二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

司馬さんの真骨頂 ~秀作ぞろいの「王城の護衛者」

2022年05月22日 | 小説(国内)
このところ“濫読”傾向が甚だしいので、自身のある種の欲望と好奇心に引きずられているといった塩梅であ~る。
吉村昭のあとは、夏目漱石を4~5作読もうと考えていたのだが・・・。
心の奥底で波立っている無意識に翻弄されているなあ(^^;

■「豊臣家の人々」司馬遼太郎(中公文庫)
ほとんどが読みなおし。でも大半は忘れているので、フレッシュな気分で堪能した。

第二話 金吾中納言
第三話 宇喜多秀家
第四話 北ノ政所
第五話 大和大納言
第七話 結城秀康
第九話 淀殿・その子

こられはどれも司馬さんらしい秀作といっていいだろう。豊臣秀吉をめぐる周辺人物たちの群像が、巧みに語られている。時間がたつのを忘れて、はじめて読むつもりで夢中になった(^^♪
何年ぶりに読み返すのだろう?


評価:☆☆☆☆☆

■「日本歴史を点検する」対談:海音寺潮五郎・司馬遼太郎(講談社文庫)
本編も、過去に一度読んでいる。鹿児島出身の海音寺さんの面目躍如!
話題がすべて噛み合っているとはいえず、「おや、う~ん」という場面もあるが、全体としては読み応え十分。
日本史に対する海音寺潮五郎の知性の在り方を、あらためて見直した。

これら二編はレビューを省略する。


評価:☆☆☆☆☆



■司馬遼太郎「王城の護衛者」(講談社文庫)を読む


さてさて、本日のお題「王城の護衛者」の書評である( ´◡` )

これを読む前に、じつは藤沢周平さんの短編をいくつか読んでいる。しかし物足りなかったので、司馬さんを手にした。
「項羽と劉邦」「空海の風景」はこれまで二回ずつ読んでいるけれど、国民的人気となった「竜馬がゆく」「坂の上の雲」あたりは読んでいない。
なにしろ文春文庫、全八巻という雄編なので、腰がひけてしまうのだ。全編読了したという読者、司馬さんファンの何パーセントいるかしら? おそらく半分いないだろう。まあ、何といってもあわせて(おそらく)3000万部を超える文春文庫のドル箱だからのう。

「王城の護衛者」
「加茂の水」
「鬼謀の人」
「英雄児」
「人斬り以蔵」

本書にはこの五編が収録されている。いずれも充実した、歯ごたえのある、長めの短編。
「王城の護衛者」「加茂の水」の二編は、とくに卓越した結晶度の高い作品である。
実在の歴史上の人物を主役としたフィクションであるが、ドキュメントの味わいをもっている。
「王城の護衛者」は松平容保、「加茂の水」は、玉松操と岩倉具視。

念のため、BOOKデータベースの内容紹介を引用しておく。
《薩長両藩が暗躍し、攘夷派の浪士たちが横行する、無政府状態に近い幕末の京。新たに京都守護職を命じられた会津の青年藩主・松平容保は、藩兵千人を率い、王城の護衛者として治安回復に乗り出すが、複雑怪奇な政治の術数に翻弄され…。表題作の他に、「加茂の水」「鬼謀の人」「英雄児」「人斬り以蔵」を収録。》

「鬼謀の人」は村田蔵六(大村益次郎)、「英雄児」は河井継之助、「人斬り以蔵」は岡田以蔵を、それぞれ主人公に据えている。司馬遼太郎の“幕末・明治もの”に属する。
「王城の護衛者」は現行版125ページ、「加茂の水」は約半分の54ページである。
長編小説となると、いろいろフィクショナルな場面や恋の道行きなどをからめたエンターテインメント性が強くなる。しかし、短編の場合は、余計なフィクションを削り落としてあるため、文学としての香気が高くなる。

「王城の護衛者」は、幕切れからかんがえて、明らかに悲劇である。「ああ、そうかやっぱり・・・」
とはいえ、最後の最後で、ことばが煮つめられ、カタストロフィとなって読者を襲う。その結末は、ここに書いてしまうと“ネタバレ”となるからやめておく。敗者としての会津の悲劇は、現在もつづいているということになり、読者を粛然たる内省に駆り立てずにはおかない。
短いことばで、司馬さんは核心を衝いたのだ。
こういう場面に小説家としての才能が凝縮している、とわたしは読んだ(。-д-。)

つぎは54ページのいかにも短編らしい短編「加茂の水」。
今回一番感心したのが、本作であった。
司馬遼太郎会心の一撃といっていいだろう。
そもそも玉松操をわたしは知らなかった。これまで読んだ明治史にも、登場することはなかった。
ただ、官軍がどういうふうに官軍になったかには、関心があったため、司馬さんの叙述に引き込まれた。そして「うまい! いやはやうまいなあ」と感嘆の声を放ちたくなった。

策士とか奸物(かんぶつ)とかを書かせたら、司馬さんの右に出る人はいないのではないか(?ω?) 悪人は本当は悪人面(あくにんづら)なんかしてはいない。だからお人よしはその策にはまり、破滅し、歴史の波間に没してゆく。
奸智にたけた人間の恐ろしさが、ある意味そのまま“名場面”となるのが、司馬遼太郎の世界である。
勝った者がえらいのか? 勝った者だけが、歴史をつくるのか?
そうともいえるが、司馬さんは敗者の後ろ姿も、しっかり見届けて読者にしずかに訴えかける。小説家・司馬遼太郎の真骨頂があぶり出される。

また、「人斬り以蔵」は以前読んだときのイメージが強烈であった。しかし、あらためて読みなおし、後味があまりに悪すぎるとの印象をいだいた。
負の世界といえばいえるが、その負が、顔をそむけたくなるほど真黒く塗りつぶされている。
「ここまで書くか」といいたいのが「人斬り以蔵」である。



    (第二巻だけだが、こちらの講演集もおもしろかったよ♪)



評価:☆☆☆☆☆

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