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映画 ジョン・トラヴォルタ「ベイビー・トーク(‘89)」

2007-10-29 14:14:39 | 映画

              
 主役はジョン・トラヴォルタではない。ましてや女優のカースティ・アレイでもない。マイキーという男の赤ちゃんだ。
 この子がつぶやいたり話しかけたりする。ブルース・ウィリスが声の出演をしている。ここで思うのは女性監督のエイミー・ヘッカリングのアイデアだ。赤ちゃんの声となれば子供の声を当てるのが一般的に考えることだろう。ところがこの人は大人の男の野太い声を持ってきた。それがなんともおかしく味のあるユーモアとなった。

 話は単純で分かりやすい。会計士のモリー(カースティ・アレイ)は、担当する会社の社長から言い寄られ、モリーも満更でもなくセックスを楽しむ。その結果妊娠、街角で陣痛がおき飛び乗ったのがジェームズ(ジョン・トラヴォルタ)のタクシーだった。あとは想像通りのハッピー・エンドとなる。

 ウィキペディアによると、この映画制作費が750万ドル、興行収入が1億4千万ドルのヒットとなった。これまでヒット作に見放されていたジョン・トラヴォルタもこの作品で息を吹き返し、一段とスター街道を走り始める。
 ヒットに気をよくして、第2作「リトル・ダイナマイツベイビー・トークTOO」を同じスタッフで作った。興行成績は分からない。
 第3作「ベイビー・トーク3ワンダフル・ファミリー」を、スタッフを入れ替えて作ったが失敗作のようだ。当然だろう! 最初のアイデア・ウーマンの監督でないとだめなのは。

 精子が群れをなして泳いでくる。「これはなんだ? このヘンテコなものは」とか「ここはどこだ?」というブルース・ウィリスの声がおかしい。セックス・シーンをこんなファンタスティックに描くのも監督のアイデアなんだろうと思う。
 監督エイミー・ヘッカリング1954年5月ニューヨークブロンクス生れ。この映画制作時は、35歳だった。それに写真のように美人なんだ。
              

読書 ローレンス・ブロック「すべては死にゆく」

2007-10-23 09:03:08 | 読書

              
 私立探偵マット・スカダー・シリーズ16作目。人を殺すその瞬間の性的快感を求めて男の子から女性まで何人も血祭りに上げてきた連続殺人者は、現役の警官だった頃のマット・スカダーに街を追われ、その仕返しに戻ってくる。
 この殺人者の明晰な頭脳と冷酷な神経は、死刑囚プレストン・アップルホワイトに殺人の罪を着せて、自ら心理学者アーン・ボディスンと名乗り最後の遺体の放棄場所を聞きだすといいながら刑務所長に取り入りアップルホワイトに面会する。
 アップルホワイトにはさもよき理解者の顔を見せ、死刑執行に立会い死を確認するのが目的だった。

 ここはこの殺人者の能力を表出したに過ぎないが、ニューヨークに現れた殺人者は、スカダーがよく参加するAA集会(アルコール依存症患者の自主治療会)にエービーと名乗りスカダーの周囲に近づく。
 スカダーの妻エレインの親友モニカを、エレインが経営するアンティーク・ショップで買ったペーパー・ナイフで刺殺する。この場面の描写がなんとも凄惨で、あまり気分のいいものではない。

 スカダーが新聞を買いに出かけた隙に部屋に押し入りエレインをレイプ中、戻ってきたスカダーと格闘のすえ殺されるが、スカダーも死の淵をさまよい現世になんとか引き返すことが出来る。
 チョット都合がよすぎるところもあるが、退屈する読み物ではない。こういう描写がある。“タワーのあった場所は依然としてがらんとしていた。その空隙は私の心のスカイラインの中でさらに大きくなっているように思われた。私はしばらく眺め、何の変化のないことを見届けてベッドに戻った”
2001年9月11日のテロリストの攻撃が、多くの作家の作品の中にも重くのしかかっているのが分かる。

 それに最近スターバックスのコーヒーを注文する場面をよく見かける。映画「プラダを着た悪魔」でもアン・ハサウェイがテイクアウトする。一種のはやりなのか? 

