに言っていた「鬼畜米英」が刷り込まれた悲劇と言える。

 そして目にした新聞のこの本の案内。沖縄戦記が気になった。著者のユージン・B・スレッジは、大学を中退してまで海兵隊に入隊した愛国者。
 
 アメリカ第一海兵師団第五連隊第三大隊K中隊所属の歩兵として六十ミリ迫撃砲手となった。戦場の最前線で見聞した日本兵への憎悪や戦友への思いやりに加えアメリカ兵の残虐性も合わせて記述してある。

 スレッジが体験した日本兵(ジャップやニップの蔑称がある)への憎悪はどこから来るのか。ガダルカナル上陸作戦後、海兵隊は一人の日本兵を捕虜にした。この捕虜は、自分の部隊は飢えに苦しんでいる。海兵隊が「解放」してくれれば投降するという。
 情報将校のゲッチイ大佐と兵25名が現地に向かった。ところが着いてみると待ち伏せ襲撃にあい3名が脱出したという。このだまし討ちが海兵隊に憎悪を植えつけるきっかけになったらしい。

 そればかりではない。死んだ振りして手榴弾を投げつける。負傷したふりをしてアメリカ軍衛生兵に救いを求め、近づいてきた衛生兵をナイフで刺し殺す。それに加え真珠湾奇襲攻撃。(当時はこの認識で仕方がない)おかげで海兵隊員たちは日本兵を激しく憎み、捕虜にとる気にもなれなかったと書いている。

 さらに、日本兵もまた、われわれアメリカ兵に対しても同様の憎悪を抱いていたに違いない。ペリリュー島と沖縄での戦場体験を通じて、私はそう確信した。彼らは狂信的な敵愾心を抱いていた。つまり、日本兵たちは、現代の人々には理解できないほど強烈に、自分たちの大儀を信じていたのだ。

 憎悪と大儀の間に容赦のない残忍で凶暴な戦闘をもたらした。そういう狂信的な戦場で一人ひとりの兵士がどのように耐え抜いたかを理解するためには、海兵隊が戦った戦場の実相を十分考慮すべきだ。 という配慮を見せる。

 日本兵の常軌を逸した行動を書いたが、アメリカ兵もそれに劣らず目を覆う行為がある。「ふとそばにいた海兵隊員の動きが気になった。われわれの迫撃砲班の仲間でなく、通りかかりの戦利品のおこぼれにあずかろうしたようだ。
 死体らしきものを引きずって近づいてくる。しかし、よく見るとその日本兵はまだ息があった。背中にひどい傷を負って、手が動かせないのだ。さもなければ最後の息が絶えるまで抵抗したに違いない。その日本兵の口元には大きな金歯が光っていた。
 問題の海兵隊員は、なんとしてもその金歯が欲しいらしかった。ケイバー・ナイフの切っ先を歯茎に当てて、ナイフの柄を平手で叩いた。日本兵が足をばたつかせて暴れたので、切っ先が歯の沿って滑り、口中深く突き刺さった。
 海兵隊員は罵声を浴びせ、左右の頬を耳元まで切り裂いた。日本兵の下顎を片足で押さえ、もう一度金歯をはずそうとする。日本兵の口から血があふれ、喉にからんだうめき声をあげて、のたうち回る。私は、そいつを楽にしてやれよ! と叫んだ。が、返事の代わりに罵声が飛んできただけだった。
 別の海兵隊員が駆け寄ってきて、敵兵の頭に弾を一発うち込みとどめを刺した。金歯をあさっている海兵隊員は何か呟いて、平然と戦利品外しの作業を続けた。歩兵にとっての戦争はむごたらしい死と恐怖、緊張、疲労、不潔さの連続だ。そんな野蛮な状況で生き延びるために戦っていれば、良識ある人間も信じられないほど残忍な行動がとれるようになる。われわれの敵に対する行動規範は、後方の師団司令部で良しとされているものと雲泥の差があった」

