最近文学=ブンガクの世界では、池澤夏樹さんの活躍が目立っている。
久しぶりに文学返りして、近隣の大型書店などをぶらぶら散歩しているわたしの眼には、そういう光景が映る。
昨日池澤さんの「世界文学リミックス」(河出書房新社)を読みおえたので、感想を書いておこうとかんがえた。
しかし、あまり書くことがない。
ひとくちに“文学=ブンガク”というが、その場合、日本では小説を指す。
鴎外、漱石、芥川、谷崎は小説家であった。
バルザックもドストエフスキーもプルーストもカフカも、小説家である。
近代以降、ブンガクにおける第一の席をしめてきたのはほかならぬ小説なのである。
小説には読者がいる。
活字ばなれといわれて久しい現代であっても、話題になれば、つまりベストセラーとなれば、数十万部も売り上げる。
小説って、そんなにおもしろく、えらいのだろうか?
まあそうなんだろう。そうだということにしておく。芥川賞・直木賞は、新聞の文芸欄に掲載されるのではなく、社会面に載る。TV、ラジオではニュースとして報道される。
それだけニュースバリューがあるとされているのだ。
ところで村上春樹の熱心なファンは知りあいにもいるけれど、池澤夏樹の名を、友人・知人の口から聞いたことはない。
「あの人、福永武彦の息子なんだってね。お父さんの小説は一つか二つ読んだなあ」
池澤さんの小説は、「スティル・ライフ」「マシアス・ギリの失脚」はもっているが、読んではいない。だけど、その池澤さんの「個人編集」ということで話題になった、河出書房新社の「世界文学全集」は何冊かもっているし、読んでもいる。
評論というより、着流しのエッセイ風に書かれた「世界文学リミックス」はとてもおもしろかったし、勉強にもなった。知らないことをずいぶん教えてもらった。現代の文学はこういうふうにして味わうものだ・・・そのひとつのお手本がここにある。
とてつもなく該博な知識、経験。池澤さんは篠田一士さん、丸谷才一さんの再来といえば、いえそうな気がする。
外国語にもご堪能だし。いやはや、このところ現代文学の大御所となった観がある。
わたしの趣味は読書、そして写真。斎藤美奈子さんの失笑をかうことを覚悟していえば、そういうことになる。
趣味だから愉しいし、好奇心がおもむくまま、その茫漠たる広大な世界を遍歴できる。
「日本酒って、うまいねぇ。まあ、ビールもいいし、ウィスキー、バーボンも捨てがたいけれど」
「要するに酒ならなんでもいいのかね?」
「味も酔い心地も違うからね。あ、今日はこいつをいただこうと閃く。それがめったに間違わないけど、たまに間違う。そのときはひとくちだけ呑んで、ほかの酒に切り換えるんだ」
「十大小説」はサマセット・モームのそれをもって嚆矢とする。わたしは高校時代にはじめて読み、そのあともう一回、読み返し、学ぶところが大きかった。
■サマセット・モームの「世界の十大小説」
1 ヘンリー・フィールディング『トム・ジョーンズ』
2 ジェイン・オースティン『高慢と偏見』
3 スタンダール『赤と黒』
4 オノレ・ド・バルザック『ゴリオ爺さん』
5 チャールズ・ディッケンズ『デイヴィッド・コパフィールド』
6 ギュスターヴ・フロベール『ボヴァリー夫人』
7 ハーマン・メルヴィル『白鯨』
8 エミリー・ブロンテ『嵐が丘』