 著者のローレンス・ブロックは、1938年6月24日ニューヨーク生れ。20代初めの頃から小説を発表し、作品の数は50冊を超える。『過去からの弔鐘』より始まったマット・スカダー・シリーズは、第9作『倒錯の舞踏』がMWA(アメリカ探偵作家クラブ)最優秀長編賞、第11作『死者との誓い』がPWA(アメリカ私立探偵作家クラブ)最優秀長編賞を授与された。
 また彼自身、MWAグランド・マスター賞を受賞し、名実ともにミステリー界の巨匠として精力的に活動している。

映画 ジョシュ・ハートネット、ブルース・ウィリス「ラッキーナンバー7(‘06)」

2007-10-19 14:28:33 | 映画

              
 気楽にくつろいで観るぶんには、最初少し混乱するがやがてハッキリして面白かったという映画。観るものを引っ張る力はある。競馬のインチキ・レースの情報を信じて賭けるが目論見が外れて大金の借金が残った男。しかも借りたくない怖い相手に。殺し屋グッドキャット(ブルース・ウィリス)は、その男の一人息子を殺さなかった。
 
 もともとは同じ組織に属していたギャング、ボス(モーガン・フリーマン)、ラビ(ベン・キングズレー)は、お互い反目し殺し合いを演じている。
 その渦中に素性のハッキリしないスレヴン(ジョシュ・ハートネット)がそれぞれの組織から借金を返せと迫られる。この辺は本当に借金があったのかあるいは言いがかりか判然としないが。そして、どんでん返しの意外な事実が明らかになる。 このスレヴンこそが殺し屋グッドキャットが殺さなかった一人息子だった。グッドキャットとスレヴンとの協同作戦でギャングたちに長年の怨念を晴らす。
              
 監督 ポール・マクギガン1963年9月スコットランド生れ。この作品は、ミラノ国際映画祭で観客動員賞とベストフィルム賞を受賞。
 キャスト ジョシュ・ハートネット1978年7月サンフランシスコ生まれ。若き日のトミー・リー・ジョーンズに似ているといわれている。気になる俳優の一人。
 ブルース・ウィリス1965年3月西ドイツ生れ。
 ルーシー・リュー1968年12月ニューヨーク・クイーンズ生れ。ジョシュの恋人役。中国系か? 小柄で若く見えるが、アップになると36歳が納得できる。
 モーガン・フリーマン1937年6月テネシー州メンフィス生れ。‘04「ミリオンダラー・ベイビー」でアカデミー助演男優賞受賞。
 ベン・キングズレー1943年12月イギリス/ヨークシャー州スナイトン生れ。’82「ガンジー」でアカデミー主演男優賞受賞。
 スタンリー・トゥッチ1960年11月ニューヨーク州生れ。

映画 ニコール・キッドマン「記憶の棘(‘04)」

2007-10-15 12:58:27 | 映画

              
 10歳の少年が突然現れて「君の夫のショーンだ」と言ったとしたら、大方の人は信じないだろう。ところが夫が死んで丁度10年目、アナ(ニコール・キッドマン)の母エレノア(ローレン・バコール)の誕生パーティにその少年は現れる。
              
 最初は当然に信じなかったが、アナとショーンの微細な関係にまで及び、緑色のソファでファックしたことまで明らかになるとアナの心は揺れ動く。
 半ば信じたい気持ちが強くなる。婚約者のジョゼフ(ダニー・ヒューストン)との間にも溝ができてくる。

 アナは、少年に「二人でどこか遠くへ行こう。11年待てばあなたは21歳、そのとき結婚しよう。どんな青年になってるんだろう」と待ち遠しそうに言う。
              
 ところが少年の口から出たのは「僕はショーンじゃない」だった。

 傷心のアナが許しを乞うジョゼフは「分かった」の一言で受け入れる。アナが未だにショーンを振り切れないのを承知の上で。心の広い男だ。こんな真似は出来ない。

 映画サイトallcinema onlineの書き込みに、少年の「思い込み」だったと2件あるが、わたしはそうは思わない。
 10歳の少年がアナに恋した結果、手に入れたショーンと不倫相手とのやり取りの手紙を見て計画を実行したに過ぎない。むしろ一人の女性が、忘れられない男性を思う純粋性が印象に残る。

 印象といえば作風も少し変わっている。例えば、オープニングでは雪の公園を一人の男(ショーン)がジョギングをするシーン。走る男の背後からカメラが延々と追走する。トンネルで息絶える場面まで2分30秒ほどかかっていた。
 それにカメラを固定してアップで俳優が喋るという力量を試されるような場面作りがあった。それからなぜニコール・キッドマンは、ボーイッシュな髪型なのかに私は頭を悩ませっている。10歳の少年とのキス・シーンがあるからなのか?!