 著者は、パラオ諸島ペリリュー島の戦闘、沖縄の戦闘、共に激戦といわれる地獄を潜り抜けて生還した。しかし、絶えずまとわり着いたのが「恐怖」だった。出撃命令を待つ間、今度の戦闘で命を落とすかもしれない。 という恐怖は何度経験しても払拭できないという。

 それでも著者のむすびの言葉は『やがて「至福の千年期」が訪れれば、強国が他国を奴隷化することもなくなるだろう。しかしそれまでは、自己の責任を受け入れ、母国のために進んで犠牲を払うことも必要となる―私の戦友たちのように。
 われわれはよくこう言ったものだ。「住むに値する良い国ならば、その国を守るために戦う価値がある」特権は責任を伴うということだ』

 最後にノンフクション作家の保坂正康さんの解説によせた言葉が印象的だった。「日本軍の将校、下士官、兵士からこのような内省的な作品が書かれなかったことに、私は改めて複雑な思いを持ったのである」

銀行の内幕を皮肉な時評で嗤う「ザ・キャピタル~マネーにとりつかれた男 !12」wowowで放送

2015-07-28 16:22:30 | 映画

            
 大企業といわれる会社は、都心の一等地に本社ビルを構えているが、その中の実情は最近話題の東芝に限らず、なにやら謎めいた秘密のシェルターを連想する高層ビルだ。フランス最大のフェニックス銀行も同様の面構えだ。

 フェニックス銀行頭取が、ゴルフのティーショットで構えたとたん倒れる。睾丸ガンで一時的に回復するが、転移していたため予断は許されない。そこで次期頭取の選任が行われ、現頭取の指名で若いマルク・トゥルヌイユ(ガド・エルマレ)と決められた。

 こういう抜擢には、多くの妬みや羨望が錯綜する。表面的な親しみの裏には、相手の弱みを握る手段を駆使する。マルクは、アメリカの世界最大級の投資会社ゴールドマン・サックス勤務を経てフェニックスに移ってきた経済の専門家といわれる。その力が、フェニックスをフランスで最大の銀行に育てた。

 マルクも配下の人間の動静を掴むために元警察官の調査員を雇った。世の中にはマネー・ゲームをしたがる輩がごまんといる。大株主のディトマー(ガブリエル・バーン)もその一人。日本のミツコ銀行を買えと盛んにせっついて来る。

 フェニックス銀行ニューヨーク支店には、アジア地域担当の専門家モード(セリーヌ・サレット)がいる。マルコは彼女の意見を聞いてみた。

 「不良債権が80%にもなる劣悪銀行で、買収すればフェニックスの株価を下げる。ディトマーらは最安値で買い叩いてから、株価操作をするのだろう」

 マルコはモードに男としての興味を抱いた。しかし、モードは先刻承知で「おやすみ」といって手を振った。

 調査員からは刻々と情報がはいってくる。マルクはミツコ買収を決断した。予想通りの展開。ディトマーらにインサイダー取引だと脅されるが、お前たちも一蓮托生だぞ! と言って裏情報のDVDを滑らせる。インサイダー取引云々というところは、分かりにくいけれど痛快な反撃といえる。

 それに辞任を匂わせておきながらフェニックス銀行の重役たちにも裏情報で脅す。ミツコ銀行買収の災難から救った頭取として再登場というわけ。幹部連中を集めた会合で「皆さん、私は現代のロビン・フッドです。(ここで一同大笑い)貧乏人から巻き上げ金持ちに!」盛大な拍手。

 マルクが振り返ってレンズに向かっていうのは「子供でしょ、大きな子供たちだ。遊ぶだけ。最後まで遊び続ける。はじけてなくなるまで……」マネーゲームという遊びを続ける大きな子供たち。社会派監督といわれる面目躍如の皮肉に、市場をあまりにも気にした東芝問題が重なって哀れに思えてくる。
        
        
        
        
        

