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このタイトルにひかれて読みはじめた。海外の小説を20冊ばかり買いこんで、「さて、読まなくちゃ」とかんがえてはいるのだが、どーゆーわけか、フィクションにはこの1-2年、手がなかなかのびない。
中央アジアの世界史。
何冊かはこれまで読んでいる。しかし、この地域の歴史はわかっていることより、わかっていないことの方がはるかに多いのである。
ラクダを眺めるのに、針の穴(孔)を通してみるようなもの(´Д`)
文字を持たない民族の興亡。もし持っていたとしても、文書として、あるいは考古学資料として、ほんのわずかしか残っていない・・・むしろそれが普通であった地域の“歴史”。
つぎにBOOKデータベースより、内容紹介を転載させていただこう。
《かつてユーラシアでは、騎馬遊牧民が歴史の鍵を握っていた。南北間の対立と協調による「前近代世界システム論」とは?匈奴による最初の遊牧国家と、興亡を繰り返す突厥帝国。ソグド人の金融資本と、ウイグル=ネットワークの広がり。大草原に展開した二千年におよぶ激動と、人類史の潮流を、行きかう宗教と言語に着目し、“理科系的歴史学”で解明。近代世界の覇権を握った西洋中心の歴史像を捨て、シルクロードに視座をおいた新たな世界史を構築する。》
ここで本書のもくじを掲げておこう。
序 章 世界史を学ぶ理由
第一章 ユーラシア世界史の基本構造
第二章 騎馬遊牧民の機動力
第三章 シルクロードの世界システム論
第四章 ソグドからウイグルへ
第五章 ウイグルネットワークの活況
第六章 シルクロードと日本
第三章の「シルクロードの世界システム論」はイマニュエル・ウォーラステインが提唱した近代世界システム論を意識した、ユーラシア世界システム論である。世界史の先生は、巨大な“横線”で大規模に世界を輪切りにしたがるが、森安孝夫さんも、やっぱりそうやっている(´v’) なるほど、たしかに・・・と読者のだれもが、ある程度はわかった気になる。
とはいえ、そこよりわたしがおもしろいと思ったのは、おしまいに近い第五章「ウイグルネットワークの活況」と、最後の第六章「シルクロードと日本」の二つの章。主にマニ教について叙述してあるあたりである。
マニ教がどのような宗教であるのか、まったく知らなかったので、森安先生の講義に耳を欹てずにはいられなかった。専門書ではなく、マニ教研究の一般書も売られているらしいが、わたしはこれまで読んだことがなかった。
また第三章にはこのような記述がある。
《もう一点忘れてならないのが、動く高額商品としての奴隷である。北朝から隋唐にかけて中国には西域から多数の芸能人・音楽家・美術家・工芸職人・医者などが迎え入れられ、文化交流の花を咲かせてきたが、彼らの多くは高額で購入される奴隷、もしくは高額で雇傭される特殊技能者であった。》(99ページ)
この種の職能集団は、政府の要人や貴族、大金持ちからみたら、奴隷または半奴隷なのである。
しかし、はっきり述べておくと、さきにもいったように、わかっていることはほんの序の口。素人のわたしから見てすら、暗中模索に近い研究のレベルである。
モンゴル研究のわが国の第一人者・杉山正明さんの著作を読んでいるときにもかんがえたが、中央アジア史はわからないことだらけ。
影も形もなく滅亡したとか、他の民族に吸い込まれてしまった文明とかは、新たな遺跡でも発見されないかぎり永遠に闇の中である。わずかに残された文字資料から、推定し、考察していくのである。
ギリシアのヘロドトス、中国の司馬遷などは、むしろ例外に属するのだろう。
森安先生のご専門は、イスラム化以前の中央アジア史である。ソグドにせよ、ウイグルにせよ、日本人の多くは関心を持たない。世界地図を眺めても、大きな都市はほとんど存在しないし、ほぼユーラシア内部の砂漠・草原の国。
ソ連邦が崩壊したあといくつもの国が誕生したが、東トルキスタン、西トルキスタンの諸国が、日本のマスコミで取り上げられることはまずない。
Amazonにおける読者の評価は3.5止まりだが、ソグド、ウイグル、マニ教などをキーワードに世界史を知りたいという読者にはおもしろく読めるすぐれた一冊となっている。
そういえば、森安さんの「シルクロードと唐帝国」興亡の世界史シリーズ (講談社学術文庫)が手許にあり、30ページほど読みかけて中断している。早めにつづきを読まなくちゃ(ノω`*)
評価:☆☆☆☆