9 フョードル・ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』
10 レフ・トルストイ『戦争と平和』
作家、作品を神棚に祀りあげるのではなく、「こんな欠点をそなえた、規格はずれの人物がこんな秀抜な小説を書いたのである」という書き方が、世界文学の名作を身近なものにする。むろん“規格はずれの人物”ではなく“平凡きわまりない人物”もいる。
■篠田一士の「二十世紀の十大小説」
1 マルセル・プルースト『失われた時を求めて』
2 ホルヘ・ルイス・ボルヘス『伝奇集』
3 フランツ・カフカ『城』
4 茅盾『子夜』
5 ジョン・ドス・パソス U・S・A『アメリカ』
6 ウィリアム・フォークナー『アブサロム、アブサロム!』
7 ガブリエル・ガルシア・マルケス『百年の孤独』
8 ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』
9 ロベルト・ムジール『特性のない男』
10 島崎藤村『夜明け前』
■池澤夏樹の「世界の十大小説」
1 ガルシア=マルケス『百年の孤独』
2 アゴタ・クリストフ『悪童日記』
3 ミルチャ・エリアーデ『マイトレイ』
4 ジーン・リース『サルガッソーの広い海』
5 ミシェル・トゥルニエ『フライデーあるいは太平洋の冥界』
6 カルロス・フエンテス『老いぼれグリンゴ』
7 ジョン・アップダイク『クーデタ』
8 メアリー・マッカーシー『アメリカの鳥』
9 バオ・ニン『戦争の悲しみ』
10 石牟礼道子『苦海浄土』
篠田一士さん、池澤夏樹さんの「十大小説」は、モームのそれにならったものである。
名のみ知っていて、読んだことがない本ばかりだけれど、いずれは手にとってみたい作品がいくつか存在する。現在からみると、当然ながら池澤さんのチョイスがいちばん“新しい”。
マルケスの『百年の孤独』は篠田さん、池澤さんお二人が選んでいるし、わたしも読書家の友人二人から「あれは読んでおいたほうがいい」と、推薦をうけたので、ベッドのかたわらに置いてある。置いたまま三年、四年ほこりをかぶっているのだが・・・。
右にある「世界文学を読みほどく」は京都大学における“7日間14回の知的興奮に満ちた連続講義”をまとめたもの。ただし、ここでとりあげられている十作はそのまま池澤選「世界の十大小説」とは重ならない。
こんな曲芸、池澤さんにしかできないだろう。たいへんな教養人であり、ことばを手にした知の旅人である。
いずれ小説も読まなくちゃ・・・なんといっても、小説家が池澤さん本来の肩書きなんだから♪
久しぶりに文学返りして、近隣の大型書店などをぶらぶら散歩しているわたしの眼には、そういう光景が映る。
昨日池澤さんの「世界文学リミックス」(河出書房新社)を読みおえたので、感想を書いておこうとかんがえた。
しかし、あまり書くことがない。
ひとくちに“文学=ブンガク”というが、その場合、日本では小説を指す。
鴎外、漱石、芥川、谷崎は小説家であった。
バルザックもドストエフスキーもプルーストもカフカも、小説家である。
近代以降、ブンガクにおける第一の席をしめてきたのはほかならぬ小説なのである。
小説には読者がいる。
活字ばなれといわれて久しい現代であっても、話題になれば、つまりベストセラーとなれば、数十万部も売り上げる。
小説って、そんなにおもしろく、えらいのだろうか?