監督
コスタ=カヴラス1933年2月ギリシャ、アテネ生まれ。

キャスト
ガド・エルマレ1971年4月モロッコ生まれ。
ガブリエル・バーン1950年5月アイルランド、ダブリン生まれ。
セリーヌ・サレット出自不詳

面白かった本の話。ヘンリー・デンカー「復讐法廷OUTRAGE」文春文庫

2015-07-25 21:02:58 | 読書

             
 第1級のリーガル・サスペンスだ。この本はちょっと古くヘンリー・デンカーが上梓したのは、1982年、文春が文庫化したのが1984年となっている。古くても中身は新鮮で一気に読了は確実。

 私は本を読み始めると傾向として同じような内容が続くという癖がある。スコット・トゥロー「無罪」「出訴期限」、ジョン・グリシャム「司法取引」と続いて「復讐法廷」となった。「無罪」「出訴期限」「司法取引」いずれも読み応えがあり読後感は満足のひとこと。

 この本の原題が OUTRAGE激怒となっていて、倉庫会社の事務員の男デニス・リオーダンが、わが娘をレイプして殺した男を射殺したところから始まる。一人の男の激怒は、5発の銃弾を黒人のレイプ犯に浴びせることになった。

 気になっていた悔恨や罪の意識にさいなまれるのではないか。その心配はいらなかった。良心のうずきはさらさらなく、ただ自由な気持ち、あの男を絶えず憎まずにはいられなかった強迫観念からの開放感に包まれたリオーダンは、その足で警察に出頭、一部始終を告白した。しかも、弁護士はいらないと頑強に拒否する。

 自分で弁護しない限り弁護士抜きの裁判はありえない。一介の倉庫会社の事務員では自らの弁護を認められることはない。そこで登場するのは、ニューヨーク州裁判所に臨む古びた建物の中で三人の若い弁護士と共有するベン・ゴードンだった。

 地方検事局の上司と喧嘩の末、唐突に辞めて弁護士事務所を開いたが、弁護の依頼は生活費の足しにもならないくらいで暇をもてあましていた。そんな時、叔父ハリーの薫陶を受けたというアーロン・クライン判事からの電話が、とてつもなく厄介な事件を押し付けられることになる。

 リオーダンをここまで激怒させたのは、射殺した男が娘のレイプ殺人の犯人である明白な事実があったにもかかわらず、排除法則によって無罪放免されたことによる。一般市民は、この排除法則がどんなものであろうと感情的には受け入れられない。従って古風な敵討ちを実行したのがリオーダンだった。

 ちなみにこの排除法則とは一体どんなものなのか、この本の訳者あとがきから引用してみよう。「排除法則がどうしてそんなに問題になるのかというと、もともと米国憲法修正第四条や第五条によって保証されている、違法な逮捕や捜索は受けない権利や自己に不利な証言はしなくてもよい権利の基づくこの法則が、さまざまな矛盾をはらんでいるからである。
 そもそも排除法則には、警察が行き過ぎによってこれらの人権を侵害するのを抑止する意味があった。つまり行き過ぎによって収集した証拠は証拠として認めないぞ、という懲罰的な含みがある。それ自体大変素晴らしいことなのだが、現実には犯罪者の人権ばかり手厚く保護する結果になり、証拠や自白も揃っているが、有罪に出来ないということになる」

 リオーダンの娘が殺されてから1時間もしないうちに黒人の男が拘束された。逮捕されたのは、イタリア人ばかりが住んでいる地区で、パトカーの警官は遅い時刻に黒人が一人で歩いているのを怪しんだ。呼び止めて職務質問をし身体検査をした。

 持っていたのは、時計と金の鎖と十字架だった。それは疑いもなくリオーダンの娘のものだった。しかも、男の顔には引っかき傷があり、男の血液と一致する血液が娘の爪の間についていた。さらに、娘の首についていた指の跡は男のものであり、娘の体内から採取した精液が男のズボンに付着していたものと一致。にも拘らず警官の令状のない身体検査が証拠排除に適用された。

