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読書「アイアン・ハウスIRON HOUSE」ジョン・ハート著2012年ハヤカワ・ミステリ文庫刊

2022-12-13 16:23:19 | 読書
 アメリカ合衆国ノースカロライナ州西部、アッシュビルの西40マイル(約64キロ)の地点にアイアン・マウンテンがあり、抱かれるようにアイアン・マウンテン少年養護施設がある。
 そこに収容されていたマイケルとジュリアンの兄弟愛。マイケルの恋人スペイン生まれのエレナとの愛の行方が切ない。

 兄弟は川原の捨て子だった。弟のジュリアンは、体つきも弱弱しく気も弱く精神的に不安定なところもある。したがって、暴れん坊の少年たちのいじめの対象だった。

 雪の吹き荒れる寒い日、ジュリアンはトイレでヘネシーという少年をナイフで刺し殺して呆然としているところへ、ジュリアンを探し回っていた兄マイケルが現れ、状況を見て取って「マイケルがやった」と言えとジュリアンに言い残して厳寒の吹雪の中に姿を消した。

 あれから23年、マイケルは30代半ばエレナとも巡り合いエレナのお腹の中には二人の結晶が世に出るのを待っていた。そんな状況からマイケルの稼業、ギャングの一員から抜け出すべく余命いくばくもないベッドに伏せるニューヨークのボス、オットー・ケイトリンに許しを求めた。ボスの絶大な信頼と寵愛を受けるマイケルの申し出なら、ボスは快諾せざるを得ない。
 しかもボスは以前から病の痛みからすでに死を覚悟していた。何度も周辺に「安らかにしてくれ」と懇願していた。しかし、息子のステヴァンはそのたびごとに応急措置で引き延ばしていた。マイケルが一人で見舞ったある晩、「頼む」の一言から、マイケルは鼻と口をふさいでボスの希望に応えた。

 しかし、これが凶と出たのだ。ボスの息子ステヴァンと幹部のジミーがマイケルに脅しをかけてくる。「弟のジュリアン、お前のかわいこちゃんが無事でいられると思うな」なのだ。

 どうしてかというと、マイケルが堅気になってニューヨーク市警などの笑顔に応えて、組織の全貌が明らかになることなのだ。殺人を含めあらゆる悪の所業は、命取りになる。

 そんな状況の中で州上院議員ランドール・ヴェイン所有の池から次々と遺体があがる。身元を調べるとアイアン・マウンテン少年養護施設にいたことがわかる。ジュリアンに容疑の目が注がれる。ジュリアンは暗く寂しい独特の表現方法で、児童文学作家の地位を保っている。それでも今はジュリアンの養母となっているランドール議員の妻アビゲイルの心配は尽きない。

 これに永年アビゲイルの運転手、ボディガードとして仕えるジェサップ・フォールズと加えてマイケルの調査力は、アビゲイルの過去、マイケルとジュリアンの過去が驚きの真実とともに明らかになる。

 マイケルの調査力と洞察力は、腕利きの刑事を思わせ組織の殺し屋という雰囲気はない。とはいっても殺し屋も痕跡を残したのでは意味がない。殺し屋にも調査力と洞察力が必須は間違いない。殺し屋稼業もなかなかしんどいのである。

 それはともかく、この本の読後感もどれだけ残忍になれるかとか、貧しさと豊かさの隔たりの大きさ、上院議員が持つ馬で走り回れる広い地所と大きな館、アビゲイルの母が住むたわんだ玄関ポーチと剝がれそうな外壁と小さな家という描写に包まれながら、「過去の時間が長くなり、未来の時間が短くなる」というくだりに己の人生をも振り返るのである。