二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

アメリカ文学の“精髄” ~「老人と海」「赤い小馬」を読む

2023年02月08日 | 小説(海外)
■ヘミングウェイ「老人と海」福田恆存訳(新潮文庫 昭和41年刊)



以前に読んでいるので、再読である。一日か二日で読み切れる中編小説をふと読んでみたくなった。
「ドン・キホーテ」「戦争と平和」「人間のしがらみ」(「人間の絆」)などの大作を、最近買い直したのだけれど、どうも勇気がわいてこない。二週間、三週間・・・あるいはそれ以上の時間をかけて読んでやろうというのは、ある種の決心が必要(´Д`)

しかし、短編や中編ならばそういった配慮はいらないから、思いついたとき、すらすらっと読み了えることができる。
現行版は高見浩訳なので、福田恆存訳は旧版に属する。
プロットはいたって単純明快だから、ご存じの方が多いのではないか?  
でもねぇ、サンチャゴが大魚と格闘するシーンが延々と続くあたりで、少々中だるみというか、くり返しがふえてくる。

今回のリーディングでも、やっぱりここはもっと切りつめてもいいのでは・・・と感じた。その方が迫力がますのは目に見えている。
それと福田恆存訳ではよくわからなくて、隔靴搔痒の感に悩まされたが、読み了えたあとで現行版の高見浩訳でそのあたりがすっきりと説明されているのを参照した。

とくに、(ほぼ)ラストシーンのあたり、もやもやしていた部分が高見浩訳で理解できた。新版は訳注が充実しているので、大助かりであった。
まあ、このごろの新訳は、説明過剰なものが多いので、読者によっては「うるせー」と感じる人もいるだろう。

老人文学といえるものは、青春文学に比べて数が少ない。「老人と海」はヘミングウェイが生前に発表した最後の作品で、主人公の老人は叙事詩的な英雄のおもかげがある。この作品により、ヘミングウェイは1953年にピューリッツァー賞、1954年にはノーベル文学賞を受賞したので、押しも押されもせぬ代表作。

《道のむこうの小屋では、老人がふたたび眠りに落ちていた。依然として俯伏せのままだ。少年がかたわらに坐って、その寝姿をじっと見まもっている。老人はライオンの夢を見ていた。》
これが最後のセンテンス、体操ではないが、着地はぴたっと決まっている!


評価:☆☆☆




■スタインベック「赤い小馬」西川正身訳(新潮文庫 平成30年刊)



この作品、わたしは「赤い小馬」を、「赤い子馬」と勘違いして覚えていた。ふつうこうまといえば、子馬と表記するからね。
中学生だったか高校生の教科書で「贈り物」の一部分を読んで感心したのをぼんやり覚えている。そのあと5~6年して、新潮文庫で「贈り物」の全体を読んだ・・・とおもう。

贈り物
大連峰
約束
開拓者

「赤い小馬」は、この4編よりなる168ページの短編連作である。西川正身訳が新潮文庫から刊行されていたが、現在では絶版になっている。
登場人物は、いずれも朴訥とした農民で、家畜も放牧している。
本書は「ハツカネズミと人間」にならぶ、スタインベックの秀作と評価されている。

ことば数のいたって少ない下層の労働者を描かせると、この作者は独特な雰囲気をかもしだす。スタイル的には手堅いリアリズムで、西川さんの訳文もうまい。
本書を読んで作中人物ビリー・パックに魅せられない読者は少ないだろう。

《夜が明けて、ビリー・パックは起きだして小屋の外へ出ると、ほんのしばらくのあいだ、ポーチに突っ立って空を見上げていた。肩幅の広い、鰐足をした小柄な男で、セイウチのような、両端がだらりとたれさがった口ひげをはやし、手はまっ四角、その手の平は肉づきがよく、ふっくらとふくらんでいる。薄い灰色の目には考え深げなところが見え、
ステットソン帽の下からはみ出た髪の毛は、針金のようにこわく、ばさばさしていて油っけひとつない。》(7ページ。「贈り物」冒頭)

ジョーディの成長にそそぐスタインベックのまなざしは温かいが、作者自身の幼年期が投影されているのは、当然のことだろう。カリフォルニアの小さな町で生まれたスタインベックは、その地を作中でサリナス渓谷と名付けて愛した。
ことばを節約し“書きすぎ”ないところがいい。

いずれ「怒りのぶどう」を大久保康雄さん訳で読むのを愉しみにしていた。しかし、もたもたしているあいだに、新訳が登場した。
さあて、つぎは大浦暁生訳の「ハツカネズミと人間」かな(´?ω?)
Amazonの書評子たちの評価が異常なほど高いしね。

スタンバイさせてある本がいろいろあるから、どうなるかわからないけれど。
「殺人」がO・ヘンリー賞を受賞してデビューしたスタインベックの「赤い小馬」。
いずれ新訳で登場することを願わずにはいられない。


評価:☆☆☆☆

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