 法廷でのやり取りが実にスリリングで、まるで映画の場面を観ているようだった。余談ではあるが、「復讐法廷」という同じタイトルのテレビ朝日系のドラマで今年2月放映があった。ネットで内容を見ると殆どこの本のエッセンスを取り込んである。一部内容の変更があるが、まるで独自のアイデアのようになんの断り書きもない。ただ、最後に「本作はヘンリー・デンカー著『復讐法廷』のモチーフを参考にしておりますが、発表された当時のアメリカと現代の日本との時代背景や法律体系の違いに鑑み、オリジナルの部分を創作、付与して制作しております」とのテロップが入るらしい。なんだか姑息な手段に思える。

 観た人の感想を読むとまあまあというところらしい。出演はデニス・リオーダンを田村正和、ベン・ゴードンを竹内結子になっている。

 さて、この原作の陪審員の評決は「われわれ陪審員一同は有罪の評決を、裁判制度に関して、くだすものである。被告人デニス・リオーダンについては、これを無罪とする」ちなみに、この排除法則は日本でも適用されているから念のため。

子供の頃のほのかな恋心が蘇る「あと1センチの恋 ’14」劇場公開2014年12月

2015-07-23 17:41:20 | 映画

            
 こんな経験はないだろうか。小学生のころ、近所の遊び仲間の女の子。半ばふざけていて弾みで女の子の手を握った。周囲の悪ガキにやんやと冷やかされ、それ以後なぜか女の子が気になる。

 小学校から中学へ、だんだん遊びが少なくなる。女の子とあまり顔を合わせる機会がない。時たま道で会っても言葉を交わさない。気持ちは話したいが照れくささが先にたつ。成長して女の子は、素敵な二十代の顔になる。まだ、勇気が出ない。疎遠は進む。いつしか姿も見なくなった。女の子の残像があるだけ。

 原題は、Love, Rosie。手紙などのサインに書く「愛をこめて ロージー」。

 ロージー(リリー・コリンズ)とアレックス(サム・クラフリン)は、仲のいい友達。心の片隅に淡い恋心も芽生えているかもしれないが、お互い意識して告白をしない。むしろ他の女性や男性に関心があるように振舞う。

 いまどきの映画は、そんな微妙な感情を捨てているのかいきなりくっついたりするが、この映画は古風といえば古風だろう。その微妙な感情は、時として悪さをする。

 アレックスの友人グレッグ(クリスチャン・クック)と間違いを犯すロージー。そして妊娠。アレックスと約束をしたボストンでの大学生活。ハーバード大の医学部へ進むアレックス。妊娠のためボストン大を断念するロージー。ここで二人の歩く道は、左右に分かれる。 が、この道はやがて交わるときが来る。 

 私は今でもハッキリと覚えている可愛い女の子の顔を思い出させてくれた。ロージー役のリリー・コリンズは、1951年1月ロンドン生まれでロックバンド・ジェネシスのドラマーからエンタテイナーとなったフィル・コリンズの娘だ。

 それではこの映画とは関係がないが、父親のヒット曲、1984年全米第1位の「One More Night」をどうぞ!
   
      
      
      
      
 

監督
クリスチャン・ディッター ドイツ生まれ。

キャスト
リリー・コリンズ1989年3月イギリス生まれ。
サム・クラフリン1986年6月イギリス、イングランド生まれ。
クリスチャン・クック1987年9月イギリス、イングランド生まれ。

ドラフトの指名を巡る内幕が面白い「ドラフト・デイ ’14」劇場公開2015年1月

2015-07-21 17:29:45 | 映画

            
 アメリカ合衆国とカナダには、4大プロースポーツ・リーグがある。アメリカン・フットボールのナショナル・フットボール・リーグ(NFL)、野球のメジャー・リーグ・ベースボール(MLB)、バスケット・ボールのナショナル・バスケットボール・アソシエーション(NBA)、アイスホッケーのナショナル・ホッケー・リーグ(NHL)だ。

