人生の転機を、ある殺人事件の陪審員を務めたことで手にした女性の物語。彼女の名前は、マヤ・シール、白人。今は小説を書いていて民主党支持者。
2009年、ロサンジェルスのユダヤ系の大富豪ルー・シルバーの娘ジェシカ・シルバー15歳が行方不明になる。やがてジェシカが通う高校の教師黒人男性のボビー・ノックが逮捕される。
その裁判の陪審員選びのとき隣に座った黒人の大学院生リック・レナードとマヤが親密な関係を築く。これはルール違反で発覚すれば、陪審員から除外される。二人は慎重に行動した。
4か月にも及ぶ裁判、ホテルに缶詰めにされた陪審員の評議が始まる。最初の投票結果は、有罪11票、無罪1票。全員一致を求められる陪審員からすれば残念。無罪を投票したのは、マヤ・シールだった。これはかの有名な映画「12人の怒れる男」とそっくりな展開。
検察側の証拠開示は完璧で、世間は100%有罪を期待していた。車の中のDNA.トランクに付着していた血液、指紋すべてジェシカを指していた。さらにこの二人の親密度を表すメールの文面。かな
り卑猥で「プッシーが濡れているの」とジェシカが送ったりする。
しかし、遺体の発見がないうえマヤの視点「私たちは事実が何を意味するかを議論しているんじゃない。何が事実なのかを議論しているの。メールのメッセージは一つの事実だとみんなは言う。そうじゃないと私は言う。みんなは血痕は事実だと言う。私はわからないと言う」
人は過去に見聞きした経験から類推する。有罪投票の多い中、マヤの努力によって最終的な評決が「無罪」となった。世間からは期待を裏切ったとバッシングの嵐し。
しかも、恋人のリックが本まで出版してマヤを批判した。一旦は無罪に同意したにもかかわらず。こんな男には愛想をつかしてもいいのに、10年後リックはボビー・ノックの犯行である証拠を持っていると言って、かつての陪審員があのホテルに集まるから来ないかという誘い。対立はしたが愛おしさが残るマヤは参加した。
10年ぶりに会ってみると男30代後半、以前にも増してハンサムで落ち着きと聡明さが窺える。マヤも陪審員という法の世界を体験して刑事弁護士になった。昔なじみの気安さで、リックをマヤの部屋に招き入れた。
話題はあの裁判。口喧嘩になり「もう帰って!」というマヤ。帰るそぶりを見せないリックに業を煮やし部屋から飛び出すマヤ。ホテル周辺を歩き回って感情のたかぶりを納めて部屋に戻る。そこには頭から血を流して倒れているリックを見る。
警察は当然第1容疑者としてマヤ・シールを挙げる。マヤは、所属する法律事務所の凄腕黒人弁護士クレイグ・ロジャースに助けを求める。マヤは窮地を脱するために正しい事実が欲しかった。調査の結果、マヤの主張が正しかったと同時に自身の窮地を脱するための大芝居を画策するのだった。彼女はやっぱり凄腕の刑事弁護士だった。
すべてが終わった後、マヤはリックに手紙を書いた。家の裏のパティオに座り、言う機会のなかったさよならの言葉を書き留めた。彼女を公の場で非難したことなどリックのすべてを許した。チャンスがあったら彼を愛していると伝えたいと書いた。彼も彼女のことを愛していたと思っていた。マヤは手紙を折りたたむと火をつけた。灰が宙を舞い、秋の風に運ばれていくのを見守った。
そしてこの作品が、映画「12人の怒れる男」をオマージュしているのも確かなことだ。この小説を創作したグレアム・ムーアは、1981年シカゴ生まれの作家・脚本家。2014年の映画「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」で、アカデミー賞脚本賞を受賞している。