 監督 ジョナサン・グレイザー1965年3月ロンドン生れ。
 キャスト ニコール・キッドマン1967年6月ホノルル生れ。’02「めぐりあう時間たち」でヴァージニア・ウルフを演じてアカデミー主演女優賞を受賞。
 キャメロン・ブライト1993年1月カナダ/ブリティッシュコロンビア州生れ。
 ダニー・ヒューストン1962年5月イタリア・ローマ生れ。父はジョン・ヒューストン。
 ローレン・バコール1924年9月ニューヨーク生れ。
 アン・ヘッシュ1969年5月オハイオ州生れ。

映画 ジャック・ニコルソン「さらば冬のかもめ(‘73)THE LAST DETAIL」

2007-10-11 10:59:23 | 映画

              
 ジャック・ニコルソンが36歳での出演作である。邦題には詩的なタイトルがつけられているが、寒々とした冬の風景の中に護送する水兵二人が、ポーツマス海軍刑務所で囚人が連れされられるのを無言で階段を見上げているショットが、いやでも現実的瞬間を意識させられる。
 また二人が刑務所を出て歩みさる住宅地の風景も、人影一人なく道ばたの黄色の枯れ草と吐く息の白さと足音が厳寒の厳しさとともに僅か40ドルの窃盗で、8年の刑と懲戒除隊の運命も重なる。

 ビル(ジャック・ニコルソン)とマルホール(オーティス・ヤング)は、小児麻痺の献金箱から40ドルを盗んだとして懲役8年と懲戒除隊の判決を受けたラリー・メドウズ(ランディ・クェイド)を護送することになる。
 バージニア州ノーフォーク海軍基地からメイン州ポーツマス海軍刑務所までグレイハウンド・バスやアムトラックの鉄道で移動する。
 最初は手錠をかけていたが、途中からはまったく手錠なしの護送となる。その間、ビールをがぶ飲みして列車の発車時間に遅れたり囚人ラリーの筆おろしに手を貸したりする。
 娼婦とのこの場面がなかなか秀逸だが、筆おろしの意味が現在も通用するのだろうか? 童貞を失うことで、生涯最初のセックス体験だ。そして、雪の舞う公園でバーべキューと震えながらビールを飲んでいると、女の味を知ったラリーは、刑務所に入るのがいやになったのかゆっくりと離れようとして気づいたビルに、教えてもらった手旗信号で右手を横に出してブラボー、右手を斜め上に左手を斜め下にだしてヤンキー、ひざの前で両手を交差してバイバイ。結局は捉まってしまうけれど。
              
 ジャック・ニコルソンの自然な演技は、この頃から一級品といってもいい。DVDに入っている監督解説などでよく言われる、街中を歩くシーンが非常に難しいと。この映画は、そんなシーンの連続で注意深く見ていたが、葉巻を吸いながら唾まで吐くということまでやっていた。

 監督 ハル・アシュビー1929年9月~1988年12月ユタ州オグデン生れ。
 キャスト ジャック・ニコルソン1937年4月ニュージャージー州ネプチューン生れ。この映画では、アカデミー主演男優賞ノミネート。
 ランディ・クェイド1950年10月テキサス州ヒューストン生れ。この映画でアカデミー助演男優賞ノミネート。
 オーティス・ヤング1932年7月~2001年10月ロードアイランド州生れ。

映画 ジョディ・フォスター「パニック・ルーム(‘02)」

2007-10-07 13:03:31 | 映画

              
 ニューヨーク、マンハッタンのセントラルパークにほど近い390平方米(118坪)4階建裏庭があり南向きの表庭がある石造りの広大なタウンハウス。
 建築は1879年マンハッタンの真ん中でエレベーターつきのこの広さと全階フロアリング、暖炉は6つ、所有者は金融界の人物パールスティン。
 マスタースイートに接してパニック・ルーム(避難所)が設置しあった。パールスティンの死後は、残された遺族が相続争いの遺産の半分は隠し場所不明だった。

 この屋敷を買ったメグ・アルトマン(ジョディ・フォスター)は、薬品会社の経営者スティーブン・アルトマンの元妻だった。
そして娘サラと引越してきた夜、空き家と思って侵入してきたバーナム(フォレスト・ウィッテカー)、ジュニア(ジャレット・レトー)、ラウール(ドワイト・ヨーカム) の三人の男たち。メグとサラに気づいた男たちに追われて飛び込んだのがパニック・ルームだった。
 ところが莫大な遺産の半分がパニック・ルームの床下の金庫に納められているのを知っている男たちが目指すのもパニック・ルームだった。
 母娘と男たちの駆け引きや実力行使にハラハラドキドキさせられる。実力派の俳優が演じているので楽しめた映画といえる。
               
               
 とりわけジョディ・フォスターのお色気、黒のチュニック(チュニックというのだろう?)が、色白の肌を際立たせおまけに胸の谷間も露わになるという男なら目が釘付けになりっ放し。
 娘役のクリスティン・スチュワートも、一見男の子かと見まがうほどで、不思議に注目させられる存在だ。