 各リーグの年間収入は、アメリカン・フットボールが90億ドル(2012年)、野球が80億ドル(2013年)、バスケット・ボールが50億ドル(2011~12年)、アイスホッケー24億ドル(2012~13年)となっている。

 その中で一番の稼ぎ頭アメリカン・フットボールの実在するチーム、クリーブランド・ブラウンズのGM(ジェネラル・マネージャー)サニー・ウィーバー・Jr(ケヴィン・コスナー)の指名権やトレードを交えた駆け引きに加え、サニーの私生活も点景として添えてある。

 なんといってもドラフト当日の駆け引きが見ものだ。ルールは、前シーズン成績の悪かったチームからの指名順、他チームとのトレードO・Kの指名権のトレード、指名する持ち時間は10分、この時間内に指名しなければならない。場所は、ニューヨークのラジオシティ・ミュージックホール。

 7順指名のブラウンズは、巻き返しを図るためにはサニー・ウィーバーの手腕にかかっていた。私生活では秘書のアリ(ジェニファー・ガーナー)と内縁の関係を続けていてアリの不興を買っている。しかもチームの監督ベン(デニス・リアリー)とも意見が衝突している。

 オーナーのフランク・モリーナ(フランク・ランジェラ)から全権を託されているとはいえ、このドラフトがGMの地位を左右する。心身ともに緊張状態のサニー・ウィーバーの行く末は……。

 アメリカというのは、なんでもエンタテイメントに仕立て上げるという他国にない面白さを秘めている。この映画も並みの出来だがドラフトの内実を知るだけでもいいと思う。

 60歳のケヴィン・コスナーではあるがまだまだ若々しい。中年のジェニファーガーナーと組んでも違和感がないのはさすがだ。
       
       
       
       
       

監督
アイヴァン・ライトマン1946年10月チェコスロバキア生まれ。

キャスト
ケヴィン・コスナー1955年1月カリフォルニア州リンウッド生まれ。
ジェニファー・ガーナー1972年4月テキサス州ヒューストン生まれ。
デニス・リアリー1957年8月マサチューセッツ州生まれ。
フランク・ランジェラ1938年1月ニュージャージー州生まれ。

京都の魅力はなんだろう? 米大手観光雑誌が選んだ世界の人気観光都市の1位 京都

2015-07-19 17:19:36 | 観光

  
 米大手観光雑誌というのは「トラベル・アンド・レジャー」で発行部数約100万部、購読者層は、平均年収1200万円を超え年間旅行回数平均23回も旅行をしている。旅慣れて、みる目もある人たちだという。その人たちが選んだのは京都で2年連続という。

 今日の読売新聞「論点スペシャル」で「トラベル・アンド・レジャー」の編集長ネイサン・ランプ氏、JTB総合研究所社長日比野健氏それに聖護院八ッ橋総本店専務鈴鹿加奈子氏の三人がそれぞれ京都について語っている。

  まず旅なれた人たちが選んだ理由についてランプ氏は次のように語る。「京都の最大の魅力がその豊かな文化と伝統にあることは間違いない。神社仏閣といった個々の名所が素晴らしいというだけでなく、都市全体として文化的な雰囲気に満ちていることが、旅行者をひきつけていると考えている」

 JTBの日比野健氏によると「アップルの創業者スティーブ・ジョブスが京都を愛し、何度も訪れていたことが、海外で人気が広がる遠因になったと思う。彼ら知的な層に理解者を増やすことはとても大切だ」

 そして鈴鹿加奈子氏は「京都に旅行すると、見るだけでなく、体験できる。京都はそれをアピールし、海外の方も気付き始めたのだと思う。和服を着てみる。舞妓の芸に触れる。料亭で懐石料理を楽しんで庭園や床の間の掛け軸、生け花といった和の文化に触れる。寺の宿坊に泊まる。一歩中に入ると、もっと見えてくる文化が京都にある。それは私たちの日常に存在する。本物の京都を深く知ってほしい」

