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成熟した大人の恋 素晴らしいラストシーン「リスボンに誘われて’13」劇場公開2014年9月

2015-04-10 15:42:02 | 映画

               
 ラストシーンが非常に印象的だった。毛色は違うが「第三の男」のラストシーンに匹敵すると私は思う。

 スイスの高校で古典文献学を教える57歳のライムント・グレゴリウス(ジェレミー・アイアンズ)は強い雨の朝、今にも欄干から飛び降りようとしている赤いコートを着た女性を抱きかかえて助ける。「一緒にいてもいいですか?」とその女性。ライムントは自分の教室に招き入れ椅子に座らせる。

 授業を始めてしばらくするとその女性は、口に指を当てて「黙って!」の仕草をして教室を出る。
窓から見ると女性はコートも着ないで雨の中を急ぐ姿が見える。赤いコートを引っつかんで急いで教室を飛び出した。教室には、生徒の戸惑いとニヤニヤ笑いが残った。

 外へ出たが女性はどこにも見当たらない。何か手がかりがないかとコートのポケットを探ると一冊の本が出てきた。タイトルは「言葉の金細工師」。
 記されていた馴染みの古書店を訪ねたとき、本の間からひらひらとリスボン行きの切符が舞い落ちた。発車時間は15分後に迫っていた。駅で女性を探したが見当たらない。やがて発車のアナウンス。ライムントは、衝動的に何の考えもなく列車に飛び乗った。

 スイスからポルトガルのリスボンまでは、かなりの距離がある。ライムントは、女性が持っていた本を熟読した。哲学的な言葉の奔流に圧倒され感銘を受けた。

 著者は、アマデウ・デ・プラドとなっていた。ライムントが本を手がかりに謎を解き始める。そこにはポルトガルの独裁政権下の反体制運動に参加していたアマデウ・デ・プラド(ジャック・ヒューストン)、エステフォニア(メラニー・ロラン)、ジョルジェ(アウグスト・ディール)の生々しい人間模様が浮かび上がる。

 エステフォニアを巡るアマデウとジョルジェの友情の破綻。アマデウとエステフォニアとの別離の後、アマデウの早世。これらがアマデウ以外の人々と会うに従い目に見える形になっていく。

 これを手助けしたのは、眼科医のマリアナ(マルティナ・ゲデック)だった。マリアナとの出会いは、自転車とぶつかりメガネが壊れその調達のために訪れたのが縁になった。

 ようやくライムントがマリアナを食事に誘う。当然身の上話になる。ライムントが5年前に妻と別れたこと。それも妻が出て行ったという。「退屈だから」というのがその理由。マリアナは、「退屈じゃないわ」と言っていたずらっぽい表情。マリアナがライムントに好意を持っているのがすぐ分かる。

 赤いコートの女性の素性も分かり本を返してライムントはスイスへ帰る。プラットフォームでライムントが言う。
「発車まで5分あるな。ありがとう。私が退屈じゃないと言ってくれて。でも、彼らと比べてしまう。アマデウやエステファニアたちは、活力みなぎる痛烈な人生を送った」
「でも、散り散りになったわ」とマリアナ。
「だが、精一杯生きた。私の人生はここ数日を除いて……」
「その人生に戻るのね」発車のベル。
「ここに残ればいいのに」
「何だって?」
「ただ、ここに残ればいいのよ」
 ここで二人の遠景のショットで終わる。この旅は、ライムントにとって自らの人生を見つめなおすきっかけともなった。余情が残り落ち着いた雰囲気は、極上のクロージングと言える。

 映像から見るリスボンの町も魅力的だ。ヨーロッパによくある車が一台通れるかという石畳の細い道。年代を感じさせる古い建物。私がもっと若ければ、マリアナのような女性との恋を夢見て飛び出すだろう。そう思わせる魅力が、この映画にはある。ドイツ、スイス、ポルトガル合作。
         
         
         
         
         
         
監督
ビレ・アウグスト1948年11月デンマーク生まれ。

キャスト
ジェレミー・アイアンズ1948年9月イギリス、ワイト島生まれ。
メラニー・ロラン1983年2月パリ生まれ。
ジャック・ヒューストン1982年12月ロンドン生まれ。
マルティナ・ゲデック1961年9月ドイツ、ミュンヘン生まれ。
アウグスト・ディール1976年1月ベルリン生まれ。