 元夫の連絡で雨の中警官が訪ねてきてメグとのやりとりに緊張感をかきたてられる。
 警官「言いたいことがあって、もし今言えないなら合図をしてください。まばたきをするとか何か合図を、何でもいい。安全と思う方法で」
 メグ「警官は頭がいいわ。家に賊がいるとでも? 大した訓練だわ。思い過ごしよ。私は大丈夫」
 賊がいるとでも? がキーワードになりラストではSWATチームが大挙して押しかけてくる。

 監督 デヴィッド・フィンチャー1962年8月コロラド州デンヴァー生れ。‘92  「エイリアン3」でデビュー。「セブン」が世界的にヒット。
 キャスト ジョディ・フォスター1962年11月ロサンジェルス生れ。’88「告発の行方」でアカデミー賞主演女優賞を受賞、’90「羊たちの沈黙」で2度目のアカデミー主演女優賞を受賞してトップスターの地位を確立。
 「パニック・ルーム」のあとは1年1作のペースで出演しているようだ。女権拡張論者(フェミニスト)としても活躍していて、‘98年と’01年に男の子を出産しているが、父親の名前は公表されていない。

 ウィキペディアから彼女の才媛振りを見ると“頭の回転が早く知性派、社会派女優と言われ自分自身の価値観に説得力を持ち演技力や想像力が豊富で魅力的な女優。ハーバード大学、プリンストン大学、コロンビア大学、スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校を経てイェール大学に入学した。
 アメリカ文学を専攻し、トニ・モリソン(1993年に黒人作家として初のノーベル文学賞を受賞)の論文で優秀な成績で卒業したことはよく知られている”
              
 クリスティン・スチュワート1990年4月ロサンジェルス生れ。この映画で幸運を射止め、着実に注目若手女優への階段を登っている。
         
パニック・ルームのクリスティン   ’06年のクリスティン、美人になった。
 フォレスト・ウィッテカー1961年7月生れ。’88クリント・イーストウッド監督作の「バード」でジャズ・プレイヤー、チャーリー・パーカーを熱演、カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞、‘06年には「ラストキング・オブ・スコットランド」でウガンダの元大統領アミン役でアカデミー主演男優賞を受賞した。
             
 ジャレッド・レトー1971年12月ルイジアナ州生れ。’05「ロード・オブ・ウォー」でニコラス・ケイジと互角に渡り合っていた。
             
 ドワイト・ヨーカム1956年10月ケンタッキー州バークヴィル生れ。カントリー歌手として2度のグラミー賞受賞、21回ものノミネートの人気歌手。
             

読書 ジョゼフ・ウォンボー「ハリウッド警察25時」

2007-10-03 13:14:15 | 読書

              
 アメリカ西海岸のロサンジェルス市警は、9千人の警官で467平方マイル(すぐに広さがイメージできない)もある土地を管轄していて、常に人員不足に悩まされている。
 そんな中、ハリウッド署の警邏巡査たちの日常を、元警官の著者は鮮やかに描いてみせる。ハリウッド署そのものをこんな風に説明する。
 “ハリウッド署はまた、部屋の壁にいろいろなものを貼っている点でも市警のほかの分署と異なっていた。署内のいたるところに映画のポスターが貼ってあり、すべてではないがロサンジェルスを舞台にした警察ものの映画のポスターが多かった。
 警察署に映画のポスターが一杯飾ってあれば、やってきた人は自分がどんな地域にいるのかはっきりと分かる”

 宝石店が襲われてダイアモンドが強奪される。店主はダクトテープを口に巻かれ、手榴弾を足の間に挟みダクトテープでぐるぐる巻きにして強奪犯の片割れの女が言う
「あんた、足の力が強ければいいけどね。力を抜くと、安全レバーがはすれるわよ。そしたら、あんたは一巻の終わり」
 その直後、男が店主の両膝をしっかり押さえ、手榴弾のピンを抜いて、脇の床の上に落とした。さて、ここからどんな展開に持っていくのか興味は尽きない。

 それにもう一つ銀行のATM用の現金を狙った強奪事件が起こる。この二つの事件が最後に一点に集中して、ほとんどの警官が集結する。
 銃撃戦が展開され、射撃場で標的しか撃ったことのない警官が初体験するという映画にはない場面もある。警官の日常を通じて人生の哀歓を滲ませ年配警官同士のラブロマンスや日系女性警官の勇気ある行動やとりわけラストのヤク中の女性と老齢女性の心温まるシーンも捨てがたい。

 著者は1937年生まれというからもう70歳でこの本を書き上げたのには敬服する。1974年に退職するまでロス市警に勤務。1970年のデビュー作『センチュリアン』はベストセラーとなり映画化された。2004年にMWAの巨匠賞を受賞している。