 今後のあり方として日比野健氏は「政治経済の極として東京があり、文化の極として京都がある。観光地として日本の魅力を磨くために、この二つの極を生かすという発想が大切だ」

 歴史的にも関東と関西の両極が軸になったのも確かなことで現代でもその骨格に違いない。この二つの極は言葉や食べ物、習慣まで対照的な魅力はある。今はややクロスオーバしてその色合いは薄くなったにしても魅力が色あせることもない。

 爆買いツアーのついでの表面的な観光客であふれかえっている京都だと思うが、知的で豊かな階層を満足させることに終わりはないのだろう。

 2015年世界人気観光都市ランキングは、
 1京都 
 2チャールストン(アメリカ)
 3シエムレアブ(カンボジア)
 4フィレンツェ(イタリア)
 5ローマ(イタリア)
 6バンコク(タイ)
 7クラクフ(ポーランド)
 8バルセロナ(スペイン)
 9ケープタウン(南アフリカ)
 10エルサレム(イスラエル)。

 ここから見えるのは、従来の名だたる観光地が入っていない。例えば、パリ。この富裕な読者層は、有名観光地は行きつくして目先の変わった異体験の出来る都市に向かっているように思える。そういう嗜好の変化があるからいつまでも京都が1位とはいかないだろう。これからは知的で旅行好きな大衆の吸引が必要な気がする。

テロに屈しないための大きな代償「アメリカン・スナイパー ’14」劇場公開2015年2月

2015-07-17 17:04:26 | 映画

           
 2001年9月11日のニューヨーク、ツインタワー・テロ攻撃は、クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)にとって正義への挑戦と映った。テキサスでカウボーイを目指していたが、海軍の特殊部隊シールズに入隊する。

 そして派遣されたイラクで、味方のアルカイーダ系武装勢力掃討作戦を援護するために、屋上から不審な人物を排除する役目をになう。その狙撃の腕は敵に悪魔といわせ懸賞金もかけられたという。

 映画はそれを克明に描くが、自伝では狙撃について、敵を悪人と呼び撃ったことに罪悪感はないと言い、もっと敵を倒せば多くの味方の命が救えた。また、射殺した敵の中には少年兵も多く含まれていたが仲間を傷つけようとする者は容赦なく撃ったという。

 さすがに映画ではそのようなセリフはないし、むしろ怪しい人物を倒した後に、残った対戦車ロケット砲を子供が持ち上げ撃とうとする。クリス・カイルの人差し指は、引き金に掛かっている。「それを捨てろ! 頼むから捨ててくれ!」と呟く。

 画面は、子供がロケット砲を放り投げて走って逃げていった。ほっとするカイル。イーストウッド苦心の挿入シーンといえる。

 それとカイルが帰国後、軍から離れてPTSD(心的外傷後ストレス障害)に罹って悩むことや、その体験をPTSDで悩む帰国兵士のために尽力することも描かれる。それでも、この映画は賛否両論があって、観た人の感じ方次第。

 正義や国を守るということは、かなりの代償を覚悟しなければならないし、すべての人が受け入れるとも限らない。なんとも辛い立場におかれる。

 そして皮肉にも、2013年2月2日PTSDを患う元海兵隊員エディー・レイ・ルースの母親からの依頼で、同じく退役軍人のチャド・リトルフィールドと共にテキサス州の射撃場でルースに射撃訓練を行わせていたところ、ルースが突然カイルとリトルフィールドを射殺。ルースは現場から逃走したものの保安官によって逮捕された。クリス・カイル享年38歳だった。

 イラクに4回派遣され160人も射殺して仲間を助け、戦闘にも参加して生還したクリスに平和な故郷で銃弾に倒れるとは思ってもみなかったことだろう。このくだりは、葬儀場面にナレーションが入るだけだ。
       
       
       
       
       
       
       
