二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

池澤夏樹短編集「きみのためのバラ」(新潮文庫)を読もう

2015年06月26日 | 小説(国内)
今日は雨。
古書店で見つけた池澤夏樹の短編集「きみのためのバラ」を買い、ヒマにまかせクルマの中で二編読んだ。
どちらもすばらしい出来映え。情景が目に浮かぶような硬質なタッチのレアリズム作品である。
読んだのは「都市生活」「ヘルシンキ」だけれど、「ああ、現代とはこんな時代なのか」と、読者は深くふかく納得せざるをえない。
人間の孤独が感傷を交えずにひしひしつたわってくる。文学の香り豊かですぞ。
しかも話のはこびがうまい♪

《奇跡の瞬間は、ありふれた世界の片隅に、やってくる。8つの場所が奏でる豊かな余韻、池澤文学の傑作短編集。》(新潮社)
この惹句に誇張はないとおもわれる。

わたしにとっては池澤さんの小説、初体験。アラン・シリトーに「漁船の絵」(「長距離走者の孤独」所収)という名作があったことを思い出した。

《私は木だ。林の中の一本の木。一本の木には何枚の葉があるのかと私に問うたのは誰だっただろう。木である私はずっと昔の記憶しか持たず、ただそこに立って夏の美しい光と冬の弱い光を浴び、雨と雪と風を享(う)け、一日単位の深呼吸をしている。木々は並び立っていつまでも生きしかも言葉を必要としない、と私は考えた。》

これが「ヘルシンキ」のラスト数行である。
深い内省の中からつむぎ出される表現の輝きを味わおう!

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