二草庵摘録

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金文京「三国志の世界 後漢 三国時代」講談社学術文庫を読む

2021年01月05日 | 歴史・民俗・人類学

■金文京「三国志の世界 後漢 三国時代」講談社学術文庫(中国の歴史4)2020年刊(原本は2005年)

金文京先生は、中国語文学がご専門のようなので、文学臭ふんぷんたる著作かと予想していたが、そうではない。土台がしっかりとした、歴史書となっている。
この「中国の歴史」シリーズはどれをとってもレベルが高く、力作ぞろい、本書も圧倒的な読後感を味わうことができた。
以前も書いたが、文字(印字)がもう少し大きければいうことはない。

日本で徳川時代から大人気の「三国志」は「三国志演義」を元にしている。
わたしは若いころ、吉川英治さんの「三国志」を読み、それから10年ばかりして、もう一度吉川三国志を読み返している。TVゲームの三国志も、一時期大ブレイクした(´Д`)
攻略本も売れたんじゃないかしら?
ランチの折に、友人とそんな話をした記憶がある。

しかし、本書には、当然ながらエンタメの要素はなく、学術文庫にふさわしい硬派な一冊。
いつものように、BOOKデータベースの内容紹介をコピーさせていただこう。

《漢王朝滅亡(二二〇年)の衝撃は、この国に大きな岐路をもたらした。流浪の英雄、蜀の劉備。一流の詩人でもあった魏の曹操。老獪な現実主義者、呉の孫権。そして朝鮮半島と邪馬台国をめぐる国際関係。一〇〇年の混乱を経て、中国に統一帝国を志向する理念が確立する。日本人に最も親しまれてきた外国文学『三国志演義』から解き明かす大抗争の時代。》

本書で大きく扱われているのは、魏呉蜀のうちの呉である。一般向けの著作で、このように呉にスポットライトをあてたものは、他に例がないのではないか? だれもが知っているように、「三国志演義」の主役は蜀なのだ。
魏の曹操や、その息子で詩人として有名な曹植について書かれた本は、ときおりみかける。

三国志演義から正史、そして史実へというのは、歴史愛好者にとっては、当然の流れだろう。20世紀末ころから、遺跡、埋蔵文化の発掘が盛んになったので、これまで謎とされていた部分が、徐々に解き明かされてゆく。金文京先生は多少は推測を交えながら、三国時代の社会史、文化史、宗教や文学など、網羅的に丁寧に拾い上げている。

「三国志演義」を横目で睨みながら、英雄豪傑と知者の正面からの激突、あるいは謀略合戦についても、新視点からさまざまに分析しておられる。関帝廟の本質とは何か? 劉備と諸葛孔明とは、じっさいにはどんな人物であったのか?
フィクションではなく、新発見を踏まえた史的事実に果敢に切り込んでゆく。その切れ味は相当に鋭いものがある。
「帯方太守劉夏の評判」の一章など、一読者の教示によりミス(事実誤認)が見つかって、全面的に改稿しているそうである。

こぼれ話的なエピソードも、随所に挟み込んである。
たとえば、

《北京で発行されている中国地図では、台湾省はあっても中華民国は存在しない。またつい最近まで台北で発行された中国地図では、中国全土が中華民国で、首都は南京になっているばかりでなく、モンゴルまでもが中国の領土であるかのように描かれていた。これは1949年以前の中華民国そのままである。
このように現実を反映していない理念的地図は、南北朝鮮の場合も同じである。同じ分断国家でも、かつての東西ドイツでは分断の情況がそのまま地図に反映されていたのとは対照的であろう》(384ページ)

・・・など、するっと読み流しにはできない認識の在処を衝いている。
本シリーズは台湾版、中国版で、150万部の異例の売り上げを記録した。そのうえ、本巻「三国志の世界 後漢 三国時代」は、韓国語版まで刊行されているそうである。
史書としてのレベルの高さ、著者の洞察力、読み物的な配慮が合算され、多くの読者の支持を得たのだ。

力作だし、ずっしりとした重厚な読み応えがあるから、5点満点を付してもいいのだけれど、一歩ひいて、4点にしておく。実質は4.5あたりだろう。
講談社学術文庫で「中国の歴史」全巻を、いずれすべて読むことになりそうですなあ(´ω`*) 
これまで5巻読み終えた。第11巻の「巨龍の胎動 毛沢東vs.鄧小平」(天児慧)は単行本で持っている。



評価:☆☆☆☆

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