           

監督
クリント・イーストウッド1930年5月サンフランシスコ生まれ。

キャスト
ブラッドリー・クーパー1975年1月ペンシルヴェニア州フィラデルフィア生まれ。
シェナ・ミラー1981年12月ニューヨーク州ニューヨーク生まれ。

繰り返されるバス事故。大型車にはぜひ自動ブレーキ装着の義務化を……

2015-07-15 17:28:54 | 時事

        
 またまた起こったバスの事故。「三重県四日市市の東名阪自動車道下り線で14日、大型バス(乗客25人、運転手2人)が大型ダンプカーに追突し茶畑に転落、横転した事故で、県警高速隊は、バスを運転していた吉田勝美運転手(50)が前をよく見ていなかった可能性があるとみて、ドライブレコーダーの記録を確認するなど事故原因の特定を進めている」

 もし、自動ブレーキが装着してあれば防ぐことが出来た事故かもしれない。その自動ブレーキの信頼性はいかほどのものなのか。あるサイトで実験結果がアップされている。

 実験車は6台。ボルボV60,スバル アウトバック、フォルクスワーゲンUP、ミニクーパーS、ニッサン デュアリス、メルセデスベンツCクラス。この実験は人間にどう反応するかを見たもの。
 6台のうち1台だけが完璧に停止した。それは日本車のスバル アウトバックだった。

 このブレーキをそのまま大型車とはいかないが、これらをベースにして大型車用を可及的速やかに実現して欲しい。というのも、高速バスの利用を考えているからだ。現在ではまだまだ安全とはいえないから利用は差し控えたい。
自動ブレーキの実験サイトはこちら

冤罪事件だと言われるウェスト・メンフィス3を映画化「デビルズ・ノット ’13」

2015-07-13 17:10:42 | 映画

             
 ウィキペディアによれば、ウェスト・メンフィス3(ウェスト・メンフィス・スリー)は、1993年にアメリカ、アーカンソー州ウェスト・メンフィスで起きた殺人事件について、3人の低学年の男の子を殺害したとして有罪判決を受けた3人のティーンエージャーの呼び名である。

 首謀者であるとされたAは死刑、残りのBおよびCは終身刑であった(A、B、Cの生まれはそれぞれ1974年、1975年、1977年)。

 この事件は地域社会のみならず全米からかなりの注目を浴びた。被告少年達は地域内では普段から変わり者と見られ、悪魔崇拝者との噂もあったことに対し、地域の大衆がメディアの報道や普段からの偏見によって煽動されパニック(モラル・パニック)を起こし、少年達を犯人に仕立て上げた冤罪ではなかったかとの批判も根強い。
 
 2011年8月19日、A・B・Cは無実を主張しつつ有罪であることを認める司法取引に応じ、10年の執行猶予で釈放された。結果的にそれまで懲役はそれぞれ18年をつとめたとある。
 
 映画は、少年3人の判決で終わるが、殺されたパム・ホップス(リース・ウィザースプーン)の息子スティーヴィーが常に持ち歩いていた小形のナイフが、どういうわけか夫テリー(アレクサンドロ・ニヴォラ)の道具箱に入っていた。殺された子供の靴紐についていた体毛とテリーの体毛とが一致したとテロップで流れるが、私立探偵のロン・ラックス(コリン・ファース)が現在でも調査を続行中のようだ。

 地域住民の偏見も問題点の一つだろう。例えば、スティーヴィーの母親パムは、テレビのインタビューで悪魔崇拝について聞かれ「だって彼らは不良たちよ。異常者ども。まともならあんな格好はしない。とんでもない音楽を聴くしみんな知っている。噂を聞いた人たちから私も聞いた。あいつらは悪魔を崇拝し犬を殺しているとか」と苦々しく答える。

 「あんな格好」というのは黒いマントを纏っていることだし、「とんでもない音楽」はヘヴィメタル。つまり攻撃的な音楽性と歌詞が目立ち、一般には悪魔崇拝やオカルト、猟奇的な犯罪、麻薬についてなど、退廃的で過激な歌詞や偏見を歌う。