まあそうなんだろう。そうだということにしておく。芥川賞・直木賞は、新聞の文芸欄に掲載されるのではなく、社会面に載る。TV、ラジオではニュースとして報道される。
それだけニュースバリューがあるとされているのだ。
ところで村上春樹の熱心なファンは知りあいにもいるけれど、池澤夏樹の名を、友人・知人の口から聞いたことはない。
「あの人、福永武彦の息子なんだってね。お父さんの小説は一つか二つ読んだなあ」
池澤さんの小説は、「スティル・ライフ」「マシアス・ギリの失脚」はもっているが、読んではいない。だけど、その池澤さんの「個人編集」ということで話題になった、河出書房新社の「世界文学全集」は何冊かもっているし、読んでもいる。
評論というより、着流しのエッセイ風に書かれた「世界文学リミックス」はとてもおもしろかったし、勉強にもなった。知らないことをずいぶん教えてもらった。現代の文学はこういうふうにして味わうものだ・・・そのひとつのお手本がここにある。
とてつもなく該博な知識、経験。池澤さんは篠田一士さん、丸谷才一さんの再来といえば、いえそうな気がする。
外国語にもご堪能だし。いやはや、このところ現代文学の大御所となった観がある。
わたしの趣味は読書、そして写真。斎藤美奈子さんの失笑をかうことを覚悟していえば、そういうことになる。
趣味だから愉しいし、好奇心がおもむくまま、その茫漠たる広大な世界を遍歴できる。
「日本酒って、うまいねぇ。まあ、ビールもいいし、ウィスキー、バーボンも捨てがたいけれど」
「要するに酒ならなんでもいいのかね?」
「味も酔い心地も違うからね。あ、今日はこいつをいただこうと閃く。それがめったに間違わないけど、たまに間違う。そのときはひとくちだけ呑んで、ほかの酒に切り換えるんだ」
「十大小説」はサマセット・モームのそれをもって嚆矢とする。わたしは高校時代にはじめて読み、そのあともう一回、読み返し、学ぶところが大きかった。
■サマセット・モームの「世界の十大小説」
1 ヘンリー・フィールディング『トム・ジョーンズ』
2 ジェイン・オースティン『高慢と偏見』
3 スタンダール『赤と黒』
4 オノレ・ド・バルザック『ゴリオ爺さん』
5 チャールズ・ディッケンズ『デイヴィッド・コパフィールド』
6 ギュスターヴ・フロベール『ボヴァリー夫人』
7 ハーマン・メルヴィル『白鯨』
8 エミリー・ブロンテ『嵐が丘』
9 フョードル・ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』
10 レフ・トルストイ『戦争と平和』
作家、作品を神棚に祀りあげるのではなく、「こんな欠点をそなえた、規格はずれの人物がこんな秀抜な小説を書いたのである」という書き方が、世界文学の名作を身近なものにする。むろん“規格はずれの人物”ではなく“平凡きわまりない人物”もいる。
■篠田一士の「二十世紀の十大小説」
1 マルセル・プルースト『失われた時を求めて』
2 ホルヘ・ルイス・ボルヘス『伝奇集』
3 フランツ・カフカ『城』
4 茅盾『子夜』
5 ジョン・ドス・パソス U・S・A『アメリカ』
6 ウィリアム・フォークナー『アブサロム、アブサロム!』
7 ガブリエル・ガルシア・マルケス『百年の孤独』
8 ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』
9 ロベルト・ムジール『特性のない男』
10 島崎藤村『夜明け前』
■池澤夏樹の「世界の十大小説」
1 ガルシア=マルケス『百年の孤独』
2 アゴタ・クリストフ『悪童日記』
3 ミルチャ・エリアーデ『マイトレイ』
4 ジーン・リース『サルガッソーの広い海』
5 ミシェル・トゥルニエ『フライデーあるいは太平洋の冥界』
6 カルロス・フエンテス『老いぼれグリンゴ』
7 ジョン・アップダイク『クーデタ』
8 メアリー・マッカーシー『アメリカの鳥』
9 バオ・ニン『戦争の悲しみ』
10 石牟礼道子『苦海浄土』
篠田一士さん、池澤夏樹さんの「十大小説」は、モームのそれにならったものである。
名のみ知っていて、読んだことがない本ばかりだけれど、いずれは手にとってみたい作品がいくつか存在する。現在からみると、当然ながら池澤さんのチョイスがいちばん“新しい”。
マルケスの『百年の孤独』は篠田さん、池澤さんお二人が選んでいるし、わたしも読書家の友人二人から「あれは読んでおいたほうがいい」と、推薦をうけたので、ベッドのかたわらに置いてある。置いたまま三年、四年ほこりをかぶっているのだが・・・。
右にある「世界文学を読みほどく」は京都大学における“7日間14回の知的興奮に満ちた連続講義”をまとめたもの。ただし、ここでとりあげられている十作はそのまま池澤選「世界の十大小説」とは重ならない。
こんな曲芸、池澤さんにしかできないだろう。たいへんな教養人であり、ことばを手にした知の旅人である。
いずれ小説も読まなくちゃ・・・なんといっても、小説家が池澤さん本来の肩書きなんだから♪