二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

詩人吉野弘の「虹の足」

2013年11月03日 | 俳句・短歌・詩集
いつもわたしMikenekoのへたくそな詩でお目汚ししているので、今日は吉野弘さんの作品を2編、ご紹介し、お口直ししていただこう。
というのも、「虹の足」(詩集「北入曾」所収)を読んで、ひどく感動したから。

こんな作品。


雨があがって
雲間から
乾麺(かんめん)みたいに真直な
陽射しがたくさん地上に刺さり
行手に榛名山が見えたころ
山路を登るバスの中で見たのだ、虹の足を。
眼下にひろがる 田圃(たんぼ)の上に
虹がそっと足を下ろしたのを!
野面にすらりと足を置いて
虹のアーチが軽やかに
すっくと空に立ったのを!
その虹の足の底に
小さな村といくつかの家が
すっぽり抱かれて染められていたのだ。
それなのに
家から飛び出して虹の足にさわろうとする人影は見えない。
――おーい、君の家が虹の中にあるぞォ
乗客たちは頬(ほほ)を火照(ほて)らせ
野面に立った虹の足に見とれた。
多分、あれはバスの中の僕らには見えて
村の人々には見えないのだ。
そんなこともあるのだろう
他人には見えて
自分には見えない幸福の中で
格別驚きもせず
幸福に生きていることが――。

(以上「虹の足」全編)

わたしが吉野さんの詩の世界に目覚めたのは、わずか数年まえのこと。
谷川俊太郎さんや、茨木のり子さんと同じ「櫂」の同人で、純度の高い抒情詩の書き手。
だけど、なんとなく「食い足りない」という不遜なおもいがあって、吉野さんを敬遠していた。

「幸福ってなんだろう?」と、この年になって、ときどき考える。
そのイメージの第一は、陽だまりの猫。うつらうつらと寝ている猫のイメージは、ああ、これぞ幸福・・・と素直に感じられる。
しかし、「虹の足」を読んだいま、吉野さんの作品が、いつも思い出されるようになるだろう。
吉野さんは「祝婚歌」がずば抜けて有名。
きっとお読みになったか、結婚式で朗読されるのを聞いた方が多いだろう。

現代詩は思潮社の「現代詩文庫」で、リーズナブルなお値段で買って読める。
思潮社・現代詩文庫
http://www.shichosha.co.jp/pdf/genre_08.pdf
http://www.shichosha.co.jp/pdf/genre_09.pdf

ついでといっては失礼だけれど、もう一編ご紹介。


生命は
自分自身だけでは完結できないように
つくられているらしい
花も
めしべとおしべが揃っているだけでは
不充分で
虫や風が訪れて
めしべとおしべを仲立ちする
生命はすべて
その中に欠如を抱き
それを他者から満たしてもらうのだ

(中略)

花が咲いている
すぐ近くまで虻の形をした他者が
光をまとって飛んできている

私も あるとき
誰かのための虻だったろう

あなたも あるとき
わたしのための風だったかもしれない

(以上「生命は」の一部。第二連を省略)

吉野弘さんには、ほかにも名編がたくさんある。
ネットでもある程度読めるから、興味のある方はこんなサイトをどうぞ!

http://chobi256.blog108.fc2.com/blog-category-4.html
http://reliance.blog.eonet.jp/default/2010/09/post-e67b.html
(こちらでは「生命は」の全編を掲載している)
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