 犯人とされた3人、リーダー格のダミアン・エコールズ(ジェームズ・ハムリック)とその友人ジェイソン・ボールドウィン(セス・メリウェザー)、ジェシー・ミスケリー・Jr(クリストファー・ヒギンズ)たちは素行がよろしくない。

 こういう条件が重なれば住民感情は、逮捕の時点で犯人と決め付けてしまう。警察の捜査も素行が悪く悪魔崇拝の異端の輩となれば犯人に仕立て上げるべくあらゆる手段を講じることになる。

 この事件の判決は、ダミアンには第1級殺人罪で死刑。あとの二人は第2級殺人罪で終身刑だった。恐ろしく思うのは、まだ十代の少年に死刑や終身刑を科されることだ。その点からも警察の捜査は慎重であるべきだろう。

 俳優で注目したのは、ダミアン・エコーズを演じたジェームズ・ハムリックだ。色白でかたちのいい顔にかたちのいい鼻と唇、女性的ともいえる風貌は、オカルト好きな男にぴったりだし、なにやら妖しい雰囲気も持ち合わせている。
原作は、2002年マーラ・レヴァリット著「悪魔の結び目」
       
       
       
       
       
  

監督
アトム・エゴヤン1960年7月エジプト、カイロ生まれ。

キャスト
コリン・ファース1960年9月イギリス、ハンプシャー州生まれ。
リース・ウィザスプーン1976年3月ルイジアナ州生まれ。
ジェームズ・ハムリック出自不詳。
セス・メリウェザー出自不詳。
クリストファー・ヒギンズ1989年3月ワシントン州スポーケン生まれ。

大人の恋を描いてはあるが……「フェイス・オブ・ラブ ’13」劇場公開2015年2月

2015-07-11 17:58:57 | 映画

            
 夫を亡くした妻が追慕のあまり、夫に瓜二つの男と恋をするというお話。妻ニッキーにアネット・ベニング。夫ギャレットと瓜二つのトムをエド・ハリス。隣人でニッキーに気のあるロジャー(ロビン・ウィリアムズ)が物語を綴る。

 アネット・ベニングは、アカデミー主演女優賞に4回ノミネートされ、エド・ハリスは、アカデミー主演男優賞1回助演男優賞3回ノミネートされ、ロビン・ウィリアムズは、1977年「グッドウィル・ハンティング/旅立ち」でアカデミー助演男優賞を受賞。主演男優賞として3回ノミネートされるといういずれも実力派俳優で構成されている。

 観た感想を結論から言えば、ベテラン俳優を用いながらあまり余情が感じられないし、これを観た人のそれぞれの感じ方に委ねられていると思える。うがった見方を要求されるのか、あるいは作り方に問題があるのか、これは観る人によるだろう。

 シアトルから自宅に戻った女子大生のサマー(ジェス・ワイクスラー)は、母親ニッキーから紹介されたトムがあまりにも亡き父とそっくりなのを見て、受け入れられないのか「出て行って!」と叫ぶ。

 これは理解できない部分だ。成人した女性が、初対面の人にどんな理由があっても「出て行って!」という言葉は言わないはず。このあたりで白けてしまった。

 さらにエンディングに向けて語られる部分も変化球がやってくる。この辺は書くと長くなるので割愛するが、ストレートな終わり方がよかったかもしれない。映画サイト「allcinema」には、レビューが一つもなかった。
       
       

監督
アリー・ポーシン イスラエル生まれ

キャスト
アネット・ベニング1959年5月カンザス州トペカ生まれ。
エド・ハリス1950年11月ニュージャージー州生まれ。
ロビン・ウィリアムズ1951年7月~2014年8月イリノイ州シカゴ生まれ。
ジェス・ワイクスラー1981年6月ケンタッキー州ルイビル生まれ。